残業代請求
給与計算が1分単位でないのは違法?その対処法を弁護士が解説!
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「うちの会社、残業代を15分単位で計算していて、15分を超えても29分までは切り捨てて15分扱いにしているんですが、これは違法ではないですか?」
「うちの会社は、1日の残業時間が30分未満だとゼロ分扱いで、30分以上は59分まで切り上げて1時間扱いにしています。これは、切り上げもあるから問題ないのでしょうか?」
等、勤務先の会社の給与計算方法に疑問を持ったことはないでしょうか。
本記事では、給与計算が1分単位で行われないことの違法性や、給与計算が1分単位で行われなかった場合の対処法について労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. 給与計算は1分単位で行わないと違法なのか?
給与計算にあたっては、原則として労働時間を1分単位で行わなければ違法です。
ただし、厚生労働省の通達により、時間外労働時間を1か月単位で計算する場合に限って、労働者の不利益にならない範囲での端数処理が認められています。
1-1. 1分単位で行わなければ労働基準法第24条違反
給与計算の根拠となる労働時間は、原則として1分単位で計算しなければなりません。
なぜなら、労働時間を切り捨てることは、労働基準法第24条が定める「賃金全額払いの原則」に違反するからです。
労働基準法第24条は強行規定なので、会社の就業規則に15分単位や30分単位等の切捨てを行うと定められている場合はその記載部分が無効となります。
労働基準法第24条違反に対しては、同法第120条1号により、会社及び代表者が30万円以下の罰金を定めています。また、労働基準監督署が立ち入り調査を行い、是正指導や勧告を行う場合もあります。
1-2. 1か月単位で給与計算する場合は例外が認められる
ただし、通達により、1か月単位で給与計算する場合に、以下の例外が認められています。
(昭和63年3月14日労働基準局長通達・基発第150号)。
①時間外労働・休日労働・深夜労働の労働時間
1か月分の時間外労働等の労働時間に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることが認められています。
すなわち、
- 30分未満→切り捨て
- 30分以上1時間未満→1時間に切り上げ
この端数処理を行うことは給料計算事務を簡便化するとともに、切捨てだけでなく切り上げ処理も行われるので労働者の不利益にならないためです。
なお、労働時間の端数計算で切捨てのみを行うことは、切り捨てられた時間分の賃金が未払いとなるため、労働基準法第37条に違反します。
②1か月の賃金支払額における端数処理
- (a)1か月の賃金支払い額(一部を控除して支払う場合は、控除した残りの額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払うこと
- (b)1か月の賃金支払額に生じた1,000円未満の端数を、翌月の賃金支払日に繰越して支払うこと
ただし、1か月の賃金支払額の端数処理については、就業規則でその旨を定める必要があります。
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2. 遅刻・欠勤・早退時間の端数処理について
遅刻・欠勤・早退が発生した場合の賃金の端数処理については、法律上の規定がないため就業規則の規定に従って行います。就業規則でその旨の定めがない場合は、以下の方法により行うことができます。
2-1. 遅刻・早退の場合
1時間単価を以下のいずれかの方法によって算出した上で、50銭未満は切捨て、50銭以上1円未満は切り上げます。
1時間単価 = (基本給+諸手当) ÷ 下記①②③④のいずれか
- ①月平均所定労働時間 (年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月)
- ②当月の所定労働時間
- ③原則として①によるが、年間の平均所定労働日数を超える月は②による
- ④1年を通して最も所定労働日数の多い月の所定労働時間
【例】基本給+諸手当が30万円・当月の2時間の遅刻、1時間の早退に対して①156時間40分で計算する場合
1時間単価 = 300,000円 ÷ 156.666 = 1,914.8936… 円
控除額 = 1,914.8936… x (2+1) = 5,744.68… ≒5,745円
2-2. 欠勤の場合
欠勤の場合は、1日単価を以下のいずれかの方法によって算出した上で、就業規則の定めた端数処理に従うか、1日単価の端数処理を行います。
1日単価 = (基本給+諸手当) ÷ 下記①②③のいずれか
- ①月平均所定労働日数
- ②当月の所定労働日数
- ③その月の暦日数
【例】基本給+諸手当が30万円・当月の欠勤2日に対して②21日で計算した上で1日単価の50銭未満を切捨て、50銭以上は切り上げる場合
1日単価 = 300,000 ÷ 21 = 14,285.714285… = 14,286円
控除額 = 14,286 ×2 = 28,572円
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3. 割増賃金の端数処理について
本章では、割増賃金の端数処理について、1か月を通算したときの労働時間の端数の扱い及び1時間当たりの賃金の50銭未満・以上の扱いを解説します。
3-1. (1) 1か月を通算したときの労働時間の30分未満・以上の扱い
1か月を通算したときの労働時間の30分・以上の扱いについては、30分未満を切捨て、30分以上を切り上げることは、業務の簡便化を目的としたものであり、労働者の不利になるとはいえないため(切り上げの場合もあるので)、労働基準法第24条・第37条に違反しないとされています。
【例1】1か月の所定労働時間168時間(8時間×21日)・時間外労働時間10時間25分
この場合は、時間外労働時間の端数25分を切り捨てて10時間と計算し、1か月の通算労働時間を178時間とすることが認められます。
【例2】1か月の所定労働時間168時間・時間外労働時間10時間35分
この場合は、時間外労働時間の端数35分を切り上げて11時間と計算し、1か月の通算労働時間を179時間とすることが認められます。
3-2. (2) 1時間あたりの賃金の50銭未満・以上の扱い
1時間あたりの賃金額に1円未満の端数が生じた場合には、50銭(0.5円)未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げることが認められています(1988[S63]年3月14日基発※第150号)。これは、割増賃金額についても同じです。
【例】月給250,000円・1か月の所定労働時間157.5時間 (7.5時間×21日)
時間当たりの基本給の計算:250,000円 ÷ 157.5時間 =1,587.3015… 円
この場合、50銭未満の端数(0.3015…)を切捨て、基本給与額を1,587円とすることができます。
1時間あたりの割増賃金額の計算:1,587 × 1.25 = 1,983.75円
同様に、50銭以上の端数(0.75)を切り上げて、1時間あたりの割増賃金額を1,984円とすることができます。
3-3. (3) 1か月の割増賃金額における50銭未満・以上の扱い
1か月間における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合には、1時間当たりの割増賃金の場合と同様に、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げるものとして端数を処理することができます(上記基発150号)。
割増賃金の計算の途中で端数の切捨て・切り上げを行い、かつ時間外労働時間の端数切捨て・切り上げを行っている場合は1か月の割増賃金に端数は生じません。
一方、例えば時間外労働時間について15分(0.25時間)単位で切り上げを行っているような場合(この扱いは労働者に不利にならないので適法です)には、1か月あたりの割増賃金総額に1円未満の端数が生じる場合があります。
この場合には上記の50銭未満切捨て・50銭以上切り上げによって端数処理をすることが認められます。
【例】月給240,000円・1か月の所定労働時間157.5時間・当月の時間外労働時間10時間15分
1時間あたりの基本給の計算:240,000 円÷ 157.5時間 ≒ 1,524円
1時間あたりの割増賃金額の計算:1,524円 × 1.25 = 1,905円
1か月の割増賃金額の計算:1,905円 × 10.25 = 19,526.25円
この場合、端数0.25円を切捨て、1か月の割増賃金額を19,526円とすることができます。
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4. 1か月の賃金支払い額の端数処理について
本章では、1か月の賃金支払い額の端数処理を解説します。
4-1. (1) 1か月の賃金支払い額における50円未満・以上の扱い
1か月の賃金支払い額に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払うことが認められています。
【例1】当月の賃金支払い額が253,449円の場合
この場合、49円を切捨てて、支払い額を253,400円とすることができます。
【例2】当月の賃金支払い額が253,451円の場合
この場合、51円を100円に切り上げて、支払い額を253,500円とすることができます。
4-2. (2) 1か月の賃金支払い額における1,000円未満の翌月繰越
1か月の賃金支払額に1,000円未満の端数が生じた場合、翌月の賃金支払日に繰越して支払うことが認められます。
【例】当月の賃金支払い額が253,999円の場合
この場合、999円を翌月の賃金支払日に繰越し、翌月の賃金と合算して支払うことができます。
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5. 給与計算を1分単位で計算してもらえないときの対処法
給与計算を1分単位で計算しないことは労働基準法第24条に違反するので、会社に対して切り捨てられた時間分を未払賃金として請求することができます。
本章では、不当に切り捨てられた時間分の未払賃金を請求する方法を解説します。
5-1. (1) 証拠を集めておく
まず、切り捨てられた労働時間があること及び、その時間分に相当する金額を証明できる証拠を集める必要があります。
以下の(1)に挙げた資料をすべて揃えることができれば証拠としては確実ですが、それらが手元に残っていない場合でも、(2)に挙げたような資料をできる限り集めるようにしてください。
(1)確実に証拠となるもの
- ①労働条件がわかる資料:就業規則、労働契約書等
- ②労働時間がわかる資料:タイムカード、勤怠表
- ③業務内容がわかる資料:上司による残業指示書(メール含む)
- ④支払われた賃金の金額がわかる資料:給与明細
(2) (1)に挙げた証拠が残っていない場合
- 業務日誌
- 業務用パソコンのログイン・ログアウトの記録
- 法定労働時間外のメールの送受信記録
- 終電がなくなった等の理由で利用したタクシーの領収書等
5-2. (2) 会社と交渉する
上記の証拠を収集したら、会社の上司または人事部に相談して未払い給与の請求についての話し合いの場を設けてもらいます。
しかし、会社が対応してくれるとは限らず、従業員個人でこれを行うことは実際には容易ではありません。
会社と交渉することが困難な場合、そのまま請求を行わずにいると賃金債権が順次消滅時効にかかってしまいます。
そこで、未払賃金の請求書面を内容証明郵便で送付すれば、民法第153条の「催告」を行ったことになるので、消滅時効の進行を6か月間止めることができます。
ただし、内容証明で請求を行っても会社が応じない場合には、この6か月の間に「裁判上の請求」にあたる労働審判申立てや訴訟提起を行う必要があります。労働審判や訴訟の手続が開始するとその時点で時効の進行が止まります。
5-3. (3) 労働基準監督署に相談する
給料の未払いは労働基準法に違反するので、労働基準監督署に申告することもできます。
労働基準監督署は管轄地域の会社(事業所)が労働基準法違反行為を行っている旨の申告があれば、その会社に対して「申告監督」と呼ばれる立入り調査を行います。
調査の結果違反の事実が判明すれば、違反状態を是正するように(賃金の未払いの事例であれば、当該従業員に対して賃金を支払うように)、指導や勧告を行ってくれる可能性があります。
ただし、労働基準監督署が必ず指導や勧告を行ってくれるとは限りません。また、労働基準監督署は厚生労働省所轄の行政機関であるため、個々の労働者を代理して会社に対する請求を行うことはできません。
5-4. (4) 弁護士に相談する
会社の従業員個人が未払い給与を請求する方法としては、労働問題を専門とする弁護士に相談するのがベストといえます。
相談する時点で証拠収集ができていない場合でも、どのような資料が証拠として役立つかや、その収集方法について教えてもらうことができます。従業員本人では困難な、会社側が保有している証拠の開示請求も依頼することができます。
また、会社との交渉や内容証明による請求、交渉が成立しなかった場合の法的手続をすべて任せることができます。
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6. 給与計算に関するトラブルを弁護士に相談、依頼するメリット
本章では、給与計算に関するトラブルを弁護士に相談、依頼するメリットを解説します。
6-1. 未払い賃金の発生の有無や金額を調べてもらえる
収集可能な証拠をもとに、時効消滅していない未払賃金を算出する作業にはかなりの手間がかかります。
例えば変形労働時間制をとる会社では所定労働時間が日や週によって異なるため、労働時間が長くても残業代が発生しているかを判断するのに時間がかかります。
労働問題を専門とする弁護士に相談すると、経験に基づいて、客観的に未払いの給料や残業代が発生しているか、発生しているとすればいくら請求することができるかを正確に教えてもらうことができます。
6-2. 違法な給与計算により生じた未払い賃金請求のための証拠の集め方を教えてもらえる
未払い賃金の請求にあたっては、雇用契約書や労働条件通知書など自身が保管していれば利用できるもの以外に、業務アカウントによるメールの送受信履歴など、本人が消去してしまっていて会社側だけが保持しているデータもあります。
容易に入手できない証拠についても収集が必要なのか、必要であればどのように入手すればよいかなどは特に労働者個人にとっては判断が難しい問題です。これらについても弁護士に教えてもらうことや、証拠開示請求を代理してもらうことが可能です。
6-3. 会社との交渉を任せることができる
未払いの給料の請求にあたっては会社側と交渉しなければなりません。
しかし、従業員個人が交渉しようとすると取り合ってくれない可能性があります。また、会社側が顧問弁護士を立ててくることもあります。
弁護士に依頼していれば会社側の対応に関係なく、未払い賃金請求に向けての交渉を対等に行うことができます。
6-4. 交渉不成立の場合の労働審判や民事訴訟等の法的手続を任せることができる
未払いの給料や残業代の請求にあたり、証拠収集・交渉とともに労働者が単独で行うことが困難なのが、裁判所が関わる手続です。
労働審判については、手続が比較的単純で短期間で終結させることができます。しかし、やはり申立てから審理まで全て一人でやることは容易ではありません。
さらに訴訟提起するとなると、期日に全て出席して証拠調べ手続や口頭弁論での陳述も求められます。
そのため少額訴訟や簡易裁判所への訴訟提起であっても一人でやることには大きな負担が伴います。
この点、弁護士に依頼していれば労働審判・民事訴訟ともすべて任せることができます。
未払い賃金・残業代請求手続代理・代行には費用がかかりますが、弁護士に依頼することで確実に支払いを受けることができます。最近では、着手金の支払いを必要としない成功報酬制をとっている法律事務所もあります。
また、多くの法律事務所では初回相談や初回相談の一定時間(30分~60分程度)を無料としています。
この無料相談を利用して、弁護士費用の支払いについて相談することができます。また、問題点を的確に整理することで費用を抑えることが可能です。
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7. 給与計算に関するよくあるQ&A
本章では、給与計算に関して頂くことの多い質問と、それに対する回答をご紹介します。
7-1. バイトの給料は1分単位で計算するのですか?
労働時間は、1分単位で計算するのが原則です。労働時間を切り捨てることは、労働基準法第24条の「賃金全額払いの原則」に反するからです。
通達により認められた例外として、1か月単位で給与や割増賃金を計算する場合に30分未満切り捨て・30分以上切り上げを行うことがあります。
これは、経理事務を簡便化する目的で、かつ切捨てだけではなく切り上げもあるため労働者の不利益にならないからです。
アルバイトの給料については、1か月単位で計算する場合には30分未満切捨て・30分以上切り上げが認められますが、イベントスタッフ・試験監督等の単発バイトや期間が1か月未満の短期間バイトは、1か月単位で計算することができません。
従ってこれらの場合は、1分単位で計算しなければ違法となります。
7-2. 1か月単位で残業代を計算している場合、ある日の30分未満の残業時間はゼロになりますか?
ある労働日に行った30分未満の残業時間をゼロとして扱うことは、労働基準法第24条に違反します。
労働時間は原則として1分単位で計算しなければならず、残業手当(割増賃金)についても同様です。
ただし、通達によって1か月単位の時間外労働等の労働時間の計算を行う場合は、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることが認められています。
しかし、これは日々の残業時間については1分単位で計算することを前提としており、1分単位の計算による残業時間を集計した1か月分の残業時間に端数がある場合に端数処理を認めているものです。
従って、毎日(1日1日)の残業時間の30分未満を切り捨てることは労働基準法第24条に反し違法です。
これにより、ある日の30分未満の残業時間については、1分単位で計算することになります。たとえば24分であれば、24分残業したものとして計算します。
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8. まとめ
所定内給与が1分単位で計算されていなかったり、1か月単位で計算する残業時間の30分以上が切り上げでなく切捨てが行われていたような場合は労働基準法違反となるので、会社に対して未払い分の賃金を請求することができます。
しかし、労働者が個人で会社と交渉したり労働審判や裁判で請求することは困難なので、確実に支払いを受けるために弁護士に相談することをお勧めします。
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担当者
![福永 臣吾](https://www.legalsmart.jp/wp-content/uploads/2023/11/スクリーンショット-2023-11-28-11.03.42-150x150.jpg)
- 法律事務所リーガルスマート弁護士
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■経歴
2005年3月 慶應義塾大学経済学部 卒業
2011年3月 一橋大学法科大学院 修了
2014年12月 最高裁判所 司法研修所(鹿児島地方裁判所配属) 修了
2015年1月 弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
2015年4月 弁護士法人アディーレ法律事務所鹿児島支店支店長 就任
2023年9月 法律事務所リーガルスマート入所
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