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内定取り消しは違法?条件や対処法、実際の事例を弁護士が解説

内定取り消しは違法?条件や対処法、実際の事例を弁護士が解説
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就職活動において「内定」という言葉が良く用いられますが、この「内定」が法律的にどのような意味があるか、しっかりと理解している方は少ないのではないでしょうか。

ここでは、内定とは法律上はどのような意味を持つのか、内定の取消しはどのような場合に可能なのか、もし内定が取り消されたらどうすればよいのかなど、内定に関する法律上の問題について、弁護士が解説します。

1.内定とは

「内定」とは、企業が採用を決定したことを相手(採用予定者)に通知することを指します。最終面接後、メールや電話、書面や口頭伝達などで採用を通知し、労働者が入社を承諾することで内定となります。つまり、内定は、法律的には雇用契約(労働契約)が成立したのとほぼ同じ意味を持ちます。最高裁判例においても、内定により、「解約権が留保され、かつ将来に始期が設定された労働契約の締結」とされています。

労働契約が成立したのと同じということは、内定取り消しには法的に高いハードルが存在し、経営者側が一方的に契約を破棄することはできないということを意味します。

2.「内定 取り消し」とは何か?

内定取り消しとは、企業が採用予定者に出した内定を、会社都合で取り消すことを指します。

会社が労働者を解雇する場合には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められることが必要とされています(労働契約法19条)

この解雇と同じで、企業が内定を取り消すには、合理的で相当な理由が必要です。もし合理的な理由がない場合、内定取り消しは無効となり、応募者から労働者としての地位確認を求められたり、賃金相当額の損害賠償を請求される可能性もあります。

内定取り消しは、新卒や中途採用者を問わず、労働者に経済的なダメージを与えることになります。例えば、新卒の場合、就活をやり直すことが必要になります。卒業してしまうと、新卒ではなくなり、正社員としての就職が難しくなる可能性もあります。公務員浪人をするという選択肢もありますが、キャリア形成に大きな不安を抱えることになるでしょう。

中途採用者は、内定を貰ったらすぐに転職活動を終えて退職することがあるため、内定を取り消されると、いきなり無職となってしまいます。

内定を取り消されると、他の会社で就職できるまでは賃金が得られないことになってしまいます。そのため、内定取り消しには簡単にできるものではなく、法的に高いハードルが存在するのです。会社としては、慎重に判断する必要があります。

2-1.内定取り消しにより会社側に生じる問題

内定取り消しとは、内定を出していた応募者の内定を取り消し、入社を拒否する行為です。内定を取り消すことは、合理的な理由が必要であるため、経営側にとって非常に慎重な判断が求められます。

そのため、経営者は内定を出す前に、問題がないかどうかを十分に考慮する必要があります。内定通知後には、取り消すことはできないという認識を持って、内定を出すことが重要です。

 また、内定取り消しは経営者にとって以下のような問題を生じさせます。

企業の信頼性の低下

内定取り消しは、企業の信頼を大きく損ないます。内定は入社が確定したものと認識されており、世間からの批判を受ける可能性が高いためです。合理的な理由のない内定取り消しは、企業と社会の信頼関係に大きなダメージを与えます。たとえ正当な理由があると認識していたとしても、裁判では正当な理由があるとは認められないことも多いため、注意が必要です。 

採用コストの無駄遣い

内定取り消しは、採用コストを無駄にするだけでなく、株主やステークホルダーから非難される行為です。採用にかかった交通費や人件費などが全て無駄になるため、内定取消は慎重に判断する必要があります。企業側が一方的な理由で内定を取り消したいと思っても、内定取り消しは容易にはできないことがあります。

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3.内定取り消しの条件

内定取り消しには条件があり、内定取消が可能な条件として以下の条件があります。

内定者の大病や重傷により入社後仕事をすることが難しいケース

内定した人材が大病や重傷を負い、入社後に仕事をすることができないことが判明した場合、内定取消をできる可能性があります。ただし、深刻な怪我や病気でなければ内定取り消しは難しいです。例えば、内定後に採用予定者が交通事故に遭ってしまって後遺症が残り、入社後にしてもらう予定だった仕事ができないなどの深刻なケースでは相当性が認められるでしょうか、入社後の業務に支障がない場合には相当性が認められないといえるでしょう。いつまで経っても完治しないような重傷でなければ内定取り消しをすることは難しいと言えます。

内定者の深刻な嘘が発覚した場合

 内定者が重大な嘘をついていた場合、企業との信頼関係が入社前に崩れるため、内定を取り消すことができます。学歴や経歴などの詐称は、信頼関係を根底から揺るがすものであり、内定取り消しの理由となりえます。

応募者が入社日までに学校を卒業できない場合

 新卒入社の学生が、入社日までに学校を卒業できず留年などしてしまった場合、内定を取り消すことができます。この理由は、新卒は毎年3月31日に大学を卒業し、特定の年度に入社することを約束して入社する採用形態であるためです。したがって、大学を卒業していない場合、優秀であっても大卒として扱うことができず、翌年には採用状況が変わっている可能性もあります。ただし、実務上では、応募してきた学生の所属大学との関係などを考慮して、留年しても入社してもらうなど対応している企業もあります。

企業によって対応は別れますが、留年した場合は内定取り消しをされてしまうのは仕方がないことです。

応募者の前科、前歴など、深刻な事由が発見された場合

応募者が前科を隠していた場合など深刻な事由が入社前に発覚した場合は内定を取り消すことができます。

ただし、入社後の職務内容と前科が全く関係しないケースでは前科があることのみをもって内定取り消しをすることは不当な取り消しと判断される可能性もあるため、慎重な判断が必要です。

3-1.経営悪化を理由とした内定取消の要件

経営が悪化したことを理由とする内定取消を行うためには整理解雇と同じく4要件を満たす必要性があります。

内定取り消しは解雇と同じ法的効力となるためです。

内定取り消しを行うための整理解雇4要件を下記で解説します。

人員削減の必要性はあるかどうか

人員整理をする必要性はどの程度緊急事態なのかが問われます。

基本的には内定取り消しをしなければ会社が倒産してしまうような事態以外では認められない可能性が高いです。

また、客観的な事実を示すために財務状況など全てを開示する必要性があります。

解雇回避の努力をしたかどうか

解雇回避のために新卒採用の停止、希望退職者募集、一時帰休などあらゆる手を尽くしたかどうかが問われます。

解雇をする対象者の選定を合理的にしたかどうか

解雇をされる従業員に対しては、選定基準が正しいものであったかどうかが問われます。

解雇をするにあたって説明を尽くしたかどうか

解雇をするにあたって解雇の必要性や解雇回避のために尽くした努力などを解雇される人に対して説明を尽くしたかどうかが問われます。

基本的には上記の4要件を満たさなければ内定取り消しはできません。

3-2.その他の取消し事由

内定取り消し事由に関しては、当事者間で定めた事由や、企業が内定通知書に記載している事由などが内定取り消しにあたる可能性があります。

他には、内定取り消し事由としては以下のような事由があります。

  • 就職までに必要な資格や免許等取得できなかった場合
  • 入社までに犯罪を犯した場合

内定取り消し事由については応募者と話し合いをしっかりとしておく必要性があります。

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4.内定取り消しの法的問題点 

内定取り消しに関する法的問題点は、内定取り消しが解雇に相当することに留意する必要があります。解雇は労働者にとって極めて重大な処置であり、内定は解約留保権付きの労働契約であるため、合理的な理由なく一方的に契約を解除することはできません。特定の事由がある場合は内定を取り消すことが可能ですが、企業が内定を通知した時点で契約が成立しており、企業の一方的な都合で内定を取り消すことは困難です。

4-1.内定取り消しによる損害賠償請求

内定取り消しによる損害賠償請求を受けるリスクがあります。解雇無効と裁判所が認めた場合は、本来入社していれば得られたであろう賃金を遡及して支払うバックペイが認められる可能性が高くなります。内定取消しによる精神的損害などの慰謝料額としての損害賠償金額そのものは低い金額かもしれませんが、バックペイは賃金相当額が認められる可能性があり、高額になることもあり得ます。

4-2.内定取り消しの無効性

内定取り消しは、労働契約法16条に基づく解雇に相当する措置であり、一方的に行うことはできません。客観的に見て合理的で、社会通念上相当な理由が存在しない場合は無効となります。また、この証明は経営者にとって非常に難しく、簡単ではありません。この社会通念上の相当な理由については経営者側が立証責任を負うとされています。

例えば、被告人が犯罪を犯したとしても、犯罪の重さなどの立証責任は原則解雇する側の経営者側にあります。

5.内定取り消しをされた場合の対応策

内定取り消しをされた場合の対応策として、以下の対応策があります。

  • 地位回復のため民事訴訟を起こす
  • 内定取り消しを理由にした損害賠償請求

内定取り消しを受けた被害者(採用予定者)が、その企業に入社したいと思う場合は、民事訴訟を起こして内定取り消しが無効であり、労働者としての地位を有することを裁判所に認めてもらう必要があります。内定取り消しの無効が認められれば、労働者としての地位が認められ、入社することができます。また、内定取り消しによって被った損害賠償請求を起こすことができます。

5-1.交渉のポイント

内定取り消しをされた場合の交渉のポイントとして、以下のポイントがあります。

  • 絶対に入社したい企業なのかどうか
  • 入社できなくても被害を補償してほしいのか

上記の状況次第で交渉のポイントは大きく変わります。

入社を諦められない場合は、他の企業に就職することなく裁判を戦うことになる可能性があります。一方、内定取り消しによって被害を受けたが、入社する意思がなくなった場合は、金銭的な補償を示談交渉で求めることもできます。

これらの交渉は、弁護士に相談して直接の話し合いで試みることもできます。

企業側と話し合いによって解決することができれば、裁判を起こすよりもストレスが少なく、効率的に被害額を弁償してもらえます。

5-2.個別事情に応じた対応策

個別事情に応じた対応策としては、以下の個別事情と対応策があります。

経営状態悪化により内定取り消しをされたケース

経営状態悪化により内定取り消しをされたケースでは、経営側に整理解雇の4要件を満たしているのかを説明する義務があります。

弁護士に相談し、本当に内定取り消し以外に方法がなかったのかなど経営者に説明を果たさせましょう。

嘘をついていたことを理由に内定を取り消されたケース

嘘をついていたことを理由に内定を取り消されたケースでは、本当に内定を取り消すほど重大な嘘だったのかが焦点になります。

例えば入社後の業務に大きな影響が出ない程度の嘘であれば内定を取り消すことは原則できません。

弁護士に相談し、内定取り消しを撤回させることが出来ないかを相談する必要性があります。

入社前にケガをしたことを理由に内定を取り消されたケース

入社前にケガをしたことを理由に内定を取り消されたケースでは、そのケガが本当に就労不能なくらいに重いケガである必要性があります。

例えば、よく学生に起こる卒業旅行やスキー旅行で骨折をしたというケースでは内定取り消しはできません。

骨折が治れば元の労働能力に戻るためです。

完治が難しく仕事をすることが難しいと考えられるようなレベルのケガ以外では内定取り消しはできません。

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6.内定取り消しに関するトラブル事例

内定取り消しに関するトラブル事例として次のようなトラブルがあります。

入社式までの間に学生が大けがをしてしまったケース

入社式までの間に学生が大けがをしてしまい入社式はおろか入社日から1ヶ月ほど出勤できず欠勤状態になってしまうケースです。

原則として大けがとはいえ内定を取り消すことはできません。

この場合には入社日そのものを後ろにズラしてもらうか、欠勤期間中は傷病手当金を申請するなど対応する必要性があります。

入社1週間前に中途採用予定者が急に内定取り消しになってしまったケース

入社1週間前に中途採用予定者が急に内定取り消しになってしまうケースがあります。

企業の採用担当者の中には内定取り消しが法律的にどれだけ重い責任を負うことなのかを知らずに安易に行ってしまう場合があります。

中途採用者は他の企業に入社するために現在勤めている企業を辞めなくてはならないこともあり、内定取り消しを撤回しない場合は訴訟になることも起こりえます。

上記のケースのように企業側が安易に内定取り消しを行った場合は訴訟に至ることもあります。

6-1.実際にあった内定取り消しの事例

「大日本印刷事件」という内定取り消しの有名な事例があります。大企業である大日本印刷が、学生の内定を「グルーミー(陰気)な印象」の学生であるという理由で取り消しました。しかし、学生が内定取り消しを無効にする裁判が行われ、裁判所は学生への内定は解約留保付の労働契約であると認定しました。つまり、内定を取り消すには十分な理由が必要であり、労働契約に基づいて行われることがわかります。「学生がグルーミーで暗い印象だから」という理由だけでは、客観的に見て合理的で社会通念上相当な理由にはなりません。そのため、内定取り消しは無効です。つまり、企業側の一方的な理由だけでは内定取り消しはできないということです。」

6-2.内定取り消しに対する解決策の例

内定取り消しに対する解決策として、裁判だけではなく弁護士に交渉してもらうという方法があります。

具体的には以下のような対応策です。

  • 民事訴訟
  • 弁護士による示談交渉

内定取り消しをめぐる民事訴訟では、最低でも10ヶ月程度はかかるでしょう。地方裁判所の第一審で解決できれば良いですが、控訴審を含めるとさらに時間がかかります。弁護士に示談交渉を依頼する場合は、解決金の支払いを求めるか、裁判を起こすことなく内定取り消しを撤回してもらうように交渉することもできます。企業側のスタンスによって異なりますが、弁護士が交渉に入った段階で内定取り消しを撤回する企業もあります。

6-3.内定取り消しに遭った場合の対処方法

内定取り消しに遭った場合の対処法としては、内定辞退届などを書かないことも挙げられます。

内定辞退の意思表示をしてしまえば内定取り消しが合意のもとに行われたとして有効になってしまいます。

基本的に契約行為は合意なしには解消できません。

裁判所は仮に本人が心から同意した契約解消でなくても本人が内定辞退に合意したという書類に本人のサインが書いてあればそれを重視する傾向にあります。

つまり、揉めそうになった企業から何か書類の提出を求められても安易に書面にサインをしないことが重要なのです。

紛争が起こりそうな相手から一筆求められても絶対に何も書かないようにしましょう。

また内定取り消しをされた事実をSNSなどに拡散するのではなく弁護士に相談するように心がけてください。

怒りに任せてSNSに不用意な書き込みをすると、名誉毀損など、相手に利用されて不利になってしまうことがあります。

怒る気持ちを鎮めて冷静になり、弁護士に相談するようにしましょう。

6-4.内定取り消しに対する弁護士の役割

内定取り消しに関する弁護士の役割は、訴訟だけではなく、内定取り消しを行った企業と話し合いを申し込んで内定取り消しを撤回することや、裁判を起こさずに損害賠償を企業に支払ってもらう示談交渉を行うこともできます。弁護士は、企業側と交渉して裁判を回避することもできます。悩んだら、まず弁護士に相談することが重要です。

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7.まとめ

今回は、内定取り消しについて解説しました。

特に注目して欲しい点として、内定取り消しは容易にはできないという点があります。

応募者は内定取り消しにより人生が狂いますし、経営者側は世間からのバッシングを浴びて社会から「とんでもない企業だ」と烙印を押されることにもなりかねません。

また、形式的な内定取り消し事由があったとしても本当に有効となるかどうかはケースによって全く結果が変わります。

内定取り消しが有効かどうかは、事案によって異なりますので、悩んだら法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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