残業代請求

未払い残業代の時効は3年!時効を完成させない方法を弁護士が解説

未払い残業代の時効は3年!時効を完成させない方法を弁護士が解説

未払い残業代の支払いがされないので、会社を退職して残業代の請求をしようといろいろ調べていると、残業代が時効になるという情報を目にする方も多いのではないのでしょうか。

残業代も時効にかかることは確かで、その期間は基本的には3年なのですが、改正があった関係で古い情報を目にしてしまうと混乱をする可能性もあります。

本記事では、未払い残業代の時効について弁護士が解説します。

目次

1.残業代請求の時効は2年から3年に延長

残業代請求の時効について確認しましょう。

1-1.残業代は賃金(給与)である

そもそも、残業代とはどのような権利なのか確認しましょう。

残業代とは、時間外労働に対する賃金(給与)を指す労務に関する用語です。

残業という言葉は通常、労働契約・就業規則で定められた所定労働時間の終業時間を超えて働くことをいいます。

しかし、所定労働時間を超える労働には、早出・休日出勤もあります。

残業・早出・休日出勤いずれも労働である以上は、賃金を支払う必要があります。

時効との関係で残業代は賃金請求権であることを確認しましょう。

1-2.賃金請求権の時効の規定

賃金請求権の労働基準法115条は次のように定めています。

(時効)

第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

そして、労働基準法115条については、次の経過措置に関する規定が置かれています

第百四十三条

③ 第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。

条文に経過措置の適用があり、分かりづらいのですが、これらの規定から2023年現在は賃金請求権は3年で時効にかかるとされています。

賃金請求権である残業代もまた、3年で時効にかかるということになります。

1-3.賃金請求権は2年で時効であったのが改正され3年に延長となった

賃金請求権の時効ですが、2020年4月1日に現在の規定に改正されました。

それ以前の時効期間は2年とされていたため、改正によって3年に延長された形になります。

触れる情報が古いと、賃金請求権は2年で時効となるような記載がある可能性があるのですが、現在では改正されて延長されていることに注意しましょう。

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2.残業代請求の時効が成立する要件

残業代請求について時効が成立して請求できなくなる要件について確認しましょう。

2-1.3年の時効期間の経過

3年の時効期間が経過していることが必要です。

残業代は、賃金請求権なので、残業をした翌月の賃金の支払日が起算日となり、その翌日から3年が経過した日が経過していると時効期間が経過していることになります。

残業代の時効は、給与の支払日から3年ごとに毎月時効になることになります。

2-2.時効の援用

時効について定める民法145条は、時効期間が経過した場合でも「援用」がなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない、としています。

時効の援用とは、時効によって債務の消滅という利益を受けるという意思表示をすることをいいます。

この援用をしていれば、裁判を起こされたときに、裁判所は残業代は時効で消滅していると判断することになるので、裁判外でも消滅したと判断することが可能です。

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3.時効がとならない例外的なケース

3年が経過していても時効とならないケースがあります。

3-1.不法行為と評価できる場合

不法行為と評価できる場合には、賃金請求権として請求できなくなっても損害賠償請求として権利行使できる可能性があります。

残業代の支払いをしていないことが悪質であるような場合には、残業代の支払いをしないこと自体が民法709条に定める不法行為であると評価されることがあります。

この場合、不法行為損害賠償請求権が時効であると評価されていなければ、不法行為損害賠償請求として請求することができます。

不法行為の場合には、損害と被害者が判明したときから3年で時効となることになっているため、給与の支払日と不法行為損害賠償請求権の時効の起算日が異なることもあります。

その結果、賃金請求権が時効にかかっている場合でも、不法行為として請求することができる場合があります。

3-2.会社が時効の援用をせず請求に応じた場合

会社が時効の援用をせずに請求に応じた場合には、時効となりません。

時効は3年の消滅時効の期間の経過のみならず、時効の援用をしなければなりません。

時効の援用をせずに請求に応じてくれる場合には、時効とはなりません。

3-3.会社によって残業代の請求が妨害された場合

時効に関して定める民法1条は、権利の更新については信義に従い誠実に行わなければならない(信義誠実の原則 民法1条2項)、権利の濫用は許さない(権利濫用の禁止 民法1条3項)という一般原則を規定しています。

そして、個別具体的な状況によって、これらの一般原則に違反するような場合、時効の援用をして残業代請求を時効を主張して拒むことが、信義誠実の原則や権利の濫用であるとして許されず、残業代請求を拒否できないようなケースがあります。

会社が証拠書類を隠滅しているような場合などで、信義誠実の原則や権利の濫用であり、時効の援用が許されない可能性があります。

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4.残業代請求の時効が成立するのを止める方法

時効の制度はあるとして、時効が成立して請求できなくなるのを止める方法もあるので確認しましょう。

4-1.時効が成立するをは止めることができる更新・完成猶予

時効の制度によって残業代請求ができなくなる制度が時効ですが、債権者である労働者もただ見ているだけというわけではありません。

そもそも時効という制度は、①長期間続いている事実関係を法的にも保護をする②権利の上に眠る者は保護しない③証拠の散逸、という趣旨から認められているものです。

残業代請求との関係で言えば、残業代請求を適切に行うのであれば、時効による保護を与える必要はなくなるわけです。

その観点から、債権者が一定のアクションをしていると時効が成立するのを止める制度として、時効の更新・完成猶予があります。

時効の更新とは、時効の期間の経過を1から数え直すことになる制度をいいます。

時効の完成猶予とは、一定期間時効が完成するのを猶予する制度をいいます。

民法147条以下で、どのようなことがあると時効の更新・完成猶予が起こるかについて定めがあります。

いくつか方法があるのですが、典型的な方法について確認してみましょう。

4-2.内容証明を送って時効の完成猶予

民法150条1項は、催告を行うと、その時から6ヶ月は時効が完成しないとして、時効の完成猶予の制度を定めています。

そのため、残業代を請求する債権者側として、債務者である会社に対して、残業代の支払いの催告を行います。

催告の内容については詳しい規定はなく、電話・メール・FAXなどあらゆる手段を利用できるのですが、これらについては時効が完成する前に催告をしたと証明できる手段がありません。

催告を行ったことを証明する手段として法的に認められるのが内容証明郵便です。

内容証明は、郵便法48条に規定があり、送った文書の内容を郵便局が証明してくれるものであるとされています。

催告をする旨を内容証明に記載して遅れば、催告を行ったことを証明することができます。

そのため、時効の完成猶予をするためには、内容証明が用いられます。

なお、時効との関係では、時効が完成する前に文書を送ったことも証明しなければならないので、配達日時の証明ができる配達証明(郵便法47条)を一緒に利用します。

配達証明を付した内容証明を利用することで、時効期間内に催告を行ったことを証明することができます。

この6ヶ月の間に残業代の支払について交渉をまとめ、支払をしてもらいます。

なお、催告をしてもうすぐ6ヶ月となるような場合に、再度催告をしても時効の完成猶予の効果は生じないので注意が必要です(民法150条2項)。

4-3.訴訟を起こすなどして時効の更新

もし、内容証明を送っても相手が支払に応じない場合には、そのままだと6ヶ月が過ぎてしまい、再度の催告は時効の完成猶予の効果は生じません。

そのため、6ヶ月の間に訴訟を起こします

訴訟を起こすことによって、裁判中は時効の完成猶予となり、勝訴して判決が確定すると、新たに時効の進行を始めることになります(民法147条)。

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5.残業代の請求は退職後でもできるのか

残業代の請求は退職後でも可能です。

残業代は、賃金の一部の支払が適切に行われていないという状態で、賃金請求権という債権を保有している状態です。

賃金請求権は、時効にかかっていなければ、在職中でも退職後でも行うことができます。

実際には、在職中に残業代請求をするのは、会社との関係が悪化するので難しいことが多く、退職後に行うことが多いです。

一方で在職中は、匿名で労働基準監督署に通告を行い、労働基準監督署の監督による改善を期待することが多いです。

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6.残業代請求を行なう流れ

残業代請求を行う流れとしては次の通りです。

6-1.残業代が発生している証拠を集める

残業代請求を行う際には、まず証拠をしっかり集めるようにします。

残業代請求をするための証拠は、会社のパソコン、会社にあるタイムカードなど、退職後には取得が困難であることが少なくありません。

そのため、残業代に関する証拠を早くから集めるようにしましょう。

上述したように、退職後に証拠の取得が困難になるものが多いことから、退職前から確実に証拠を収集するのが望ましいです。

6-2.未払いの残業代を計算する

未払いの残業代を計算しましょう。

請求をする際には単に「未払いの残業代を支払え」とするのではなく、具体的な金額を主張する必要があります。

残業代の金額と、未払いとなっている場合には遅延損害金として、民法および賃金の支払の確保等に関する法律で定められた法律で定められている年3%(退職後は14.6%)の利率計算します。

6-3.内容証明を送る

残業代請求のために、内容証明を送ります。

証拠を収集して残業代の計算が終われば、会社に対して残業代の請求を行います。

3年を超えて働いていて、毎月適切な残業代の支払を受けていない場合、毎月時効が完成している状況なので、まずは時効が完成しないようにする必要があります。

その方法として、上述した通り、内容証明を送ります。

6-4.訴訟を起こす

残業代を請求しても任意に支払をしてこない場合には、訴訟や労働審判などの裁判上の手続きを起こします。

訴訟に勝訴をしても支払ってこない場合には、強制執行を行うことになります。

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7.残業代請求の時効の改正の経緯

残業代の時効については上記のように大きな改正がありました。

その経緯はどのようなものだったかあらためて確認しましょう。

7-1.元々の規定

残業代は給与の支払いであり、賃金請求権についてはもともとは2年で時効となることになっていました。

7-2.債権法の改正において時効に関する規定も見直されることに

2020年4月1日に民法などの法律が改正され、取引についての債権に関する法律が大きく改正されることになりました。

その中で、時効に関する規定も見直されることになりました。

従来、通常の債権の消滅時効を10年としながら、債権の性質に応じて賃金請求権の2年のように、10年よりも短い期間の時効の規定がたくさんあり、非常に分かりづらいという状況でした。

そこで、消滅時効に関する規定を、5年で統一するように見直されることになりました。

民法166条1項1号は、債権の消滅について5年とし、これに合わせるように、賃金請求権について、労働基準法115条は5年で消滅するとしています。

7-3.賃金については当面3年とされた

上記の法改正について、2019年12月27日付厚生労働省の労働政策審議会によって「賃金等請求権の消滅時効の在り方について」という建議がされ、経過措置として当面は3年とすることにされました。

これを受けた第159回労働政策審議会労働条件分科会でも期間を3年とすることが支持されています。

これは、従来2年である賃金請求権の時効が突然5年に伸びることが、「賃金請求権について直ちに長期間の消滅時効期間を定めることは、労使の権利関係を不安定化するおそれがあり、紛争の早期解決・未然防止という賃金請求権の消滅時効が果たす役割への影響等も踏まえて慎重に検討する必要がある」とされ、当面は3年とすることが建議されました。

これを受けて、労働基準法では経過措置を設けて、条文上では5年とされている時効期間を3年とする措置をとっています。

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8.未払いの残業代請求を弁護士に相談、依頼するメリット

未払いとなっている残業代請求を弁護士に相談、依頼するメリットには次のようなものがあります。

8-1.法的な知識でサポートしてもらえる

残業代の請求については、時効があることもそうですが、ほかにもどのような証拠が必要か、残業代はいくらとして請求すべきかなどの労働基準法・民法などに関する知識が不可欠です。

また、相手が任意に支払に応じない場合には、裁判や労働審判といった手続きを行う必要があります。

これら手続きを通した知識の有無は、証拠の収集に影響し、適切な証拠の収集は請求を有利にする一方で、きちんと証拠が集まっていなければ裁判をしても負けてしまうことにもなりかねません。

弁護士に相談すれば、これらの法的な知識でのサポートを受けることができます。

8-2.弁護士に依頼すれば残業代問題の解決が早くなる可能性がある

弁護士に依頼すれば代理をしてくれるので解決が早くなる可能性があります。

個人で残業代請求をすると、会社と感情的に鋭く対立することも珍しくありません。

弁護士に依頼すれば、代理人として相手と交渉・裁判を行ってくれます。

そのため、感情的な対立ではなく、淡々と請求することになります。

また、残業代の支払いをしない会社の多くが、個人からの請求であれば曖昧な回答や、本来は通用しないような回答をすることで、残業代請求をかわそうとします。

弁護士が交渉の窓口にたてば、このような対応は通じないと考え、適切な対応をしてくる可能性があります。

以上から、弁護士が代理することで残業代問題の解決が早くなる可能性があります。

8-3.スムーズな手続きが可能となる

時効が完成しないようにするために、期間内に内容証明を送る・訴訟の提起をするなどの必要があります。

適切な内容の内容証明を作成する、適切に訴状を作成して添付書類を作成するなどする必要があり、個人で残業代の請求をする場合には、これらを適切に調べて行う必要があります。

個人で請求を行うからといって、時効について例外が認められるわけではありません。

弁護士に依頼することで、スムーズな手続きが可能となり、時効による不利益を受けないで済みます。

8-4.弁護士に相談するタイミングはなるべく早く

残業代請求についてはどのようなタイミングで弁護士に相談すべきなのでしょうか。

残業代請求で最も重要なのが、証拠の収集であり、証拠の収集は上述したように退職前から行っておく必要があります。

弁護士にはこの証拠収集から相談しておくことが望ましく、残業代請求を考えたときには、なるべく早い段階から相談しておくのが望ましいといえます。

8-5.弁護士には無料で相談ができる

弁護士に相談する際には30分5,000円程度の法律相談料の支払をする必要があります。

しかし、市区町村において無料で弁護士に法律相談ができるようになっていたり、一定の収入要件のもとに法テラスで無料で法律相談ができるようになっています。

これらを上手に利用すれば、無料で相談をすることができます。

これらの無料相談は30分程度と非常に時間が限られているので、相談したい内容と、事実関係や保有している証拠などをきちんと整理して相談するようにしましょう。

法律事務所リーガルスマートでは、収入や請求したい金額などに関わらず、初回60分無料の法律相談を行っているので、お気軽にご利用ください。

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9.まとめ

このページでは、未払い残業代請求の時効についてお伝えしました。

残業代請求については、2020年から3年に改正されています。

時効が完成しそうなときには、すみやかに内容証明で請求をする必要があり、証拠の収集などと併せてスムーズに行う必要があります。

残業代の時効が問題になるようなケースでは、なるべく早めに弁護士に相談することをおすすめします。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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