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リファレンスチェックとは?違法になるケースなどを弁護士が解説
会社が労働者を採用する際には、書類選考・面接を行い採否の判断を行います。
しかし、書類選考と面接だけでは、完全にその人のことを把握することは難しいです。
このような場合に行われるのが、前職・現職の同僚などに対して、その人がどのような人かなどを聴取する、いわゆるリファレンスチェックというものが行われます。
求職をする側としては、自分のことを聞いて回られるのはどうも…という方もいるのではないでしょうか。
本記事では、リファレンスチェックとはどのようなものか、リファレンスチェックによってどのような法的問題が発生するか、などについて労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1.リファレンスチェックとは
リファレンスチェックとは、採用の参考にするために、前職や現職の上司や同僚に対して、その人がどのような人かなどについて質問をして回答をもらうことをいいます。
1-1.バックグラウンドチェックとの違い
採用における類似の用語として、バックグラウンドチェックが挙げられます。
バックグラウンドチェックとは、背景調査とも言われ、学歴・経歴を詐称していないか、犯罪歴は無いか、破産歴は無いか、訴訟歴、反社チェックや訴訟履歴チェックなどを行います。
リファレンスチェックは応募者が会社にマッチするかを調査することが目的である一方で、バックグラウンドチェックは応募者に問題が無いかをチェックするために行うものです。
1-2.リファレンスチェックは誰が行うのか
リファレンスチェックは、会社の担当者が行うのが基本です。
中途採用にあたって転職エージェントが関与するような場合には、転職エージェントが実施するようなこともあったり、金融機関では第三者機関がこれを行うことがあります。
1-3.リファレンスチェックはどのように行われるのか
リファレンスチェックはどのようにして行われるのでしょうか。
リファレンスチェックは主に電話・メールやオンライン会議などを利用して行われます。
最近では、リファレンスチェックをするのに特化したwebツールなども開発され提供されています。
1-4.リファレンスチェックのメリット
リファレンスチェックのメリットとしては、採用のミスマッチを軽減する効果が期待できます。
会社が思い浮かべるスキルとは違うような応募者を採用してしまうことを防ぎます。
1-5.リファレンスチェックのデメリット
リファレンスチェックのデメリットとして、在職中に転職活動を行う場合に、現在の職場の同僚に転職活動をしていることが知られてしまうことです。
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2.会社がリファレンスチェックを行う目的
通常、中途採用にあたっては、履歴書・職務経歴書などの書類選考と、面接での選考が行われます。
しかし、応募書類と面接だけでは、応募者がどのような人か完全に知ることができません。
履歴書・職務経歴書などの書類と面接だけでは、前職での職務内容が本当に正しいかを確認することは不可能な場合もあります。
また、面接の僅かな時間では、その人の人物像は通常はわかりません。
日本では一度雇用をしてしまうと、解雇をすることは非常に難しいです。
自社にない重要なスキルや能力を持った人を迎えようとしているのに、実際にそのようなスキルや能力がないような場合には、採用した人の処遇に困ることになります。
採用する人が本当に自社にマッチしているのかを確認するために、リファレンスチェックは行われます。
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3.リファレンスチェックは違法?法律上の注意点を解説
リファレンスチェックですが、自分に関する情報を取得する点で、人によっては不快であると感じる人もいるでしょう。
そこで、リファレンスチェックは違法ではないのでしょうか。行う場合でも、法律上の注意点も確認してみましょう。
3-1.リファレンスチェック自体は違法ではない
まず、リファレンスチェックをすることや、リファレンスチェック自体を採用をするにおいて条件とすることなどについて、法律で禁止されるものではないので違法ではありません。
3-2.リファレンスチェックは個人情報保護法に違反する可能性
リファレンスチェック自体は法律で禁止されていません。
しかし、リファレンスチェックの方法次第では、個人情報保護法に違反する可能性があるので注意が必要です。
いくつか問題となる可能性があるものについてピックアップしてみましょう。
3-2-1.個人情報保護法とは
個人情報保護法とは、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利・利益を保護することを目的とした個人情報の取扱いに関連する法律で、正式名称は「個人情報の保護に関する法律」といいます。
個人の保護のために必要な措置を必要として、その違反には刑事罰が課されることもあります。
3-2-2.リファレンスチェックで取得したデータは「個人データ」に該当
リファレンスチェックで取得したデータについては、個人情報保護法16条3項における「個人データ」に該当します。
そのため、その取り扱いをする会社は、個人情報保護法16条2項によって、個人情報取扱事業者とされ、個人情報保護法に規定されていることを遵守しなければなりません。
3-2-3.利用目的の特定
個人情報保護法17条1項では、個人情報を取得する場合には利用目的を特定しなければならないとしています。
リファレンスチェックを行う場合には、採用目的であると特定する必要があります。
3-2-4.個人情報を取得する旨の事前の通知
個人情報保護法21条は、個人情報を取得する旨の事前の通知を必要としています。
そのため、面接にあたってリファレンスチェックを行う場合には、採用目的でリファレンスチェックを行う旨を事前に通知する必要があります。
本人がリファレンスチェックを断る場合には、リファレンスチェックをせずに選考を行うか、選考自体をその時点で打ち切るか、が選択肢となるといえるでしょう。
なお、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するもの記述が含まれる個人情報「要配慮個人情報」に関しては、必ず本人からの同意がなければ取得することができません(個人情報保護法20条2項)
3-2-5.同意を得ないで利用目的を超える利用をしてはならない
個人情報保護法18条1項は、同意を得ないで利用目的を超えてリファレンスチェックで取得した内容を超える利用をしてはならない旨を規定しています。
そのため、リファレンスチェックをした本人から採用目的以外でリファレンスチェックで取得したデータを利用してはいけません。
例えば、取得したリファレンスチェックを用いてどのように評価するかという人事部での研修を行う場合、それはもはや採用目的とはいえないので、会社は同意を得る必要があります。
3-2-6.同意を得ないで第三者に提供してはならない
リファレンスチェックは、昔の職場や、応募者がまだ在職中の場合には現在の職場の同僚や上司から話を聞くことになります。
そのため、リファレンスチェックにおいてチェックされる側の会社も、個人情報保護の問題を生じます。
リファレンスチェックを受ける会社が、その内容を質問を受けた会社に対して提供する行為は、個人情報保護法27条1項所定の第三者に提供する行為となり、本人の同意が必要です。
そのため、選考を行う会社としては、リファレンスチェックをする対象者を特定して同意をする必要があるといえるでしょう。
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4.リファレンスチェックに同意する際に確認すべきこと
では、会社に応募した側がリファレンスチェックをすることを告げられたとき、同意をする前に確認すべきことはどのようなことでしょうか。
4-1.リファレンスチェックの目的
リファレンスチェックの目的がどのようなものかを確認しましょう。
リファレンスチェックは採用選考のために利用すれば十分で、それ以上の目的のために利用されるべきものではありません。
採用選考以外の目的が記載されていて、採用選考のために以外に利用されるおそれがないか確認しておきましょう。
4-2.リファレンスチェックでどのような情報を取得するのか
リファレンスチェックでどのような情報を取得するのかを確認しましょう。
リファレンスチェックの目的が採用選考のためだけであるとしても、取得する情報が採用選考には不要なものである場合には、目的外に取得した情報が利用される可能性もあります。
どのような情報を取得するのかを確認して、目的外の利用の可能性が無いかを確認しましょう。
4-3.リファレンスチェックを受ける人
誰がリファレンスチェックを受けるのかを確認しましょう。
リファレンスチェックを受ける人に対して、どのような質問をするのか、可能な限り教えてもらうようにしましょう。
リファレンスチェックを受ける人に事前に質問内容を伝え、正確に情報提供をしてもらうことをお願いするようにしましょう。
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5.リファレンスチェックの質問事項の例
リファフェンスチェックでは次のようなことについて質問がおこなわれます。
- 在籍期間はいつからいつまでか
- 職務経歴について
- 勤務態度はどのようなものであったか
- 仕事に向かう姿勢はどのようなものであったか
- どのようなスキルや技能を持っているのか
- 職場における人間関係
- 業務でどのような実績をあげたか
質問される予定となっている人に、在籍期間のような事実関係はきちんと確認してもらったり、勤務態度のような感想を述べてもらうものについては、それを裏付けるような事実を回答してもらえるようにするのが良いでしょう。
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6.リファレンスチェックを行われるタイミング
リファレンスチェックはどのタイミングで行われるのでしょうか。
リファレンスチェックは、特にどの段階で行われるか明確に決まっているものではありません。
そのため、会社の任意のタイミングで行われます。
リファレンスチェックが、応募者と会社のミスマッチを防ぐものであることから、すべての候補者に行うものではなく、かなり候補者が絞られた後に、その候補者がふさわしいか確認するために行われることが多いです。
そのため、最終的な候補者を面接した後~内定を出す直前までに行われることがほとんどです。
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7.リファレンスチェックの流れ
リファレンスチェックの流れは概ね次のような流れで行われます。
7-1.求職者に実施の同意を得る
ここまでお伝えしたように、リファレンスチェックは求職者の同意のもとに行われます。
そのため、まずはリファレンスチェックについての同意を得ることになります。
この際に個人情報保護法との関係から、取得した情報の利用目的を示して書面で同意を得ることになります。
7-2.質問を行う相手を選定する
質問を行う相手を選定します。
直属の上司と同じ部署の同僚に質問を行うことが多いですが、現職である場合には上司には質問を避けることもあります。
慎重に行う場合には、会社のホームページやSNSを通じて、適切な質問者を探すこともあります。
7-3.リファレンスチェックを行う
リファレンスチェックを行います。
メールや文書で回答を求める場合には、質問者に対してこれらを送付し、回答をしてもらいます。
直接面談をする場合や、電話・web会議を利用するような場合には、日程を決めて会議を行います。
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8.リファレンスチェックから発展する労働問題
リファレンスチェックから発展しうる労働問題については次のようなものが挙げられます。
8-1.同意の無いリファレンスチェックにより損害賠償
同意の無いリファレンスチェックによって損害賠償請求に発展する可能性があります。
リファレンスチェックをするということは、その会社の採用に応募していることが質問の対象となる上司や同僚にわかるということになります。
そのため、在職中にリファレンスチェックを行うことは、上司や同僚に転職活動をしていることを知られることになります。
そのため、現職の上司や同僚にも露見して会社での立場が危なくなり、その上で転職先も採用しなかったような場合には、現職で大きな不利益を被る可能性があります。
このような場合には、会社に対して損害賠償請求をすることが可能となるでしょう。
8-2.リファレンスチェックによって内定が取り消される
リファレンスチェックによって内定が取り消されることがあります。
内定は、応募者から会社に対して求職の申し込みを行ったことに対する承諾と評価されるため、内定の段階で(誓約書などを提出すると)労働契約が成立したとされます。
その結果、労働契約法16条の解雇に関する規定が適用され、「合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には解雇は無効とされます。
そして、最高裁判例は内定の取り消しについて「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」と判示しています(最高裁判所判決昭和54年7月20日)。
そこでリファレンスチェックの結果次のような事情があることがわかれば、内定取り消しも認められる可能性が高いといえます。
- 経歴を詐称していた
- 前職で重大な懲戒処分を受けて退職していた
- 自己アピールが実際よりも過剰で会社が求めるスキルに実際はマッチしない
一方で、次のような事情があるにとどまるときには、内定取り消しは解雇権の濫用として認められない可能性が高いです。
- 単なる解雇であるような場合
- リファレンスチェックの結果が面接で得た印象と少々違った
- リファレンスチェックで質問した相手の主観的な評価のみで内定を取り消した
内定取り消しが認められない場合には、不当解雇された場合と同様に、社員としての地位を求めて会社と交渉し、解決しない場合には裁判や労働審判を起こすことになります。
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9.リファレンスチェックに関するよくあるQ&A
リファレンスチェックについてよくある質問としては次のようなものがあります。
9-1.リファレンスチェックは拒否できる?
リファレンスチェックは拒否できるのでしょうか。
リファレンスチェックをすることは会社の自由で、これに応じないこともまた可能です。
しかし、リファレンスチェックを拒否した場合には、採用選考もそこで打ち切りになる可能性が非常に高いといえます。
在職中であるような場合には、リファレンスチェックによって受ける不利益が大きいことを示し、他の手段での選考をすすめてもらうことができないか、検討してもらいましょう。
9-2.リファレンスチェックについて弁護士に相談するメリット
リファレンスチェックについて違法である場合に、弁護士に相談するメリットには次のようなものがあります。
9-2-1.リファレンスチェックが違法かどうかを判断してもらえる
リファレンスチェックが違法かどうかを判断してもらえます。
リファレンスチェックが違法かどうかを判断するためには、個人情報保護法などの法律に違反するかどうかを判断する必要があります。
個人情報保護法については労働基準法などと比べると情報も少なく、様々なケースで違法かどうかを判断することが困難であることが多いです。
弁護士に相談すれば、リファレンスチェックが違法なのかどうかを判断してもらうことが可能です。
9-2-2.リファレンスチェックが違法である場合の次の行動を知ることができる
違法なリファレンスチェックが行われた場合の次の行動を知ることができます。
リファレンスチェックが違法である場合でも、常に応募先と交渉や裁判が必要になるというわけではありません。
内定が取り消されたような重大な権利侵害がある場合には、正式な採用を確認してもらったり、解決金の支払いを求めて争う可能性もあります。
しかし、リファレンスチェックの項目が多少不適切であったに過ぎない場合、違法であるとしても損害賠償請求を求めて訴訟を起こしても、数万程度の慰謝料が認められる可能性はあっても、労力や費用に見合わない可能性も考えられます。
弁護士に相談すれば、違法なリファレンスチェックに対して次にやるべきことを示してもらうことが可能です。
9-2-3.弁護士への相談は無料でできる
弁護士への相談は無料で行うことができます。
通常は30分5,000円~の相談料の支払が必要となります。
しかし、市区町村の弁護士への無料相談や、法テラスの相談を利用すれば、無料で相談が可能です。
また、法律事務所リーガルスマートでは、初回60分無料で相談が可能なので、お気軽にご相談ください。
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10.まとめ
本記事では、リファレンスチェックについてお伝えしました。
中途採用を中心に、採用のミスマッチを防ぐ観点から行われるリファレンスチェックですが、個人情報保護法というあまりなじみのない法律に抵触する可能性があり、違法となることがあります。
おかしいな?と思ったときには弁護士に相談し、どのようなことを主張できるのかなどを確認してみてみましょう。
私たち法律事務所リーガルスマートは、リファレンスチェックのトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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