法人(会社)破産
法人の破産手続廃止とは?種類や手続きの流れを弁護士が解説!
一般的に、破産手続きは破産者の財産を処分して債権者に配当することで終了します。しかし、一定の事由に該当した場合には、財産の処分をせずに、破産手続きを終えることがあります。これを「破産手続廃止」と呼びます。
本記事では、法人破産の場合に着目して、破産手続廃止の種類や手続きの流れ、費用相場などを破産に強い弁護士が解説します。法人破産を検討している経営者の方はぜひ参考にしてみてください。
目次
1.破産手続廃止とは
破産手続廃止とは、破産を申し立てた個人・法人が財産を保有していない場合に、財産の処分を経ることなく、破産手続を終わらせることです。
通常、破産手続きが開始されると、破産を申し立てた個人・法人の財産は処分の対象になります。裁判所によって選任された破産管財人が財産の調査や管理を担い、申立人の財産を売却するなどしてお金に換えて、債権者に分配します。
しかし、特定の条件下では、こうした財産の処分と分配をせずに破産手続きを終了させることがあります。これを「破産手続廃止」と呼びます。
一般的には、申立人の保有する財産が処分の対象となる基準に達しない場合に、破産手続廃止となります。このほか、すべての債権者が財産を処分しないことについて同意した場合にも、破産手続廃止の決定がなされます。
ここでは、よく混同されがちな破産手続きの「廃止と終結」「取り消しと失効」について、条件や違いを解説します。
1-1.「廃止」と「終結」の違い
破産手続きの終了には、大きく分けて「廃止」と「終結」の2パターンがありますが、両者は大きく異なります。
破産手続廃止 | 債権者に配当できずに終了すること |
破産手続終結 | 債権者に配当して終了すること |
廃止と終結の大きな違いは、破産手続きの目的を達成できたかどうかです。破産手続きの目的とは、債務者の財産を処分して得た利益を債権者に配分し、将来にわたって債務の負担をなくすことにあります。
この一連の流れを実施できれば、破産手続きは終結します。一方、換価処分できる財産がないなど、債権者への配分が難しい場合には、裁判所は破産手続「廃止」の決定をします。
このように「廃止」と「終結」はどちらも破産手続きを終わらせる意味を持ちますが、その理由とタイミングに大きな違いがあります。
1-2.「取り消し」や「失効」など
稀ではありますが、破産手続きは「取り消し」や「失効」によって終了することも考えられます。
破産手続きの取り消し | 破産手続開始の決定が効力を失うことによる |
破産手続きの失効 | そのほかの手続きが開始されることによる |
裁判所が破産手続開始決定をすると、基本的には最後まで破産手続きを実施していくことになりますが、一定の場合に途中で終了することがあります。取り消しと失効の大きな違いは、この終了原因にあります。
破産手続きの取り消しとは、裁判所が破産手続開始決定を取り消すことによって、そもそも決定自体がなされなかった状態に戻ることを指します。債権者が裁判所の決定に異議を申し立てた場合などに実施されます。
他方、破産手続きの失効とは、破産手続きの申立人が二重にほかの手続きを開始した場合に、裁判所が下した破産手続開始決定の効力が失われることを指します。
2.破産手続廃止の種類
破産手続廃止は、廃止となった理由や廃止が決定されるタイミングによって、「同時廃止」、「異時廃止」、「同意廃止」の3種類に分けられます。
廃止の理由 | タイミング | 種類名 |
---|---|---|
処分できる財産がない | 破産手続開始決定と同時 | 同時廃止 |
破産手続開始決定の後 | 異時廃止 | |
財産を処分しないことについて債権者が同意している | ー | 同意廃止 |
以下、詳しく解説します。
2-1.同時廃止
同時廃止とは、裁判所が破産手続開始の決定をすると同時に、破産手続廃止となることを指します。同時廃止となるには、次の2つの条件を満たす必要があります。
破産申立て時点において、
- 処分できる財産がないことが明らか
- 免責不許可事由に当てはまらない
の両方を満たすこと。
申立人は申立て時に会社の財産状況をまとめた書類を提出します。裁判所は必要に応じて申立人への面談を実施した上で、処分できる財産がないことを確認します。加えて、免責不許可事由(虚偽の内容や不当な行為)がないかどうかを調べ、総合的に同時廃止の可否を判断します。
同時廃止では財産の処分の必要がないため、破産管財人の選任はありません。裁判所に予納する金額を抑えられるほか、破産手続きにかかる時間を大幅に短縮できます。
ただし、同時廃止は法人や個人事業主には適用されないことがほとんどです。事業を停止したとしても、通常は一定の資産を有しています。実際に処分できる財産がない場合でも、その前後の資金の流れを精査する必要があり、自己申告を鵜呑みにしてしまうのは妥当ではありません。したがって、法人や個人事業主の破産手続きは管財事件に該当します。
2-2.異時廃止
異時廃止とは、破産手続開始の決定後に、破産手続廃止となることを指します。同時廃止とはならず、異時廃止となるケースには次のような場合があります。
破産申立て時点において、
- 処分できる財産がないことが明らかではない
- 免責不許可事由に当てはまる可能性がある
- 申立人が法人、または、個人事業主
のいずれかに該当するケース。
上記に該当すると、裁判所は一度破産手続開始の決定を下し、破産管財人を選定します。この場合、破産管財人による財産の調査・管理が実施されるため、「管財事件」として扱われます。同時廃止と比較すると、費用や手間がかさんでしまいますが、公平性を担保するために必要な手続きです。
破産管財人の調査により、「処分できる財産がない」「破産手続費用を負担できるほどの財産がない」ことがわかった場合には、裁判所は破産手続廃止の決定(異時廃止)をします。
なお、「破産手続費用を負担できるほどの財産がない」場合でも、債権者がその費用を負担すれば、異時廃止とならずに手続きを続行することがあります。
2-3.同意廃止
同意廃止とは、財産を処分しないことについて債権者が同意している場合に、破産手続廃止の決定がされることを指します。同意廃止となるには、次の条件を満たす必要があります。
- 債権届の提出期間に債権者全員が廃止に同意する
- 同意をしない債権者に対し、相当の担保を提供する
のいずれかを満たすこと。
上記の条件を満たしていれば、裁判所は破産者の申立てによって同意廃止を決定します。同意廃止をすると、債権者は財産の処分による配分を得ることができなくなります。
債権者にとって不利益のある手続きのため、債権者が家族や知人に限られる場合を除いて、全員の同意を得ることはほぼ不可能です。
3.破産手続廃止の手続きの流れ
結果的に破産手続廃止となる場合でも、どのタイミングで廃止が決定されるかは事案によって異なります。ここでは、一般的な破産手続きの流れに沿って、破産手続きが廃止されるタイミングを解説します。
3-1.申立ての準備
破産手続きは、手続きを希望する個人または法人が、裁判所に申し立てることによって開始します。申立てには、住民票や資産証明書などの書類を揃える必要があります。
特に、法人破産の場合、あらかじめ準備が必要なものが多岐に渡ります。まず、会社の事業を停止し、従業員に対して給料を支払います。その後、会社の財産を保全し、申立てに必要な書類を集めていくことになります。
こうした手続きは段階を踏んで実施する必要があり、煩雑になってしまいがちです。このため、通常は弁護士に依頼して準備を進めていきます。
3-2.裁判所への申立て
準備が整ったら、必要な書類と費用を添えて裁判所に申立てを行います。このとき、申立人は債権者に対し、破産手続きを申立てたことを通知します。
申立てを実施したら、債権者への支払いをしてはいけません。破産手続きはすべての債権者に公平な分配をする目的を持っているため、一部の債権者への支払いは免責不許可事由と見なされてしまうおそれがあります。
3-3.破産審問
破産申立てが受理されたあと、事案によっては破産審問期日が設定されることがあります。通常、申立てから1カ月をめどに呼び出されることが多いようです。同時廃止の場合でも、一度は裁判所への出頭を求められます。
破産審問期日では、裁判官が申立人から事情を聴取します。いわゆる面談のようなイメージで、時間はおよそ10〜20分です。裁判所は申立人の意見を聞き、債務状況や破産手続きの必要性を個別に判断することになります。
あらかじめ弁護士に依頼しておくと、弁護士を代理として立てたり、事前に回答の練習をしたりできます。
3-4.破産手続開始決定
裁判所は申立て内容や破産審問の結果を踏まえて、破産手続きを開始するかどうかを決定します。申立人に支払い能力がないことを認められれば、破産手続開始決定がされ、具体的な破産手続きに進むことになります。
なお、この時点で申立人が処分できる財産を持っていないことが明らかな場合、同時廃止となります。
3-5.破産管財人の選任・財産調査
破産手続開始の決定がされれば、裁判所は破産管財人を選任します。破産管財人は、債務者の財産を調査・管理する役割を担当します。
処分の対象となる財産があれば、任意売却などによってお金に換えます。換価処分で得た利益は、破産管財人が公正かつ適切に債権者に配分します。なお、破産管財人の調査によって、申立人に処分可能な財産がないことが判明するケースもあります。
3-6.債権者の意見申述
破産手続開始決定から約2カ月間は債権者が意見申述を行う期間です。裁判所では定期的に債権者を集め、破産管財人による財産調査の報告がなされます。
破産管財人の調査の結果、処分する財産がない場合には裁判所は破産手続廃止(異時廃止)の決定をします。ただし、処分する財産はあるものの、破産手続きの費用を賄えないような場合には、債権者が費用を肩代わりすることで、異時廃止を阻止できます。
また、債権者全員が破産者の財産を処分しないことに同意すれば、裁判所は破産手続廃止(同意廃止)の決定を下します。
なお、すでに債権者への配当が終了していた場合、裁判所は破産手続終結の決定をします。
3-7.裁判所の免責許可決定
債権者の意見申述期間が終了したのち、裁判所は債務者の免責許可を判断します。破産手続廃止(終結)決定をしただけでは、破産者は債務の支払い責任はなくなりません。債務から解放されるためには、裁判所から免責許可決定を受ける必要があります。
裁判所が免責許可決定を下し、官報掲載から2週間以内に債権者から異議申立てがなければ、免責許可決定が確定します。これにより、破産者の支払い責任はなくなります。
4.破産手続廃止にかかる費用
では、破産手続廃止までにはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。費用相場は弁護士に依頼するかどうかで大きく異なります。
ここでは、裁判所費用と弁護士費用に分けて、それぞれの費用相場を解説します。
4-1.裁判所費用
裁判所に納める費用は次の通りです。ここでは東京地裁で同時廃止をする場合を例にとってまとめました。
申立手数料 | 1,500円(法人破産) |
破産予納金 | 11,859円 |
予納郵券 | 4,200円程度(債権者数に応じて変動) |
参照元:裁判所「破産(同時廃止)
このほか、裁判所に提出する書類を集める費用がかかることがあります。一般的にはおおむね2万円に納まるでしょう。
上記の費用相場は一例です。裁判所によって変動するため、あらかじめ破産手続きを実施する裁判所で確認するようにしましょう。
4-2.弁護士費用
弁護士に依頼する際には、裁判所に支払う費用のほかに弁護士費用がかかります。弁護士費用は個別の事情によって異なりますが、法人破産の場合は50万〜60万円が相場です。
相談料 | 0円(初回相談60分まで) |
基本費用 | 495,000円 |
事務手数料 | 55,000円 |
管財費用 | 200,000円〜(管財事件のみ) |
5.法人破産で悩んだ際に弁護士に相談するメリット
法人破産は手続きが煩雑で、法的な知識が不可欠なため、単独で手続きを進めるのは事実上困難です。そのため、一般的には弁護士に依頼して手続きをすることになります。
法人破産で悩んだ際、弁護士に相談する主なメリットとしては次の3つが挙げられます。
- 最適な債務整理の方法を選択できる
- 少額管財や即日面接を利用できる
- 債務者の負担を軽減できる
5-1.最適な債務整理の方法を選択できる
法人破産をすることで、会社の負債からは解放されますが、従業員や債権者に大きな影響を与えることになります。また、再び事業を始める際には、ゼロからスタートする必要があります。
資金繰りに悩んだ場合、個別の事情によってはほかの債務整理を選択できる可能性があります。事業を続けながら返済の負担を減らす手段も存在するため、まずは債務整理に詳しい弁護士に相談しましょう。
5-2.少額管財や即日面接を利用できる
東京地方裁判所に申し立てる場合、弁護士を代理人として立てていれば、少額管財や即日面接を利用できます。
少額管財 | ・破産管財人の負担を軽減するために簡素化された手続き ・通常の管財事件に比べ、予納金を抑えられる |
即日面接 | ・申立てと同時に破産手続開始決定を下すための面接 ・緊急性が高い事案などで会社の財産を守ることができる |
こうした手続きを利用することで、破産手続きにかかる時間や手間を大幅に軽減できます。東京地方裁判所に申し立てる際は、特に弁護士に依頼するメリットが大きいと言えるでしょう。
5-3.債務者の負担を軽減できる
弁護士に依頼することで、債務者の精神的な負担を軽減できます。
法人破産の手続きについては、破産法で明確に規定されています。その運用には法的な知識が不可欠であり、裁判所や破産管財人とのやり取りにも慎重な対応が求められます。知らずに不利な立場になってしまわないよう、事前に弁護士と相談しながら進めていくと安心です。
また、多額の負債を抱え、債権者が多くなればなるほど、債務者は債権者からの取り立てやその管理に悩まされることになります。弁護士に依頼した場合、債権者とのやり取りは弁護士を通して行うため、債権者から直接取り立てを受けることがなくなります。
6.破産手続廃止に関するよくあるQ&A
ここでは、破産手続廃止についてよく寄せられる質問をご紹介します。
6-1.破産手続廃止によって会社はなくなる?
裁判所が破産手続廃止の決定を出すと、原則として会社は消滅します。ただし、破産手続廃止の決定と同時に消滅するわけではなく、官報公告と破産終結決定の登記をもって法人格の消滅が確定します。この時点で残った債務もすべて消滅します。
6-2.破産手続廃止で税金の支払いはどうなる?
破産手続廃止では、会社の存在自体がなくなります。法人税や社会保険料を滞納していたとしても、すでに支払い義務を負っている主体がなくなっているため、支払い義務も消滅します。経営者個人が支払いを求められることはありません。
とはいえ、経営者個人が債務の保証人となっている場合には話が変わります。保証人は債務を返済する義務を負っているため、経営者個人が返済できないほどの債務を抱えてしまった場合には、別途自己破産を検討する必要があるでしょう。
6-3.破産手続廃止にかかる期間は?
破産手続廃止までにかかる期間は、破産手続廃止の種類によって異なります。
- 同時廃止:申立てから1〜2カ月
- 異時廃止:申立てから半年程度(事案によって変動)
- 同意廃止:申立てから半年程度(事案によって変動)
同時廃止では、破産手続開始決定と同時に廃止が決まるため、比較的短期間で破産手続廃止の決定が出されます。破産手続きにかかる費用や時間を大幅に減らせるため、債務者にとっても裁判所にとってもメリットが大きいと言えます。
なお、破産手続廃止の決定が出されても、すぐに破産手続きが終わるわけではありません。裁判所による免責の判断を待ち、免責許可決定に債権者の異論がなければ、破産手続きが終了となります。破産手続廃止決定から免責許可決定の確定までには、さらに3カ月ほどかかることが多いようです。
7.まとめ
破産手続きにおいて、換価処分の対象となる財産がない場合や債権者の同意を得られた場合などには、破産手続廃止の決定がされることがあります。特に同時廃止では、破産手続開始の決定と同時に廃止となるため、その後の手続き負担を軽減できます。
ただし、たとえ破産手続廃止になるとしても、ステークホルダーが多くなりがちな法人破産では、手続きが煩雑になることが考えられます。可能であれば、法人破産を選択せず、事業を継続しながら債務を減らす方法を探りたいと考える経営者の方も多いでしょう。
会社の経営に悩んだら、まずは弁護士に相談することをおすすめします。個別の事情に合わせた債務整理の方法を教えてもらえるほか、法人破産における債権者との交渉や裁判上の手続きの負担を軽減できます。
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担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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