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セクハラが労災認定されるケースや手続き方法を弁護士が解説!

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「上司からセクハラされて鬱になってしまった。これって労災認められる?会社が申請に協力してくれない場合はどうしたらいい?」

「セクハラが原因で心身に不調をきたしたので心療内科を受診したら、適応障害と診断された。会社を辞めて、回復したら再就職したい。生活や治療費をまかなうのに、労災とか失業手当とか慰謝料とか、どういう種類のお金をいくらぐらいもらえるかを知りたい」

など、セクハラが原因で精神疾患を発症してしまった方にとって、労災が認められるか、会社が申請に協力してくれるか、あるいは他に行使できる権利はあるかなど気になることが多いと思います。

本記事では、セクハラで労災が認められるケースや、労災の申請手続き方法などを労働問題に強い弁護士が解説します。

目次

1. セクハラでも労災になるのか

厚生労働省は、セクハラを含めて、労働者が発症した精神障害が業務上の災害として労災認定できるか否かを判断するために「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。

セクハラが原因で精神疾患を発症した場合には、この認定基準を満たしていると認められれば労災が認められます。

本章では、セクハラが原因で精神疾患を発症した場合の労災の認定基準を解説します。

1-1. 認定基準の対象となる精神障害を発病していること

まず、認定基準の対象となる精神障害は、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害です。

業務に関連して発病する可能性のある精神障害の代表的なものである「うつ病」や「急性ストレス反応」などはこれに含まれます。

1-2. 精神障害の発病前のおおむね6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること

「業務による強い心理的負荷」とは、客観的に当該疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷をいいます。

これに該当するか否かを判断する上で、業務による出来事とその後の状況が、労働者に強い心理的負荷を与えたといえるかを評価します。

1-3. 業務以外の心理的負荷や個体側要員により精神障害を発病したとは認められないこと

当該精神疾患が、私的な出来事(離婚した/配偶者と別居したなど)や、本人以外の家族・親族に起こったこと(配偶者/子供/親/兄弟が死亡したなど)が発病の原因でないといえるかを慎重に判断します。

また、本人に精神障害の既往歴やアルコール依存症などの個体側要因があるか、その内容などについて確認します。個体側要因がある場合には、それが発病の原因ではないといえるかを慎重に判断します。

参照:厚生労働省「セクシュアルハラスメントが原因で精神障害を発病した場合は労災保険の対象になります」

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2. セクハラで労災認定されるケース

セクハラで労災認定されるためには、前述の「心理的負荷による精神障害の認定基準」の中で、セクハラ被害が「業務による強い心理的負荷」に該当するといえることが必要になります。

本章では、セクハラ被害が「業務による強い心理的負荷」にあたるとして労災認定されるケースについて解説します。

2-1. 「業務による強い心理的負荷」の判断基準

労災認定に当たっては、発病前おおむね6か月の間に起きた業務による出来事について、心理的負荷の程度を強・中・弱の3段階で総合評価します。

心理的負荷が「強」と評価される場合には「業務による強い心理的負荷」に該当すると認められます。

2-2. 「業務による強い心理的負荷」が認められるケース

業務による強い心理的負荷が認められるケースとして、認定基準に示す「特別な出来事」がある場合とない場合があります。

(1)認定基準に示す「特別な出来事」がある場合

不同意性交、強制わいせつ行為などのセクハラを受けた場合

(2)認定基準に示す「特別な出来事」がない場合

以下の「心理的負荷の総合評価の視点」を考慮して心理的負荷の総合評価を行います。

  • ①セクハラの内容、程度や継続状況
  • ②セクハラを受けた後の会社の対応及び内容、改善の状況、職場の人間関係など

「強い心理的負荷」が認められる例としては、身体接触を含む場合と含まない場合で以下のケースが考えられます。

(a)身体接触を含む場合

  • ・継続して行われた場合
  • ・行為自体は継続していないが、会社に相談しても対応してもらえず状況が改善されなかった、または相談したことにより職場の人間関係が悪化した場合

(b)身体接触を含まない場合

  • ・発言の中に人格を否定するものを含み、かつ継続してなされた場合
  • ・性的な発言が継続してなされ、かつ会社が状況を把握していても適切な対応がなく改善がなされなかった場合

これに対して、身体接触を含むセクハラ行為または身体接触を含まない性的発言が単発的なもので、かつ会社が迅速・適切に対応したために精神疾患の発症に至らなかった場合には、心理的負荷は「中」と判断され、労災認定されないことになります。

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3. セクハラによる強い心理的負荷の具体例

セクハラによる強い心理的負荷が認められ、労災認定された事例として以下のケースがあります。

3-1. 身体接触を含むセクハラを長期間受けたことによるうつ病発症

勤務先の支店の上司に約半年にわたって身体を触られるセクハラを受けていた女性が会社の相談窓口に相談したところ、上司は他の支店に異動になりました。しかしこの相談以来、他の上司や同僚から誹謗中傷を受けるようになり、抑うつ気分や不眠などの症状が生じました。そこで精神科を受診したところ「うつ病」と診断されました。

労基署は、上記の事実につき心理的負荷「強」と判断しました。また、業務以外の心理的負荷や個体側要因のいずれにも顕著なものは認められないとして、労災認定しました。

3-2. 身体接触のない性的発言を長期間受けたことによる適応障害発症

ある会社の工場に勤務していた派遣社員の女性は、同じ職場の主任から1年以上にわたってセクハラ発言を受け続けていました。

女性がセクハラ被害を受けたことを派遣元・派遣先の両方に相談し、派遣先の会社の他の部署への配置転換を希望する旨を伝えました。

しかし派遣元・派遣先双方とも女性の希望を認めず、何等の配慮や対処も行いませんでした。このような状況で女性に吐き気、不眠、食欲不振などの症状が生じたため、心療内科を受診したところ「適応障害」と診断されました。

労基署は、上記の事実につき心理的負荷「強」と判断しました。また、業務遺体の心理的負荷や個体側要因のいずれにも顕著なものは認められないとして、労災認定しました。

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4. セクハラで労災申請をする方法と流れ

本章では、セクハラで労災申請する方法と流れを解説します。

4-1. セクハラ被害に遭った直後に医師の診断を受ける

セクハラの被害を受けた労働者が労災認定を受けるには、セクハラが原因で精神障害を発症した旨の診断書を医師に作成してもらう必要があります。

精神障害の労災認定要件に「発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること」が含まれることからも、セクハラ行為の被害に遭っている最中、もしくは直後に診断を受けることが重要です。

4-2. 労災の申請書類を作成する

医師の診断書により、「精神障害を発症した」ことが証明できます。

ただし、精神障害発症が「セクハラを原因とする」ことを立証するためには、労災認定の要件を満たす証拠を集める必要があります。

会社が「労災事故の内容」としてセクハラの事実を認めれば、事業主証明が有効な証拠となります。

労災保険法施行規則第23条は、労働者の労災申請に対する助力義務を定めています。しかし、会社がセクハラの事実そのものを認めなかったり、事業主証明を拒否する可能性もあります。

この点、事業主証明が受けられなかった場合でも申請は受理されます。申立書にセクハラ被害の経緯を詳細に記載して、セクハラの事実を客観的に証明できる証拠を提出していれば、労働基準監督署の判断によって労災認定を受けられる可能性があります。

4-3. 申請書類を労働基準監督署に提出する

申請書類及び、労災認定に必要な要件を満たすことを証明する書類を作成したら、会社の当該事業所を管轄する労働基準監督署に提出します。

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5. セクハラで労災申請をする際の注意点

本章では、セクハラで労災申請をする際の注意点を解説します。

5-1. 労災給付請求権の消滅時効期間が短い

セクハラを原因とする精神疾患で労災申請する場合、請求できるのは療養補償給付と休業補償給付です。療養補償給付は治療費補填のための給付金なので、医療機関で診療費を支払った時点から2年で消滅時効にかかります(労働基準法第115条)。

また、休業補償給付は、賃金を受けられなかった日、つまり毎月の給料日から2年で消滅時効にかかります(同条)。

5-2. 労災を申請すると傷病手当金を受けられなくなる

うつ病などの精神疾患を発症した場合、その原因を問わず健康保険の傷病手当金の支給を受けることができます。

この傷病手当金は、労災を申請すると受給できなくなります。

ただし、労災申請から認定までには8か月~9か月程度かかります。また労災は認定されない可能性もあります。

そこで、先に傷病手当金を受給して、労災認定を受けた場合はそれまでに受給した分を返還するということも可能です。

5-3. 労災認定を受けると失業保険の給付が受けられなくなる

労災認定を受け、休業補償給付を受けることになった場合、セクハラに遭った会社を退職して再就職活動すること自体は可能です。しかし、失業保険の給付は受けられなくなるので注意が必要です。

失業保険は、就労できる状態であることが給付要件の1つとなっています。この点休業補償給付は病気やけがのために就労できない状態にあることが給付要件とされているため、給付要件が相反するためです。

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6. セクハラのトラブルを弁護士に相談、依頼するメリット

本章では、セクハラのトラブルを弁護士に相談、依頼するメリットを解説します。

6-1. 会社の協力が得られなくても労災申請ができる

セクハラが原因で精神疾患を発症した場合、「これは労災にあたるのではないか」と思っても、「会社がセクハラを認めなかったり、協力してくれなかったら労災申請ができないだろう」と考えて、労災申請をあきらめてしまう可能性があります。

労災申請は、会社の協力を得られなくても可能です。また、労災認定を受けるためには特に、申立書で実際に起こった出来事を正確かつ詳細に書くことが重要です。

セクハラや労災申請などの労働問題に精通する弁護士に依頼することにより、会社は本来法律上の義務である事業主証明を拒絶しづらくなります。

また、有効な申立書の記載方法や、証拠の収集方法のアドバイスを受けることができます。

6-2. 会社との示談交渉を任せられる

セクハラは、それ自体が労働者に対する不法行為(民法第709条)にあたります。また、セクハラを受けた従業員は重大な精神的苦痛を受けるのが通常です。

そこで、労災申請とは別に、加害当事者や会社に対して、生じた財産的損害の賠償や慰謝料(非財産的損害に対する賠償金)を請求することができます。

セクハラの加害者や会社に対して損害賠償や慰謝料、差止請求等の請求を行う場合は会社と交渉することになります。

しかし、被害者本人が内容証明で請求通知を送っても無視されたり、会社や加害者側が弁護士を立てて低額の和解金で解決しようとする可能性があります。また、再び加害者と顔を合わせることになるおそれもあります。

弁護士に交渉の代理を依頼することで、会社側や加害者側と対等に交渉することができます。

6-3. 労働審判や訴訟手続も任せられる

会社との交渉が成立しなかった場合、労働審判や訴訟で請求を行います。これらは手続が複雑で時間がかかるので、被害者個人で行うことは困難です。

さらに、まず先に労働審判を申し立てたほうがよいか、労働審判を経ずに訴訟を提起したほうがよいかを判断しなければなりません。労働審判は、終了後に当事者が異議を申し立てると決定事項が無効になってしまうからです。

弁護士に代理を依頼していれば、労働審判や裁判をすべて任せることができます。セクハラ問題解決の経験や知識に基づいて、被害者の心理状態に配慮しながら効果的な主張立証を行います。

また、訴訟上の和解手続に入った場合も、会社側と対等に交渉して慰謝料や損害賠償を認めさせることが可能になります。

弁護士に労災申請手続や交渉・裁判所関連手続などの代理を依頼すると費用がかかりますが、初期費用のかからない成功報酬制度をとっている法律事務所も多くあります。

また、現在多くの法律事務所では初回法律相談(または、初回法律相談のうち30~60分程度)を無料で受けています。

無料法律相談を利用することで、費用の説明を受けたり、問題解決の見通しを得ることができます。

6-4. 悪質な場合は刑事告訴も可能

セクハラ行為が傷害罪、強要罪、不同意性交罪等の犯罪行為に該当すると考えられる場合は、刑事告訴(刑事訴訟法第230条)を行うことができます。

弁護士に相談することにより、告訴状作成や警察への報告を弁護士が代理で行うので、捜査機関が動いてくれる可能性が高くなります。

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7. セクハラの労災に関するよくあるQ&A

本章では、セクハラの労災に関して頂くことが多い質問と、それに対する回答をご紹介します。

7-1. セクハラが労災なら慰謝料も請求できますか?

セクハラ行為は、それ自体が労働者に対する不法行為(民法第709条)となります。また、セクハラが原因で精神疾患を発症している場合は不法行為によって重度の精神的苦痛を受けていることになります。従って、労災が認められるか否かを問わず、不法行為に基づく慰謝料請求(民法第710条)が可能です。

7-2. 会社がセクハラの事実を認めない場合も労災認定を受けられますか?

労災申請の際に、事業主証明を受けるためには会社がセクハラの事実を認めていることが必要になります。しかし、会社がセクハラの事実を否定して事業主証明を拒否した場合でも、労災申請は可能です。申立書の内容や証拠しだいで、認定を受けられる可能性があります。

7-3. 上司から継続的にセクハラを受けていましたが、仕事をやめたくなかったので、途中まである程度誘いを受け入れていました。このような場合は労災認定を受けられなくなりますか?

セクハラを原因とする精神疾患に対する労災認定の基準には、「精神疾患の発病前およそ6か月間に、業務による強い心理的負荷が認められること」が含まれます。

この「業務による強い心理的負荷」の評価に関して、厚生労働省は、特に留意すべき事項として「被害者が仕事を続けたい、あるいは被害をできるだけ軽くしたいとの心理などから、やむを得ず行為者に迎合する態度をとったり、誘いを受け入れることがあれば、これらの事実がセクハラを受けたことを単純に否定する理由にはならない」としています。

従って、仕事をやめたくないという理由である程度行為者(上司)の誘いを受け入れていたという事実があっても、その後精神疾患を発症していれば、心理的負荷「強」と判断され労災認定を受けられる可能性があります。

7-4. セクハラが原因で適応障害になり、労災認定を受けましたが何とか回復したので再就職しました。再就職後は労災給付が受けられなくなりますか?

再就職後は、休業補償給付は受給できなくなりますが、療養補償給付については引き続き受給できます。

労災保険の給付は労災補償法に基づいて国が行うもので、個々の企業が給付しているわけではないため、転職を理由に労災給付自体を受けられなくなることはありません。

休業補償給付は業務による怪我や病気で就労できなくなったことを給付要件の1つとしているため(労災補償保険法第14条)、再就職すると給付要件を満たさなくなります。しかし療養補償給付は、引き続き通院が必要であれば受給できます。

7-5. 派遣社員やパート従業員がセクハラに遭って精神疾患を発症した場合、労災申請できますか?

労災保険は、雇用形態を問わずすべての労働者が対象となります。従って、派遣社員やパート、契約社員、アルバイト従業員などがセクハラの被害に遭って精神疾患を発症した場合でも、労災申請が可能です。

このうち派遣社員の場合は雇用関係にあるのが派遣会社なので、加害者が派遣先の会社の関係者・派遣会社の関係者どちらの場合であっても派遣会社に事業主証明などの協力を得ることになります。

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8. まとめ

セクハラを受けたことが原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合は、労災認定を受けられる可能性があるほか、会社や加害者に対して慰謝料請求ができます。

また、セクハラを原因とするうつ病で休職したり、仕事能力が低下したことを理由に解雇された場合は、会社に対して別途損害賠償請求も可能です。

セクハラを受けた労働者個人が会社に対して労災申請や慰謝料などの請求を行うことは困難ですが、労働問題に精通する弁護士を代理人とすることで、正当な権利行使が可能になります。

セクハラによってうつ病などの精神疾患を発症し、通院治療をされている方は、是非弁護士にご相談ください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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