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時効の援用とは?メリットやデメリット、流れを弁護士が解説!

時効の援用とは?メリットやデメリット、流れを弁護士が解説!
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借金が返済できず長期間貸金業者と連絡がとれていなかった場合、借金が時効になることがあります。

その際に債務者として「時効の援用」が必要であると説明されるのですが、この時効の援用とはどのようなものでしょうか。

本記事では、時効の援用について、借金問題に強い弁護士が解説します。

1.時効の援用とは

時効の援用とは、時効による利益を受けることを主張する旨の意思表示をいいます。

1-1.時効とは

あることから一定の期間が経過したときに、現在の事実状態に法的権利を与える制度が時効です。

刑事事件において、犯罪から一定の期間が経過すると、被疑者を逮捕・訴追ができなくなる制度として時効が知られていますが、民事でも問題となります。

民事上の時効について民法144条以下などに規定されていて、次の2つの種類に分類できます。

(1)取得時効

他人の物を一定期間継続して占有している場合に、権利を得るのが取得時効です(民法162条以下)。

例えば、他人より自宅を購入したところ、その境界に塀などを立てておらず、その範囲が不明確であった場合に、意図せず他人の土地を占有していることがあります。

このような場合に、取得時効の要件を充たせば占有している他人の土地を取得時効の制度によって取得できます。

(2)消滅時効

一定期間行使されない権利を消滅させるのが消滅時効です(民法166条以下)。

例えば、サービス利用料の支払い義務の支払いをしていない場合、消滅時効の要件を満たせばサービス利用料の支払い義務(債務)が消滅します。

1-2.時効の要件

一定の権利を取得したり、消滅を主張することができる時効についてはどのような要件のもとに認められるのでしょうか。

(1)取得時効の要件

取得時効の要件としては次のものがあります。

  • 所有の意思をもって占有すること
  • 平穏・公然に占有すること
  • 他人の物であること
  • 一定期間にわたって継続して占有すること
    • 悪意・有過失の場合は20年
    • 善意・無過失の場合は10年
  • 時効の援用

上述した取得時効の例では、他人の土地を占有することについて善意・無過失であれば、10年経過して時効の援用をすれば所有権を得ることができます。

(2)消滅時効の要件

次の2つのいずれかの要件を満たすことで消滅時効となります。

  • 166条1項
    • 債権者が権利を行使することができることを知った時から
    • その権利5年間行使しない
    • 時効の更新・完成猶予がされていない
    • 時効の援用をする
  • 166条2項
    • 債権者が権利を行使することができる時から
    • その権利10年間行使しない
    • 時効の更新・完成猶予がされていない
    • 時効の援用をする

上記のサービス利用料の支払い義務の支払い義務については、支払い期日から5年間権利を行使せず、その間時効の更新・完成猶予がされていない場合に、時効の援用をすることで完成します。

1-3.時効の更新・完成猶予

時効の更新・完成猶予が行われていないことも要件となります。

時効の更新とは特定の事柄が発生したときに時効期間の進行をやり直す制度で、時効の完成猶予とは時効の完成を一時的に猶予する制度のことをいいます。

時効の制度は、一定の期間権利が行使されずに経過した場合、もはやその権利は行使されないものという状態に法的な保護を与えることを目的としています。

そのため、真の権利者がきちんと権利行使をする限り、権利の消滅を認める必要がありません。

そのため、真の権利者による権利行使によって、時効が完成しないようにするため時効の更新・時効の完成猶予という制度を設けています。

時効の更新の例としては、裁判を起こして確定判決を得た場合に、その時から時効期間が再度進行することが定められています(民法147条2項)。

時効の完成猶予の例としては、催告を行ってから6ヵ月間時効が完成しないことが定められています(民法150条1項)。

1-4.時効の援用が要件となる

上記のように、取得時効・消滅時効ともに今回問題となる時効の援用が要件となります。

特に要件がなければ、上記の20年・10年・5年の期間が経過すれば、自動的に権利の変動が生じてもよさそうです。

しかし、時効期間が経過しても、他人の物を取得したり、権利が消滅することを良しとしない人もいます。

「利益であっても強制しない」という法律の考え方のもと、時効によって利益を得るために時効の援用が必要とされています。

なお、時効の援用とは、時効による利益を受けることを相手に示す意思表示のことをいい、意思表示をしたことを証明するために、送付した文書の内容を郵便局が証明してくれる内容証明郵便が実務上よく用いられます。

1-5.時効については最近改正が行われた

時効についてインターネットや書籍で調べていると、時効年数、時効を完成させないための制度について、ここに記載したことと異なることが書かれていることがあります。

これは、2020年4月1日に改正民法が施行されたことによるもので、古いものだと時効の年数が違ったり、時効の完成させないための制度として時効の更新・完成猶予ではなく時効の中断・停止という用語が用いらていることがあります。

これらは、古い内容になるので、注意をしましょう。

2.借金の消滅時効とは

借金についても消滅時効が問題になります。

借金は、民法上は金銭の消費貸借契約であり(民法587条)、借金をしている人は貸主に対して契約通り返済する債務を負っています。

この債務は、民法の規定により、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、権利を行使することができる時から10年間行使しないときに時効期間が満了し、時効の更新・完成猶予がされていなければ、援用をすれば消滅することになります。

借金が返済できない場合、債務整理として任意整理・自己破産・個人再生をするのが通常なのですが、もし借金の消滅時効が成立していると、借金の消滅時効の援用をすることで借金の免除をしてもらうことができます

そのため、借金の消滅時効も債務整理をする場合の選択肢として用いられます。

もっとも、貸金業者の場合、取り立てのため、時効の主張をさせないようにするため、および貸倒償却という帳簿の処理をするために、多くのケースで裁判を起こしており、これによって時効が更新していることが多いです。

そのため、借金の消滅時効を主張して、返済できない借金を免れることができるケースは多くないのが現状です。

3.時効の援用を行うメリット・デメリット

借金返済について時効の援用を行うメリット・デメリットを確認しましょう。

3-1.借金返済について時効の援用を行うメリット

借金返済について時効の援用を行うメリットには次のものが挙げられます。

(1)債務を免れることができる

時効の援用には、債務を免れることができる、というメリットがあります。

債務整理の主な手続きの中でも、任意整理・個人再生を利用する場合には、返済を続ける義務があります。

これに比べて時効援用をすれば、自己破産と同様に債務を免れることができ、借金問題が瞬時に片付くことになります。

(2)手続きが簡単

時効の援用には、手続きが簡単である、というメリットがあります。

自己破産・個人再生をするには、申立書を作成して、財産目録や収支の状況などを報告し、添付書類を提出し、裁判所・破産管財人・個人再生委員との面談を行うなど、厳格な手続きが必要となります。

また、任意整理では債権者との交渉が必要で、債務の内容次第では粘り強い交渉が必要となります。

一方で時効の援用は、債権者に対して内容証明郵便を送るだけで終わり、交渉も不要なため、非常に手続きが簡単に終わります。

(3)費用が安い

時効の援用には、費用が安く済む、というメリットがあります。

上述したように、時効の援用は非常に簡単な手続きで終えることができます。

そのため、実費としても内容証明郵便のための費用だけで済み、弁護士に支払う費用も任意整理・自己破産・個人再生に比べると非常に安価で済みます。

(4)ブラックリストではなくなる

時効の援用には、ブラックリストから削除される、というメリットがあります。

債務がある状態で放置していると、信用情報には延滞したという異動情報が登録されたままです。

延滞した異動情報が登録されていると、信用情報を使って審査を行う取引ができなくなる、いわゆるブラックリストという状態になります。

この状態で債務整理の手続きを行うと、債務整理をした異動情報が登録されることになり、引き続きブラックリストとなります。

しかし、時効の援用をすると、債務が消滅するため、延滞の状態が解消されることになるので、異動情報も消去され、ブラックリストではなくなります。

3-2.時効の援用のデメリット

一方で時効の援用には次のようなデメリットがあります。

(1)債権者が時効の更新・完成猶予をしていると失敗する

債権者が時効の更新・完成猶予をしていると失敗します。

上述したように、債権者は時効の更新・完成猶予をすることができ、これによって借金は5年を経過していても時効で消滅していないことがあります。

(2)時効が完成していないときには多額の遅延損害金とともに一括請求される

時効が完成していない場合、多額の遅延損害金とともに、一括請求されることになります。

もし時効期間が完全に経過していなかったり、時効の更新・完成猶予をしていた場合、最後の返済日からかなりの期間が経過しており、その間遅延損害金が発生しています。

長期間経過している場合、ケースによっては元金よりも多額の遅延損害金が発生しているようなケースもあり、その返済をどうするか検討する必要があります。

4.時効の援用を行う流れと必要書類

時効の援用を行う流れと、必要となる書類について確認しましょう。

4-1.法律上は時効の援用をする意思表示をする必要がある

時効の援用について、法律では民法145条で、時効の援用をすることができる人が援用をしなければ、裁判所がこれによって判断をすることができないと定めるに過ぎません。

時効の援用とは上述した通り時効による利益を受ける旨の意思表示をすることであり、その方法に制約はありません。

しかし、時効期間が経過した後に時効の援用を行ったことを証明できる必要があり、そのため実務上は、配達証明付き内容証明郵便を利用します。

内容証明郵便とは、郵便法44条以下にある特殊取扱の郵便物で、送った文書の内容を証明する郵便です(郵便法48条)。

つまり、時効の援用をする旨の内容証明郵便を作成して相手に送れば、時効の援用をしたことが証明できます。

配達証明とは、当該郵便物を配達・交付した事実を証明するもので、内容証明と同じく郵便法における特殊取扱の郵便です(郵便法47条)。

これによっていつ配達したかも証明してくれるので、これによって時効期間が経過した後に時効の援用をしたことを証明することができるようになります。

4-2.時効の援用の内容証明郵便を送る流れ

時効の援用の内容証明郵便を送る流れは次の通りです。

(1)内容証明郵便の文章を作成し封筒を用意する

内容証明郵便は自分で作成した上で封筒を用意して郵便局に提出します。

内容証明郵便のフォーマットに従い時効の援用をする旨を示す文書を作成し、これを3部印字し、差出人・受取人の氏名住所を記載した封筒を用意します。

文書は2通でも足りますが、3通作成していくと1通受付印を押して返却してもらえます。

(2)郵便認証司のいる郵便局に持参し送付する

郵便認証司のいる郵便局に持参し送付します。

内容証明郵便は郵便認証司という人の認証が必要とされています(郵便法48条)。

どこの郵便局でも出せるわけではなく、郵便認証司のいる郵便局に持参する必要があるので注意しましょう。

内容証明郵便の取り扱いがあるかは、郵便局のホームページで確認することができます。

なお、電子内容証明を利用すれば、書面を印字する・封筒を作成する・郵便局に出向くという手間は必要ないですが、Web郵便のアカウントの作成などが必要です。

4-3.時効の援用に必要な書類

時効の援用に必要な書類としては、内容証明郵便として相手に送る書面と封筒、書留・特定記録郵便物等差出票が必要です。

書面は上述したように、内容証明郵便のフォーマットに従って作成し、3通作成し、封筒も作成します。

内容証明郵便は書留の一つの種類になるので、書留・特定記録郵便物等差出票に必要時効を記載します。

5.時効の援用にかかる費用

時効の援用にかかる費用としては次の通りです。

5-1.内容証明郵便の費用

内容証明郵便の費用がかかります。

  • 郵便基本料金:郵送物による(定形郵便物の場合 25gまで:84円 50gまで:94円)
  • 内容証明料:480円(2枚目以降は290円)
  • 一般書留料:480円
  • 配達証明料:350円

1枚の紙で送付する場合=1,394円

なお、この情報は2024年6月時点のものです。2024年10月1日に郵便料金が改定される予定なので注意しましょう。

5-2.弁護士に依頼する場合

弁護士に依頼する場合、内容証明を送るだけなので、弁護士費用の相場としては30,000~50,000円程度です。

なお、弁護士に相談する場合、法律相談料がかかるのですが、時効の援用のような借金問題については無料で相談できることがほとんどです。

法律事務所リーガルスマートでも、初回60分無料で相談が可能なので、お気軽にお問い合わせください。

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6.時効の援用をするときの注意点

時効の援用をするときの注意点としては次のものがあります。

6-1.住民票を移さずに引っ越しをした場合

例えば、一人暮らしをしていたけども、借金の返済ができなくなって実家に戻るような場合、住民票を移さずに引っ越すことがあります。

住民票を移して引っ越しをした場合、債権者は戸籍の附票を取得するなどして、移転先の住所を知ることができるので、裁判を行うことができます。

しかし、住民票を移さずに引っ越しをすると、戸籍の附票は従来の住所のままとなるので、新たな居場所がわからないことになります。

このような場合には、裁判所の掲示板で掲示する・裁判所の端末で閲覧できるようにするなどする公示送達という手段によって裁判を起こすことができ、これによって時効の更新・完成猶予を行うことができます。

公示送達がされた場合、債務者は旧の住所を管轄する裁判所に確認しにいかなければ知ることができないので、知らない間に裁判が確定していることが想定されます。

そのため、時効の援用をしようと思っても、時効になっていないことがあります。

この場合、残った債務の処理が必要なので注意が必要です。

6-2.内容証明郵便のフォーマット

内容証明郵便については独特なフォーマットがあるので注意が必要です。

内容証明には、行数・文字数や、文字によって何字とカウントするか、句読点を行末に詰め込むことができず文頭に記載するなど、独特なフォーマットがあります。

自分で作成する場合には、郵便局のホームページを確認して、慎重に作成しましょう。

参考:内容証明 ご利用の条件等|郵便局

7.時効の援用ができなかった場合はどうなるのか

時効の援用ができない場合には、次のいずれかによることになります。

  • 支払う
  • さらに時効期間が経過するのを待って時効の援用をする
  • 債務整理をする

時効の援用により借金の消滅を主張できないということは、支払う義務があることになります。

そのため、基本的には支払うことになり、すぐに支払えない場合債権者と分割で支払う相談をすることになります。

もっとも、時効の更新が行われると、あらためて時効期間をカウントするため、再度時効期間が進行することになります。

この場合の期間は10年となり(民法169条)、この10年の時効期間についても時効の更新・完成猶予があるので、再度の時効期間の経過を待つのも現実的ではありません。

上述したように、多くの遅延損害金が付加されていることに鑑みると、支払うことも現実的ではないため、債務整理をするのが現実的でしょう。

8.時効の援用を弁護士に相談、依頼するメリット

時効の援用を弁護士に相談・依頼するメリットには次のものが挙げられます。

8-1.時効が完成しているかどうかを見極められる

時効が完成しているかどうかを見極められます。

時効については期間の経過のほかに、時効の更新・完成猶予があるかという要件もあるので、判断が難しい場合には時効が完成しているか見極めてもらうのが良いでしょう。

8-2.時効の援用をスムーズに行える

時効の援用には、内容証明郵便を確実に作成して、相手に送る必要があります。

内容証明郵便の作成や手続きを任せてしまえるので、スムーズに時効の援用をすることができます。

8-3.時効の援用に失敗したときにそのまま債務整理を依頼できる

万が一時効の援用に失敗した場合、そのまま債務整理を依頼できます。

裁判をされていたにも関わらず気付かなかった場合や、住民票を移動していなかったため公示送達で判決が取られていた場合には、遅延損害金を含めた多額の債務が残るのは上述した通りです。

弁護士に相談して行えば、そのまま債務整理を依頼することができます。

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9.時効の援用に関するよくあるQ&A

時効の援用に関するよくあるQ&Aとしては次のものがあります。

9-1.時効の援用したら訴えられませんか

貸金業者であれば、時効の援用をすれば、それ以上の追及は行いません。

しかし、貸金業者ではない一般の人が、時効の援用をしても訴訟をしてくる可能性は0ではありません。

ただ、万が一訴えられたとしても、時効の援用を行っているので支払う義務は無い旨を主張すれば、裁判ではこれが受け入れられます。

9-2.時効の援用をするために内容証明には何を記載しますか

時効の援用をするためには、内容証明には対象となる債権を特定できる情報を記載します。

契約時の氏名や住所、会員番号や債権額などの記載を行います。

これらは契約書にカードに記載があるほか、返済をした際のATMから出力されるレシートや、督促状に記載されています。

10.まとめ

このページでは、時効の援用についてお伝えしました。

内容証明を送るだけで債務の消滅を主張できる消滅時効の制度は、借金にも適用されるため、要件を満たしている場合には簡易に借金問題を解決できます。

しかし、要件を満たしていることは多くなく、要件を満たしていない場合には多額の遅延損害金を含む一括請求がされることになります。

時効の援用をする場合には、弁護士に相談して行うことをお勧めします。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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