その他
法定利率とは?民法改正の変更点や影響などを弁護士が解説!
契約当事者で特に利率について定めていない場合でも利息が問題となることがあります。
この場合法律の規定に基づいて利息が決められることになります。
法律の規定では元本に法律で定められた利率を掛けて計算が行われるのですが、その法律で定められている利率のことを法定利率と呼んでいます。
この法定利率ですが、昨今改正があり、複雑な内容となっているので注意が必要です。
本記事で法定利率と昨今の改正による変更点や影響について、借金問題・債務整理・民事の法律問題に強い弁護士が解説します。
目次
1.法定利率とは
法定利率とは、法律で定められた利率のことをいいます。
取引にあたっての様々なシーンで、利息の支払いが必要となる場合があります。
利息については基本的には当事者で定めるのが基本ですが、当事者が利息を定めていない場合のために、法律で利息を定めています。
法定利率については民法404条が次のように定めています。
(法定利率)
民法|e-Gov法令検索
第四百四条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年三パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
いくつかのことを規定しているので、順を追ってみてみましょう。
1-1.法定利率は現在は年3%
まず、法定利率は2024年現在は年3%となっています(民法404条2項)。
法定利率については年5%とする書籍やwebでの情報もあるかもしれませんが、これは後述する通り2020年4月1日の改正法施行前の情報になるので注意が必要です。
1-2.法定利率は3年に1回変えられる可能性がある
法定利率は3年に1回変えられる可能性があります。
金利はその時の経済状況によって適切に変更する必要があります。
そのため、3年を1期として、その3年ごとに適切な利率を設定できるように、民法404条3項の規定をおいています(変動法定利率制)。
なお、現在の法定利率の規定になった2020年4月1日以降、利率の変更がされたことはありません。
1-3.利率は利息を生じることになった最初の時点における法定利率による
もし、利率が途中で変更された場合には、特段の意思表示がなければ最初の時点における法定利率が適用されることになります(民法404条1項)。
たとえば、2023年の法定利率が3%で、2026年の法定利率が3.5%である場合、利息が発生するのが2024年である場合には、その時点では3%なので、3%の法定利率で利息が定められます。
2.法定利率と約定利率との違い
法定利率と比べられる言葉として約定利率(やくじょうりりつ)というものがあります。
約定利率とは、当事者で定めた利率のことをいいます。
法定利率は当事者で決めた利息がない場合に補助的に用いられるもので、当事者で決めた利率での支払いについて合意がある場合は約定利率が適用されます。
3.法定利率と遅延損害金との違い
利息に関する用語として併せてよく見るのが遅延損害金です。
遅延損害金とは、金銭債権について、履行期を過ぎた場合の損害賠償として支払う金銭のことをいいます。
金銭債務について民法は次の通り定めています。
(金銭債務の特則)
民法|e-Gov法令検索
第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
返済をしなかった場合の遅延損害金について、特に定めがないような場合には法定利率によって遅延損害金を計算します。
一方で法定利率を超える遅延損害金を定めていた場合には、その金額が遅延損害金となります。
4.法改正で変更された法定利率について
上述したように、法定利率については2020年4月1日に法改正によってルールが変わりました。
主な変更点には次の5つがあります。
- ・法定利率が5%から3%に変更
- ・商事法定利率が廃止され民事法定利率と同じになった
- ・3年ごとに利率が見直されることになった
- ・法定利率の基準時に関する定めがおかれた
- ・中間利息控除に法定利率が適用されるようになった
書籍やwebの情報が改正後の情報が適用されていないこともあるので注意が必要です。
4-1.法定利率が5%から3%に変更
法定利率が5%から3%に変更されました。
民法は明治29年法律第89号として定められたものです。
法定利率は明治29年の社会情勢に鑑みて定められたもので、現在は非常に金利が低い状態が常態化しており、法律と経済的な実態に乖離があります。
そのため、法定利率を3%に引き下げ、現在の経済状態にあわせた民事法定利率となっています。
4-2.商事法定利率が廃止され民事法定利率と同じになった
商事法定利率が廃止され、民事法定利率と同じになりました。
2020年4月1日の改正前は、商法において商行為によって生じた債権についての法定利息については、年6%とする旨の規定が置かれていました。
これは、商行為という営利性が求められるシーンにおいて、一般の取引を前提とする民事法定利率よりも高い利率での取引をすることが通常であるということに基づくものです。
なお2020年3月31日以前に発生したものについては、経過措置として商事法定利息の6%が適用されることになっています。
4-3.3年ごとに利率が見直されることになった
3年ごとに利率が見直されることになりました。
従来は法定利率を見直す旨の規定はなく、どのような経済変動があっても5%のままでした。
上述した通り、法定利率に関する改正は、従来の法定利率と市中金利の乖離を解消しようとするものです。
そして経済が発展した現在では、経済情勢が頻繁に変わることがあるので、定期的に見直せるようにするのが適切であるといえます。
そこで、上述したように3年を1期として、利率が見直されることになりました。
4-4.法定利率の基準時に関する定めが置かれました
法定利率の基準時に関する定めが置かれました。
従来は法定利率が一定であったので、法定利率の基準時を定める必要がありませんでした。
しかし、3年ごとに利率が見直されることになったため、いつの時点の利率が適用されるかについての定めが必要となりました。
そこで404条1項で、利息が生じた最初の時点における法定利率によるという規定が置かれました。
4-5.中間利息控除に法定利率が適用されるようになった
中間利息控除に法定利息が適用されるようになりました。
中間利息の控除とは、不法行為の損害賠償において被害者の逸失利益を計算するときに、将来発生するであろう利息を差し引くことです。
たとえば、交通事故にあった被害者が加害者に対して損害賠償を請求する場合に、労働ができなくなったような場合には労働によって得られたであろう利益である逸失利益を請求します。
この請求を計算する際に、あまりにも金額が過大になることが好ましくないため、将来発生する利息(中間利息)を控除します。
この中間利息控除において、民法417条は次のように規定しています。
(中間利息の控除)
民法|e-Gov法令検索
第四百十七条の二 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。
2 将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。
中間利息の控除をするときの利息の計算に、法定利率の計算が利用されることになりました。
5.法定利率が問題となるケースとは
下記の場合に法定利息の支払いが求められるので、法定利率が問題となるケースとしては次のものが挙げられます。
- 連帯債務者間の求償
- 委託を受けた保証人の求償
- 契約解除における金銭の返還
- 売買契約における買主の利息支払義務
- 委任契約における受任者の金銭の消費についての責任
- 委任契約における受任者による費用等の償還請求
- 寄託契約における受寄者への委任の規定の準用
- 組合契約における業務執行組合員への委任の規定の準用
- 事務管理における委任の規定の準用
- 不当利得における悪意の受益者の返還義務
- 後見における後見人の被後見人への返還金及び被後見人から後見人への返還金等
- 財産分離の請求後の相続人による管理への委任の規定の準用
- 遺言執行者への委任の規定の準用
5-1.連帯債務者間の求償
連帯債務者間の求償について、法定利率が問題となります。
連帯債務の一人が債務の全額について支払いをした場合に、支払いをした債務者は他の債務者に対して負担部分の請求をすることができます。
この請求のことを求償といいます。
求償をする際には、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償すべきことが規定されています(民法442条2項)。
5-2.委託を受けた保証人の求償
委託を受けた保証人の求償について、法定利率が問題となります。
本人から委託をうけて保証人になった人が、保証債務の履行をしたときには、本人に対して払った額の支払いを求めることができます(民法459条1項)。
この請求も同じく求償と呼びますが、求償にあたっては民法442条2項の準用があり、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償すべきとされています。
5-3.契約解除における金銭の返還
契約解除をした場合の金銭の返還において法定利率が問題となります。
契約解除をした場合に、すでにお金を支払った場合には金銭の返還を請求することができます。
金銭の返還にあたっては、金銭を受領したときからの法定利息を付さなければならないとしています(民法545条2項)。
5-4.売買契約における買主の利息支払義務
売買契約における買主の利息支払義務において法定利率が問題となります。
売買契約において、売主が目的物を引き渡した後は、買主は代金について法定利息を支払う義務があります(民法第575条2項)。
5-5.委任契約における受任者の金銭の消費についての責任
委任契約における受任者の金銭の消費についての責任において法定利率が問題となります。
委任契約において受任者が委任者のために用いるべき金銭を自己のために消費した場合には、消費した日以後の法定利息を付して支払わなければなりません(民法第647条)。
5-6委任契約における受任者による費用等の償還請求
委任契約において、受任者による費用等の償還請求をする場合に法定利率が問題となります。
委任契約において、受任者が委任者のために必要な費用を支出した場合には、委任者は受任者に対して支払った費用と、費用の支出に対して支出日以後の法定利息を支払う義務があります(民法第650条1項)。
5-7寄託契約における受寄者への委任の規定の準用
人にものを預けて保管してもらう委託契約において、法定利率が問題となります。
委託契約においては受託者が費用の支払いをした場合について、上述の民法647条・民法650条1項の規定の準用が定められています(民法第665条)。
そのため、受託者が金銭を消費してしまった場合には委託者に法定利息を付して支払う必要があり、受託者が受託契約の履行に必要な費用の支払いをした場合には委託者に法定利息も請求することができます。
5-8組合契約における業務執行組合員への委任の規定の準用
複数の当事者で一つの事業を行う組合契約において法定利率が問題となります。
業務執行組合員について、上述した委任契約に関する民法647条・650条1項が準用される旨が規定されています(民法第671条)。
そのため、業務執行組合員が金銭を消費してしまった場合には、委託者に法定利息を付して支払う必要があり、業務執行組合員が組合契約の履行に必要な費用の支払いをした場合には委託者に法定利息も請求することができます。
5-9.事務管理における委任の規定の準用
事務管理において法定利率が問題となります。
義務なく他人の財産を始めることを事務管理といい、民法697条以下に規定されています。
民法第701条は、上述した民法647条の規定を準用することが規定されており、管理者が本人の財産を消費した場合には、法定利息を付して返還しなければなりません。
5-10.不当利得における悪意の受益者の返還義務
不当利得における悪意の受益者の返還義務において、法定利率が問題となります。
法律上の原因がないのに、一方の損失において他方が利得を得ている場合に、返還請求を認めるのが不当利得です。
不当に利得を得た人のことを民法では受益者と呼んでいますが、受益者が悪意(法律上の原因がないことをしっていること)の場合には、法定利息を付して返還をしなければなりません(民法704条)。
5-11.後見における後見人の被後見人への返還金及び被後見人から後見人への返還金等
後見人が被後見人に対して金銭を返還する場合に、法定利率が問題となります。
後見人が被後見人に返還すべき金銭がある場合には、後見の計算が終了したときから法定利息を付さなければなりません(民法873条1項)。
もっとも、後見人が自己のために消費した場合には、消費の時から法定利息を付さなければんりません(民法873条2項)。
5-12.財産分離の請求後の相続人による管理への委任の規定の準用
財産分離請求が行われた場合の相続人による管理について、法定利率が問題となります。
相続債権者や受遺者が相続財産に対して、財産を確保するために行うのが財産分離です。
財産分離が行われた場合に、相続人はその財産を管理するのですが、この場合の相続人には、上述した委任の規定である民法647条・民法650条1項が準用されます。
そのため、管理している相続人が財産を費消した場合には法定利息をつけて返還する義務があり、相続人が管理のための費用を支出した場合には法定利息を付して請求できます。
5-13.遺言執行者への委任の規定の準用
遺言執行者が選任されている場合に法定利率が問題となります。
遺言の内容を実現する遺言執行者が選任されている場合、民法1012条3項で、上述の委任に関する民法647条・民法650条1項が準用されます。
そのため、遺言執行者が財産を費消した場合には法定利息をつけて返還する義務があり、遺言執行者が管理のために費用を支出した場合には、法定利息を付して請求できます。
5-14.その他
- 商人間における金銭消費貸借
- 交互計算における債権者の利息請求権
- 供託法上の供託金
などについても法定利率が問題となります。
6.法定利率の計算方法
法定利率の計算方法は次の通りです。
(支払う金額×法定利率)÷ 365日 ×(法定利息が発生している日数)
例えば、18万2,500円の売買代金の支払いを10日間遅らせた場合、次の通りです。
18万2,500円 × 0.03 ÷ 365日 × 10日 = 150円
7.支払いに困った際の対処法
法定利息がつけられる、約定利息・遅延損害金が発生するなどで債務の返済に困った場合の対応方法について確認しましょう。
7-1.早く返済する
法定利息などは元金をもとに計算されます。
そのため、まずは早く返済してしまうことで、債務の返済が膨らむことを防げます。
なるべく早く返済をするようにしましょう。
7-2.債権者と話し合う
債権者と話し合います。
ここまでお伝えした内容は法律で定められた権利についてのもので、実際にその権利をすべて行使するかは債権者次第です。
債権者と話し合って、遅延損害金がつかないように話し合ってみるなどの方法が考えられます。
7-3.債務整理
返済が厳しい場合には債務整理を検討します。
債務整理によって、発生している遅延損害金や利息がつかなくなる任意整理や、元金もさらに減額して返済をする個人再生、元金も利息も遅延損害金も免責してもらう自己破産などの種類があります。
8.支払いに困った際に弁護士に相談、依頼するメリット
支払いに困った際に弁護士に相談・依頼するメリットには次のものがあります。
8-1.いくらの支払いを求められどう対応すべきかがわかる
上述したように、法定利率が問題になる場合である、法定利息の支払い義務・遅延損害金を払う場合には様々なケースがあります。
法定利息などの支払いが問題になるのかどうか、問題になるとしてどの程度の支払いが必要なのかについての判断と、それにどう対応すべきなのかがわかるようになります。
8-2.支払えない場合の債務整理をスムーズに行うことができる
もし利息・遅延損害金なども含めて各種債務の支払いが厳しい場合には、上述したように債務整理を行う必要があります。
債務整理をするには、貸金業者と難しい交渉をする場合や、厳格で難解な裁判所への申立てが必要です。
弁護士に依頼すれば、債務整理をスムーズに行うことができます。
9.法定利率に関するよくあるQ&A
法定利率に関するよくあるQ&Aには次のものがあります。
9-1.年20%が上限とされるのは法定利息ですか?
利息について「年20%が上限」というルールを見たことがある方もいらっしゃるかもしれません。
これは利息制限法・出資法という法律に基づくもので、金銭の貸付についての約定利息の上限に関するルールです。
利息制限法では、年20%を超える利息(利息の1.46倍を超える遅延損害金)は無効であるとされています。ただし、これは法定利率ではなく、約定の利息に関する上限です。
10.まとめ
本記事では法定利率についてお伝えしました。
利息が発生が問題となる場合に、当事者で利息についての利率の取り決めがない場合に適用されるのが法定利率であり、2020年4月1日に現在の変動法定利率制に変更されていることを知っておきましょう。
私たち法律事務所リーガルスマートは、借金問題・債務整理の専門チームがございます。初回無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
借金による不安やストレスから
抜け出しませんか
借金問題を弁護士に相談する4つのメリット
- 債権者からの督促が止まる
- 弁護士に依頼することで、債権者からの厳しい督促や取り立てがストップします。これにより、精神的な負担が軽減され、問題解決に向けて冷静な行動を取れるようになります。
- 状況に合せた最適な解決法の提案
- 弁護士は、任意整理、個人再生、自己破産などの手続きの中から、状況に合わせた最適な解決方法を選択し、手続きを進めます。これにより、スムーズな解決が期待できます。
- 時間と手間の節約
- 弁護士に依頼することで、債務整理の手続きの手間を大幅に減らすことができます。弁護士が代理人として交渉や手続きを行うため、あなたは日常生活や仕事に集中できます。
- 家族に知られずに手続きが可能
- 弁護士が債権者との連絡窓口となるため、家族に知られることなく手続きを進めることができます。これにより、家族に心配をかけずに問題を解決することができます。
担当者
-
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
担当記事
- 個人再生9月 9, 2024個人再生でやってはいけないことや失敗した際の対処法を弁護士が解説
- 債務整理9月 9, 2024期限の利益とは?喪失事由、リスクや対処法などを弁護士が解説!
- 債務整理9月 6, 2024借金取り立てで違法になるケースや対処法などを弁護士が解説!
- 債務整理9月 6, 2024ニッテレ債権回収から身に覚えがない通知。対処法を弁護士が解説