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適応障害で休職するまでの流れや休職中の給与を弁護士が解説!
目次
1. 適応障害で休職はできる?
厚生労働省によると、職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は約6割に上っています。
また、適応障害やうつ病などメンタルヘルス上の理由により過去1年間に連続1か月以上休業した労働者の割合は0.4%で、事業所の規模が大きくなるほどその割合は高くなっています。
適応障害になると、心と体に不調が生じ、ときには仕事を継続していくのが困難になることもあります。
そのようなときは十分な休養をとり、心身の健康を取り戻す必要が認められますので、会社を休職することができます。
適応障害で会社を休職する場合、多くの方が不安に思うのは休職中の収入や復職後の仕事のことではないでしょうか?
この記事では、適応障害で会社を休職するときの流れ、収入を確保するための方法、休職や復職のときに注意すべきポイントについて解説いたします。
2.そもそも適応障害とは
適応障害とは、人間関係や環境の変化による強いストレスによって、日常生活を送ることが困難になるほどの影響が心身に現れる病気です。
適応障害の症状は精神症状と身体症状に分けられます。
精神に現れる症状として、気分が落ち込んだ状態が続く、不安感が強まる、意識が低下したり集中力がなくなって仕事や勉強に支障が生じるなどの症状があります。
身体に現れる症状として、夜に寝付くことができない、朝起きられない、食欲が低下する、胸がドキドキする、めまいや吐き気などがあります。
適応障害は周囲の理解を得にくいことが多く、甘えている、あるいは仕事をサボっているなどと思われることが少なくありません。
しかし、適切な治療をせずに放置していると悪化してうつ病などより深刻な精神疾患に移行するおそれがありますので、早めに医師の診断を受けて十分な休養をとる必要があります。
3.適応障害で休職するまでの流れ
適応障害で仕事を休職するためには、まず病院で適応障害であるという医師の診断を受け、診断結果を証明するための診断書をもらう必要があります。
適応障害かもしれないと思ったら、メンタルクリニックや診療内科、精神科で早めに診察を受けるようにしましょう。
休職するためには診断書に自宅休養が必要である旨の記載をしてもらう必要がありますので、医師に自宅での療養を希望する旨を伝えるとよいでしょう。
診断書を受け取ったら、休職届と診断書を職場の上司に提出し、休職の意思があることを伝えましょう。
休職の意思を伝える際は口頭でも構いませんが、のちにトラブルになったときに証拠に残すために休職届を作成して書面でも伝えることをおすすめします。
ここでスムーズに休職を認めてもらえればいいのですが、休職を認めてもらえなかったり、きちんと引き継ぎをしてから休職をするよう求められる場合もあります。
医師の診断書に自宅療養が必要であると記載があるにもかかわらず業務を行わせた場合は、会社が従業員に対して負っている安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
休職届と医師による診断書を提出したのに休職を認めてもらえない場合には、弁護士など第三者に相談するとよいでしょう。
休職することが決まったら、今度は休職期間を決める必要があります。
休職の期間は会社の休職制度に基づいて決まるか、会社との話し合いによって決められます。
休職が認められたら病気の治療を最優先に考えて療養に専念しましょう。
ただし、休職中であっても必要な範囲で会社と連絡を取る必要があります。
病状について説明を求められたときには、医師の診断に基づいて病状を伝えるようにしましょう。
4.休職中の給与はどうなるのか
適応障害で休職するときに最も気になるのは、休職中の賃金の支払いではないでしょうか。
会社によっては独自の休職制度に基づいて休職中でも賃金の一部が支払われることがあります。
ところが大半の会社では休職中には賃金は支払わないものとされています。
これは、労務の提供がない間には使用者は賃金を支払う必要がないという「ノーワークノーペイの原則」に基づいています。
しかし、病気で働けないときに完全に収入が絶たれると生活に困窮してしまいます。
そこで、健康保険では被保険者が業務外の事由による病気や怪我で仕事ができなくなったときに一定の額を支給する制度を設けています。
これが傷病手当金です。
傷病手当金支給額は1日あたり標準報酬日額の3分の2とされています。たとえば標準報酬月額が180,000円の人が15日間休んだ場合、標準報酬月額は180,000÷30=6,000円となり、6,000円×2/3×15日=60,000円が傷病手当金として支給されます。
傷病手当金の支給期間は、1つの傷病ごとに最長で1年6か月とされています。なお、最初の3日間は待機期間となるため支給対象となりません。
また、会社から給与等が支払われ、その金額が傷病手当金より少ない場合は、差額分が支給されます。
また、業務外の怪我・病気ではなく仕事が原因で適応障害になった場合、当然、従業員の生活の安定が図られなければなりません。
そこで、労災保険では労災保険と認定されたときに休業補償給付の支給を受けることができます。
たとえば、職場におけるハラスメントや過重労働が原因で適応障害になった場合がこれに当たります。
休業補償給付は1日あたり給付基礎日額の60%ですが、これに加えて給付基礎日額の20%が支給される休業特別支給金という制度がありますので、合計で80%が支給されます。
給付基礎日額とは、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
平均賃金とは、過去3か月間に支払われた賃金の総額を暦日数で割った1日あたりの賃金額です。
療養開始から1年6か月を経過しても怪我や病が治癒しておらず、その時点で一定の傷病等級に該当する場合には、休業補償給付が打ち切られて傷病補償年金が支給されます。
休業の初日から3日間は待機期間とされ、休業補償給付は支給されませんが、会社が労働基準法の規定に基づいて休業補償を行う必要があります。
休業補償の額は1日につき平均賃金の60%です。
5.傷病手当金や休業補償給付の申請方法
5-1.傷病手当金の場合
傷病手当金の申請は事業主が行うのが一般的です。
申請する際には、被保険者が「傷病手当金支給申請書」を記入し、事業主の証明と担当医師等の証明を受けて給与計算の締め日以降に健康保険の保険者に提出します。
初回の申請時には、労務に服することができなかった期間を含む給与計算期間とその期間前1か月の給与の賃金台帳と出勤簿(タイムカード)の写しを添付する必要があります。
5-2.休業補償給付の場合
休業補償給付の請求は、労働基準監督署長に「休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書」を提出することにより行います。
休業が長期にわたる場合は、1か月ごとに請求するのが一般的です。
休業特別支給金の請求書は休業補償給付と同一で、原則として休業補償給付の請求と同時に支給申請を行います。
休業補償給付は、怪我・病気の療養のために仕事ができず賃金を受けられなかった日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年が経過すると時効により請求権が消滅しますので注意が必要です。
6.休職する際に注意するべき点
6-1.休職制度の有無を確認する
会社によっては就業規則等に休職制度が規定されている場合があります。
休職制度には、休職期間の上限や復帰のための条件などが定められています。
適応障害で休職するときには、必ず休職制度の有無とその内容を確認するようにしましょう。
6-2.年次有給休暇を使った方がいい場合もある
傷病手当金や休業補償給付では給与の額に応じて一定の額が支給されますが、全額が補償されるわけではありません。
特に健康保険の傷病手当金は標準報酬月額の3分の2しか補償されませんので、年次有給休暇の残日数が多くある場合にはそちらを利用した方がよい場合もあります。
年次有給休暇を利用すれば働いた場合と同様の額を給与として受け取ることができるからです。
傷病手当金や休業補償給付を受給するか、年次有給休暇を利用するかは、休業する日数や年次有給休暇の残日数などから判断するのがよいでしょう。
6-3.傷病手当金は事後申請が原則
傷病手当金は実際に働けなかった日数に応じて補償が行われる制度ですので、休業をしながらもらえるわけではなく、休業をした後に事後申請をするのが原則です。
休業期間が短ければ復帰してから申請を行いますが、それでは数か月から1年以上にわたり休業する場合に生活に困窮してしまうおそれがあります。
そこで、一定期間休業したところでそれまでに休業期間について分割して申請を行うのが一般的です。
なお、長期間の休業で分割して申請する場合には、その都度担当医師の証明が必要となります。
6-4.社会保険料の支払い
休職中であっても社会保険の保険料の支払い義務は免除されません。
社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険をいい、通常は給与からの天引きにより支払われています。
休職中は給与が支払われませんので、社会保険料をどのように支払うか会社に確認しておく必要があります。
7.休職から復帰・復職するまでの流れ
休職から復帰して復職する際には、会社に復職願を提出して通知するのが一般的です。
復職するためには休職事由が消滅していること、すなわち適応障害が改善して仕事ができる状態になっていることが条件となります。
ところが適応障害などの精神障害の場合、休職事由が消滅したかどうかが問題となることが往々にしてあります。
そこで、担当医師の診断書を提出して復職が可能なことを会社に証明する必要があります。
復職の意思があり、医師の診断書で復職が可能であるとわかれば、会社に職場復帰することができます。
8.もし休職期間の満了時に復職できない場合
休職期間中に適応障害が改善せず、復職ができないと判断される場合は、休職期間を延長するか、退職することになります。
復職できるか状態かどうかは、ご自身の体調と医師の診断を踏まえて判断する必要があります。
会社の休業制度に休職期間の延長に関する規定があり、それに当てはまる場合であれば延長が可能です。
休職期間を延長したいと思ったら、まずは会社の休職制度の内容を確認するようにしましょう。
休職期間は短ければ3か月程度、長ければ半年から1年程度とされていることが多いですが、中には1〜2か月としている会社もあります。
いずれにしても休職期間は復職の可否を見極めるために十分な長さである必要があります。
休職期間が短すぎる場合は違法の可能性もあるため、休職期間の延長を認めてもらえるよう会社と交渉するようにしましょう。
休職規定がない場合には、会社の経営者や人事・総務の担当者と相談する必要があります。
この場合も、休職期間が短すぎて延長に応じてもらえない場合は違法となる可能性があります。
休職期間が満了し、延長に応じてもらえない場合は退職せざるを得なくなり、会社の従業員としての地位を失うことになります。
不当な理由で退職期間の延長に応じてもらえない場合には弁護士への相談を検討しましょう。
また、労働基準法19条1項には、使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇することができないと規定されています。
業務上の理由で適応障害を発症したにもかかわらず会社から退職を強要された場合には不当解雇となりますので、この場合も弁護士に対応を相談するようにしましょう。
休職中は健康保険の傷病手当金や労災保険の休業補償休を受給できるとご説明しましたが、退職したらこれらは受給できなくなるのでしょうか?
退職日に傷病手当金を受給していた傷病で引き続き労務不能である場合には、退職後も継続して傷病手当金の支給を受けることができます。
また、労災保険の保険給付を受ける権利は労働者の退職によって変更されることはないと定められています。
つまり業務上の理由により適応障害になり休業補償給付を受給している場合、会社に復職せず退職することになったとしても、継続して休業補償給付の支給を受けることができます。
9.適応障害による休職でよくあるQ&A
9-1.休職期間中に旅行に行ったり遊びに行っても問題ない?
休職期間中は療養に専念する必要がありますが、旅行に行ったり、外に遊びに行ったりしてもよいのでしょうか?
休職期間中の過ごし方には、大きく分けて「休養期」「活動期」「復職期」があると言われています。
体と心を休めるだけでなく、少しずつ活動量を増やしていったり職場復帰に向けて生活リズムを戻していくことも必要です。
ですので、気分転換のためにときどき旅行に行ったり、遊びに出かけたりすることは問題ありません。
とはいえ、旅行の様子をSNSにアップしたり、毎日パチンコ店に通ったりしていると会社に休職の必要性を疑われることになりかねません。
休職中はあくまで療養を最優先とし、旅行や遊びは息抜き程度にするようにしましょう。
9-2.復職後の流れは?
休職期間が満了し、担当医師から職場復帰が可能であると判断された場合は、復職に向けて準備を進めます。
復職後にすぐ休職前と同じ仕事をするのではなく、業務内容を一時的に変更したり、労働時間を短縮するなど労働環境の調整が行われることがあります。
また、職場復帰計画を立て、業務に復帰できるよう段階的に進めていく場合もあります。
職場復帰時には、上司や人事部門とのコミュニケーションが重要です。
会社によっては、復帰後に業務の負荷やストレスを軽減するために同僚のサポートやメンタルヘルスプログラムの提供、医師の診察やカウンセリングといった支援が行われることもあります。
適応障害で休職したあとの復職の流れは、個人の治療経過や病状により異なります。
自身の健康状態を最優先に考え、医師や専門家の指導を受けながら、段階的に業務に復帰することが重要です。
また、職場の理解とサポートが復職成功の鍵となりますので、上司や同僚とのコミュニケーションを大切にするとよいでしょう。
10.復職時のトラブルを弁護士に相談するメリット
休職後の復職の際には、会社との間で様々なトラブルが起こることがあります。
典型例は、担当医師から復職が可能だと診断が出ているにもかかわらず、病気の再発を懸念する会社が復職を認めないケースです。
場合によっては休職期間満了のタイミングで解雇を言い渡されることもあります。
専門家である医師が復職が可能と判断している限り、会社はこれを尊重すべきであり、解雇は不当であり無効となる可能性があります。
また、復職後の労働条件や業務内容について労使間でトラブルになることもあります。
たとえば復職後に職位や給与を不当に下げられたり、業務内容、労働時間、人間関係への配慮をしてもらえないケースが典型例です。
そもそも適応障害の原因が過重労働や上司によるハラスメントにあるような場合には、会社に対して損害賠償請求を行うこともできます。
復職後にこのようなトラブルに直面したときには、法律の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。
労働法に精通した弁護士は、復職時のトラブルに関する法的な問題や権利について的確な助言を行うことができます。
たとえば、復職を認めない会社に対して法的な根拠に基づいて交渉を行ったり、不当解雇を行う会社に対して解雇の無効を主張し慰謝料を請求することができます。
交渉で会社と合意に至らない場合には、調停や訴訟などの法的手段により権利を実現してもらうことができます。
日本の労働法では労働者の立場が手厚く保護されており、休職中の従業員を不当に扱ったり復職時に退職を強要するような会社に対して裁判所は厳しい判断を下しています。
適応障害による休職や復職を巡って会社とトラブルになったときには、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
弁護士は法律の専門知識と経験を活かして最善の解決策を提案することができます。
11.まとめ
仕事や人間関係のストレスで適応障害になったときは、まずは仕事を休んで十分な休養をとることが重要です。
日本の労働保険や社会保険制度の下では、病気で仕事ができないときにも生活を維持するために一定の補償を受けることができます。
休職期間中に症状が回復しない場合には休職期間を延長して治療を継続することができる場合があります。
担当医師から職場復帰が可能であると診断を受けたら、復職に向けて準備を進めましょう。
復職時には、業務の負荷やストレスを軽減するために、労働時間を短縮したり業務の負担を軽減してもらうなどの配慮をしてもらうことができます。
会社の過重労働やハラスメントにより適応障害を発症した場合や、会社が休職や復職を認めずに退職を促したり、不当に職位や給与を下げたりする場合は、弁護士に相談しましょう。
弁護士は労働法の知識と経験に基づき、会社との交渉や裁判手続きにより労働者の権利を実現することができます。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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