残業代請求

残業代請求で負けるケースとは?失敗を防ぐ対策を弁護士が解説!

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「会社に対して未払いの残業代を請求したいけれど、弁護士に依頼しても請求が認められないことはあるのだろうか」

「もし残業代請求の訴訟で負けてしまったら、残業代も払ってもらえず弁護士費用ばかりかかってひどい損失を被るのではないだろうか」

残業代請求を考える方で、このような不安を持つ方は少なくないと思います。

本記事では、残業代請求で労働者側が負けるのはどのようなケースか、及び残業代請求の失敗を防ぐ方策等について解説します。

目次

1.残業代請求訴訟の『負ける』とはどういう意味なのか

まず、残業代請求訴訟の「負ける」とはどういうことを指すのでしょうか。

一般的に「訴訟で負ける」というと、判決で原告の請求がまったく認められないか、あるいはごく一部しか認められない(慰謝料請求1100万円に対して33万円のみ認められた等)というイメージがあると思います。

1-1. 判決手続で「負ける」場合

「負ける」という言葉は法律用語でもなく、残業代請求の当事者の主観を表すものです。従って、「ここからここまでが負け」という定義があるわけではありません。ただし、おおよその意味としては「原告にとって、当初求めていた結果が得られなかった」場合を指すと考えられます。

会社に対して訴訟で残業代を請求する場合、決着手段としては終局判決(民事訴訟法第243条)と訴訟上の和解(民事訴訟法第89条)があります。従って、原告の求める結果が得られるかどうかは、①終局判決における裁判所の判断または②和解交渉における当事者の合意によって決まります。

労働事案の多くの場合では、最初の口頭弁論期日から3回目の期日までの間に担当裁判官や当事者の弁護士からの提案により、和解手続に移行します。

従って、終局判決によって最終的な判断が下されるのは、和解が成立しなかった場合か、当初から当事者間の主張の対立が激しく和解手続に移行できなかった場合です。残業代請求訴訟では通常の場合、和解手続に移行するので、終局判決が下されるのは和解が成立しなかった場合となります。

そのため、例えば「未払い賃金が存在しない」「原告はそもそも労働基準法上の労働者にあたらない」「原告は労働基準法第41条2号の管理監督者に該当するので、労働時間に関する規定が適用されない。従って残業代も発生しない」などと、原告の請求を認めない判決が下されることは、原告にとっては「負けた」ことを意味するといえます。

また、未払い賃金の存在は認められたが、請求金額を立証する証拠が不十分であったりして

100万円のうちの10万円など、ごく一部しか支払いが認められなかった場合も原告にとっては「負けた」ことになるといえるでしょう。

1-2. 和解交渉で「負ける」場合

また、1・2回の口頭弁論期日を経て、残業代が発生していることは認めるが、原告の請求金額やそれに近い金額の支払いが認められる可能性が低いと判断した裁判官が原告側に対して和解交渉を促し、それに従わざるをえなくなったような場合も、原告にとっては「負けた」といえます。

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2.残業代請求訴訟で労働者側の請求が否定されるケース

残業代請求訴訟で労働者側の請求が否定される、つまり労働者側が「負ける」可能性が高いのは以下のようなケースです。

2-1.証拠が揃っていない場合

残業代請求訴訟では、請求金額分の残業代が発生していることを立証するのは労働者側です。従って、残業時間や、残業した日時、1時間あたりの基礎賃金額等の証拠を揃えていることが必要です。証拠となる資料の中ではタイムカードが最も有力です。

ところが、会社によってはタイムカードによる労働時間管理を行っていなかったり、定時にタイムカードを打刻させていたりすることがあります。タイムカードを証拠とすることができない場合に、他の証拠によって立証することは不可能ではありません。しかし、残業指示のメール等を毎回の残業分揃えるのは容易ではなく、立証が不十分になる可能性もあります。

2-2.会社側の残業指示なしに残業した場合

残業代請求に対して、会社側から「残業指示を出していない」という反論がなされることがよくあります。この点、通常の定時を過ぎても業務を続ける「居残り残業」については、判例も会社による黙示の残業指示があったと判断して残業代の発生を認めることが多くあります。

ただし、会社が厳格な残業承認制度をとっていて、実際に行われた残業指示について書面で証拠を残しているような場合は、労働者側の主張が認められない可能性が高くなります。

また、始業時刻前の早朝に業務を行ういわゆる早出残業については、判例で黙示の残業指示が認められる場合は少なく、上司から明確な残業指示があったことの証拠が求められます。

2-3.その従業員が管理監督者に該当する場合

会社側が原告労働者を「管理監督者」(労働基準法第41条2号)にあたると主張して、判決でその主張が認められた場合は、原告労働者に対しては労働基準法の「労働時間・休憩・休日」に関する規定が適用されないため、残業代請求が認められません(ただし、深夜労働手当は認められます)。

厚生労働省の通達によれば、労働基準法第41条2号の「管理監督者」の範囲は「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限になじまない者」とされています。※

※1947[S22]年9月13日付発基[事務次官通達 ]17号・1988[S63]年3月14日付基発[労働基局長通達]150号

そして、経営者と一体的な立場にあるか否かについては以下の基準によって判断されます(札幌地方裁判所2002[H14]年4月18日付判決)。

(a)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること

(b)自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること

(c)一般の従業員に比べてその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

この条件をすべて満たしている場合は労働基準法上の管理監督者に該当するので、残業代は発生しません。

この条件に1つでもあてはまらないものがあれば、会社で管理職の地位にある労働者であっても労働基準法上の管理監督者にはあたりません。従って会社は時間外労働に対して残業代を支給する義務があります。

従って、会社では「管理職者」とされる課長・店長・エリアマネジャー等の役職は、管理監督者にあたらない可能性が高いです。しかし役職名だけでなく、業務の実態に照らして確認する必要があります。

2-4.固定残業代制の残業代が支払われている場合

業務形態によっては、実際の残業時間にかかわらず毎月一定額の「固定残業代」(みなし残業代)が支払われる場合があります。固定残業代制をとる場合は労働契約で定められた残業時間以内であれば、それ以上の残業代が支払われなくても違法ではありません。しかし、所定の残業時間を超える場合は残業代を請求することができます

従って、固定残業代が支払われている場合でも残業代請求は可能ですが、厳密な残業時間の立証が求められます。

2-5.残業代請求権の時効が成立している場合

賃料債権は、それが支払われるべき日から3年が経過すると消滅時効にかかります(労働基準法第115条・労働基準法附則第43条3項)。月給制の場合は未払いの賃料債権が毎月消滅時効にかかっていくことになります。

また、2020年3月31日以前に発生した賃料債権については改正前の法律が適用され、2年で消滅時効にかかるため、現時点ではすべて時効が成立しています。2020年4月1日以後に発生した賃料債権についても、現時点で3年を経過している可能性があるので注意が必要です。

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3.残業代請求訴訟で労働者側の請求を否定した裁判例

本章では、残業代請求訴訟で労働者側の請求を否定した裁判例をご紹介します。

3-1.会社側の残業の指示の有無が問題となった例

東京高等裁判所2005[H17]年3月30日付判決[神代学園ミューズ音楽院事件]

専門学校の職員であった原告が残業代請求を行った事件です。学校側は原告が管理監督者にあたると主張しましたが、待遇等の面からこの主張は認められませんでした。ただし、36協定を締結していなかったことや、学校側が朝礼等で職員に対して残業をしないように繰り返し伝えていたという事実等に照らして、原告が会社の指示に反して残業をしていたという判断により残業代請求は認められませんでした。

3-2.管理監督者に該当するか否かが問題となった例

・福岡地方裁判所2007[H19]年4月26日付判決[姪浜タクシー事件]

タクシー会社の乗務員として勤務し、営業部次長の職にあった原告が退職後に会社に対して残業代請求した事件です。「営業部次長」という役職にあったものの業務の実態に照らして管理監督者に当たるか否かが争われました。

判決は、原告が多数の乗務員を直接指導・監督する立場にあったことや、乗務員の採否について重要な役割を果たしていたこと等に照らして「管理監督者」として認められる立場にあったと判断し、残業代請求は認められませんでした。ただし、同時に争われた退職金制度変更に伴う退職金減額については不合理であるとして、原告の主張を一部認容しました。

3-3.固定残業代分を超える残業代発生の有無が問題となった例

東京高等裁判所2015[H27]年12月24日付判決[富士運輸事件]

運送会社のトラック運転手として勤務していた原告が、会社に対して残業代請求を行った事件です。この裁判では、会社側が支払った固定残業代分を上回る労働時間は認められず、固定残業代分以上の残業代は発生していないとして請求は認められませんでした。

3-4. 残業代の時効が問題となった例

・東京地方裁判所2015[H27]年2月13日付判決

学習塾の常勤講師として勤務していた従業員が、退職後に運営会社に対して221万円の残業代を請求した事件です。運営会社側は、請求金額の一部についてすでに消滅時効(当時は時効期間2年)が成立していると主張しました。裁判所は請求金額のうち141万円について消滅時効の成立を認め、運営会社に対して時効期間が経過していなかった80万円についてのみの支払いを命じました。

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4.残業代請求訴訟で負けないための対策とは

本章では、残業代請求訴訟で負けないために労働者側が事前にとるべき対策について解説します。

4-1.十分な証拠を集める

残業代請求訴訟で負けないために一番大切なのは、残業指示・残業日時と時間数がわかる証拠を集めることです。

タイムカード以外で証拠となるものとして以下の資料が挙げられます。

・残業指示があったことがわかるメールやチャットの履歴

・その時間残業していたことを証明できるPCの使用履歴(ファイル・ソフト等で最終閲覧日時が表示されるもの等)

・上司あての退勤報告メールや家族あてに退勤を知らせるLINEの履歴

4-2.会社側の反論を推測する

残業代請求に対しては、直接交渉の段階で会社側が「残業指示を出していない」「固定残業代を支払っている」「管理職には残業代は出ない」等と反論してくる可能性が高いです。業務形態や実態等に照らして行われそうな反論を推測して、その反論に対応できるだけの証拠や主張を準備することをお勧めします。

4-3.弁護士に依頼する

会社の反論も十分想定した上での証拠・主張を準備するとなると、どのような反論が想定されるか、それに対抗できる証拠をどのように集めればよいか、どのような主張を行えばよいかを労働者一人で考えるのは容易ではありません。また、会社に対する証拠開示請求が必要になる場合もあります。

そこで、残業代請求等の労働問題を専門とする弁護士に相談することで、経験に照らして想定される反論や、証拠の収集方法、主張方法等を詳細に教えてもらうことができます。また、会社との交渉を依頼すれば、従業員を代理して会社に対して証拠開示請求手続や、残業代請求の交渉を任せることが可能です。

5.残業代請求訴訟で負けてしまったらどうなるのか

「残業代請求訴訟で負けてしまったらどうなるのだろう」という不安を持つ方は多いと思います。本章では、残業代請求訴訟で負けてしまった場合に生じる可能性がある問題について解説します。

5-1.再度の請求はできるのか

結論から述べると、再度の残業代請求はできません

民事訴訟で終局判決が下され確定した場合、同一の当事者間ではその裁判で争われた事項について、裁判で当該確定判決の判断に反する主張をすることができず、裁判所も当該確定判決に抵触する判決を下すことができなくなります(民事訴訟法第114条・第115条:このような確定判決の拘束力のことを「既判力」といいます)。

従って、一度残業代請求を認めない、あるいはごく一部のみ認める内容の判決が下されて確定した場合は、同一の残業代請求をすることは認められません。ただし、その訴訟で主張しなかった請求を同一の会社に対して行うことは可能です。

5-2.会社から訴えられることはあるのか

残業代請求は労働基準法第37条に基づく正当な権利行使です。そのため、会社が労働者に対して損害賠償請求したとしても、残業代請求や認められた請求額について「会社に与えた損害」と認められる可能性はほとんどありません。従って会社から訴えられることはほぼないといえます。

5-3.弁護士費用のほうが高く損してしまうのか

弁護士に代理人を依頼した訴訟で残業代請求が認められなかった場合や一部のみ認められた場合も、支払った着手金は返還してもらえず、交通費等の実費や日当も支払う必要があります。その場合は、費やした弁護士費用の分が損失になってしまうといえます。

一方、最近では成功報酬制をとっている法律事務所や、訴訟での結果に満足できなかった場合は着手金を返還する制度をとっている法律事務所も多くあります。完全成功報酬制をとっている場合、報酬の中に着手金も含まれるので請求が認められなかった場合は報酬が発生しません(実費のみ請求される場合はあります)。

着手金を先に支払うことに支障がある場合は、完全成功報酬制や着手金返金制をとっている法律事務所の弁護士に依頼することをお勧めします。

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6.残業代請求を弁護士に相談するメリット

本章では、残業代請求を弁護士に相談するメリットをご説明します。

6-1. 残業代発生の有無と正確な請求額を教えてもらえる

サービス残業が横行している会社を相手に残業代請求する場合、いつからどのくらい残業代が発生しているのかもわからない状態で未払い残業代を計算しなければなりません。弁護士に相談することで、時効との関係で何年何月分から、何時間分請求できるかを正確に教えてもらうことができます。

6-2. 証拠収集方法を教えてもらえる

未払残業代の請求にあたって必要になる証拠は、雇用契約書や労働条件通知書など自身が保管していれば利用できるものに限られません。タイムカードや業務アカウントによるメールの送受信履歴など、会社側だけが保持しているデータがある可能性もあります。

労働者単独では容易に入手できない証拠について、そもそも収集が必要なのか、必要であればどのように入手すればよいか等は判断が難しく「壁」となりやすい問題です。これらについても弁護士に教えてもらうことができます。また、会社に対する証拠開示請求手続を代理してもらうこともできます

6-3. 会社との交渉を任せることができる

未払い残業代の請求にあたっては、会社側と交渉しなければなりません。しかし、従業員個人で交渉しようとすると取り合ってくれない可能性があります。また逆に、会社側が顧問弁護士を立ててくることもあります。

弁護士に依頼していれば会社側の対応に関係なく、未払残業代請求に向けての交渉を対等に行うことができます。

6-4.労働審判や民事訴訟などの法的手続を任せることができる

未払い残業代の請求にあたり、証拠収集・交渉とともに壁となるのが法的手段をとる場合です。

労働審判は迅速な問題解決を目指す制度なので短期間で終結させることができます。しかし、やはり申立てから審理まで全て一人でやることは容易ではありません。さらに訴訟提起するとなると、証拠収集に加えて口頭弁論への出廷・陳述も求められるので、地方裁判所への訴訟提起はもちろん少額訴訟や簡易裁判所への訴訟提起であっても大きな負担が伴います。

弁護士に依頼していれば、労働審判・民事訴訟ともすべて任せることができます。

特に未払残業代の金額が数十万円から100万円以上になると見積もられる場合、請求手続を労働者一人で行うことは困難であるといえます。残業代請求手続代理・代行には費用がかかりますが、弁護士に依頼することで確実に未払残業代の支払いを受けることができます。

また、多くの法律事務所では初回相談や初回相談の一定時間(30分~60分程度)を無料としているので、無料相談を利用して問題点を的確に整理することで費用を抑えることが可能です。

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7.まとめ

残業代請求での失敗を防ぐためには、残業指示・残業日時や時間数を証明することができる資料を揃えることが最も重要です。しかし、タイムカード等有力な証拠は会社側にあり、労働者の手元に残っている証拠だけでは足りないということがよくあります。

会社は労働基準法第109条に基づき(退職した従業員も含めて)従業員に関する重要な労働関係書類を保存する義務があるのですが、従業員本人からの開示請求に応じてくれない場合もあります。

この点、労働問題を専門とする弁護士に依頼すれば、タイムカード等の必要な証拠で会社側に保管されているものについて開示請求を行うことができます。弁護士による開示請求が拒否されることは通常ありません。証拠を揃えた上で弁護士に交渉を依頼すれば、残業代請求が認められる可能性が高くなります。また、成功報酬制をとっている法律事務所の弁護士に依頼することで、費用倒れを防ぐことができます。

残業代の支払いを確実に受けるために、ぜひ法律事務所の無料法律相談を利用して労働問題を専門とする弁護士にご相談ください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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