不当解雇

給料差し押さえで会社をクビ?違法性や対処法を弁護士が解説!

給料差し押さえで会社をクビ?違法性や対処法を弁護士が解説!
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何らかのトラブルなどを原因として、会社からの給料を第三者に差し押さえられるケースもあります。このような状況の場合、会社側はその従業員の素行に問題があるとして、会社を解雇するケースがあります。

たしかに給料を差し押さえられるほどのトラブルを起こしているとなると問題があるようにも思えますが、この解雇自体には違法性はないのでしょうか。

そこで本記事は、給料を差し押さえられたことを原因として会社に解雇されることの違法性について労働問題に強い弁護士が解説します。

1.給料を差し押さえられるとクビになるのか

「給料を差し押さえられる=それほどの行為をしてしまった」ということになるので、会社側としても問題行動をとるような従業員を雇用し続けることは相応のリスクを抱えることになるでしょう。

ですが基本的に、給料を差し押さえられたことのみを理由として従業員を解雇することは認められません。解雇された場合には、違法性の有無や不当解雇による争いの原因になる可能性があります。

1-1.差し押さえは解雇の合理性を持たない

日本の法律では、労働基準法などによって従業員の立場がしっかりと守られており、日本の会社は自社の従業員をそう簡単には解雇することはできません。

合理性と社会通念上認められる理由があると判断される場合にのみ、会社は従業員を解雇することができます。

会社が従業員を解雇する際には、大きく分けて3種類の解雇を決定することになります。

  • 普通解雇:能力不足や病気などを原因とする解雇
  • 整理解雇:会社の経営不振などを理由とした従業員の整理
  • 懲戒解雇;不正行為や犯罪行為を行った従業員に対する懲戒的な意味を持つ解雇

給料を差し押さえられるほどの行動をとった場合であれば、あるいは「懲戒解雇」の事由として認められる可能性も否定はできません。

しかし、「会社からの給料を第三者に差し押さえられた」ことだけを理由として、従業員を解雇することは上記のいずれの事由にも該当しません。

そのため、給料の差し押さえが発覚したことだけを理由として従業員を解雇した場合は、不当解雇であるとして裁判により解雇の撤回を要求したり、損害賠償請求などが認められる可能性があります。

1-2.会社からの評価が下がることは避けられない

ただし、給料を差し押さえられることによって、会社からの評価が下がってしまうことは避けられないでしょう。

そもそも「給料を差し押さえられる」ということは、そうなる何らかの理由・トラブルが発生しているからです。

たとえば、借金の返済が滞って債権者から訴えられたり、事故や犯罪行為に対する損害賠償請求を無視して訴えられているなど、あまり褒められた行為とは言えない行動をとっている可能性が高いです。

会社からは給料をもらっているわけですから、給料から毎月の返済などきちんと債権者に対応をしておけば支払いが滞ることはないはずです。そのため「給料の管理もできないほどお金にルーズである」という評価を受けてしまうことは避けられません。

また、経理担当など従業員への給料の支払いに関わる部署の事務手続きが増えることも、会社からの評価が下がる可能性があります。

差し押さえされた給料については、必要金額を債権者に支払い、残りを従業員に支払うという手続きの流れになるので、通常の給料支払いよりも事務手続きが増えてしまいます。

そのため、上司や経営陣、経理担当からの評価は大きく下がってしまうので、昇進にも小さくない影響を受けることになるでしょう。

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2.そもそも「給料の差し押さえ」とは

「給料の差し押さえ」とは、差し押さえされた従業員の勤務先に対して、当該従業員に給料が支払われる前の段階で勤務先から債権者に対して一定の金額を支払うように裁判所が命令を下す手続きとなります。

通常、債務者は給料が支払われて、その一部について一定額を債権者の銀行口座に振り込むなどして返済を行うというのが基本的な流れになるでしょう。

しかし、差し押さえが認められるほどに返済が滞っている場合は、債務者の善意に期待して返済を継続してもらうことができなくなります。

債権者にも自身の生活や会社の利益などがかかっていますので、返済が滞っている状況について泣き寝入りすることはできません。

そこで、裁判所に訴えを起こして、差し押さえを認めてもらう必要があります。

ただし、このとき債権者に対して給料差し押さえの全権が認められているわけではなく、裁判所から「債権差押命令正本」という書類が、債務者の勤務する会社に送付される流れになるのです。

この書類が送付された会社は、当該従業員の給料から一定額を債権者に対して支払いを行い、残りの給料を債務者に対して支払うという流れになります。なお、「一定額」というのは、民事執行法で定められています。一般的には給与の手取り額の1/4を上限として差押えできるとされています。

これにより、給料を支払われた後の債務者が給料を使い込んでしまったり、特定の債務者にだけ集中的に返済を行うといった行動を回避することができ、差し押さえを申告した債権者の経済的な権利を保護することになるのです。

なお、差し押さえることのできる給料には「ボーナス」や「退職金」も含まれています。

給料の差し押さえは債権者の自由裁量に委ねられているわけではなく、税金や社会保険料などの支払いを除いた、いわゆる手取り金額の4分の1までと決まっているので、債務者はよほどのことがない限り、給料が少なくなることで生活が困窮する心配はありません。

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3.給料の差し押さえは当然会社にバレる

上記のような理由があるので、従業員としては自身が勤務する会社の人に対して「給料が差し押さえられたことを知られたくない」と思うでしょう。

こうした感情はクレジットカードの返済や消費者金融からの借金についても同様で、「家族など親しい人には知られたくない」と考えるのが当然の感情であると思います。

しかし、残念ながら給料の差し押さえが実行されれば、それは会社の人に確実に知られてしまうことになります。

前述のとおり、給料の差し押さえについては、債務者本人や給料振り込み口座の金融機関に連絡が届くのではなく、債務者が勤務している会社に裁判所からの通知が届くことになります。

そうなると、従業員の給料に関わる部署に勤めている担当者には、確実に差し押さえの事実がバレることになるのです。

実際にご自身の上司や周囲の同僚にバレるかどうかは別ではありますが、どこから情報が洩れるかはわかりませんので、差し押さえが何か月も続けばいずれは周囲の従業員にも差し押さえの事実がバレることになるでしょう。

前述のとおり、「給料を差し押さえられる」ということは人格的に問題がある人間であると評価されるリスクがありますので、周囲との人間関係が悪化する危険性がありますし、昇進にも悪影響を及ぼす可能性もあります。

このことについては、裁判所に「職場には知られたくない」と懇願しても、手続きの関係上どうしても受け入れてもらえることではないので、債権者から裁判所に訴えられる前に返済状況を改善して、差し押さえが実行されることを避けることが重要です。

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4.給料の差し押さえを理由にクビにされた場合の対処法

前述のとおり、「給料を差し押さえられたこと」自体を理由として従業員を解雇することは、違法性が問題視される可能性があります。

では、自身が会社から給料差し押さえを理由として会社を解雇された場合には、どういった対処を実施するのが良いのでしょうか。

4-1.会社に「解雇理由証明書」を請求する

給料の差し押さえが原因で会社を解雇された場合は、最初に「解雇理由証明書」の請求を行いましょう。

解雇理由証明書とは、会社を解雇された理由やその根拠を具体的に書面で記載したものです。解雇理由証明書は、労働者から請求があったら会社は必ず発行しなければならないと労働基準法で定められています。

解雇理由証明書を請求することによって会社をクビにされた理由がわかり、場合によっては給料の差し押さえ以外にクビの原因があったと判明する可能性もあるでしょう。

解雇理由証明書の請求方法は特に法律等で決められてはいませんが、下記の流れで行うことが一般的です。

  • 1.会社に口頭で請求する
  • 2.会社が応じてくれない場合は書面にて請求する
  • 3.送付された解雇理由証明書の内容が不明確な場合は具体的な記載を会社に求める

書面にて解雇理由証明書を請求する場合は、その証拠が残るように「内容証明郵便」にて会社に請求しましょう。

なお、解雇理由証明書の請求は退職後でも請求できますが、2年間の消滅時効がある点に注意してください。

解雇理由証明書は今後の手続きにおいて有力な証拠となるので、忘れずに請求しましょう。

4-2.会社に解雇の撤回を交渉する

会社に解雇理由証明書を請求した結果、解雇の原因が給料の差し押さえのみであれば、解雇の撤回を要求しましょう。

すでに解説しているとおり、給料の差し押さえだけでは解雇する正当な理由に該当しないからです。

不当解雇の撤回によって会社に復職することもできますが、すでに周囲との人間関係に不安がある場合は「解決金」を会社からもらって退職するという選択肢もあります。

いずれの手段が最適であるかはケースバイケースですが、必ずしも従業員側が期待する交渉結果に落ち着くわけではないので、その場合は後述する「訴訟」という手段に移行することになります。

4-3.不当解雇について訴訟を起こす

従業員側に正当性がある場合であっても、交渉によって会社側が必ずしも従業員側の要求に応じるとは限りません。

しかし、解雇理由証明書などの証拠が十分にそろっているのであれば、労働審判のような訴訟手続きをとるという手段に移行するという選択肢もあります。

労働審判では労使問題に関する裁判手続きをすることができ、一般的な訴訟手続きよりも短期間で労使問題を解決に導くことができます。

裁判所からの命令があれば、会社側は応じないわけにはいきませんので、不当解雇の撤回や解決金の支払いなど、何らかの形でこの問題を解決することができるでしょう。

4-4.不安な場合は弁護士に相談する

ここまでの流れは、個人で進めることも不可能ではありませんが、負担などの観点から考えると弁護士に依頼して手続きを進めることをおすすめします。

まず、最終的に訴訟に発展することを考慮すると、証拠集めが重要です。

しかし、労使問題の裁判手続きに詳しくない方だと、不当解雇の撤回を要求するために必要な証拠として、どのような書類が必要になるのかわからないケースも多いでしょう。

また、会社と交渉する際には、一従業員の訴えに対して会社側が態度を軟化させる可能性はそこまで高くありません。

加えて訴訟手続きには面倒な手続きも多いため、ただでさえ不当解雇問題の解決で忙しく、心身に負担がかかっている状態では満足に行動できない可能性もあるでしょう。

そこで、法律と交渉の専門家である弁護士の助力が役に立つのです。

弁護士に相談することで会社との交渉や訴訟において必要な証拠や書類で何が必要なのかをアドバイスしてもらうことができ、スムーズに必要な証拠等を集めることができます。

また、会社との交渉や訴訟手続きを代行してもらうことができるので、心身への負担をかけることなく不当解雇問題の解決に臨むことができるでしょう。

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5.給料の差し押さえをされるよくある理由

通常、真っ当な生活をしていれば給料を差し押さえられるということは極めて珍しいことです。

しかし、金銭面で問題を抱えている場合であれば、会社からの給料を差し押さえられてしまうことは十分に考えられます。

どういった状況により給料を差し押さえられるかはケースバイケースではありますが、たとえば以下のような理由で給料を差し押さえられることが多いです

  • 借金返済の滞納
  • 養育費支払いの滞納
  • 税金の滞納

一般的に、滞納している支払いの債権者からは、最初に「支払いの督促」が来ます。

これに応じずに債務の支払いが滞ってしまうと、今度は「残債の一括返済の請求」が来ることになるでしょう。

1か月分の支払いすら滞るほどなので、残債の一括返済を請求されたとしても応じることができないケースが多いのではないでしょうか。

そして数か月経過すると、最終的に債権者は裁判所に訴えを起こし、債務者のもとには裁判所から訴状や支払督促などの通知が届くことになります。

滞納からどれくらいで差し押さえの訴えが起こされるかは債権者次第ではありますが、一般的に滞納から2~3か月すると差し押さえを訴えられる可能性が高まるでしょう。

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6.給料の差し押さえを回避・解除する方法

給料を差し押さえられることになれば、手元に入る給料の一部が債権者の手に渡り、職場の人からの評価にも少なからず影響します。

しかし、差し押さえの原因となる借金等の原因が解決しない限り、給料の差し押さえを防ぐことは難しいでしょう。

では、給料の差し押さえを回避したり解除する方法には、どのような方法があるのでしょうか。

6-1.債権者と交渉する

まずは、給料差し押さえの原因となる債権者と交渉してみましょう。

たとえば、税金の滞納であれば、お住まいの役所の担当者と交渉することにより、差し押さえまでの猶予を得られる可能性があります。

また、消費者金融などの個人的な借金などの滞納であれば、交渉することで月々の支払いの負担を軽減できる任意整理という方法もあります。

いずれにしても、あくまでも「交渉」ですから成功するかどうかはケースバイケースです。

交渉内容次第では失敗に終わる可能性もありますので、あくまでも負担の少ない方法として考えておきましょう。

6-2.残債を一括返済する

給料の差し押さえが借金等の延滞によるものである以上は、その原因となっている借金をなくしてしまうのが最も手っ取り早い方法です。

つまり、「残っている借金を一括で返済することで借金をなくしてしまう」というのが、現実味があるかどうかは別ですが合理的な手段となります。

とはいえ、滞納するほどに経済的に問題を抱えているという状況ですから、残債を一括で返済することは決して簡単なことではないでしょう。

ですが、親族や友人から借金してお金を集めることができれば、給料差し押さえのリスクのある借金をなくすことは不可能ではないでしょう。

ただし、一般的に「借金をする」ということはあまり良いイメージを持たれないので、親戚や友人との関係が悪化する可能性があることは念頭に置いておきましょう。

また、結局のところは「借り換え」であるため、借金の負担が軽減されるわけではないということも覚えておく必要があります。

6-3.債務整理を検討する

最後の手段ではありますが、すでに差し押さえが実行されている状況を解除するためには、「個人再生」や「自己破産」といった裁判所を通して債務整理を検討することも必要になるかもしれません。

債務整理には前述の「任意整理」もありますが、すでに差し押さえが実行されている状況では任意整理で差し押さえを解除することは難しいです。

個人再生や自己破産の手続きを進めることによって、差し押さえされている状態を解除することができます。

ただし、個人再生や自己破産にはデメリットもあり、必ずしも借金の負担を軽減できるわけではありません。あくまでも最後の手段として考えて、それ以外の方法で問題を解決できるに越したことはありません。

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7.給料の差し押さえや不当解雇を弁護士に相談、依頼するメリット

給料の差し押さえ問題を解決したり、差し押さえが原因で会社を解雇された場合には、弁護士に相談して問題の解決に向かうことをおすすめします。

たとえば自己破産する場合、借金の負担をなくすためには裁判所から「免責」を受ける必要があります。

また、不当解雇について会社と争うにあたっても、個人の力だけでは争いに勝つことができない可能性が高いです。

こうした訴訟手続きや会社との交渉について、法律と交渉、裁判手続きのプロである弁護士の助力があれば、手続きを有利に進められる可能性があります。

また、必要な手続き等を弁護士に代行してもらうことができるので、時間と手間をかけることなく差し押さえ問題や不当解雇問題を解決に導いてもらうことができるでしょう。

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8.給料の差し押さえに関するよくあるQ&A

最後に、給料の差し押さえやそれを原因とした解雇について、よくある質問をまとめてみました。

8-1.給料を差し押さえられたことは解雇の正当な理由になる?

正当な理由にはなりません。

「給料を差し押さえられた」こと自体が解雇の正当な事由にはならないので、その場合は不当解雇について会社と争う正当性があります。

ただし、給料を差し押さえられる原因となった事象について、それが重度の不正や犯罪行為、会社に損害を与えるような行為であった場合には、それらを理由として解雇事由としての正当性が認められる可能性があります。

8-2.解雇理由証明書は何の役に立ちますか?

「解雇理由証明書」には、文字通りその従業員が何を理由にして会社から解雇されたのか、その内容が記載されています。

そこに、給料の差し押さえだけが原因として記載されていれば、不当解雇について争うための有力な証拠として活用できます。

8-3.給料の差し押さえを停止させることはできますか?

「個人再生」や「自己破産」の手続きをすることで、差し押さえを解除することは可能です。

ただし、個人再生や自己破産にはデメリットも少なくありませんので、弁護士と相談して慎重に検討することをおすすめします。

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9.まとめ

給料を差し押さえられたことだけを原因として、会社から解雇されることは違法性があり不当解雇として認められる可能性が高いです。

そのことについて会社と交渉または訴訟で争うことになる場合は、弁護士を味方につけて手続きを有利に進めることをおすすめします。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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