残業代請求

保育士の残業はなぜ多い?残業代を請求する方法を弁護士が解説!

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1.保育士の残業の実体

近年、政府の働き方改革の推進により、残業時間の見直しが求められています。

しかし、保育士は子どもの未来を支援する重要な業務であるにもかかわらず、残業時間の多さを理由に離職してしまう保育士が後を絶ちません。

早朝から深夜、あるいはイベントや行事のために休日も仕事することが常態化している保育業界において、そもそも定時外の労働を労働時間としてカウントし、残業代としてきちんと請求されているのでしょうか?

そこで本記事では、保育士の残業の実態をみながら残業が多くなる理由、どこから残業代の対象になるのか、残業代の請求方法について労働問題を専門とする弁護士が解説します。

1-1.保育士の仕事の現状

厚生労働省の平成30年賃金構造基本統計調査のデータでは、全国の保育士の所定内実労働時間数は163時間でした。

これは、月20日勤務として1日に換算すると約8時間の労働時間となり、保育士の労働時間が特別に多いことにはなりません。

しかし、保育士の仕事には子どもたちの保育業務のほか、保育日誌、保育計画書、保護者向けのクラスだより、各種イベントや行事計画とその準備など、多くの事務作業があります。

こうした事務作業は、所定の勤務時間外にサービス残業としてこなしているか、あるいは家での持ち帰り残業とされ、労働時間に含まれていないことが伺えます。

1-2.保育士の平均残業時間

厚生労働省の平成30年賃金構造基本統計調査のデータによると、全国の保育士の平均残業時間は1か月あたり4時間となっています。

これは、月20日勤務として1日に換算すると約12分の平均残業時間となります。

しかし、1日平均約12分の残業で保育以外の業務を終えられる、とは考えにくいでしょう。

このデータが示すのは、明らかに多くの保育士が残業時間を正規の残業として申告せずに、サービス残業として労働していたことが考えられます。

こうしたサービス残業を含めると、保育士の1ヶ月あたりの残業時間が40〜60時間にもなる保育所もあります。これは1日に換算すると約2〜3時間の平均残業時間となります。

参考:厚生労働省/賃金構造基本統計調査

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2.保育士の残業が多くなる理由

厚生労働省のデータでは、特別に保育士の労働時間が多いというわけではないのに、現状は多くの残業を強いられています。

なぜ、これほど残業が多いのでしょうか?

ここでは、保育士の残業が多くなる理由についてみていきます。

2-1.人員不足である

保育士の残業が多くなる理由の第一にあげられるのが、保育士の人材不足です。

厚生労働省では、保育人材を確保するために、保育士の処遇や労働環境の改善を図るための様々な支援策を事業主である保育園に勧めています。

たとえば、子育て支援新制度の一環として、平均3%相当の処遇改善加算や保育士の離職防止のための雇用管理研修の実施、保育分野の求人と求職者のマッチング支援などです。

しかし、こうした政府の支援策の推奨にもかかわらず、保育業界では以前として慢性的な人材不足が深刻化しています。

保育園の人材が不足すれば、各々の保育士の負担は大きくなり、保育活動以外の事務作業は必然的に持ち帰り残業やサービス残業として常態化してしまいます。

参考:厚生労働省/保育人材の確保

2-2.日常の仕事量が多すぎる

保育園の人員が不足していることは、結果として保育士一人当たりの日常の業務量が増大することになり、勤務時間内に仕事を終わらせることができなくなります。

多くの保育園では、早朝7時から19時まで子どもたちを預かり保育を行います。この間は、子どもたちから目が離せないため、事務作業は閉園してから行わなければなりません。

また、保育業務や事務作業以外にも、保護者との対応に時間をとられたりすることもあるでしょう。

たとえ保育園のほうから勤務時間内に仕事を終えるように指示があっても、子どもたちや保護者たちの状況によっても、日常の業務を終えられず定時に帰宅できなくなります。

2-3.イベントの準備に時間がかかる

保育園では、運動会や夏祭りなど季節ごとにさまざまなイベントや行事が開催されます。園児も保護者も楽しみにしているイベント行事ですが、開催には事前準備が必要です。

イベントや行事の準備では、計画書や役割分担、保護者への連絡、室内や園庭の飾り付けから衣装づくりに至るまで、様々な準備を行わなければなりません。

3月から4月の入園式や卒園式においては、式の準備のみならず行政や小学校に提出するための必要書類の作成など事務作業が多くなります。

この他にも、誕生会や参観日、父兄懇談会などの定例行事も加わるため、保育士の業務は増大するばかりで、残業が必然的になってしまいます。

2-4.持ち帰りの仕事が多い

保育士の仕事には、保育業務に加えて様々な事務作業がありますが、勤務時間中に終えることができないため、やむを得ず家に仕事を持ち帰らなければならないことが多くなります

保育園の中には、残業しないように指示される場合もあるため、閉園後に正規の残業として事務作業ができなければ、必然的に仕事を持ち帰らなければならないでしょう。

中でも、保育日誌やクラスだよりの作成、上記のイベント行事の計画書の作成などの事務作業の多くは、多くの保育士が自宅で行い残業代が申請されていないのが現状です。

2-5.保育園内の会議や研修が多い

保育園では、勤務時間外に保育士を集めた会議や研修、または保育士の保育技術を高めるための園外で実施される研修会に参加しなければならないことが多くあります。

会議では、保育園内でのトラブルや保護者への対応、今後の改善策などが話し合われることが多いため、ほぼ強制的に参加しなければなりません。

こうした会議や研修は、強制参加であり業務の一環であるにもかかわらず、残業代が支給されていないケースが多く見られます。

さらに、保育士の残業が多くなる理由として考えられるのは、膨大な業務量のみならず、園長や主任などの周囲の者が残業をしていると、自分もしなければならない雰囲気のため敢えて残業をしていることもあります。

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3.保育士の残業代はどこからが対象なのか

保育士の業務の内、業務量が多いために勤務時間内に業務が終わらず、残業しなければならない業務については、残業代が発生する可能性が高くなります。

具体的には、以下の3つの業務は残業代の対象となるでしょう。

3-1.休憩時間中の業務

休憩時間とは、業務から完全に離れて休憩することが保証された時間のことをいいます。したがって、業務から完全に離れられない時間は休憩時間ではなく労働時間とみなされます。

保育園で休憩時間をとる場合、園から完全に離れて休憩をとることは難しいでしょうが、少なくとも職員室など園児から離れて休憩をしなければ、休憩時間とはいえません。

保育士の休憩時間は、園児たちを寝かしつけたお昼寝の時間に充てられることが多いようですが、保育園側からこの時間帯に園児たちの監督を命じられていれば労働時間となります。

労働時間であれば、これを残業代として請求することが可能になります。

3-2.サービス残業

日常の業務量が多すぎるため、勤務時間内に業務を終えることができずに残業を強いられる場合には、残業代が発生する可能性が高くなります。

たとえば、保護者のお迎えの時間が遅くなったり、勤務時間外に保護者の相談に対応したり、またイベントや行事の会議をしたり練習をする場合などもサービス残業に含まれるでしょう。

こうした状況は、事業主である保育園の指揮命令の下で業務を行っているものとみなされる可能性が高いためといえます。

3-3.持ち帰り残業

勤務時間中は園児の保育に集中しなければならないため、保育日誌やイベントの計画書など事務作業を自宅に持ち帰り残業する場合も、条件によっては残業代が発生するでしょう。

特に、保育園から自宅へ持ち帰りして仕事を終わらせる指示があったり、自宅に持ち帰らなければ締切りに間に合わないなど、持ち帰り業務を保育園側が黙認していたときは、残業代が発生する可能性が高くなります。

保育士が、これらの持ち帰り残業の残業代を請求したいときは、保育園からの指示や自宅でした作業時間を記録し証拠として残しておくことが重要です。

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4.保育士が残業代を請求する方法

では、保育士に未払い残業代があるときはどのような方法で請求ができるのでしょうか?

4-1.残業の事実を証明する

未払い残業代を請求するには、残業をしたことが証明できる証拠が必要になります。

残業の証拠として有用なのは、労働契約書、雇用通知書、就業規則、実働時間のわかるタイムカードなどです。

実際に残業した時間を証拠により特定して、未払い残業代がいくらになるのかを計算して初めて保育園側に請求できるようになります。

もしも、タイムカードがない場合には、保育士が自身で作成した業務日誌、出勤簿、日記、手帳などを証拠にして勤務時間を証明することもできます。

さらに、持ち帰り残業をしたことを証明できる証拠としては、保育園が指示した内容がわかるラインやメールなどのやり取りがわかる記録などです。

4-2.残業代の計算をする

保育士の残業代は、勤務時間外をすべて残業代として時間単位で支払う保育園もあれば、固定残業代いわゆるみなし残業代として毎月まとめて支払う保育園もあります。

以下では、それぞれの残業代についてみていきましょう。

(1)残業代の計算式

残業代とは、労働基準法による法定労働時間を超えて労働した際に支払われる割増賃金のことをいいます。

労働基準法における法定労働時間は、原則として1日8時間、週40時間です。これを超えるときは時間外労働となり、残業代が発生します。残業代の算定にあたっては、深夜労働、休日労働、休日深夜労働などの残業の態様により、割増賃金率が異なります

割増賃金は、最低でも基本給の1.25倍を支払うことが法令で定められており、月給制の場合は、給与から1時間あたりの賃金を割り出し超過時間と割合率をかけて残業代をだします。

たとえば、給与からの時間給(基本給)が1,000円であれば、その1.25倍の1250円が1時間当たりの残業代です。

法定時間外労働の残業代の計算方法は、以下の通りです。

時間外労働の時間数(時間) × 1時間当たりの賃金(円)× 1.25

保育士のサービス残業や持ち帰り残業などは、時間外労働に該当する可能性が高いため、上記の計算方法にあてはめて、残業代を算出して請求することができます。

(2)固定残業代の場合

固定残業代とは、残業時間に関係なく、一定時間分の時間外労働に対して毎月定額で残業代を支払う賃金をいいます。みなし残業代、時間外手当として支給されます。

たとえば、給与明細の時間外手当や残業手当の部分が固定残業代となります。自身の給与明細を確認して、時間外手当の金額と計算した残業時間から時間給が割り出せます。

固定残業代は、固定の残業代しか支払わなくてよいというわけではないため、注意が必要です。いわゆる「定額働かせ放題」ではなく、固定の労働時間を超過した場合には、別途超過部分に対する残業代を支払う必要があります。

保育園の就業規則や雇用契約書に固定残業代について記載されているか、確認するとよいでしょう。

4-3.内容証明郵便で残業代を請求する

残業代の計算をして証拠とともに残業代の請求書を、内容証明郵便で保育園に送付します。

内容証明郵便とは、いつ誰にどのような内容の書類を送ったのかを証明してくれる郵便局のサービスです。

未払い残業代を内容証明郵便で送付することで、「残業代の請求は受けていない」など、保育園側の対応を否定することができます。

残業代の請求は、給与日の翌日から3年間で時効にかかります。内容証明郵便を送付することで、時効の完成を6か月遅らせることができます

4-4.弁護士を通して請求する

未払い残業代を保育士が個人で請求しても、保育園が任意に対応してくれないケースも少なくありません。

保育士本人よりも弁護士が代理人として交渉したほうが、保育園の対応も変わり、早期の残業代回収が見込めます。

特に、将来も同じ保育園で継続して勤務を希望する場合は、弁護士に依頼して直接交渉してもらうほうが円滑に解決できるでしょう。

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5.残業代の請求、相談先の選択肢

では、未払いの残業代がある場合にどのような手続きをすればよいのでしょうか?

未払い残業代の請求について、相談できるところは以下の通りです。

5-1.労働基準監督署

労働監督基準署とは、労働基準法などに基づいて、管轄内の事業所が法令に違反していないか監督・指導を行う機関です。全国の都道府県に設置されています。

労働基準監督署は、労働者の相談窓口として、労働に関する様々な相談を受付け、法令に反する法律行為がある場合には、事業所の調査をしたり違法行為を是正・監督します。

もしも、保育園が法定時間を大幅に超える残業をさせており、残業代も未払いであるような場合には、労働監督基準書に相談して調査を依頼することも可能です。

ただし、労働監督基準書は事業所の違法行為を監督・指導する機関であることから、保育士の未払い残業代を回収してくれるわけではないため、注意が必要です。

未払い残業代がある場合、これを保育園に請求して適切に回収できるのは弁護士です。

5-2.弁護士

弁護士は、保育園で法定労働時間を超える労働がサービス残業、持ち帰り残業として行われている場合に、適切な法的アドバイスを提示して未払い残業代を回収することが可能です。

未払い残業が発生しているときには、残業代の計算や保育園との交渉が不可欠になりますが、弁護士が介入することで、適正な残業代を計算して保育園との交渉を行えるようになります。

また、保育園側が残業代の支払に応じない場合には、弁護士に依頼することで、労働審判や労働裁判を提起して未払い残業代の支払い請求を行うことができるようになります。

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6.残業代の請求を弁護士に相談するメリット

残業代の請求を弁護士に相談・依頼するメリットは、どのようなものがあるのでしょうか?

6-1.適切な残業代回収の方法を提示してくれる

残業代の請求を弁護士に相談する第一のメリットは、弁護士に相談することで適切な残業代回収の方法を提示してくれることがあげられます。

保育士が個人で保育園に未払い残業代を請求しても、交渉が上手くまとまる可能性はあまり高いとはいえないでしょう。

ましてや、今後も勤務を希望する保育園であれば、できれば代理人に交渉を頼んだほうが後々の気まずさやトラブルなどを最小限に押さえられます。

労働問題を専門とする弁護士に相談すれば、未払い残業代の請求に必要な証拠や書類の準備、また保育園との交渉を代行してくれるため、保育士が個人で対応するよりも素早い回収が見込めます

6-2.証拠が集めやすい

保育園に未払い残業代の請求をする際に必要な証拠がない場合でも、弁護士に依頼することで代理人として様々な証拠の入手が可能になります。

未払い残業代を請求するのに有効な証拠は、保育園との雇用契約書・労働契約書、就業規則、タイムカード、日報、勤怠記録、業務用メールやSNSの送受信記録の履歴、日記などの備忘録、残業の指示を受けたメール・ライン・メモ書き、残業指示書などです。

保育士が個人でこうした証拠を集めるとなると煩雑な手間と時間がかかりますが、弁護士が代行することで、今後の手続きで重要になる証拠を集めてくれます。

6-3.残業代請求手続きの手間と時間が省ける

弁護士に相談・依頼する大きなメリットのひとつに、残業代請求の手続きにかかる手間や時間を大幅に省けることもあげられます。

保育士が個人で保育園に未払い残業代を請求するためには、保育士自身が上記の証拠を集めて保育園の園長や事務員などに直接交渉しなければなりません。

証拠集めに度重なる交渉、また書類の準備など大変な手間と時間を要することになりますが、弁護士に任せておけば時間的にも、また精神的にもゆとりができるようになります。

6-4.弁護士が請求するだけで対応が変わる

未払い残業代を請求しても、保育士個人からの請求では保育園が真摯に対応してくれないケースも少なくありません。

弁護士が介入することで、保育園としても事態の深刻性を受け止めて、対応が一変するケースも少なくありません。

保育園の対応が不誠実に感じるような場合には、弁護士に対応を依頼することをおすすめします。

6-5.請求に応じない場合は裁判手続きを代行してくれる

未払い残業代の請求を弁護士に依頼すると、すぐに裁判に直結する方も少なくありませんが、必ずしも裁判になるわけではありません。

弁護士に相談・依頼した場合、依頼を受けた弁護士としては、まず保育園と交渉をしてできるだけ円満な解決方法を提示します。保育園側で真摯に対応してくれれば、早期解決も可能です。

ただし、例えば未払い残業代が100万円を超えるような場合でも、保育園が真摯に対応してくれずうやむやにしてしまうなど、任意の方法で解決できない場合には裁判などの法的手段を検討せざるを得ません。弁護士に依頼すれば、労働審判や訴訟などの手続き選択や、裁判所への申立てなどの手続きを全て任せることができます。

7.まとめ

保育士の多くは、人手不足のあおりを受けて、休憩時間や閉園後にもサービス残業を強いられています。

子どものためだから仕方がない、と責任感の強い保育士は無償で対応しているケースもありますが、社会のルールから見れば、雇用主である保育園は従業員である保育士に対して、残業代を支払う義務があります。

未払い残業代の請求など残業でお悩みの方は、まずは労働問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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