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事故で警察呼ばなかったらどうなる?後日の連絡方法を弁護士が解説
「軽い接触事故で、相手方とはその場で修理代と治療費について話し合ったし、ことを荒立てたくないから警察は呼ばなくていいと思った」
このようなケースは少なくありません。しかし、事故の程度を問わず、交通事故の際には警察を呼ぶことが道路交通法上義務付けられています。
警察を呼ばなかった場合、法律的なペナルティを含めてさまざまな不利益を受けることになります。
それでは、後日警察に報告の形で連絡することはできるでしょうか?
本記事では、交通事故で事故直後に警察を呼ばなかった場合の後日連絡方法や期限について、警察を呼ぶべき理由、警察を呼ばなかった場合のリスクなどとあわせて交通事故に強い弁護士が解説します。
目次
1. 交通事故で警察を呼ばなかったらどうなるのか
交通事故の際に、警察を呼ばなかった場合はどのようなリスクがあるでしょうか。
1-1.損害賠償金を受け取れない
まず、被害者が損害賠償金を受け取れないというリスクがあります。
接触事故のような軽度の事故の場合、よくあるのが事故現場で当事者が示談交渉してしまうケースです。
示談金を支払ったほうが後で保険会社に請求しても、保険会社に支払いを拒否される可能性があります。
なぜなら、軽度の事故であっても示談金を保険会社に請求する以上、事故があったことを証明するために警察に交通事故証明書を発行してもらい保険会社に提出する必要があり、また、事故直後に保険会社に通知して、賠償金を支払う旨の承諾を得る必要があることが契約で決められているからです。
また、示談に法的な拘束力が生じることで、後になって損害賠償の追加が認められないという問題もあります。
たとえば、事故当時は物損のみだったのが、被害者に後遺障害が生じた場合でも、現場で物損のみについて賠償金を支払う示談が成立していると、後遺障害についての損害賠償や慰謝料の追加は認められないことになります。
1-2.被害者側も刑事処分を受ける可能性がある
次章で述べるように、道路交通法第72条は、「事故に係る車両の運転者」に対して警察への報告義務を課しています。
したがって、たとえば車同士の接触事故であった場合には、被害者側の運転手にも報告義務があります。
また、「車両」には自動車だけでなく、バイクや自転車なども含まれます(道路交通法第2条1項8号)。
つまり、加害者・被害者がともに警察を呼ばなかった場合、加害者だけでなく、被害者も報告義務違反で処罰されるリスクを負うことになります。
2. 交通事故直後に警察に連絡すべき理由
特に、軽度の接触事故の場合などは、被害者と加害者が「修理費用のことだけ話し合えばいいから、警察を呼ばないで済ませてしまおう」と考えてしまうことが多くあります。
しかし、接触事故であっても、警察を呼ぶことが法律上義務づけられています。
また、警察を呼ばなかった場合、被害者側も保険金請求などに使う書類の作成ができないという不利益を受けてしまいます。
以下、交通事故直後に警察に連絡すべき理由についてご説明します。
2-1.交通事故の際には警察を呼ぶことが義務づけられている
道路交通法第72条1項により、交通事故が発生した場合は、事故に係る車両の運転者に対して事故の程度を問わず、警察を呼ぶことが義務づけられています。
交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(運転者等)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。
道路交通法第72条1項
この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、または負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所または駐在所を含む)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
この義務は、「報告義務」と呼ばれています。報告義務に違反すると、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金を科されることになります(道路交通法第119条1項17号)。
相手方から現場での示談を申し入れられてその場でトラブルが解決したように思える場合でも、警察を呼ばなければ報告義務に違反することになります。
2-2.警察を呼ばないと保険金請求に使う書類の作成ができない
警察を呼ばなかった場合、「交通事故証明書」と「実況見分調書」の作成ができなくなります。
これにより、保険金の請求ができない・後日相手方とトラブルになる可能性があるなどの不利益を受けることになります。
(1)交通事故証明書
交通事故証明書は、自動車安全運転センターが発行する証明書です。
警察を呼ばなかった場合、交通事故証明書を作成してもらえないので、保険金の請求ができなくなります。
(2)実況見分調書
実況見分調書は、人身事故の際に事故状況などを証明する書類です。
事故当時の状況の他、被害者・加害者・目撃者の証言なども記録されています。
軽度の接触事故であっても、後になってトラブルになる可能性があります。
たとえば、事故現場では加害者が非を認めていたのに、後になって「被害者側の過失が大きい」と主張することがあります。
また、状況説明でも、事故現場で話していたことと食い違う内容の話をする可能性もあります。
実況見分調書を得ておくことで、後からトラブルになった場合に証拠として利用できます。
逆に、実況見分調書が存在しないと、後日トラブルが起こった場合に事故の内容を証明できる証拠がないことになってしまいます。
3. 事故報告をするべきか迷うケース
交通事故を起こしたらすぐに警察に連絡しなければならないことはわかっていても、事故報告をすべきか迷ってしまうケースはあります。
よくあるケースとして以下が挙げられます。
3-1.自転車と接触したが相手が走り去ってしまった
自動車を運転中に自転車と接触してしまったところ、自転車に乗っていた人は急いでいたのか、そのまま走り去ってしまったという場合です。
このようなケースでは、相手の所在もわからないことが多く、加害者と被害者の区別がはっきりしないこともよくあります。
しかし、「黙っていてもわからないだろうし、車体の傷も目立たないから」といって警察に届出を怠っていると、自転車側が車のナンバーを覚えていて後から「怪我をした」などと連絡してくる可能性があります。
また、自転車に乗っていたのが未成年者だった場合、保護者や保護者から連絡を受けた警察が来て、車を運転していた側を加害者と決めつけて慰謝料を請求されたりすることもありえます。また、自動車の運転者には救護義務があり、救護義務違反(いわゆる轢き逃げ)として刑事罰を問われるおそれもあります。
このような場合、ドライブレコーダーに事故時の状況がはっきりわかる画像が残っているような場合でない限り、反論したくても証拠がないことになります。
さらに、保険会社にも請求できないということになってしまいます。
このようなケースでは、相手の所在がわからなかったとしても、自転車と接触したという認識があれば、できるだけ早く警察に報告しましょう。
3-2.サイドミラー同士が接触したがお互い走り去った
狭い道路で対向車とすれ違ったときにサイドミラー同士が接触したが、お互い走り去ってしまったところ、後から確認したら少し傷がついていたというケースです。
このような場合は、後から相手が連絡してくる可能性は高いとはいえません。しかし、相手もサイドミラーの接触に気づいていて、サイドミラーの傷も目立つものであった場合などは、車両を特定して、警察にも報告しているということもありえます。
また、サイドミラーの修理に保険を使いたい場合には警察に報告していることが必要です。
サイドミラーを確認して傷に気づいたら、できるだけ早く警察に連絡しておきましょう。
3-3.被害者から大丈夫と言われた
車同士で接触事故を起こしたが、被害者から「大丈夫」といわれたというケースです。
事故直後は被害者側に負傷の自覚がなかったとしても、警察への報告は法律上の義務なので、被害者が走り去ってしまったとしても警察に報告してください。報告しなかった場合には、被害者を救護しなかったとして救護義務違反(いわゆる轢き逃げ)の扱いにされてしまうリスクもあります。
被害者が、後になって治療費や慰謝料を請求してくる可能性もあります。警察に報告しておけば、実況見分調書により、過大な請求などの不当な不利益を受けるのを防ぐことができます。
3-4.加害者から現金を渡されその場で示談を要求された
事故現場で車を降りてきた加害者が、その場で被害者に数万円の現金を渡して「これでなかったことにしてもらえませんか?」などと言ってすぐに車で立ち去る、というケースです。
事故直後に加害者からお金を受け取ることは、事故対応として、また自身の利益のためにも最もやってはいけないことです。
このようなケースでは、加害者のほうから慰謝料などを請求してくることは通常ありません。しかし、たとえば数日後にむち打ち症のような痛みが出てきて病院で治療を受けることになったとしても、保険金請求ができないことになります。
加害者が立ち去った後、あるいは帰宅後であっても、必ず警察に報告してください。
なお、警察に報告する前に加害者から示談金を受け取ること自体は犯罪ではないので、警察に知られても処罰されることはありません。
4. 後日報告になる場合、事故報告はいつまでにするべきか
事故報告は、法律上は事故が発生した現場で行うことが義務づけられています。
従って、後日報告についても、本来認められていないため、期限は設けられていません。
現実には、後日報告でも受理される場合はあります。しかし、事故発生から時間が経つほど、警察からみれば事故発生の事実自体を疑わざるをえなくなります。
事故発生の翌日以降は、報告が受理される可能性が低くなっていくので、できるだけ早く報告を行ってください。
なお、交通事故証明書の申請期限は、物損事故の場合は事故発生から3年以内、人身事故の場合は5年以内となっています。
5. 交通事故で警察を呼ばなかった際に後日連絡する方法
警察に後日連絡する場合は、原則として事故現場付近の警察署に赴いて、道路交通法第72条1項の報告内容に従い以下の情報を伝えてください。
遠方で起きた事故などで出頭が難しい場合は、まずは電話して情報を伝え、とるべき行動について指示を受けてください。
- 交通事故の発生日時、場所
- 交通事故による負傷者の人数と負傷の状況
- 交通事故によって損壊させた物及び損壊の状況
- 自動車(自動車同士の事故の場合は双方の自動車)の積載物
- 事故後に講じた措置(救急車の要請など)
- 交通事故の当事者の住所・氏名・生年月日・車両番号・車種・自賠責保険の証明書番号
6. 交通事故に遭ったら弁護士に相談、依頼するメリット
交通事故に遭った場合、対応について弁護士に相談、依頼することには以下のようなメリットがあります。
6-1.保険会社への請求や交渉を任せられる
交通事故の被害者にとって、加害者側の任意保険会社との示談交渉が精神的な負担になることが多くあります。
保険会社によっては、被害者本人の主張がほとんど通らないこともあります。また、あえて被害者にわかりにくい専門用語を多用して交渉の主導権を握ろうとすることも少なくありません。
しかし、法律の専門家である弁護士に交渉を依頼することで、加害者側の保険会社と対等に交渉し、主張を認めてもらうことが可能になります。
なお、被害者自身が自動車保険に入っている場合、保険会社の示談代行サービスを利用することも可能です。
もっとも、追突事故など、被害者側に過失のない事故では示談代行サービスが利用できません。
また、自身の保険会社が主張する慰謝料額は「その会社の任意保険基準」であるため、弁護士基準ほど高額の慰謝料を期待できないことにも留意する必要があります。
6-2.慰謝料の増額が見込める
交通事故の示談交渉では、加害者側から提示される慰謝料額は、「自賠責基準(国が定めた最低限の基準)」や「任意保険基準」に沿ったもので、相場よりも低額になっていることが通常です。
この点、示談交渉を弁護士に依頼することで、過去の判例に沿った「裁判所基準(弁護士基準)」に基づいた、相場に近い慰謝料額を主張できます。
これは、被害者側が弁護士に示談交渉の代理を依頼する大きなメリットといえるでしょう。
6-3. 休業損害を確実に回収できる
休業損害とは、交通事故が原因で仕事ができなくなったために生じた減収に対する補償をいいます。
休業損害額についても、加害者側の任意保険会社ともめることが少なくありません。
被害者の1日あたりの収入につき、自賠責に従って「一律6,700円」と定めている保険会社もあります。
また、給与所得者の1日あたりの収入は事故前3か月の収入から日割り計算するところ、実稼働日数ではなく、単純に90日で日割り計算している保険会社も存在します。
弁護士に依頼することで、被害者の実際の収入に応じた適正な休業損害額になるよう交渉できるので、休業損害を確実に回収することが可能になります。
6-4. 適切な後遺障害等級認定を受けられる
後遺障害が残った場合、後遺障害慰謝料や逸失利益といった、新たな示談金の費目を請求するため、後遺障害等級認定を申請することになります。
後遺障害等級が1級異なるだけで、慰謝料の金額が数十万円~数百万円変わることもあります。
認定時には専門機関によって審査が行われるため、認定基準や審査の仕組みなどをよく理解した上で、適切な審査対策をとることが必要です。
弁護士に依頼することで、専門知識や過去の事例に基づいた審査対策のサポートを受けられます。
6-5. 通院頻度や治療費打ち切り時の対応のアドバイスも受けられる
交通事故では、治療頻度が不適切(低すぎる)と、慰謝料や治療費の補償額が減額されることがあります。
また、治療中に加害者側から「今後の治療費は補償できない」と言われることもあります。しかし、これに従って治療を終えてしまうと、慰謝料が減額されてしまいます。
弁護士に依頼することにより、通院頻度や、治療費打ち切り時の対応などについても、専門家の視点からアドバイスを受けられます。
7. 事故の後日連絡に関するよくあるQ&A
本章では、交通事故の後日連絡に関して頂くことの多い質問と、それに対する回答をご紹介します。
7-1.被害者が後日警察に連絡した場合でも、慰謝料請求できますか?
結論としては、後日連絡でも慰謝料請求は可能です。
慰謝料請求の場合、物的損害の損害賠償請求と異なり、被害者側の証拠として実況見分調書が絶対必要ではなく、通院中の医療機関が作成した診断書などがあれば請求自体は可能です。
ただし、警察に報告していない場合、「事故の存在が確認できない」として、加害者側の保険会社から慰謝料の支払いを拒否される可能性もあります。
また、加害者側が事故の存在を否定したり、被害者側の過失割合が大きいなどと主張している場合は、診断書があっても事故との因果関係を立証できないため、慰謝料請求が認められない可能性が高くなります。
7-2.交通事故証明書の申請は後日でもできますか?
交通事故証明書は、警察に事故の報告をした後に作成されるので、もともと事故直後に申請することはできず、後日の申請・受取が原則となります。
交通事故証明書の申請は、自動車安全運転センター窓口での直接申請、郵便局での申請、オンライン申請が可能です。
自動車安全運転センターで申請を行った場合のみ、即日交通事故証明書の交付を受けられます。
郵便局・オンラインで申請した場合は、申請から約10日で指定住所あてに郵送されます。
7-3. サイドミラーを電柱にかすったが、電柱の方に損傷がなかった場合、後日でも警察に届けるべきですか?
電柱の方に損傷がなかったとしても、本来は現場で警察に連絡する必要があります。
その時点では「電柱に損傷がなさそうだから大丈夫だろう」と思って立ち去ってしまったという場合は、翌日以降にできるだけ早く警察に届け出てください。
電柱に損傷がなかったとしても、監視カメラの映像や通行人からの通報などで発覚する可能性もあります。
警察や保険会社に連絡した上で、損傷がなければ賠償請求されることはありません。
8. まとめ
軽度な接触事故でお互いに気づかずに走り去ってしまった場合や、加害者に現場で示談金を渡されて逃げられてしまった場合など、事故の直後に報告すべきか迷うかもしれません。
しかし、交通事故が起きた場合は、加害者・被害者を問わず、すぐに警察に報告することが法律上義務づけられています。
報告を怠ると、道路交通法第72条違反で処罰されたり、保険会社が請求に応じてくれないなど、非常に大きな不利益を受けることになります。
仮に事故直後の警察への報告を怠ってしまった場合は、できる限り早く事後連絡してください。
適切な事後連絡の方法など、わからないことがあれば、交通事故を専門とする弁護士への相談をおすすめします。
私たち法律事務所リーガルスマートは、交通事故の専門チームがございます。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
弁護士に依頼すると示談金が増額する理由とは
- 高い基準の弁護士基準で示談交渉
- 保険会社は自賠責基準や任意保険基準で算定した低い金額を提示します。弁護士が介入することで「弁護士基準」という高い金額での示談が可能になります。
- 適切な休業損害の算定と請求
- 弁護士による正確な算定と適切な請求により、被害者の経済的損失を最小限に抑えることができます。
- 後遺障害認定の申請サポート
- 弁護士のサポートにより、適切な認定を受けられる可能性が高まり、結果として被害者の受け取る補償額が増える可能性があります。
- 入通院の証拠収集とサポート
- 慰謝料請求のため、入通院記録や診断書の収集、通院打ち切り防止対応、保険会社との連絡および交渉の代行を行います。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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