残業代請求

運送業の残業代はいくら?計算方法や請求方法を弁護士が解説!

運送業の残業代はいくら?計算方法や請求方法を弁護士が解説!
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残業代が問題になることが多い業界として、運送業があげられます。

従来からの慣行によって、精査すると適切に給与・残業代が支払われていないことが多く、多額の未払い残業代の支払いが報道されることも多いです。

本記事では、運送業の残業代問題について労働問題に強い弁護士が解説します。

1.運送業で誤解されている残業代の認識

運輸業においては過去からの慣例に従うことが多く、実はその慣行には法的な正当性はなく、給与・残業代の不払い状態となっていることも珍しくありません。

どのような点でよく誤解が発生しているのかを確認しましょう。

1-1.フルコミッション・完全歩合給制についての誤解

運送業でよくある給与の体系として、フルコミッション・完全歩合給制が挙げられます。

働いたら働いた分だけ稼ぐことができるとして、長い時間の従事が必要な運送業で採用されることが多い給与体系です。

そのため、フルコミッション・完全歩合給制度を採用している会社もあります。

ただし、労働基準法27条は、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。」としています。

そのため、たとえば待機をしていて成果が出ていないとして、給与・残業代の支払いをしないことは違法となります。

1-2.固定残業代(みなし残業)についての誤解

運送業のドライバーの給与形態によくあるのが、固定残業代(みなし残業)の支払いがされているものです。

固定残業代とは、実際の残業の有無に関わらず、固定で残業代の支払いをするものです。

残業時間の計算をしなくてもよく楽になる・採用の際に好待遇に見せることができるなどの会社側のメリットがあるほか、従業員としても実際よりも多く残業代を受け取れる可能性があるなどのメリットがあり、採用されることが多いものです。

しかし、支給している固定残業代よりも実際に払うべき残業代のほうが多い場合には、残業代は支払わなければならず、もし支払ってないのであれば違法です。

しかし実際には、固定残業代の支払いをしていれば、それ以上に残業代の支払いをしなくて良いと考えている会社も多く、そのような慣行が当たり前であると従業員側でも誤解をしていることがあります。

運送業の場合には人手不足もあり労働時間・残業時間は長くなりがちで、固定残業代の支払いのみで残業代を支払っていないことも珍しくありません

そのため、実際に計算してみたら、固定残業代を超える多額の残業代請求をすることができるケースも多いのです。

1-3.積み下ろしや待ち時間は労働時間ではないという誤解

労働時間の計算に独特の慣行があり、長距離ドライバーが荷物の積み下ろしをする時間や、荷物が来るのを待っている時間を労働時間として計算しない慣行があります。

その結果給与・残業代の支払いに影響することがあるのですが、これらの時間も労働時間に含まれるので、給与・残業代の支払いをしないことは違法であるといえます。

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2.運送業の残業時間と残業代の実態

運送業の残業事案と残業代の実態はどのようになっているのでしょうか。

2-1.運送業の労働時間・残業時間

運送業者の労働時間・残業時間はどの程度なのでしょうか。

2015年に厚生労働省と国土交通省が行った調査結果「ドライバーの労働時間の実態(平成27年7月実績)」によると、運送業の労働時間は、泊まりの輸送を担当する人で平均252.3時間、日帰りの輸送を担当する人で214.3時間となっており、最も長い労働時間だと1ヶ月720時間もの労働時間になっています。

泊まりの輸送を担当する人で平均60.4時間、日帰りの輸送を担当する人で45.5時間となっており、最も長い残業時間については344時間もの残業をしています。

労働基準法が定める労働時間・残業時間の上限を大きく上回るものであるといえるでしょう。

2-2.運輸業の残業代

運輸業の残業代はどのくらいなのでしょうか。

厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査-令和5年1月分結果速報」によると、支払われた給与の額の平均は315,074円で、きまって支給する給与309,454円のうち、所定内給与が265,377円・所定外給与が44,077円・特別に支払われた給与が5,620円です。

残業代に該当するのが所定外給与となります。

3.残業代の正しい計算方法

では、運送業での残業代はどうやって計算するのでしょうか。

3-1.残業代の計算式

運送業であっても残業代の計算方法は基本的に他の業種と同じです。

残業代は次の計算式で計算します。

1時間あたりの賃金 × 割増率 × 残業時間

1時間あたりの賃金が1,500円、割増率が25%、残業時間が10時間である場合には、「1,500円×1.25×10=18,750円」となります。

3-2.1時間あたりの賃金の計算

1時間あたりの賃金の計算を行います。

給与の計算が時給制である場合には、その時給がそのまま1時間あたりの賃金となります。

給与の計算が月給制である場合には、1時間あたりの賃金を計算する必要があります。

1時間あたりの賃金を計算するためには、月給から所定労働時間を割って求めます。

月給として受け取っている金銭の中には、賃金と各種手当がありますが、手当のうち労働とは関係なく個人的事情に基づいて支給される手当については、残業代の計算にあたっては給与に含めません(例・家族手当・通勤手当・住宅手当)。

手当の内容については名称ではなくその内容を実質的に判断して計算対象に含むことになるので注意しましょう。特に、運送業に特有の問題としてあげられるのが、予め会社が基礎賃金を低く、各種手当を高額に設定しているケースが散見されるということが挙げられます。運送業では、実態として上記に挙げた歩合制度が採用されている会社が多く、基礎賃金を低く設定しているケースが見られるのです。ただ、残業代の計算に際しては、こうした各種手当も基礎賃金に含めて計算すべきと判断されるケースもありますので、慎重に検討してみてください。

また、臨時に支払われた賃金や1か月を超える期間ごとに支払われる賃金もここには含まれません。

次に、1ヶ月の所定労働時間を求めます。

1ヶ月の労働時間の計算をする際に注意が必要なのが、1ヶ月には28・30日・31日と総日数が異なることになります。

当然ですが、28日の月は労働時間が短く、31日の日は労働時間が長いとなると、計算が非常に複雑となり、計算が安定しなくなります。

ばらつきのある計算結果とならないように、次のように計算します。

1ヶ月の所定労働時間=(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月

給与と1ヶ月の所定労働時間が求められれば、ここから1時間あたりの賃金を求めます。

3-3.割増率

残業などの時間外労働は、労働者に負担をかけるものです。

そのため、時間外労働をする場合は、一定の割増賃金の支払いをすることになっています(労働基準法37条)。

他にも同じように労働者に負担をかける、深夜労働・休日労働と併せて次のような割増率の計算をします。

区分割増率
法内残業0%
法外残業25%以上
法外残業(1ヶ月60時間を超える場合)50%以上
深夜労働25%以上
休日労働35%以上
時間外労働+深夜労働50%以上
時間外労働+深夜労働(1ヶ月60時間を超える)75%以上
時間外労働+休日労働35%以上
休日労働+深夜労働60%以上

※深夜労働:午後22:00~午前6:00までの労働

3-4.残業時間を計算する

残業時間を計算します。

残業時間は上記の割増率の区分に応じて1分単位で計算をします。

よく1時間未満、30分未満の端数は切り捨てにして計算する、といった運用をすることがありますが、残業代は1分単位で支給する必要があるので、このような運用は違法であるといえます。

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4.会社に対して残業代請求をする方法

もし残業代の支払いを適切に受けていない場合には、残業代請求を会社に対してどのように行えば良いのでしょうか。

4-1.会社に対して請求をする

会社に対して支払いを求めて交渉を行います。

残業代は、時間外労働に対する賃金ですので、会社は支払う義務があります。

そのため、会社に対して民事上の請求として、支払いを求めます。

運送業で長時間労働をしているような場合には、その金額が多額になることもあるので、一括で支払えない場合もあります。

そのような場合には、分割での支払いも認める必要があります。

4-2.労働基準監督署に申告する

残業代の支払いをしないことは、労働基準法に違反する行為です。

このような労働基準法違反がある場合には、労働基準法の遵守をさせることを目的とする、労働基準監督署に申告をすることができます(労働基準法104条1項)。

残業代請求をするような場合には、会社との関係が一気に悪化することになり、在職中には難しいということも珍しくありません。

もう会社を退職するような場合には請求をすることも容易でしょうが、そのまま仕事を続けたい場合には難しいこともあります。

このような場合には労働基準監督署に申告し、会社に対して行政指導をしてもらい、適切な残業代の支払いを受けられるようにしてもらいます。

4-3.法的手続き

会社と交渉をしても残業代の支払いを受けられないような場合や、労働基準監督署に申告をしても会社が支払ってくれないような場合には、法的手続きで請求を行います。

裁判を起こして勝訴して、会社の財産に対して強制執行を行うのが最も典型的な強制執行の事例ですが、労働問題の解決には労働審判という紛争解決方法もあるので、紛争の内容に応じて適切なものを使い分けるようにしましょう。

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5.残業代請求について相談できる窓口

運送業に従事している人が残業代請求について相談したい場合の窓口にはどのようなものがあるのでしょうか。

5-1.会社の労務管理・コンプライアンスの担当者

会社の労務管理・コンプライアンスの担当者に相談してみましょう。

会社が出来たばかりのような場合や小規模の会社の場合、人事に関する業務を代表者やその家族、経理担当者が人事も兼務しておこなうことがあります。

残業代や労務管理に関する法律は非常に複雑で、不慣れな人が兼務して行うような場合、残業代の支払いを適切に行おうと思っていても、知識が欠落しており不適切となっていることがあります。

残業代に関する主張をまとめて会社の労務管理やコンプライアンスの担当者などに相談をして、会社が自主的な解決をしてくれるように依頼してみましょう。

5-2.労働組合

労働組合に相談することも検討しましょう。

労働組合とは、労働条件の改善や地位の向上を目的として組織する団体のことをいいます。

会社に労働組合がある場合、労働組合に相談して、会社との交渉をサポートしてもらうことが可能です。

ただし、会社の労働組合が会社側と癒着しているようなケースもあるので、このような場合には地域や職域で組織されている労働組合に相談してみましょう。

5-3.労働基準監督署

上述したように、残業代の支払いをしないことは、労働基準法違反となります。

そのため、労働基準監督署に相談を行います。

労働基準監督署は全国にあるのですが、相談は会社の所在地を管轄する労働基準監督署に対しておこないます。

本来は、申告があった場合に、調査をするための権限を与えられている労働基準監督署が調査を行ってくれるのが望ましいのです。

しかし、労働基準監督署は現在マンパワーが慢性的に足りず、ある程度優先順位をつけて労働基準法等の違反にあたっています。

そのため、労働基準監督署に相談をする際には、労働基準法違反であることを示すことができる証拠を持参して、相談することが望ましいです。

また、労働基準監督署は会社に対して労働基準法などの遵守をさせることが目的の行政機関なので、個人の残業代請求のような個別の民事上の案件を解決してくれるわけではありません。

5-4.総合労働相談コーナー

都道府県の労働局には、労働者の相談を受け付けるために、総合労働相談コーナーを設けており、労働者の相談を受け付けています。

ここでも、未払い残業代の支払いを求める相談は可能です。

しかし、労働基準法の遵守の問題は基本的には労働基準監督署が管轄になり、行政指導等を依頼するには労働基準監督署に申告を行うことになります。

ただし、総合労働相談コーナーは通常は労働基準監督署の中にあるので、そのまま労働基準監督署に相談可能です。

残業代の請求だけではなく、パワハラやセクハラなどもある場合には、労働局が法律についての管轄になります。

5-5.弁護士

残業代請求を行う場合には弁護士に相談することが最もおすすめです。

残業代請求の請求を会社に行う場合、会社が最後まで応じない場合、最終的には労働審判や民事訴訟を行い強制執行をする必要があります。

法的知識とともに手続きに関する知識、特に証拠に関する知識は必要不可欠で、日頃から民事訴訟を取り扱っている弁護士が最も詳しいといえます。

また、労働基準監督署から会社に対して行政指導を行って、支払ってもらえるようにするプロセスは間接的で、成功する場合でも時間がかかります。

直接請求をするほうが手続きをスムーズに終えることができ、民事手続きについて弁護士に相談するのが最も解決までの近道といえます。

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6.未払いの残業代請求を弁護士に相談、依頼するメリット

未払い残業代請求を弁護士に相談・依頼するメリットには次のようなものがあります。

6-1.法的なサポートを受けられる

未払い残業代請求について法的なサポートを受けることができます。

残業代計算の方法をご紹介しましたが、一ヶ月あたりの賃金や割増率の適用など、残業代の計算だけでも非常に複雑な計算をする必要があります。

また、会社に請求するための民事上の手続きに関する知識も必要です。

弁護士に相談・依頼すれば、これらの法的なサポートを受けることができます。

6-2.残業代以外の問題も検討することができる

残業代以外の問題も検討することができます。

運送業に限らず、長時間残業が常態化しているような場合には、残業条件を超える違法な塹壕、パワハラ・不当解雇・違法な懲戒処分などの他の労働問題を抱えていることも珍しくありません。

また運輸業の場合、業務請負をしているが雇用契約と評価できるのではないか、などの問題が発生したりします。

残業代請求以外の問題についてもよく検討して、総合的にトラブル解決をすることができないかを検討することが可能です。

6-3.精神的なサポートとなる

弁護士の存在が精神的なサポートとなります。

会社を退職して残業代の請求をする、というような労働関係のトラブルは、なかなか近しい人に相談するのは難しいといえます。

また実際に会社と交渉をする場合、会社はかなり強い態度で交渉してくることがあります。

運輸業の場合残業代は多額になる傾向にあるので、会社としても強気で反論してくることも珍しくありません。

弁護士に相談・依頼することで、労働問題の解決のための精神的なサポートをしてもらうことが期待できます。

6-4.会社との交渉や手続きを任せてしまうことができる

会社との交渉や手続きを任せてしまうことができます。

自分で残業代の請求をする場合、会社との交渉や、法的手続きも当然自分で行わなければなりません。

上述したように、会社とは厳しい交渉を余儀なくされ、法的手続きは平日の日中に行われるために新しい仕事についた後は仕事を休まねばならないようなこともあるでしょう。

弁護士に依頼をすれば、弁護士に会社との交渉・法的手続きを依頼することができ、精神的・手続き的な負担を軽減することができます。

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7.運送業の残業代に関するよくあるQ&A

運送業の残業代に関するよくあるQ&Aとしては次のようなものがあります。

7-1.荷待ちや渋滞は労働時間になるのか?

ドライバーの労働時間に関する疑問として、荷待ちや渋滞に捕まっている時間は労働時間になるのか、ということがよく質問されます。

会社によっては荷待ちは何もすることがないため、休憩時間なので労働時間にあたらず、給与は出ないという慣行によって、労働時間に含まないとされていることがよくあります。

しかし、労働時間とは使用者の指揮命令下にある場合をいうので、荷待ちの時間であっても荷物が到着したらすぐに対応しなければならないような場合には、自由時間である休憩時間とはいえず、使用者の指揮命令下にあるといえ、労働時間になることがあります。

また、渋滞も運送中のことであり、使用者の指揮命令下にあるといえる場合には労働時間になります。

7-2.弁護士に未払い残業代について無料相談ができないか

上述したように未払い残業代請求については、弁護士に相談・依頼することが望ましいです。

しかし、弁護士に相談をするには通常は費用がかかります(相場は30分5,000円~)。

ただ、市区町村では無料の法律相談を開催していたり、収入が一定以内である場合には法テラスの無料相談が利用可能です。

しかし、これらは利用できる時間が限られていたり、労働問題に強い弁護士に相談できないこともあるので注意が必要です。

労働者側の労働問題を取り扱っている弁護士の中には、無料で法律相談を受け付けていることがあるので、上手に利用しましょう。

法律事務所リーガルスマートでも初回60分無料の法律相談を承っているので、お気軽にご利用ください。

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8.まとめ

本記事では、運送業の残業代についてお伝えしました。

慢性的な人手不足で物流を支える運送業は、長時間労働が常態化しており、残業代をきちんと払ってもらっていないケースも多々あります。

運送業独自の慣行などもありますが、実際には労働基準法に違反するようなこともあります。

なるべく早く弁護士に相談し、適切に残業代を受け取れるようにしましょう。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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