残業代請求

残業手当とは?未払い時の対処法や請求方法などを弁護士が解説!

残業手当とは?未払い時の対処法や請求方法などを弁護士が解説!
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企業から残業手当が支払われず、トラブルになるケースも少なくありません。労働者としては自身で残業代の計算して請求するなどしなければ、会社側に丸め込まれてしまって正当な残業代を支払ってもらえないかもしれません。

そこで今回は、残業手当が支払われない場合のトラブル対処法や弁護士に依頼するメリット、弁護士の選び方などについて解説します。

1.残業手当とは何か?

残業手当とは、労働者が時間外労働や休日労働を行った場合に労働者に対して支払わなければならない手当を指します。労働基準法では、1日8時間、週40時間を「法定労働時間」として定められています。この法定労働時間を超えて働いた場合、残業手当として割増賃金を支払う必要があります。残業手当の割り増し率については、法定休日や深夜残業によって異なります。

しかし「残業代が支払われていない」といったケースは多々あります。

そのため、残業した場合には、どのくらいの残業代を支払ってもらえるのか、労働者としては自ら確認して把握するようにしましょう。

1-1.残業手当の法的根拠と定義

残業手当の割増賃金については、労働基準法第37条に規定されています。

一部抜粋すると「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」と定められています。

引用元:e-Gov法令検索 労働基準法

労働基準法では、1日に8時間、1週間に40時間を超える(休憩時間を除く)労働は禁止されています。ただし、労使協定で定めることで変形労働時間制を取っている会社など、一部例外があります。この労使協定のことを36協定(サブロク協定)と言います。

労働基準法では、労使協定を結んだ場合の残業時間数の上限や、労使協定下で残業した場合の賃金の割増率について規定されています。労使協定が存在しない状態で法定労働時間外に残業させることはできません。

また、法定労働時間の他に「所定労働時間」というものがあります。所定労働時間とは、企業が定めた労働時間のことを指します。この所定労働時間を超えた労働のことを所定時間外労働と言います。例えば、所定労働時間が1日6時間であるところ、7時間働いた場合には、差し引き1時間分の労働が所定時間外労働に当たります。

当然ながら、所定労働時間は法定労働時間を超えてはいけません。所定労働時間を超えて法定労働時間内に留まる時間に残業を行うことを法廷内残業と言います。

たとえば、勤務時間が10〜18時(休憩1時間)と決められている場合、所定労働時間は7時間です。この会社で19時まで働いた場合(労働時間8時間)には、法定労働時間との差である1時間が法定内残業となります。法定内残業に対しては、通常の賃金割合による時間外手当が支払われます。

これに対して、法定時間外労働に対しては、通常の賃金割合に割増率を乗じた割増賃金を、時間外手当として支払う必要があります。法定時間外労働に対する割増率については、労働基準法では、以下のように定められています。

(1)時間外労働(1日8時間・週40時間)のいずれかを超える

  • 時間外労働が月60時間までの:1.25倍以上
  • 時間外労働が月60時間を超える:1.5倍以上

※中小企業の割増率は、2023年年3月末まで1.25倍以上でしたが、4月以降は大企業と同じく1.5倍以上となりました。

(2)深夜労働(22~5時の労働)

1.25倍以上

(3)休日労働

1.35倍以上

(4)時間外労働(月60時間まで)と深夜労働が重複

1.5倍以上

(5)時間外労働(月60時間を超える)と深夜労働が重複

1.75倍以上

法定労働時間を超える場合は、正社員や契約社員、パート・アルバイトなど、雇用形態に関係なく残業手当を支払わなければなりません。

1-2.残業手当と時間外手当の違い

残業手当と時間外手当は、同じ意味で使われることがありますが、少し違うところがあります。

それは、残業手当は法定内残業(所定労働時間を超えるが法定労働時間内の残業)への残業代という意味と、法定労働時間外残業への残業代の双方を指して使われますが、時間外手当は、労働基準法で定められた法定労働時間を超える残業への残業代のみを指して使われます。

つまり、会社の就業規則で定められた所定労働時間などを超えて働いた場合は「残業手当」、労働基準法で定められた労働時間を超えて働いた場合は「時間外手当」となります。

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2.残業手当が支払われないトラブルの原因と対策

ここでは、残業手当が支払われないトラブルの原因と対策について解説します。

2-1.労働契約書や就業規則の確認

労働契約書では仕事の内容や日数、労働時間、賃金など、さまざまな取り決めがされています。

また、労働基準法15条には、労働条件を書面などで明示しなければならないと規定されており、その内容として、所定労働時間外の労働の有無と賃金の計算方法の記載が必要です。

つまり、契約書に所定労働時間外の労働は無いと記載されているのに残業が生じた場合には、厳密に言えば労働基準法15条に違反することになります。まずは労働契約書に所定労働時間外の労働の有無の記載があるか、有る場合には、残業手当の計算方法が記載されているかを確認しましょう。

また、会社によっては固定残業代制を導入しているところもあります。固定残業代とは、毎月一定の金額を固定残業代として支払うという定めのことです。固定残業代を制度として設けるためには、契約書ないしは就業規則で、固定残業代の金額、計算方法(基礎賃金、割増率、残業時間などの算定根拠)を定める必要があります。

たとえば、月給18万円(固定残業30時間分に対する3万円を含む)というような記載がある場合、固定残業代に定められた時間を超えて残業を行った場合、会社側は別途残業代を支給しなければなりません。

そのため「固定残業代を支払っているので、これ以上の残業代は支払うことはできない」といった会社側の言い分は通用しないのです。

また、そもそも固定残業代の定めが法律的に有効なものかどうかも確認する必要があります。

いずれにしても、残業手当については労働契約書や就業規則をしっかりと確認し、適切な残業代が支払われているかどうかをチェックする必要があります。

2-2.勤務実態の証明

残業手当が支払われないトラブルを避けるには、勤務実態の証明も重要です。勤務実態の証拠がなければ、残業代を請求するのは難しくなるでしょう。勤務実態を証明するものとして、タイムカードや出退勤時刻を示すパソコンのデータ、メール、グループウェアなどが挙げられます。LINEでのやり取りや残業するように指示されたメモなども有効です。残業手当の支払いに関する記載がある労働契約書、雇用通知書も証拠となるでしょう。

使用者は、労働者名簿や賃金台帳等を作成、保存すべき義務を負っており、その中には労働者の出退勤時刻の管理も含まれています。したがって、残業時間が分からない場合には、まずは会社に勤務実態を証明する書類を出してもらうようにしましょう。

2-3.労働基準監督署への申し立て

労働基準監督署では、相談や申告を行うことができます。未払いの残業手当がある場合には、労働基準法の違反となるため、労働基準監督署に申告すれば、労働基準監督署から会社に対して指導、勧告をしてもらうことができます。申告する際に費用はかかりません。

ただし、申告すれば労働基準監督署に必ず対応してもらえるわけではありません。可能であれば、給与明細やタイムカードなどの具体的な証拠を提示しましょう。証拠が入手できない場合には労働基準監督署の判断で調査を行ってもらえる可能性もありますので、勤務実態を正確に伝えるようにしましょう。

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3.残業代請求の手続きと期間

未払い残業代の請求には、手続きの方法や請求期間を知っておく必要があります。

ここでは、残業代請求の手続きと期間について解説します。

3-1.残業代請求の方法と手続き

残業代を請求するには、自分で請求する・労働基準監督署に相談する・弁護士に依頼するなどの方法があります。

(1)自分で請求する

自分で請求する場合は、給与明細や雇用契約書、パソコンのログデータ、メール、勤怠記録など、勤務実態が証明できるものを準備します。

ただし、残業代の計算から会社側との交渉、労働審判の申し立てや訴訟の手続きまで自ら行うため、専門的な知識が必要になります。

(2)労働基準監督署に相談する

労働基準監督署に相談すると、残業手当を支払っていない会社側に是正勧告・指導を行ってもらえます。労働基準監督署の是正勧告などで支払いに応じる企業もありますが、強制力はないため、必ずしも未払いの残業代を支払ってくれるとは限りません。

(3)弁護士に依頼する

自分で残業代を請求するのが難しい場合や労働基準監督署に相談しても会社側が拒んでいるときは、弁護士に依頼したほうが良いでしょう。

弁護士に依頼すれば、割増率や基礎賃金などをもとにした正確な残業代を算定してもらうことができ、さらに残業代とこれに対する遅延損害金なども含めて請求してもらうことができます。こうした未払いの残業代についてすべてを任せられるのが弁護士に依頼する大きなメリットです。雇用契約書や就業規則、タイムカードなど、細かく調査し、依頼者に有利な条件で請求できるでしょう。

これらの証拠がない場合には、弁護士から会社に対して開示を求めることも行ってもらえます。労働審判や訴訟となった場合でも、法律の専門家である弁護士に手続きを全て任せることができ、安心です。

ただし、弁護士に依頼する際は着手金、成功報酬などの費用がかかります。初回相談料が無料というところもありますので、まずは相談するところから始めてみましょう。

3-2.残業代請求期間の法的な枠組み

未払い残業代の消滅時効は、2020年4月1日より2年から3年へと伸長されました。

2020年4月1日の改正民法により、短期消滅時効が廃止され、債権の消滅時効は原則、5年に統一されています。

これを受け、残業代の未払い請求についても5年にするべきといった意見もありましたが、企業側などの反発もあり、現行の労働基準法では3年が期限となっています。

ただし、残業代の未払いについて会社が承認していた場合など、時効が更新されて3年以上前の分についても請求できるケースもあります。

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4.残業代請求の注意点とリスク

ここでは、残業代請求の注意点とリスクについて解説します。

4-1.残業代請求に必要な証拠と証明書類

残業代請求に必要な証拠には、残業代の計算したものやタイムカード、、パソコンのログイン・ログアウト記録、メモ、業務日報など、さまざまなものがあります。

残業代請求の証明書類は、給与明細や労働契約書、労働条件通知書、就業規則などです。

これらの証拠がない場合には、まずは会社側に対して開示を求めましょう。弁護士に依頼すれば、弁護士が代わりに行ってくれます。

4-2.企業側の立場とリスク

労働者に未払い残業を請求される場合の、企業側のリスクについて説明します。

(1)多くの従業員から未払い残業の請求を受ける

一人の従業員が未払いの残業代を請求すると、他の従業員からも未払いの残業代を請求される可能性が高いです。勤怠管理をしっかりと行っていないという情報が社員間で共有され、1人が請求すれば他の社員も影響を受けるからです。

(2)退社する従業員が増える

残業手当の未払いがあると、従業員からの信用を失い、退職者が増えるケースも否定できません。優秀な人材が流出してしまうリスクがあります。

(3)訴訟を提起される

未払いの残業代について労働審判や訴訟を提起されると、従業員からの信頼を失うのみならず、株主からの信頼を失ったり、世間にマイナスの印象が広がるなどして、社会的評価が下がるリスクもあります。

これらのリスクを回避するためには、会社としても残業手当は適切に支払っておくべきということが言えます。

4-3.未払い残業代のトラブル対処法について

未払い残業代を巡って労働者側と企業側がトラブルになることもめずらしくありません。内容によっては、労働審判や裁判に移行する可能性もあります。

そのため、企業側にとっては早い段階で弁護士に相談する方が賢明と言えます。

なお、労働審判は、労働者と事業主との間でトラブルが生じた際に迅速な解決を図ることを目的とした手続きです。労働審判官1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が審理します。訴訟に移行した場合、未払の態様が悪質と判断された場合には付加金の支払を命じられることもあります。

したがって、 未払い残業代について労働審判や訴訟を起こされる前に、もっと言えば、トラブルが生じる前に弁護士に相談するのが得策と言えます。

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5.弁護士に相談するメリットと注意点

ここでは、弁護士に相談するメリットと注意点について解説します。

5-1.弁護士に相談するメリットとは

(1)証拠の収集ができる

タイムカードやその他の勤務記録などを労働者が持っていない場合もあります。

弁護士に依頼すれば、会社側に対して証拠の開示請求を行ったり、会社が開示に応じない場合には裁判書を通じて証拠保全の申し立てを行うなどの対応もしてくれます。

(2)残業代の計算をお任せできる

残業代を算出するにはタイムカードやパソコンのログデータなど、さまざまな記録から確認する必要があります。

また、基礎賃金の算定や割増率の適用など、自分で計算すると時間と手間もかかるので、弁護士に依頼すれば計算に関する負担がなくなります。

(3)企業との交渉がスムーズ

未払いの残業代を請求するには、企業側と交渉しなければなりません。自分で交渉するとうまくいかないことも少なくありません。法律の専門家である弁護士に依頼すると交渉もすべて弁護士が行ってくれますので、精神的な負担も軽減します。

5-2.弁護士選びのポイントと注意点

(1)未払い残業などに強い弁護士を選ぶ

弁護士に依頼するといっても選び方が重要になります。弁護士の中でも民事や刑事、労働、不動産など、それぞれ得意分野があるのです。未払い残業代の請求を得意とする弁護士に依頼することがポイントになります。弁護士事務所のホームページで労働問題などを得意とする内容が記載されいるかを確認しましょう。

(2)実績のある弁護士を選ぶ

ホームページや口コミなどで、未払い残業代の請求について知識や実績のある弁護士を選ぶことが大切です。弁護士事務所のホームページには、残業代の請求額が記載されている場合もあるため、確認しておくとよいでしょう。

(3)円滑なコミュニケーションができる

弁護士に依頼する際は、話しやすく、コミュニケーションをスムーズに進められることも大切です。

話しにくくなると事実をうまく伝えられず、残業代の請求にも影響を及ぼす可能性があります。

弁護士とのやりとりは慣れない方も多いでしょう。親切で話をしっかり聞いていただける弁護士であれば、精神的な負担も少なく進められます。

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6.残業代が支払い場合のお問い合わせ先

残業代が支払われない場合は、各種問い合わせや相談するところから始めると良いでしょう。

6-1.残業手当に関する相談窓口まとめ

(1)社内の相談窓口や労働組合

まずは、社内の相談窓口や労働組合などに問い合わせる方法があります。

社内の相談窓口については、正当に機能している会社ならば良いですが、会社によっては、相談窓口が機能しておらず会社側の立場でしか考えてくれないこともあるため、相談したからといって必ずしも残業代が支払いに繋がらない可能性もあります。労働組合への相談も可能です。

また、残業代の請求に加え、組合活動を通して労働環境の改善も期待できます。団体交渉を行うと企業側は原則、受け入れなければなりません。ただし、労働組合を利用する際は、労働組合に加入する必要があります。

(2)労働条件相談ほっとライン・総合労働相談コーナー

「労働条件相談ほっとライン」では、未払いの残業代を含めた労働基準関係法令に関する問題について専門の相談員が問題解決を図る窓口です。利用料金はかかりません。匿名の相談も可能となっているので、気軽に相談できるのもメリットの一つです。

相談方法は、電話やメールなどがあります。

労働条件相談ほっとライン
0120-811-610

総合労働相談コーナーでは、未払いの残業代のほか、労働問題全般に幅広く相談が可能です。相談内容に応じて解説方法を提案していただける個別労働紛争のあっせんを行っています。予約不要で相談料はかかりません。秘密厳守です。全国の労働基準監督署内などの379か所に設置されています。

総合労働相談コーナー

6-2.弁護士事務所へのお問い合わせをする

弁護士事務所の中には、初回相談無料のところも多く存在します。

忙しくて相談に行くのが難しい方は、Zoomなどによるオンライン相談を可能としている弁護士事務所もあります。

前述したとおり、労働問題専門の弁護士や未払いの残業代請求を得意とする事務所を選ぶことが大切です。

7.まとめ

残業手当とは、法定労働時間の時間を超えて働いた場合に従業員へ支払わなければならない残業代を指します。

残業代請求の方法は、自分で請求・労働基準監督署に相談・弁護士に依頼するなどです。

弁護士に依頼すれば、証拠の収集や残業代の計算などすべて行ってくれますし、企業との交渉もスムーズに行きやすいなど、労働者側の負担が大幅に軽減されます。労働問題に長けており、未払い残業などに強い、実績が豊富な弁護士に相談するようにしましょう。

まずは気軽に相談したいという方は、無料相談を実施している弁護士事務所も多数ありますので、ぜひお気軽に弁護士に相談してみてください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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