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債権者破産申立てとは?流れやメリットデメリットを弁護士が解説
破産手続は債権者でも申し立てられることをご存知でしょうか。
破産手続というと、多くの方は債務者が申し立てる自己破産を思い浮かべるでしょう。
しかし、法律の要件さえ満たせば、債権者であっても債務者の破産申立てを行うことは可能です。
そこで本記事では、債権者破産申立てが行われる具体的なケースや手続の流れ、メリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
目次
1.債権者破産申立てとは?
1-1.債権者が行う破産申立て手続
債権者破産の申立てとは、債権者が債務者について破産手続を申し立てることを意味します。
破産手続の申立ては多くの場合、債務者自らが行います(いわゆる自己破産)。
もっとも、破産手続の申立ては、債務者のみならず、以下の通り債権者も行うことが可能なのです。
「債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。」(破産法18条1項)
たとえば、銀行から受けた融資の返済ができなくなった場合には、融資を受けた人(債務者)だけでなく、銀行(債権者)からも破産手続を申し立てることができます。
ただし、実際に債権者破産の申立てが行われるケースは多くありません。多くの場合は破産手続にかかる相応の費用と時間をかけてまで申し立てる理由がないからです。
1-2.債権者破産の申立てを行う事例
それでは、どのような場合に債権者破産の申立てが行われるのでしょうか。
以下、代表的なケースを2つ紹介します。
(1)債務者に相応の財産がある場合
1つ目は、債務者の債務が多額であるものの、相応の財産もあるという場合です。
債務者に相応の財産が残されている場合、破産手続を申し立てれば、手続の中で配当を受けられる可能性があるからです。
また、破産手続は裁判所が関与するため、公正かつ公平に債務者の財産が配当されることが期待できます。
そのため、特に債務者が残されている財産を散逸させたり、特定の債権者のみに弁済したりするような動きが予想される場合に、債権者破産の申立てが行われます。
(2)債務者の対応が不誠実な場合
2つ目は、債務者に財産はなく配当は期待できないものの、債権者に対する対応が不誠実という場合です。
債務者が財務状況の悪化について決算資料を粉飾して隠匿し、発覚後も金融機関からの追求に対して十分に回答しないケースが典型例になります。
このようなケースでは、経済合理性に関係なく、債権者破産の申立てにまで至ることが少なくありません。
2.債権者破産の要件
債権者が破産の申立てをできるといっても、無条件で行えるわけではありません。
債権者破産の申立てをするためには、①債権の存在、および②破産手続の開始原因をそれぞれ疎明する必要があります。以下、この2つの要件について解説します。
2-1.債権の存在の疎明
債権者破産の申立てをするには、債権の存在(すなわち、自らが債権者であること)を疎明しなければなりません。
債権の存在を疎明すればよく、債権額の多寡や支払い期限が到来しているか否かは問いません。
また、疎明とは「一応確からしい」と認められることを意味し、証明(十中八九真実らしいと認められること)までは不要です。
債務者を相手に訴訟をして勝訴判決を獲得する必要はなく、通常は契約書や借用書などがあれば十分です。
2-2.破産手続の開始原因の疎明
破産手続の開始原因は、債務者が個人の場合は支払不能であることのみ、法人の場合は支払不能または債務超過であることです。
支払不能は、以下の条件を全て満たした場合に認められます。
- 支払い能力がないこと
- 支払い期限が到来した債務を弁済できないこと
- 債務を一般的、継続的に弁済できないこと
また、債務超過とは、客観的に債務者の債務の合計額が資産の合計額を超えている状態のことです。
支払不能や債務超過を疎明するためには、債務者の債務や財産の状況がどの程度かを把握する必要があります。
しかし、債務者が協力しない限り、特定の債権者のみによる調査で債務者の債務や財産の状況を明らかにすることは容易ではありません。
そのため、債権者破産の申立ては、債務者による破産申立てよりも一般的に入念な準備が必要になるのです。
3.債権者破産の申立てに必要な書類
債権者破産の申立てを行うには、裁判所に提出するための必要書類を準備する必要があります。代表的な必要書類は以下の通りです。
(1)申立書
債権者破産の申立ての要件を満たしていることや申立てに至った経緯などを記載します。裁判所によってはフォーマットを用意しているところもあります。
(2)登記事項証明書
債務者が法人の場合に、債務者の基本的な情報が記載されている資料として提出します。
(3)疎明資料
債権の存在や破産手続の開始原因を疎明するための資料です。
債権の存在に関する疎明資料としては、契約書や借入書、貸付金を送金した預金通帳の写しなどがあります。
また、債務者の不動産の登記事項証明書の抵当権の内容を確認すれば、債務者の負債に関する情報を入手できるでしょう。
他方で、資産に関する疎明資料は債務者の協力が得られない場合は入手が難しく、裁判所に対する財産開示手続などを検討する必要があります。
(4)陳述書
申立書の補足資料として提出します。
裁判所ごとに用意されているフォーマットを使用して作成する場合もあります。
代表的な必要書類は以上の通りですが、事案や裁判所によって求められる書類は異なりますので、事前に問い合わせて確認しましょう。
4.債権者破産の手続の流れ
債権者破産の手続の流れをわかりやすく説明します。
4-1.裁判所への破産申立て
債権者破産の手続は、債権者が裁判所に対して、破産手続開始の申立てを行うことで始まります。申立ての際には、前述した申立書や疎明資料などを裁判所に提出することが必要です。
申立て先の裁判所は、債務者の本店所在地(債務者が非事業者の場合は居住地)を管轄する地方裁判所になります。
4-2.裁判所による債権者と債務者の審尋
次に、債権者と債務者に対する審尋があります。
審尋は裁判所から聞き取りを受ける面談のような手続です。
自己破産の場合は、債務者のみ対象になりますが、債権者破産の場合は債権者も審尋を受けることになります。
債権者は審尋期日において、申立てに至った経緯など申立書に記載した事項を中心に質問を受けることが多いです。
4-3.裁判所が行う保全処分
申立てから破産手続の開始決定に至るまでの間に債務者の財産が散逸することを防ぐため、裁判所は保全処分を行うことが可能です。
保全処分がされると、債務者は自由に自分の財産を処分することができなくなり、破産手続で債権者に配当されるべき財産が散逸することを防止できます。
4-4.裁判所による破産手続開始決定
裁判所が破産手続の開始決定の要件が満たされていると判断した場合、破産手続の開始決定がなされます。
破産手続の開始決定がなされると、同時に破産管財人が選任され、債務者が会社の場合は最終的には解散することになるのです。
なお、破産管財人とは、破産手続において配当の引き当てになる財産(破産財団)を管理し、換価手続を行う権限を有する人のことであり、一般的には弁護士が選任されます。
4-5.破産管財人による財産の換価
破産管財人が破産財団を金銭化していきます。
債権者破産の場合、債務者に協力が得られないことが多いため、自己破産のケースと比べて時間がかかりがちです。
なお、換価が難しい無価値物については、最終的には廃棄処分になります。
4-6.配当手続
換価を終えたら、債権者に配当がなされます。
まず実施されるのは、優先的に弁済を受ける債権(未払いの税金や給与など)に対する配当です。
次に配当原資に余剰があれば、債権者の債権額に応じて平等に配当されます。
破産手続では、一般的に配当を受けられる金額が僅少であるか、そもそも配当が受けられないというケースも少なくありません。
5.債権者破産を利用するメリット
5-1.節税や自己資本比率の改善に繋がる
債権者破産の申立てを行い破産手続を進めることで、債務者に対する回収見込みのない債権(不良債権)を損金処理できます。
損金処理により、それまで貸借対照表に計上されていた債務者に対する債権が計上されなくなります(不良債権のオフバランス化)。
不良債権であっても売上であり、法人税の対象になりますので貸借対照表に計上されていると税負担が重くなるのです。
オフバランス化によって、余分な税負担を軽減できるでしょう。
また、オフバランス化することで自己資本比率も改善できます。
5-2.債務者による不当な財産処分や不公平な弁済に対抗できる
支払不能や債務超過の状態であっても、債務者は一定の財産を保有している場合があります。
財産を保有している場合、債務者によっては保有している財産を処分し、借入金の返済に充てずに散財するというケースも少なくありません。
また、借入金の返済に充てるものの、お世話になった特定の債権者のみに弁済し、残りの債権者には一切弁済しないというケースもあります。
債権者破産の申立てを行えば、仮に債務者が上記のような不当な財産処分や不公平な弁済を行っても、破産手続の中で取り消すことができます。
具体的には、裁判所から選任される破産管財人が否認権を行使して、不当な財産処分や不公平な弁済を取り消すのです。財産処分や弁済が取り消されると、処分された財産や弁済金は債務者の財産として戻ることになり、破産手続の中で債権者への配当の原資になります。
このように債権者破産の申立てを行えば、不当な財産処分や不公平な弁済に対抗でき、配当原資の流出防止と公平な配当が実現できるのです。
6.債権者破産を利用するデメリット
6-1.裁判所へ納付する与納金が高額
債権者が破産手続を申し立てる場合は、申立てに必要な費用は債権者が負担することになります。
破産申立てには、いくつかの種類の費用が必要になりますが、その中でも高額なのが与納金です。
与納金は、主に裁判所が選任する破産管財人の報酬に充てられます。
与納金の金額は、債務者の負債総額などによって異なり、基本的に負債総額が大きければ大きいほど与納金は高くなります。たとえば、債務者が法人の場合は、少なくとも70万円、負債総額が5000万円〜1億円未満では100万円といった相場です。
後述しますが、破産手続では結果的に十分に債権を回収できないという場合も少なくありません。そのため、経済的合理性の点からは、高額な与納金を負担して債権者破産の申立てを行うメリットがないというケースが多いでしょう。
6-2.裁判所への申立て手続に時間がかかる
次に、申立て手続に時間がかかる点です。
前述の通り、債権者破産の場合、申立てに必要な疎明資料(特に、債務者の負債や資産を疎明する資料)が手元に揃っていないケースが少なくありません。資料を揃えるために、裁判所に対して財産開示を申し立てるなどの事前準備が必要になる場合もあるでしょう。
また、自己破産の場合に比べて、申立てから裁判所の破産手続の開始決定までにも時間がかかることが多いのです。
具体的には、債権者破産の場合は前述の通り、債務者のみならず債権者についても裁判所が審尋を行う必要があり、手続に時間を要します。
また、債務者が破産手続に非協力的なときは、破産手続の開始原因について反論を受けるなどして、裁判所の審理が長引くこともあります。
破産手続は債務者に大きな影響を与えるため、裁判所も慎重に判断することから、手続に時間がかかってしまうのです。
6-3.十分に債権を回収することが難しい
破産手続では一般的に、債権者が有している債権を十分に回収することが難しいです。
破産手続に至る多くのケースでは、そもそも債務者に財産が十分に残されていないという場合が多いからです。
また、財産があったとしても、破産手続では換価した財産を債権者の債権額に応じて配当します(債権者平等の原則)。これは債権者破産の申立ての場合も同様であり、手続を申し立てた債権者が優先的に配当を受けられるわけではありません。
そのため、債権者破産を申し立てたとしても、十分に債権を回収することが難しいという場合が多いのです。
7.債権者破産について弁護士に相談するメリット
7-1.申立てに必要な書類を準備してくれる
弁護士に相談して依頼すれば、効率的に債権者破産の申立てに必要な書類を準備することができます。
たとえば、申立書には債権者破産を申し立てるための要件を記載する必要があります。
法的な専門知識がないと、必要十分な記載が難しく、作成できても多くの時間と労力を費やしてしまうでしょう。
また、債権者破産の申立てでは、特に債務者の財務状況に関する疎明資料を収集することが難しいです。
弁護士であれば、充実した内容の申立書を迅速に仕上げることが可能です。
また、疎明資料についても、必要な資料とその資料の取得方法について適切なアドバイスが受けられます。疎明資料の取得に財産開示手続などの裁判所での手続が必要となる場合は、取得手続を依頼することもできるのです。
一人で債権者破産申立ての準備をするとなると、非常に時間と労力がかかります。
弁護士に相談し依頼することで、申立ての準備に時間をとられて仕事や私生活に支障を来たすといった事態を防げるでしょう。
7-2.結果の見通しを踏まえた上で申立てをするか判断できる
債権者破産の申立てをするかどうかについて、結果の見通しを聞いた上で判断できます。
債権者破産の申立てでは、前述の通り、十分な債権の回収を受けられる可能性は一般的に高くありません。そのため、申し立てる際は、事前にどの程度の回収見込みがあるのかを把握しておく必要があります。
しかし、破産手続に関する法的な専門知識や実務経験がないと、結果の見通しを適切に予想することは容易ではありません。
事前に破産手続に精通した弁護士に相談すれば、回収の見込みについて的確なアドバイスがもらえるでしょう。
事前に結果の見通しについて把握できれば、回収見込みに基づき申立てをするかどうかを判断できるのです。
7-3.長期に及ぶ裁判所での手続を最後までフォローしてくれる
弁護士は法的なアドバイスを提供するだけの存在ではなく、相談者、依頼者の味方です。手続中は良き相談相手、理解者として、相談者や依頼者の立場に寄り添ってくれるでしょう。
前述した通り、債権者破産の手続は、自己破産の場合に比べて手続が長期化する傾向にあります。一人で対応していると、結果がどうなるのか、いつ手続が終わるのかについて不安になることもあるでしょう。
弁護士に相談し依頼すれば、事前に所要期間を把握できますし、手続の途中で心配になっても、その都度相談して疑問や不安を解消できるのです。
また、債権者審尋では裁判所から面談を受け、事情を聞かれます。
弁護士に相談すれば、想定される裁判所からの質問についてアドバイスを受け、事前に対応を準備することが可能です。依頼していれば、審尋期日に同席して対応をフォローしてくれます。
このように、弁護士に相談すれば、裁判所での手続が長期に及んでも随時適切なフォローが受けられるでしょう。
8.債権者破産についてよくあるQ&A
8-1.第三者破産を行うにはどのくらいの費用がかかりますか
A.申立てを行う裁判所や債務者の負債総額によって異なりますが、少なくとも70万円程度はかかります。
債権者破産の申立てを行うために必要となる費用は、申立手数料、郵便切手代、与納金の3種類です。
債権者破産の申立てに必要な申立手数料は2万円であり、収入印紙により納付します。
郵便切手代は申立てを行う裁判所によって異なりますが、1万円〜2万円程度必要です。
具体的な金額は裁判所によって異なるため、事前に確認してみましょう。
与納金は3つの費用の中で一番高額です。
主に債務者の負債総額を基準に決定され、最低でも70万円程度はかかると考えておいた方がよいでしょう。
具体的な金額は裁判所により異なります。裁判所によっては最低でも100万円の納付を求められるという場合もありますので、郵便切手代と同様に、事前に確認する必要があるでしょう。
8-2.債務者による申立てと違う点はどのような点ですか
A.疎明責任や費用負担の有無、裁判所における手続の速さなどで違いがあります。
債権者破産の申立てを行う場合、債権者の側で、債務者に破産手続の開始原因があることを疎明する必要があります。他方で、債務者による申立て(自己破産)の場合には、申立てを行うのは債務者になるため、債権者側で破産手続の開始原因を疎明する必要はありません。
また、債権者破産の申立てでは、申立てにかかる費用(申立手数料、郵便切手代、与納金)は債権者が負担します。自己破産の場合には申立てを行う債務者が負担するため、費用負担の面にも違いがあるのです。
申立てにかかる費用のうち、特に与納金の金額は高額であるため、債権者にとっては大きな違いといえるでしょう。
裁判所における手続の速さにも違いが出ます。
破産手続の開始決定が債務者に与える影響は少なくありません。そのため、債務者本人ではない債権者による申立ての場合は自己破産の申立てに比べて、裁判所での審理が慎重にならざるをえないのでしょう。
その結果、債権者破産の申立ての方が、自己破産の場合と比較して手続が長期化する傾向にあるのです。
9.まとめ
本記事では、債権者破産の申立てについて解説しました。
債権者であっても債務者について破産の申立てを行うことは可能です。
しかし、高額な与納金などの費用を債権者が負担する必要がある、手続に長期間を要する、十分な配当を受けられない場合が多いといったデメリットがあります。
これらのデメリットを考慮しても節税などのメリットを享受したい場合や、債務者の不誠実な対応が看過できない場合には、債権者破産の申立てを検討してもよいでしょう。
債権者破産の申立てでは、債権者において破産手続の開始原因を疎明する必要がありますが、債務者の負債や財産状況に関する疎明資料を入手することは難しいです。
また、破産手続を円滑に進めるには、申立ての準備においても、裁判所の手続においても、専門知識と実務経験が必要になります。
そのため、債権者破産手続の申立てを行う場合は、実績豊富な弁護士に相談し、依頼することが重要です。
一人での対応には限界がありますので、債権者破産の申立てを少しでも考えている場合は、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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