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期限の利益とは?喪失事由、リスクや対処法などを弁護士が解説!
長期間借金の返済ができていない場合、債権者の通知の中に「期限の利益」についての通知が送られてくることがあります。
普通に暮らしているとなじみのない言葉なのですが、借金・ローンなどの契約にはつきものであり、期限の利益を喪失すると借金問題は新たな局面を迎えるため、非常に重要なものです。
本記事では、期限の利益とはどのようなものか、喪失した場合のリスク、対処法について弁護士が解説します。
目次
1.期限の利益とは
期限の利益とは、契約において一定の期間までは債務の支払いをしなくても良い(分割払いで良い)という利益のことをいいます。
契約をした当事者は、契約内容にしたがって債務の履行をします。
たとえ債務者であっても、契約ないように従った条件が成立していなければ、債権者から一定の請求をされたとしても、その請求を拒むことができます。
一定の条件として期限が設けられている場合、その期限がくるまで請求を拒むことができるとするのが期限の利益です。
1-1.借金・ローンにおける期限の利益
借金・ローンにおいても期限の利益が問題となります。
1月1日に例えば100万円の借入をして毎月10万円を月末に支払う契約をしていたとします。
1月の月末までに10万円を支払えば、残りの90万円について一括ですぐに返済するように求められても、契約ではその請求を拒むことができます。
つまり、借金やローン、分割払い契約やリボ払いなど借金・クレジットカードの支払いについては、すべてこの期限の利益が問題となります。
1-2.期限の利益の放棄
期限の利益について、民法136条は期限の利益を放棄できる旨を定めています。
(期限の利益及びその放棄)
第百三十六条 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。2 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
例えば借金において期限を定められているのは、債務者が支払い期が来ていない債務の支払いを拒むために定められています。
このように期限が定められているのは基本的には債務者のためなので、債務者の利益のために定めたものであると、民法136条1項で定められています、
そのため、期限の利益は利益を受ける債務者が自ら放棄をするのであれば、放棄をすることができます。
つまり、上記の例でいうと、90万円の支払いを求められてもこれを拒むことができますが、期限の利益を放棄して90万円を債務者の側が自主的に支払うことは可能となっています。
ただし、これによって相手方の利益を害することはできないとされています。
この意味は、相手が利息を設定していたような場合に、契約通りに支払った場合に相手が受け取ることができた利息は、期限の利益を放棄したとしても支払わなければならないことを意味します。
もっともこれは法律の規定がそうなっているだけであり、現実に貸金業者に早めに一括返済をした場合に、その利息を請求されることは基本的にはありません。
1-3.期限の利益の喪失
期限の利益は喪失することがあります。
後述する一定の事由が発生することによって、期限の利益を喪失します。
上述の借金の例だと、月末に10万円を払ったとしても、期限の利益を喪失していると、残りの90万円の支払いを求められたとしても、これに応じる必要があることになります。
一定の事由が発生すると、この期限の利益を失うことになり、以後は未払い分だけではなく、今まで期限の利益によって請求されていなかった分についても請求されることになるので注意が必要です。
2.期限の利益の喪失事由とは
期限の利益はどのような時に喪失するのでしょうか。
期限の利益の喪失は、法律によって定められている事項と、当事者が契約で定めるものがあります。
2-1.法律における期限の利益の喪失事由
民法は次の場合に期限の利益を喪失することを規定しています。
(期限の利益の喪失)
第百三十七条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
その内容について順に確認しましょう。
(1)債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
民法137条1号は債務者が破産手続開始の決定を受けたときに、期限の利益を喪失するとしています。
この場合に、破産手続きに参加する債権を一律に扱うために、期限の利益を喪失したものとする必要があるためです。
債権者は債権が到来しているものだけの債権届け出をするのではなく、債権の全額について債権の届け出を行うことになります。
(2)債務者が担保を滅失させ、損傷させ、または減少させたとき
民法137条2号は債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたときに期限の利益を失うとされています。
例えば、住宅を担保にした不動産担保ローンを利用している場合、債務者がきちんと支払いをしなければ、債権者は不動産に設定した担保である抵当権を実行して債権の回収を行います。
しかし、この担保となっている住宅を債務者が勝手に壊してしまうと、債権者としては不動産を競売にかけてお金を回収することが困難となります。
このような場合には、債権者は債権回収のための行動をする必要があり、担保を滅失・損傷・減少するような債務者を期限の利益で保護する必要はないので、期限の利益を喪失するとしています。
(3)債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
債務者が担保を供する義務を負う場合においてこれを供しないときには期限の利益を喪失することになります。
契約や法律の規定で、債務者が担保を供しなければならない場合があります。
例えば、債務者に信用不安があるような場合に、契約で担保を供しなければならないとしている場合があります。
契約で一定の事由が生じたにもかかわらず、担保を供しない場合、債権者はやはり債権回収のための行動をとる必要があります。
一方で債務者は担保を供する義務を負うにもかかわらず、これを履行できていないので、やはり債務者を期限の利益で保護する必要がありません。
そのため、期限の利益を喪失することになります。
2-2.契約での期限の利益の喪失
法律で定められている期限の利益の喪失は、期限の利益の喪失についての契約上の取り決めがない場合に問題となるものです。
しかし、上記の法律の規定以外にも、期限の利益を喪失させたほうが良い場合があり、通常契約では期限の利益の喪失ができる場合について詳細に規定されています。
契約の内容ごとに期限の利益の喪失を当事者で決めることになります。
ここでは貸金業者から借金をする場合によく問題となる期限の利益の喪失条項を見てみましょう。
(1)住所や勤務先変更の届け出を怠る・所在がわからなくなる
住所や勤務先の変更の届出を怠った場合、返済ができなくなった場合の債権回収のために大きな支障をきたします。
住所や勤務先に変更があった場合には本来は届け出る義務があるにもかかわらず、これを怠っている場合には、債務者にも非があるので、期限の利益の喪失を定めることがあります。
(2)延滞など
契約の規定がなければ、返済しなくなったとしても、破産手続開始決定を受けるまでは期限の利益の喪失は行われません。
貸金業者はもっと前の段階から裁判等で回収するために、一定期間延滞した段階で期限の利益を喪失させる旨の規定を契約書に置いています。
規定の多くは、延滞後に一定の期間を定めて催告したにもかかわらず、その期限内に支払わない場合に期限の利益を失うとしていることが多いです。
そのため、延滞してしばらく経つと、通知の中に期限の利益喪失の予告をする旨の通知がくることになります。
(3)手形・小切手の不渡り
手形や小切手について不渡りを出したときに、期限の利益を喪失するとする条項を置くことがあります。
最近利用されることは減りましたが、事業主の中には決済手段として手形・小切手を利用することがあります。
これらの不渡りを出したことは、信用状態の悪化が推認されるので、債権回収のために期限の利益を喪失する旨の規定が置かれます。
(4)差押・仮差押・仮処分の申立・滞納処分を受けた
差押、仮差押、仮処分の申し立てがあった場合や、滞納処分を受けた場合に期限の利益を喪失する旨の条項が置かれることがあります。
強制執行のための差し押さえはもちろん、裁判をする前提である仮差押・仮処分の申立てが行われたことは、債務者の信用状態が悪くなっていることが推認されます。
そのため、期限の利益を喪失する旨の規定が置かれることが多いです。
この場合には税金を滞納したことによって行われる滞納処分を受けたことも含まれます。
(5)破産・民事再生・特別清算・会社更生・私的整理の開始の申立
民法の規定では破産手続開始決定があったときに期限の利益を喪失する旨の規定が置かれますが、それ以前の破産手続の申立ての段階で期限の利益を失うように規定することがあります。
また、他の債務整理方法の利用がされた場合も同様に扱えるように、それ以外の手続きについても規定されます。
法人の代表者であることを想定して、民事再生・会社更生・私的整理などの手続きについても規定されることがあります。
(6)反社会的勢力に該当・マネーロンダリング・テロ資金供与などを行った
貸金業者から借入をする際には、反社会的勢力に該当しないことが条件となります。
反社会的勢力に該当することがあとからわかった場合や、後から反社会的勢力に該当したような場合に期限の利益を喪失する旨が規定されることがあります。
また同様に、マネーロンダリング・テロ資金供与などがされた場合に期限の利益の喪失が規定されます。
3.期限の利益を喪失するリスクについて
期限の利益を喪失するリスクとしては次のものが挙げられます。
3-1.一括請求される
残債務も含めて一括請求が行われます。
期限の利益を喪失した以上、返済期が来ていない残った債務についても一括請求されることになります。
3-2.債権者との交渉が非常に難しくなる
債権者との交渉が著しく難しくなります。
期限の利益を喪失する前は、すでに延滞している分についての支払いについての話し合いをすることになりますが、期限の利益を喪失してしまうと債権全額の支払いについての話し合いが必要となります。
債権者も債権全額について請求できる状況なので、債務者はより厳しい交渉を強いられることになります。
3-3.担保権を実行される
担保権を実行されることになります。
例えば住宅ローンの返済が滞ったときのために、購入した住宅には抵当権がつけられています。
住宅ローンの返済が滞った場合には、その債務の支払いに充てるため、抵当権を実行して住宅を競売にかけることができます。
その前提として期限の利益を喪失して、債務の全額が返済期を過ぎている状態になっていなけば全額についての担保権の実行ができません。
そのため、期限の利益の喪失をした場合には、担保権の実行が行われる状態であるといえます。
3-4.裁判・強制執行が行われる
期限の利益を喪失したことによって裁判・強制執行が行われるリスクがあります。
期限の利益を喪失すると、債権者は債権全額について権利行使ができる状態にあります。
そのため、債権全額について裁判を起こし、判決などの債務名義を得て強制執行をすることができるようになります。
債務の返済ができないような場合には、強制執行の対象となるものが無いようにも思えますが、借入時に申告している勤務先の給与は手取り額の1/4を差し押さえることができ、全額回収するまでずっと会社から支払ってもらうことが可能です。
手取りが大きく減るほか、会社に返済ができていないことを知られてしまうので注意が必要です。
4.期限の利益を喪失したときの対処法について
期限の利益を喪失したときの対処法としては次の3つが考えられます。
4-1.残債務を含めて一括で支払う
期限の利益を喪失した後には残債務を含めて一括で返済するのが基本となります。
ボーナスや臨時収入、親族から借りるなどして一括返済ができるのであれば、一括返済を検討します。
期限の利益を喪失するころには、長期の延滞によって信用情報に異動情報が掲載されるブラックリストという状態になっている可能性が高く、借り換え・おまとめローンの利用はできないでしょう。
4-2.債権者と返済について交渉する
債権者と返済について交渉します。
一括での支払いが難しい場合でも、分割・減額しての支払いを行うことを打診しましょう。
債権者が裁判・強制執行による回収よりも負担が少なく、確実に回収できるという見込みが得られれば、任意での支払いに応じてくれる可能性もあるでしょう。
4-3.債務整理を行う
全額の一括での支払いが難しい場合には、債務整理を行いましょう。
期限の利益を喪失していても、債務整理を行うことは可能です。
債務の額と返済能力に応じた手続きによって、借金問題を解決します。
5.期限の利益の喪失を事前に防ぐ方法
期限の利益の喪失を事前に防ぐためにはどのような方法があるのでしょうか。
5-1.延滞する前から支払いについて相談をする
延滞をする前に支払いについて相談しましょう。
延滞をする前であれば、例えば毎月発生している利息のみの支払いにとどめてくれるなど、支払いを軽減してくれることもあります。
これによって延滞となることをなるべく防ぎます。
5-2.収支を見直して支払える額を増やす
収支を見直して支払える額を増やします。
収入が少ないのであれば副業をする、支出が多いならば支出を見直すなどして、支払える額を増やし、延滞をしないようにしましょう。
5-3.延滞しはじめたら債権者との連絡を誠実に行う
延滞しはじめた場合には債権者との連絡を誠実に行いましょう。
延滞してしまうと債権者から電話での督促を受けることになるのですが、後ろめたいため電話に出ない人が多いです。
しかし、すぐに払えない状況であっても、今どのような状況か、払える見込みについてを素直に回答して、好転するように連絡を誠実に行っていれば、期限の利益の喪失・裁判・強制執行などのより強い回収方法をすぐに行わずに差し控えてくれることが期待できます。
ケースによっては貸金業者から、次いつまでに現在の状況を報告してほしいなどの要請をされることもあるので、素直にこれに応じましょう。
5-4.早めに債務整理をするのも一つの手
一時的に支払いを軽くしてもらう、支払いを待ってもらうなどの措置では好転する見込みがない場合には、早めに債務整理をするのも一つの手です。
債務整理は延滞をしている・期限の利益を喪失している、という場合でなくても利用が可能なので、早めに相談するようにしましょう。
6.借金の滞納が続いていたら弁護士に相談、依頼するメリット
借金の滞納が続いている場合に弁護士に借金問題の解決について相談・依頼するメリットには次のものがあります。
6-1.今どのような状況か・これから何が起こるか知ることができる
借金の滞納が続いていても、携帯電話に着信が入り、督促の郵便が送られてくること以外は、特に変わらないと感じることもあります。
しかし、知らない間に、期限の利益を喪失していたり、債権が譲渡されていたり、裁判の予告をされていることがあります。
弁護士に相談することで、借金の滞納によって今どのような状態にあるのか、これからどのようなことが起こるのかを知ることができます。
6-2.債務整理を依頼する場合にはスムーズかつ確実に手続きを進めてくれる
債務整理を依頼する場合にはスムーズかつ確実に手続きを進めてくれます。
債務整理をするには債務の調査や相手との交渉、申立書の作成などの手続きがあります。
これらは難しいものであると同時にミスが許されないので確実に行うことが必要です。
弁護士に依頼すれば、これらを確実にスムーズかつ確実に行ってもらえます。
6-3.督促を止めることができる
弁護士に債務整理を依頼すれば督促を止めることができます。
貸金業法21条1項9号は、弁護士に債務整理を依頼した後は、本人に督促してはいけない旨が定められています。
そのため、弁護士に依頼すれば督促を止めることができます。
期限の利益を失うような事態になっている場合には、日常的に督促を受けている状態ですが、落ち着いて債務整理に取り組むことができます。
7.期限の利益に関するよくあるQ&A
期限の利益に関するよくあるQ&Aとしては次のものが挙げられます。
7-1.期限の利益に喪失として何が規定されているか確認できますか
金銭消費貸借契約書に、どのような状態になれば期限の利益を喪失するかが規定されているのが通常です。
もっともこれらがない場合でも、貸金業者のホームページに規約や定型約款などの形式で掲載されていることがあります。
そのため、借入をしている貸金業者の名前と、「期限の利益の喪失」というキーワードで検索をしてみると、規約・約款が閲覧できることがあります。
8.まとめ
本記事では、期限の利益についてお伝えしました。
履行期が到来していない債務の履行を求められてもこれを拒むことができる債務者の利益である期限の利益は、長期間の延滞時に債権者からの通知などを理由に喪失することになります。
その後は一括請求をされることになるので、早めに弁護士に債務整理の相談をすることをお勧めします。
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担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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