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固定残業代とは?メリット・デメリットや計算方法を弁護士が解説

固定残業代とは?メリット・デメリットや計算方法を弁護士が解説
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毎月支払われる基本給に加え、あらかじめ残業手当が設定されている場合があります。

しかし、労働者と企業の間で「固定残業代」に関するトラブルが発生することもめずらしくありません。正しい知識を身につけていないと、適切に残業代が支払われていないこともあるのです。

そこで今回は、固定残業代の仕組みや算出方法、固定残業代についてのトラブル、解決方法などについて解説します。

1.固定残業代とは

ここでは「固定残業代」というのは、どのような制度であるのかを解説します。

1-1.固定残業代とは何か

固定残業代は毎月支払われる基本給に加え、残業手当を含めて支払う制度です。

一般的には毎月の労働時間に伴い、残業代が支払われますが、あらかじめ◯◯時間残業したとみなして支払われるシステムを指します。2017年にトヨタ自動車が取り入れたことで話題となりました。

固定残業代は、みなし残業代とも呼ばれています。

固定残業代は、実際に残業したかどうかにかかわらず、時間外労働、休日労働、深夜労働などを含めた一定の金額が支払われるのが特徴です。

たとえば、月に10時間分の固定残業代が支給されているケースでは、残業時間が0〜9時間であっても10時間を超えなければ月給は変わりません。

ここで注意すべきは、固定残業代分を超過した残業に対しては別途の残業代が支払われるという点です。

1-2.固定残業代制度の概要

固定残業代制度を取り入れる場合は、従業員との個別の労働契約ないしは就業規則にて内容を定めなければいけません。

就業規則を変更した際、労働者の過半数を代表するものの意見書を添付して変更後の就業規則を労働基準監督署に届け出る必要があります。

固定残業代制度を取り入れる要件は、以下のとおりです。

(1)固定残業代が基本給など、それ以外の賃金と明確に区別されている

基本給の中に○○時間の残業代が含まれるといった記載は認められません。

(2)何時間の残業代が含まれているのか、明確に規定されている

基本給などと固定残業代を分けるだけでなく、何時間の残業代が含まれているのか、残業算定のための基礎賃金と割増賃金率とともに具体的な計算方法と金額を記載しておくことが必要です。

つまり基本給18万円、2万円を固定残業代という記載では足りず、何時間分が2万円であるのか、基礎賃金○○円、割増率25%などの算定式まで記載しなければなりません。

法律上、割増賃金の割増率は一定ではなく、以下のように法定時間外労働や深夜労働などによって異なります。

  • 深夜労働:25%
  • 法定時間外労働:25%
  • 法定休日労働:35%
  • 深夜労働+法定時間外労働:50%

時間外労働の限度時間は45時間となっています。36協定を結んでいる場合でも原則として月45時間を限度としなければなりません。

その他、労働契約書や給与明細書についても何時間の残業代が含まれているのか、明確に記載する必要があるため、注意しましょう。

時間外労働が固定残業代で定めた時間・金額を超えた場合は、別途割増賃金を加算して支給する必要があります。固定残業代を超える時間外労働が発生した場合は、別途割増賃金を加算して支給する必要があるため、勤怠管理を徹底しなければなりません。

なかでも割増率の異なる残業については注意が必要です。

たとえば、時間外労働15時間として、時間外労働17時間、深夜労働3時間のケースでは、時間外労働が2時間、深夜労働が3時間の加算支給が発生します。

このように勤怠管理と給与計算の事務処理が重要となり、スムーズに行かない場合はオペレーションの見直しも検討しましょう。

一方、固定残業代制度を就業規則に記載する場合は、以下の点に注意しなければなりません。

  • 固定残業代が割増賃金の支払いとして支給されることを明確に示す
  • 固定残業代を上回る残業代が発生した場合、超過分を支給する内容を記載する
  • 固定残業代を時間外割増賃金や休日割増賃金、深夜割増賃金に充てられるかどうかを明確に示す
  • 毎月の給与明細に固定残業代と固定残業代に対応する残業時間数を記載する

1-3.固定残業代制度のメリットとデメリット

(1)固定残業代制度のメリット

残業の有無を問わず固定残業代が支払われる

職種によっては繁忙期や閑散期の時期が異なるため、毎月の給料が安定しないこともめずらしくありません。

しかし、固定残業代制度では、残業が比較的少ない場合でも全く残業がなかった月でも固定残業代が支払われることが大きなメリットです。

公平に残業代が受け取れる

職種や会社によっては、能力の有無で残業が多い方、少ない方などの差が出てくることもあります。

その一方で、能力が低いために残業が重なり、能力の高い方が定時に仕事を終わらせ、

残業が少なくなるといった現象もあるでしょう。

固定残業代制度では、残業代の金額が公平となるため、給料の差が生じません。

残業した分だけ支払われる

固定残業代制度は「いくら残業しても毎月、一定の残業代のみ支払われる」というわけではありません。

毎月、残業代が減るのではなく、固定残業時間を超えた場合は、超過分の残業代が支払われます。

④収入が安定する

通常の残業代は、残業をするとしないのとでは大きな差が生じるため、収入が不安定になりがちです。

しかし、固定残業制度ではあれば、毎月一定額が支給されるので収入は安定するでしょう。

⑤業務効率化につながる

毎月一定額の残業代が支給されるのであれば、残業時間をできるだけなくす方が労働者にとってメリットが大きいでしょう。

残業時間をできるだけ減らす工夫を行うことで、業務効率化が期待できます。

(2)固定残業代制度のデメリット

基本給が低いケースもある

残業代が増える分、人件費が多く発生するため、基本給が低く設定されている場合もあるでしょう。

しかし「基本給18万円」と表示することにより「月給23万円(固定残業代5万円含む)」と記載した方が月給が多く見えます。固定残業代を毎月支給していても、固定残業代を超えた分は追加で支払わなければなりません。

そのため、残業代の負担増を考慮し、基本給を低めに設定する企業もあるでしょう。

また、毎月の固定残業代が支払われる場合であっても、賞与が「基本給〇ヶ月分」というふうに少なくなる場合もあります。

②追加の残業代が支払われないケースもある

固定残業時間を超えると追加で残業代を支払う必要がありますが、いわゆるブラック企業の場合は、超過部分の残業代を支払わないケースもあります。

しかし、これは法律の解釈を誤っています。超過部分に対して残業代を支払う必要があります。会社側から「固定残業代を支給しているから、これ以上は残業代は出ない」と言われて丸め込まれることが無いように注意しましょう。

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2.固定残業代の算出方法

固定残業代の算出方法は、通常の残業時間の算出方法と異なります。

2-1.基本給と固定残業代の関係

基本給とは、毎月の給与として労働者に支払うベースとなる金額を指します。

基本給には残業手当や通勤手当、家族手当、住宅手当などは含まれておりません。月給以外にも週給、年棒などの支払い形態もあります。

前述のとおり、固定残業代は、一定額の毎月支払われる基本給に加え、残業手当を含めて支払う制度です。

基本給は、さまざまな手当を除く部分なので毎月の基本給に変動はありません。

固定残業代も変動がないため、固定残業代と基本給をセットにして基本給に含めて考えることができると誤解されがちですが、固定残業代は基本給には含まれません。

2-2.時間外労働の実績と固定残業代の関係

時間外労働は、定められた労働時間を超えて働くことを指します。

会社が定めた労働時間を所定労働時間と言い、これに対して、法律が定める労働時間を法定労働時間といいます。

法定労働時間は、労働基準法により1日8時間、1週間40時間と規定されています。

法定労働時間は、長時間の過酷な労働により、健康が損なわれることを防止するためのものです。そのため、原則として法定労働時間以上に労働させることはできません。時間外労働を行うには、36協定を締結しなければなりません。

36協定によって法定労働時間を超える残業をさせる場合には、法律が定める割増率を乗じた金額による残業代を支払わなければなりません。

たとえば、9時〜17時(休憩1時間)の場合は、法定労働時間(1日8時間)を超えていないため、割増賃金は発生しません。他方、9時〜19時(休憩1時間)の場合は、1日9時間労働となり法定労働時間を超えているため、超過した1時間に対して割増賃金が発生します。

休日や深夜に働いた場合にも、割増賃金が発生します。

2-3.時間外労働の時間単価と固定残業代の算出方法

法定時間外労働での賃金(残業代)は、原則として1時間あたり賃金の25%増となり、以下のような算出方法となります。なお、休日に働いたケースなどでは割増率が変わります。

1時間あたりの賃金×1.25(割増率)×残業時間

 1時間当たりの賃金は「月給÷所定労働時間÷所定労働日数」で求められます。

一方、固定残業代の算出方法は、以下のとおりです。

固定残業代=1時間あたりの賃金額×固定残業時間×割増率

月平均所定労働時間は、1年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12ヵ月で求めます。

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3.固定残業代の支払いに関するトラブル

固定残業代はあいまいな金額で定められているケースもあるため、トラブルになることもめずらしくありません。

ここでは、固定残業代の支払いに関するトラブルについて解説します。

3-1.固定残業代が適正に算出されていない場合の問題点

固定残業代についてはあいまいな時間や金額が記載されている場合もあり、トラブルになるケースもめずらしくありません。

たとえば、月給20万円(みなし残業手当〇〇時間分含む)+交通費(上限2万円) などのような残業代の金額がわからない場合もあるのです。

場合によっては、月給20万円(一律残業手当含む)と記載されることもあります。

時間や金額がわからないのであれば、固定残業代の定めは無効となるでしょう。

また、 固定残業代が適正に算出されていないケースもあります。

基本給〇〇円(固定残業代を含む)と記載されていると、固定残業代がいくらなのか明確でないため、適正に算出できません。

3-2.固定残業代が適正に支払われていない場合の問題点

固定残業時間を超えると、その超過分を別途支給しなければなりません。しかし、固定残業代制度を毎月、一定額の残業代を支払っているので「それ以上支払う必要がない」と捉えている企業も存在しますが、これは誤りです。固定残業代を超える残業が発生した場合には超過部分の残業代を別途支払う必要があります。

他方で、会社としては固定残業代を制度として定めた以上は、実態として残業時間が少なくなった月があったとしても固定残業代を一方的に減額することはできません。就業規則の変更などの適正な手続きを踏んで行わなければなりません。

3-3.固定残業代制度自体が違法である場合の問題点

通常の労働時間による基本給と固定残業代は明確にする必要があり、月給20万円(みなし残業手当〇〇時間分含む)といったあいまいな記載は、無効となる可能性が高いです。

また、固定残業時間を超えて働いた分の残業代を支給しない場合は違法となります。

小里機材事件という最高裁判例で示されています(最高裁昭和63年7月14日判決/労働判例523号6頁)。

この最高裁判例では、固定残業代の有効性について基準を示した重要な判決です。

固定残業代を認定した上で、下記の2つの要件を示しました。

  • 基本給と残業代が明確に区分されて合意されていること
  • 労働基準法の計算方法による金額がそれを上回るときは差額を支払う

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4.固定残業代に関する労働紛争の解決方法

固定残業代が原因となるさまざまなトラブルについては、解決できないわけではありません。いくつかの解決方法があるためです。

ここでは、固定残業代に関する労働紛争の解決方法について解説します

4-1.労働基準監督署への申し立て

固定残業代に関するトラブルが生じた場合は、労働基準監督署に申し立てを行うのも一つの方法です。

労働基準監督署では「相談」と「申告」を受け付けています。

労働基準監督署は固定残業代のトラブルについて、聞き取りや調査を行い、必要に応じて是正・指導を行ってもらえます。

相談や申し立ての際は、あらかじめ十分な証拠を集めておく必要があります。

しかし、労働基準監督署が固定残業代を回収してくれるわけではありません。

あくまでも是正・指導などにとどまります。

4-2.労働審判の申し立て

労働審判は、労働者と企業の間に生じたトラブルを解決する制度で、裁判所に申し立てることができます。

労働者としては、証拠を収集し、裁判所に提出する必要があります。また、申立てに際して、印紙代や予納郵券代などの実費がかかります。

労働審判では、労働審判官(裁判官)と労働審判員2人で組織された労働審判委員会が個別の労働紛争に対して原則として3回以内の期日で審理します。

労働審判委員会は、双方から口頭で事実関係などの主張を聞き、解決策がまとまれば調停が成立します。審判手続き内で話し合いがまとまらなかったときは、裁判所が審判を出すことになります。審理期間が訴訟よりも期間が短くてすみますし、審判には訴訟の判決と同様の効力が生じます。審判が確定した場合には、強制執行を申し立てることも可能です。

ただし、労働審判に対して不服がある場合には当事者は異議申立てができ、異議申し立てがあると、通常の訴訟手続きに移行します。

4-3.労働裁判所への訴訟

労働裁判は民事訴訟のうち、労働問題に関する訴訟を指します。

裁判は、会社の本社・本店の所在地、原告が働いていた営業所の所在地などが労働訴訟の管轄になります。

裁判所で開かれる口頭弁論期日、弁論準備期日にて当事者が訴状、答弁書、準備書面等の書面に基づいて主張を述べて、それを裏付ける証拠などを提出し、証人尋問などを経て、最終的には裁判所が判決を出します。

労働裁判は概ね約1年程度かかります。裁判の中で、当事者双方が譲歩して和解が成立して終了となることもあります。

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5.まとめ

固定残業代は毎月支払われる基本給に加え、あらかじめ◯◯時間残業したとみなして支払われる制度です。

固定残業代の算出方法は、以下のとおりです。

固定残業代=1時間あたりの賃金額×固定残業時間×割増率

固定残業代のメリットとして、公平に残業代が受け取れる、収入が安定する、残業の有無を問わず固定残業代が支払われるなどがあります。

デメリットは、基本給が低く設定されているケースがあり、また、超過部分に対する残業代が適切に支払われていないケースも生じるなどが挙げられます。

固定残業代に関する労働紛争の解決方法としては、労働基準監督署への申告や、裁判所に対して労働審判の申し立て、訴訟提起などがあります。

労働審判、訴訟を行うには、専門的な法律の知識が必要になります。

固定残業代に関する紛争に不安な方は、法律専門家である弁護士にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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