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残業80時間は違法?リスクや残業を減らす方法を弁護士が解説!

残業80時間は違法?リスクや残業を減らす方法を弁護士が解説!
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残業時間の規制について月80時間が一つの目安とされることが多く、残業が月80時間を超えると違法という言葉を目にすることもあります。

では、どうして月80時間の残業は一つの目安とされるのか、また法律で良く問題となる月80時間の残業は法律上はどう評価されるのでしょうか。

本記事では、残業月80時間をどうして良く目にするのか、法律上の評価はどうなっているのか、などについて解説します。

1.残業時間について「月80時間」が目安になる理由

残業時間について月80時間という具体的な時間が目安になる理由には次のようなものが挙げられます。

1-1.月80時間を超える残業は過労死ラインとされている!そのリスクは?

月80時間を超える残業は、いわゆる「過労死ライン」とされています。

「過労死ライン」とは、長時間労働によって心身に負荷がかかり、病気や死亡に発展するおそれがある労働時間の目安をいいます。

厚生労働省は、労働者が脳・心臓疾患を発症した場合に、労働災害と認定する際の基準として、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準(以下「脳・心臓疾患の認定基準」とします。)」を定めています。

その中で、

  • 発症前1か月間におおむね100時間
  • 発症前2ヶ月間~6ヶ月間に1ヶ月当たりおおむね80時間

を超える時間外労働をさせている場合には、医学的見地から脳疾患・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価できるとしています。

参考:脳・心臓疾患の労災認定|厚生労働省HP

この1ヶ月100時間又は、2ヶ月~6ヶ月における平均の80時間の残業・時間外労働のことを、実務上過労死ラインと呼んでいます。

1-2.月80時間を超えるような残業は法律の規定に違反することがある

以上の労災の認定のための医学的見地からの長時間労働に関する認定基準は、長時間の時間外労働を禁止する労働基準法の規定に反映されています。

そのため、過労死ラインの月80時間を超えるような残業は、労働基準法に違反することがあります。

具体的な時間外労働に関する法律の規定については、詳しく後述します。

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2.月80時間を超える残業は違法?残業に関する法規制

上述したように、月80時間を超える残業は過労死ラインとされており、このことが時間外労働の上限時間についても反映されています。

そこで、残業・時間外労働について、どのような定めが置かれているかを確認しましょう。

2-1.労働時間の上限の原則

まず労働時間の上限についての原則を確認しましょう。

労働時間について、労働基準法32条は次のような上限を定めています。

  • 1週間に40時間を超えて労働させてはならない
  • 1日8時間を超えて労働させてはならない

そのため、よくある月曜日から金曜日まで1日8時間で週40時間というのは、労働基準法32条に準拠しています。

しかし、月曜日から土曜日まで勤務させることは、週40時間の上限を超えるため違法です。

また、週4勤務なので1日10時間の労働をさせることは、週40時間の枠におさまっていても、1日8時間を超えているので違法です。

2-2.残業させるには36協定が必要

以上のような労働時間の上限があっても、現実にほとんどの人はこの時間を超えて残業などの時間外労働を行っています。

これは、労働基準法36条に規定している協定によって、労働基準法32条の上限を超える労働をさせることが認められているためです。

この協定のことを、労働基準法36条に規定されていることに鑑みて、36協定(さぶろくきょうてい)と呼んでいます。

36協定は、会社と次のいずれかの者と結び、書面で作成します。

  • 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合
  • 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者

そして、作成された36協定を行政官庁に届け出る必要があります。

36協定に記載すべき事項については、労働基準法36条などに細かく定められていますが、これらを網羅した、時間外・休日労働に関する協定届が厚生労働省のホームページでダウンロード可能で、これに必要な事項を記載して、そのまま行政官庁(労働基準監督署)に届け出るのが通常です。

参考:主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)|厚生労働省

2-3.36協定を結んでも上限がある

36協定を結んでいれば何時間でも労働させて良いわけではなく、上限があります。

まず通常の36協定を結んでいる場合は、

  • 1ヶ月45時間
  • 1年360時間

を超えて時間外労働をさせてはいけません(労働基準法36条4項)。

また、繁忙期や緊急の対応が必要になる場合に結ばれる特別条項付き36協定を結んだ場合には、

  • 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務:1日2時間
  • 1ヶ月100時間
  • 2ヶ月~6ヶ月の平均が80時間(年6回まで)
  • 年720時間

を超えて時間外労働をさせてはなりません(労働基準法36条6項)。

先程の過労死ラインである、80時間という残業時間は、この段階での労働時間の上限規制に反映されています。

2-4.労働時間の制限に違反した場合のペナルティ

労働時間の制限に違反した場合のペナルティには、次の3種類が考えられます。

2-4-1.民事上の損害賠償義務を負うことがある

民事上の損害賠償義務を負うことがあります。

特別条項付き36協定で許される残業時間の上限を超えて労働をさせ、病気になったような場合には、会社は安全配慮義務違反を問われて賠償義務を負うことになります。

2-4-2.労働基準監督署から行政処分を受けることになる

労働基準法に違反した場合、監督官庁である労働基準監督署は、労働基準法を守らせるために、様々な行政処分をすることになります。

労働基準法違反がある場合、必要に応じて事業所などに立ち入り調査(臨検)を行う、帳簿や資料の提出を求める、使用者・労働者に質問をする(ここまで労働基準法101条)、使用者に報告・出頭を命じる(労働基準法104条の2)、ことができます。

2-4-3.労働基準法違反として刑事罰に処せられる可能性がある

労働基準法違反として刑事罰に処せられる可能性があります。

労働時間の上限に関する労働基準法32条と、特別条項付き36協定を結んだ場合の上限に関する労働基準法36条6項に違反した場合に、労働基準法119条1号で、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑が規定されています。

過労死ラインを超える労働をさせることは、最高で懲役刑で処罰されるほどの犯罪であるといえるのです。

2-5.月80時間を超える残業をした場合でケース別で違法となる場合

ここまで、労働時間に関する労働基準法の定めについてお伝えしましたが、月80時間を超える残業を現実に行った場合に、どのようなケースで違法になるかを確認しましょう。

2-5-1.36協定が結ばれていない・無効である

まず、36協定が結ばれていない場合や、36協定に関する労働組合の要件を欠くなどで無効である場合には、そもそも残業をさせること自体が労働基準法32条に反します。

2-5-2.特別条項付き36協定が結ばれていない

36協定を結んでいる場合でも、通常の36協定であれば、残業させることができるのは月45時間までとされているのは上述した通りです。

そのため、通常の36協定しか結ばれておらず、特別条項付き36協定が結ばれていない場合には、月80時間の残業は労働基準法36条4項に違反するため、違法であるといえます。

2-5-3.特別条項付き36協定を結んでいても6回を超えた

特別条項付き36協定を結んでいれば、月80時間を超えない範囲で残業させることが可能です。

しかし、通常の特別条項である45時間を超えられるのは月6回と規定されているので、特別条項付き36協定を結んでいても6回を超えて月80時間近くまで残業させることは違法です。

2-5-4.月80時間を超えさらに月100時間を超えた

月80時間の上限を超え、さらに月100時間を超えるような残業をさせていた場合には、たとえそれが1ヶ月の間のことであっても、労働基準法36条6項に違反し違法です。

2023年8月7日に報道されたニュースによると、JR西日本が電車のダイヤを作成する仕事に従事していた従業員が、190時間もの残業をしていたとして報道されました。

月100時間を超えるような残業は、会社名の報道がされる程度の重大な違法であるということを認識しておくようにしましょう。

2-6.割増賃金を支払う必要

労働時間に関する定めのほかにも、残業・深夜労働・休日労働をさせた場合の割増賃金についても知っておきましょう。

労働者に残業などの時間外労働や深夜労働・休日労働をさせる場合には、割増賃金の支払いが必要であるとされています。

割増率は次の通りです。

区分割増率
時間外労働25%以上
時間外労働(1ヶ月60時間を超える)50%以上
深夜労働25%以上
休日労働35%以上
時間外労働+深夜労働50%以上
時間外労働+深夜労働(1ヶ月60時間を超える)75%以上
時間外労働+休日労働35%以上
休日労働+深夜労働60%以上

3.月80時間の残業を減らすための方法

月80時間を超える残業を減らすためにはどのような方法が挙げられるでしょうか。

3-1.月80時間の残業を超えてしまう状況と対処法

そもそも月80時間の残業を超えてしまうような長時間労働が必要となる状況にはどのようなものがあるか、対処法と併せて確認しましょう。

3-1-1.人手不足

月80時間もの残業を必要とする状況として最も考えられるものが、人手不足でしょう。

人手不足であるような場合、不足分を補うためには、現在勤務している人が残業をして対応をする必要があります。

このような場合には、人手不足となっている原因を特定し、解消する必要があります。

3-1-2.無駄な業務が多い

次に残業を必要とする状況として、無駄な業務が多いことが挙げられます。

残業時間の大半が、何か別の人の作業やを待っているような場合など、業務効率化をすすめれば削れるような時間が無いか確認し、無駄な業務をしないで済むように排除すべきでしょう。

3-1-3.意識・企業風土

残業に対する意識や企業風土が原因で残業時間が多すぎることがあります。

会社の経営者やマネジメント陣が長時間残業を推奨しているような場合もあれば、従業員が全体的にだらだらと長時間労働をすることもあります。

こういった、労使双方の意識や、それによって醸造された企業風土によって、月80時間を超えてしまうような長時間残業が常体化することがあります。

会社ぐるみで長時間残業を減らすように意識を改革し、効率化を優先する企業風土を醸造する必要があります。

3-2.残業時間を減らすための方法

以上を踏まえて、残業時間を減らすためには、次のようなものが挙げられます。

  • 適正な人員配置
  • 業務を見直して無駄を排除
  • 残業に対する意識の改革

外部のコンサルタントに相談したり、ITツールの利用ができないかなどを検討してみましょう。

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4.未払い残業代がある場合の対応方法

長時間残業が常態化しているようなケースでは、残業代の支払いを適切にしていないことがあります

先に紹介したJR西日本の違法な長時間残業のケースでも、残業代の支払いが適切に行われておらず、55人に計1,300万円近くの未払い残業代があり、これを支払ったとされています。

長時間残業で未払い残業代がある場合にはどのような対応方法が考えられるでしょうか。

4-1.未払い残業代を請求する方法

未払い残業代を請求する方法としては、次のようなステップがあります。

  • 交渉
  • 法的手段
  • 強制執行

まず会社と未払い残業代の支払いを求めて交渉を行います。

交渉しても会社が支払わない場合には、法的手段で請求をします。

民事裁判が典型的なケースですが、未払い残業代問題については労働審判で争うこともでき、他にも調停・支払督促・少額訴訟など、法的手続きには様々な方法があります。

裁判に勝訴するなどして法的手続きで、未払い残業代の支払い義務が確定したにもかかわらず支払わない場合には、会社の財産に対して強制執行を行うことになります。

4-2.未払い残業代について弁護士に相談・依頼するメリット

未払い残業代については弁護士に相談・依頼すべきといえるのですが、それは次のようなメリットがあるからです。

4-2-1.法的サポートで確実な回収が可能となる

弁護士に相談・依頼することで、法的なサポートを得ることができるので、確実に回収が可能となります。

残業代請求には、民法や労働基準法、裁判上の請求をするにあたっての手続きなど、法的知識が欠かせません。

特に、残業代の支払い義務・額は、どのくらいの証拠を確保しているかに大きく影響されるので、弁護士に相談して証拠の確保についての助力を得ることで、確実な残業代の回収が可能となります。

4-2-2.交渉を任せてしまえる

会社との交渉を任せてしまえます。

残業代の支払いを求めて会社と交渉する場合、会社が快く応じることは少なく、とくに会社の経営状態が苦しいときには、会社は減額を求めてかなり厳しい態度で交渉することが予想されます。

「こんなことをするのは君だけだ」「一人前になるために教えてあげたのに」「恩を仇で返すな」など心無いことを言われることも珍しくありません。

交渉は裁判を起こした後も、和解期日という形で行われることになり、長期間相手と交渉することがあります。

弁護士に依頼すれば、相手との交渉は任せてしまえるので、心理的にも楽に残業代請求を行うことができます。

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5.長時間の残業に関するよくあるQ&A

長時間の残業に関するよくあるQ&Aとしては次のようなものがあります。

5-1.長時間残業をさせること自体が違法として慰謝料請求が可能か

長時間残業をして、脳疾患・心臓疾患などの病気になった場合、相手に対して安全配慮義務違反を主張して損害賠償を求めることができます。

ただ、実際に脳疾患・心臓疾患などの病気にならなくても、長時間残業させること自体が違法となるケースがあります。

例えば、長崎地方裁判所令和元年9月26日判決では、月90時間以上で最長で160時間を超える残業をさせていた件について、具体的な疾患は発生していなくても30万円の慰謝料の支払いを認めました。

また、東京地方裁判所令和2年6月10日判決では、保険会社の営業所の部長として勤務し、1月あたりで30〜50時間の時間外労働に従事してたケースで、心身の不調を来たす可能性があったとして長時間労働を放置していた会社に10万円の支払いを命じました。

ケースによっては長時間労働をさせていたこと自体で慰謝料請求が可能です。

5-2.長時間の残業をさせる場合労働基準監督署に相談できないか

長時間の残業をさせる場合の対応として労働基準監督署に相談できないのでしょうか。

ここまでお伝えしたように、労働時間・時間外労働の規定については、労働基準法でその上限が定められています。

そのため、労働基準法を遵守させるための機関である、労働基準監督署に相談することは有用であるといえるでしょう。

労働基準監督署が労働基準法に違反する事実がある場合には、会社に対して労働基準法で認められている権限を利用して、適法な状態を維持してくれるようになります。

ただし、長時間労働ではあるものの、労働基準法の規定に違反していないような場合には、労働基準監督署は何もできません。

また、残業代の支払いがされていないようなケースで、退職後に未払いの残業代の請求をするような場合、労働基準監督署は未払い分を支払うように勧告するにとどまり、具体的な請求まで踏み込んで何かを行えるわけではありません。

そのため、会社に対して何かを請求する場合には、労働基準監督署に相談するよりも、弁護士に相談するのが良いでしょう。

5-3.弁護士に無料で相談する方法

長時間労働や残業代請求は弁護士に相談することが望ましいです。

この際、弁護士に相談するのに、法律相談料として30分5,000円~の相談料がかかります。

ただ、市区町村の法律相談は無料で相談できますし、一定の収入要件を満たせば法テラスで無料で弁護士に相談が可能です。

また、地域の弁護士会で、無料で相談を実施していることもあります。

また、弁護士の中には、相談の敷居を低くするために、無料の相談を実施していることがあります。

こういった相談を上手に利用することをお勧めします。

法律事務所リーガルスマートでは、初回60分無料の法律相談を実施しているので、お気軽にご相談ください。

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6.まとめ

このページでは、月80時間という労働時間について、法律の労働時間・時間外労働・残業の規定などについてお伝えしました。

月80時間という労働時間は、厚生労働省が示す労災認定の基準で過労死ラインとされるもので、時間外労働の上限の基準にもなるものです。

これを超えるような働き方を強いられている場合、他にも残業代が適切に払われていないなどの法的問題を抱えることが多いので、早めに弁護士に相談してみてください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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