個人再生
個人再生でやってはいけないことや失敗した際の対処法を弁護士が解説
借金返済ができなくなった場合にする債務整理の中でも、特徴のある手続きが個人再生です。
個人再生は本来支払うべき債務を、民事再生法という法律によって減額してもらう手続きなので、その運用は非常に厳格であり、手続きを行う際にはとても注意が必要です。
本記事では、個人再生をするにあたってやってはいけないことにはどのようなものがあるか、失敗した場合の対処法について、弁護士が解説します。
目次
1.個人再生とは
そもそも個人再生とはどのような手続きなのでしょうか。
個人再生とは、債務整理の方法の一つで、民事再生法に基づいて裁判所に申立てをして行う手続きで、借金を大幅に減額してもらって減額後の残額を分割して支払っていく手続きです。
SNS広告などでよく「借金救済制度」などと宣伝されるものは、その内容は債務整理と変わらず、借金救済制度の一つの手段であるともいえます。
債務整理の一つの方法である任意整理では、元金を分割して長期で返済するものになるので、返済しなければならない額が多くなります。
任意整理では借金などの債務が支払えない場合には、破産法所定の「支払不能」という状態であるといえ、支払不能である場合に行う自己破産とともに、支払不能の恐れがある場合に利用可能な個人再生が選択肢にあがります。
1-1.個人再生の2つの種類
個人再生には次の2つの種類があります。
(1)小規模個人再生
小規模個人再生とは、継続的に収入を得る見込みがある個人の債務者であり、債務の総額が5,000万円を超えない場合に利用できる個人再生です。
ほとんどのケースでこのタイプの個人再生が利用されます。
(2)給与所得者等再生
小規模個人再生の要件とともに、サラリーマンのように収入が安定している場合に利用できるのが給与所得者等再生です。
可処分所得の2年分以上の額を弁済する必要があるため、小規模個人再生よりも支払い額が多くなる傾向にあり、利用されるケースは多くはありません。
1-2.住宅資金特別条項
個人再生については住宅資金特別条項という特別な手続きがあるので併せて知っておきましょう。
住宅資金特別条項とは、個人再生において、住宅を購入するために組んだ住宅ローンについては個人再生の手続きから外すことができる特別な手続きのことをいいます。
個人再生は原則はすべての債権者を平等に取り扱うことになるため、住宅ローンを組んで住宅を購入した場合、住宅ローン債権者も手続きの対象となります。
しかし、住宅ローン債権者を手続の対象とした場合、住宅ローン債権者は購入対象の住宅に対して抵当権を有しているので、住宅を競売にかけてそこから債権回収をすることが可能です。
住宅を競売にかけられる以上、その住宅には住めなくなるので、生活に対する影響が大きくなります。
このような弊害を克服するために規定されているのが住宅資金特別条項で、支払不能のおそれがある場合でも自己破産ではなく一部を返済する個人再生を選べば住宅を維持することができるようになっています。
2.個人再生のメリット
個人再生のメリットには次のものがあります。
2-1.債務が大幅に減額される
債務が大幅に減額されるというメリットがあります。
前述したように任意整理では少なくとも元金は支払う必要があるのに対して、個人再生では債務は次の区分にしたがって減額されます。
債務の額 | 最低返済額 |
---|---|
100万円未満 | 債務の減額なし |
100万円以上500万円未満 | 100万円 |
500万円以上~1,500万円未満 | 5分の1 |
1,500万円以上~3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円以上 | 10分の1 |
年収600万円の人であれば貸金業法における総量規制で200万円の借り入れができますが、その時点で個人再生をすれば100万円まで債務が減額されます。
最大で10分の1に減額される個人再生は、同じく返済をする任意整理に比べると大きな減額をしてもらえます。
もっとも、個人再生には清算価値保証原則というものがあり、保有している財産を清算した場合の金額は最低限支払わなければなりません。
そのため、債務が300万円である場合でも、財産が150万円ある場合には、上記の表からは最低返済額は100万円ですが、清算価値保証原則によって最低返済額は150万円とされます。
2-2.自己破産による制限を受けない(特に職業制限)
自己破産による制限を受けないというメリットがあります。
任意整理で返済できない場合に同じく選択肢として上がる自己破産ですが、自己破産をすると様々な制限を受けます。
特に問題となるのが職業制限で、資格制になっていたり登録制になっているもので、他人の財産を管理するような職業についている人については、手続き期間中その職業に就くことが制限されるほか(欠格事由となる)、すでにその職業に就いている人は、その職務ができなくなります。
制限される職業の代表例として挙げられるのが、宅建士・保険募集人・警備員です。
なお、医師・看護師・薬剤師のような、公衆衛生などの観点から資格制とされているものについては職業制限は受けません。
例えば不動産会社の営業職にあり、宅建士の資格を利用して仕事をしているような場合、宅建士の資格で仕事ができなくなります。
このような場合でも個人再生であれば、自己破産ではないため資格制限の対象にならず、債務整理を行うことができます。
2-3.住宅の維持ができる可能性がある
個人再生のメリットとして、住宅の維持ができる可能性があることが挙げられます。
上述した住宅資金特別条項を用いれば、住宅ローンで購入した住宅は維持することができます。
任意整理でも住宅ローン債権者に対して介入しなければ住宅は維持できますが、他の債権者に対しての元金の分割返済と、住宅ローン債権者への従来通りの支払いができなければ任意整理できないことになります。
個人再生であれば、任意整理では支払えない額の債務を負っている場合でも、住宅の維持ができます。
3.個人再生のデメリット
一方で個人再生には次のデメリットがあります。
3-1.ブラックリスト
個人再生のデメリットとしてブラックリストとなることが挙げられます。
ブラックリストとは、信用情報に異動情報があり、信用情報を用いて審査を行う取引について、審査が非常に通りづらくなる状態をいいます。
個人再生を含む債務整理を行うと、その情報が信用情報に登録されます。
その結果、次のような行為ができなくなります。
- ローン・借金
- クレジットカードの契約・更新
- 携帯電話の分割購入
- 奨学金などの連帯保証人となること
- 信用情報を用いて審査を行う賃貸借契約
これらについては、たとえばデビットカードや一括で購入するなど、代替手段があるので、生活できなくなるほどのデメリットではないことを知っておきましょう。
3-2.官報で公告が行われる
個人再生のデメリットとして官報で公告が行われることが挙げられます。
官報とは国が発行している機関紙で、法律の公布や公告を行うために発行されるもので、インターネットで閲覧できるほか、政府刊行物を取り扱っているところで紙媒体のものを購入できます。
法律で一定の事項を公にすることを「公告」と呼んでおり、個人再生においては債権者を探す意味で公告が行われることとされています。
官報に氏名・住所と個人再生の手続きを利用していることが掲載されることになり、プライバシーを気にする場合にはデメリットといえます。
インターネットの閲覧や紙面の購入は可能ですが、法律の公布や会社の決算公告などの法律の要件を具備するために行われるのが官報公告なので、我々がよく目にする新聞などのように日常的に閲覧している人はほとんどいません。
そのため、事実上ここから個人再生をしていることが周囲にバレてしまうことを恐れる必要はほぼありません。
3-3.手続きが厳格で面倒である
個人再生のデメリットの一つに、手続きが厳格で面倒であることが挙げられます。
個人再生は、本来支払うべき債務を特別に減額してもらえるものです。
そのため、その手続きは厳格かつ面倒です。
本記事のメインのテーマであるように、手続き期間中やってはいけないことがあったり、申立てにあたって申立書の作成や添付書類を確実に収集する必要があるなどの負担があります。
3-4.連帯保証人や担保のある債務を原則除外できない
個人再生では連帯保証人や担保のある債権について原則除外できません。
連帯保証人がいる債務を債務整理の対象とすると、連帯保証人に残額を一括請求されることになります。
また、債務について担保がついている場合には、その担保となっているものが引き上げられてしまいます。
同じ債務整理方法である任意整理であれば、連帯保証人や担保のある債務を除外して手続きを行うことができるのですが、個人再生では住宅資金特別条項を利用した場合の住宅ローン債務以外はすべて手続きの対象となります。
よくあるケースとしては、奨学金の借り入れをしていて親が連帯保証人になっていたり、自動車ローンで購入した自動車が担保になっている場合に、親に請求される・自動車が引き上げられるなどの影響が発生することが考えられます。
4.個人再生の成功率について
個人再生は申立てをするとどのくらいの割合で成功するのでしょうか。
令和4年の司法統計によると、令和4年に小規模個人再生が9,581件・給与所得者等再生が770件、合計で10,351件の個人再生の申し立てが行われています。
そのうち小規模個人再生では8,841件、給与所得者等再生が694件の9,535件が再生手続きを終了しており、92%以上の成功率といえます。
残った8%のほとんどは何らかの理由で取り下げられており(小規模個人再生353件、給与所得者等再生56件)、裁判所が棄却・却下した件数は、総規模個人再生で17件・給与所得者等再生で6件にとどまります。
このことからも個人再生はほとんどの場合で成功するといえます。
5.個人再生でやってはいけないこと
ではその個人再生において、やってはいけないとされることには次のものが挙げられます。
5-1.弁護士・裁判所・個人再生委員に嘘をつく
依頼をする弁護士や裁判所、裁判所から選任される個人再生委員に嘘をつくことはやってはいけないことの代表です。
相談や依頼の際に弁護士に嘘をつくと、正確な手続きの見通しや、嘘をついたことを前提に手続きが進むことになります。
申立書などに虚偽の事実を記載する、裁判所や個人再生委員との面談で虚偽の申告をするなどして、これが露見した場合には手続きで問題になったり、個人再生が認められないという事態に発展します。
5-2.一部の債権者に返済をすること
一部の債権者にだけ返済することも個人再生ではやってはいけません。
個人再生ではすべての債権者との関係で平等に債務の減額をしてもらうことになります。
貸金業者はもちろんなのですが、債権者が親族や知人、会社である場合も、同じように債権者として取り扱う必要があります。
つい親族への少額の借り入れだから問題にならないだろう、会社からの借り入れを返済しないわけにはいかない、などと考えて返済(会社の場合は給与天引きでも問題になる)してしまうことがあるのですが、これは特定の債権者のみ優遇する、偏頗弁済というものに該当し、最悪のケースでは個人再生が認められないことになりえます。
5-3.財産を隠すなど
財産を隠すことはやってはいけないことです。
個人再生では、返済すべき金額の基準として、財産がいくらあるかをきちんと申告する必要があります。
財産を申立てる前に隠す・壊すなどして価値を毀損する行為を行うと、その分が返済すべき金額として加算されたり、最悪のケースでは個人再生を認めてもらえない原因になりえます。
5-4.手続き中に新たな借入をすること
個人再生の手続き中に新たな借り入れをした場合、その債権については手続きに加える必要があります。
契約通りに返済できないにも関わらず借り入れをした場合、その債務は損害賠償請求権として、減額されない債務と評価されることになり、返済額が増えてしまう可能性があり、かつ最悪のケースでは個人再生を認めてもらえない原因になりえます。
そのため、個人再生の手続き中に新たな借入をすることは、やってはいけません。
5-5.履行テストの支払いを怠る
東京地方裁判所に申立てをした場合、申立てをしてすぐに履行テストというものがはじまります。
この履行テストは、手続きをした後にきちんと債務の返済ができるかを確認するためのもので非常に重要です。
履行テストの支払いを怠ると、計画通りの返済の見込みがないと判断され、個人再生を認めてもらえない原因となります。
そのため、履行テストの支払いを怠ることは絶対にやってはいけないことになります。
5-6.再生計画案の提出期限を守らない
再生計画案の提出期限を守らないことは、絶対にやってはいけないことになります。
個人再生の手続きが開始すると、再生計画案の提出が必要となります。
再生計画案の提出期限を裁判所が定めたにもかかわらず、これを提出しない場合には、個人再生を誠実に行う意思がないと判断されて、個人再生が認められない原因となります。
6.個人再生でやってはいけないことをするとどうなるのか
以上のような個人再生でやってはいけない、とされることをするとどうなるのでしょうか。
6-1.個人再生が認められない
個人再生が認められなくなります。
個人再生をするにあたって誠実に手続きを行わないような場合や、再生計画案通りの支払いができないと認められると、裁判所は個人再生の許可をしません。
個人再生が認められず、全額支払う義務が残ってしまいます。
6-2.返済すべき金額が増える
財産を隠した場合や偏頗弁済をした分については、本来債務者の財産としてカウントされることになります。
その結果財産としてカウントされるものが増えて、上記の清算価値保証原則によって返済すべき金額が増えてしまうことがあります。
6-3.刑事罰
個人再生でやってはいけない行為の中には、民事再生法で刑事罰が定められているものがあります。
例えば次のような行為が挙げられます。
- 財産の隠匿・損壊(民事再生法255条1項1号)
- 財産の譲渡や債務の負担を仮装する(民事再生法255条1項2号)
- 財産の価値を減損する(民事再生法255条1項3号)
- 不利益な債務負担をする(民事再生法255条1項4号)
- 偏頗弁済(民事再生法256条)
民事再生法255条の適用で刑罰が科せられる場合には、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金が、256条の適用で刑罰が科せられる場合には、5年以下の懲役若しくは500円以下の罰金が法定されており、これは非常に重い犯罪であるといえ、注意が必要です。
7.個人再生の成功率を高める方法
個人再生の成功率を高める方法として、次のものが挙げられます。
7-1.弁護士に依頼する
弁護士に依頼して手続きを行います。
個人再生は法律上は個人でも申立てをすることができます。
しかし、ここまでお伝えしているように、その手続きは厳格で、ミスによって個人再生が認められないばかりか、ケースによっては刑事罰まで課せられる可能性もあります。
弁護士に依頼して確実に行うことで、個人再生の成功率を高めることができます。
7-2.積極的・誠実に取り組む
個人再生の手続きに積極的・誠実に取り組むようにしましょう。
弁護士に依頼したからといって、なんでもかんでも任せてしまえるわけではありません。
申立書に記載する事項について適切に答える必要があり、添付書類の収集について弁護士から依頼があれば積極的に収集する必要があります。
8.個人再生に失敗した場合のデメリット
個人再生に失敗してしまうとどんなデメリットがあるのでしょうか。
8-1.債務がそのまま残ってしまう
当然ですが債務がそのまま残ってしまいます。
残った債務の支払いについて適切な対処が必要となります。
8-2.再度弁護士に依頼して手続きを行う必要がある
再度弁護士に依頼して手続きを行う必要があります。
当然ですが弁護士に再度手続きを依頼するので、また弁護士費用を支払う必要があります。
9.個人再生に失敗したときの対処法
個人再生に失敗したときにはどのような対処が必要でしょうか。
9-1.再度弁護士に債務整理を依頼する
再度弁護士に債務整理を依頼する必要があります。
最初の手続きで提出期限などを守らない結果個人再生が認められなかった場合であれば、再度個人再生を申し立てて適切に手続きを行えば個人再生が認められる場合もあるでしょう。
ケースによっては自己破産や任意整理など他の手続きを利用すべき場合もあります。
9-2.再生計画の変更・ハードシップ免責
個人再生の失敗として、再生計画案が認められたにもかかわらず、その完済ができない場合も検討する必要があります。
再生計画の変更によって、返済期限を2年延ばすことができる場合があり、これによって支払える場合があります。
また全体の4分の3以上の支払いをしていれば、残りの支払いについては免責してもらえる場合があります(ハードシップ免責)。
これらの制度の利用を検討します。
10.個人再生を弁護士に相談、依頼するメリット
個人再生を弁護士に相談・依頼するメリットには次のものがあります。
10-1.適切な手続きを知ることができる
自分に適切な手続きが個人再生なのかどうかを知ることができます。
債務整理は、その人の借金の額と返済可能な額などによって、適切な手続きが異なります。
そのため、住宅ローンで購入した住宅を守りたい、という場合でも、任意整理のほうが適切な場合や、個人再生で住宅の維持をあきらめなければならない場合もあります。
個人再生を弁護士に相談すれば、適切な手続きを知ることができます。
10-2.難しい個人再生を確実に行ってもらえる
難しい個人再生を確実に行ってもらえます。
上述したように、個人再生は民事再生法に基づく手続きであり、非常に厳格です。
個人で申立てもできますが、個人の申し立てであるからといってこれが緩やかになるものではありません。
弁護士に依頼することで、難しい個人再生を確実に行ってもらえるというメリットがあります。
11.個人再生でやってはいけないことに関するよくあるQ&A
個人再生でやってはいけないこと、に関してよくあるQ&Aとして次のものが挙げられます。
11-1.偏頗弁済を行ってしまったら絶対に個人再生は認められませんか
偏頗弁済は上述したように、個人再生手続きではやってはいけない行為で、刑事罰まで規定されています。
しかし、実際に弁護士に相談する前に返済してしまったり、会社から天引きされているものについては借金の返済ではないと考えて弁護士に申告しなかったなど、偏頗弁済が実際に行われてしまうこともあります。
この場合、裁判所・個人再生委員には正直に申告し、反省の意思を示し、その分の返済額の増額に応じれば、個人再生を認めてもらえる可能性は高いです。
きちんと弁護士に相談するようにしましょう。
12.まとめ
本記事では、個人再生でやってはいけないことについてお伝えしました。
個人再生は民事再生法という法律に基づく手続きであり、厳格な手続きが求められます。
そのため、やってはいけないとされることも多いので注意が必要です。
これらの中には、親族への偏頗弁済のように、つい行ってしまうものがあるので、個人再生を検討する場合には早めに弁護士に相談しましょう。
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担当者
-
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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