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財産開示手続とは?改正後の内容や手続きの流れを弁護士が解説!

財産開示手続とは?改正後の内容や手続きの流れを弁護士が解説!
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民事裁判で金銭請求をし、勝訴しても相手が支払わない場合には、強制執行によって回収をはかなければなりません。

この強制執行を行うためには、強制執行の対象となる財産を特定する必要があります。

しかしながら、相手方の財産状況を把握していないということは珍しくありません。

このような場合、財産開示手続を申し立てることで、相手方の財産状況を知ることができるかもしれません。この記事では、財産開示手続について解説します。

1.財産開示手続とは

財産開示手続とは、裁判所で行う手続きで、債務者の財産を開示するよう裁判所が命令する手続きのことをいいます。

財産開示命令手続は、民事執行法196条以下に規定されている手続きです。

1-1.財産開示手続が必要である理由

どのような場合に財産開示手続が必要となるのでしょうか。

例えば、金銭債権の請求をした場合、交渉をしても相手が金銭の支払いをしないときには、民事裁判を提起することが考えられます。

しかしながら、民事裁判で勝訴をしたとしても、相手が任意に支払わない場合には、相手の財産に対して強制執行をしなければ、金銭の回収を行うことができません。

この強制執行を行うためには相手の財産を特定しなければなりません

しかしながら、相手に関する情報を十分に取得できていない場合、強制執行の対象となる財産を特定することが困難であり、結局強制執行ができずに回収ができないことがしばしばあるのです。

そのため、強制執行の実効性を確保する見地から定められているのが、財産開示手続です。

1-2.財産開示手続は債権回収のどの時点で必要となるのか

財産開示手続は、債権回収のどの時点で必要となるのかを確認しましょう。

債権回収は、典型的には次のような流れで進みます。

  • 債務者の支払懈怠(債務不履行)
  • 支払いについての交渉(請求)
  • 裁判等によって債務名義を取得する(民事裁判)
  • 強制執行
  • 強制執行によって弁済を受けられなかった(強制執行不奏功)
  • 財産開示手続
  • 開示された財産への強制執行

債務者が債務を履行しない場合、まずは任意で支払うように交渉を行います。

交渉をしても支払いに応じない場合には、裁判や調停・支払督促などを利用して確定判決などのいわゆる債務名義を取得します。

債務名義をしても任意での支払がなされない場合には、強制執行を行います。

後に詳述しますが、財産開示手続は強制執行を行なっても弁済を受けられなかった場合(あるいは、強制執行するための財産が発見できない場合)に、利用することができます。

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2.2020年に改正された内容が施行された財産開示手続

この財産開示手続は、2019年5月19日「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」で改正され、2020年4月1日に現在の内容に改正された民事執行法が施行されました。

2-1.旧財産開示手続は役に立たないことが多かった

財産開示手続については平成15年の改正で設けられたのですが、利用できる要件が厳しすぎることや、債務者がこれに応じない場合の罰則が軽く、実効性が低いということが指摘されていました。

実際、令和元年の司法統計では、財産開示手続の申し立ては全国で577件にとどまり、また、平成28年12月26日の法制審議会民事執行法部会の資料によれば、財産の開示がされたのは3件に1件程度とされています。

このように実効性の観点から疑問視されていたことから、申立権者の要件と債務者が開示に応じない場合の罰則を強化するなどの改正がなされました。

この改正の結果、2020年は3930件と前年の約7倍もの財産開示手続が行われ、21年に入ってからも1~6月で3416件(速報値)もの請求が行われ、利用件数が急激に増加しています。

(参考):慰謝料差し押さえへ資産把握 財産開示手続き7倍|日経電子版

2-1-1.申立権者の要件の緩和

従来の財産開示手続は、判決等を有する債権者にしか認められていませんでした。しかし、債務名義となるものは他にもあるにも関わらず、強制執行をするための財産開示手続が利用できないとする理由はありません。

そのため、2020年改正で、公正証書や仮執行宣言付判決などでも利用できるようになりました。

2-1-2開示に応じない場合の罰則の強化

財産開示手続に出頭しない、虚偽の陳述をした場合には、従来の罰則は30万円以下の過料のみでした。

そのため強制執行の対象が30万円以上であれば、過料を払うほうが得であるといえる状態でしたが、逃げ得を許さないという観点から、開示に応じない場合の罰則を、従来の過料から、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰に強化しました。

現実に2020年10月20日、神奈川県警松田署が、財産開示手続の期日への呼び出しを受けたにも関わらず、正当な理由なく出頭しなかったとして、男性介護士を書類送検した事例が、最初の検挙者の事例として報道されました。

2-1-3.第三者からの情報開示

財産開示手続は従来債務者による開示のみでしたが、2020年に施行された民事執行法から第三者からの情報開示が認められました。

代表的なものとしては、次のような情報を取得することができます。

  • 銀行等の金融機関:預金口座
  • 登記所:不動産
  • 市区町村・日本年金機構:勤務先

銀行口座がわかれば、口座に対する強制執行が可能ですし、勤務先がわかれば給与に対する強制執行が可能となります。

また、不動産があるのがわかれば、不動産に対する強制執行ができ、大きな金額の回収が可能となることが見込まれます。

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3.財産開示手続の申立要件

財産開示手続の申立要件は次のとおりです。

3-1.財産開示手続の申立をできる債権者

財産開示手続を申し立てることができる債権者は、

  • 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者(民事執行法197条1項)
  • 債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者(民事執行法197条2項)

です。

債務名義については、民事執行法22条1項各号に規定されており、代表的なものとしては確定判決(1号)、和解調書(7号の「確定判決と同一の効力を有するもの」)、公正証書(5号)などが挙げられます。

一般の先取特権については民法306条に規定されており、例えば債務者の財産についての共益費用を出した債権者(1号)があります。

3-2.強制執行ができなかったことの疎明

強制執行ができなかったことを疎明する必要があります。

「疎明」とは、裁判官が「一応確からしい」という心象を得られる程度のものをいい、証明ほど厳格ではないことがポイントです。

強制執行又は担保権の実行における配当等の手続において,申立人が金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったこと(民事執行法197条1項1号および2項1号)の場合には、 配当表又は弁済金交付計算書の写し(必要に応じて開始決定正本写し又は差押命令正本写し,配当期日呼出状写し等)を提出します。

知れている財産に対する強制執行を実施しても,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないこと(民事執行法197条1項2号)の場合には、

  • 不動産の場合:居住地・所在地の不動産を調査してもこれを所有していないこと、あるいは所有していても無剰余であること。
  • 債権の場合:預貯金口座を調査したが不明であるか、あるいは残額では完全な弁済が得られないこと。
  • 動産の場合:不明であるか、価値がないこと。

について、疎明が必要です。

3-3.3年以内に財産開示をした者ではないこと

財産の開示は債務者のプライバシーを侵害するものでもあるので、必要最小限で認められます(民事執行法197条3項)。

そのため、3年以内に財産開示をした者ではないことが必要です。

ただし、3年以内に財産開示をした場合でも、

  • 財産開示手続きで一部の財産を開示しなかったとき
  • 財産開示手続き以後に新たな財産を取得したとき
  • 財産開示手続き後に使用者との雇用関係が終了しているとき

には、財産開示手続をすることができます。

この場合、それぞれの要件を証明するために資料を添付書類として提出する必要があります。

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4.財産開示手続の流れ

財産開示手続は次の流れで行います。

4-1.財産開示手続の準備

財産開示手続は、裁判所に対して書面を作成して行うことになります。

そのため、申立書面を作成し、添付書類を収集するなどの準備を行います。

必要な書類については後述します。

4-2.裁判所に申立を行います。

書類を作成し、添付書類を収集したら、裁判所への申立を行います。

申立は、管轄の執行裁判所に行います。

裁判所の建物の中にある強制執行を担当する担当部への申立てをするのですが、東京の場合には強制執行を担当する民事21部は霞が関にある東京高等地方簡易裁判所合同庁舎にはなく、目黒区にある民事執行センターにあるので注意しましょう。

裁判所への申立書の提出は直接出向いても、郵送でもどちらでも行うことができます。

4-3.財産開示期日の実施

申立が受理されてから約1ヶ月後を目安として、財産開示期日が設定されます。

まず、期日の10日前の日が債務者の財産目録提出期限とされます。

これに応じて、債務者は財産目録を提出するので、期日までに提出された目録を閲覧します。

財産開示期日では、裁判所が債務者に対して質問を行います。

債権者として質問したいことがある場合には、裁判所に対して予め質問書を提出して、期日に裁判所の許可を得て質問を行います。

4-4.期日後に記録を閲覧する

財産開示期日後に、記録を閲覧します。

謄写をすることができるので、これに基づいて強制執行を行います。

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5.財産開示手続が債務者に与える影響

財産開示手続は債務者に次のような影響を与えます。

5-1.債権者に対して財産が開示される

債権者に対して財産が開示されることになります。

そのため、開示された財産が強制執行の対象となる場合には、債務者は強制執行によりその財産を失う可能性が高まります。

5-2.財産開示手続に協力しない場合には刑事罰

財産開示手続に出頭しない、手続きで嘘をつくなど手続きに協力しない場合には、刑事罰に処せられます。

従来は30万円の過料という行政罰だったのですが、上述したように、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金刑と改正されたため、刑事罰に問われることになります。

つまり、前科がつくということになるので、誠実に協力する必要があるといえるでしょう。

6.財産開示手続に必要な書類・費用

財産開示手続に必要な書類・費用は次のとおりです。

6-1.財産開示手続に必要な書類

財産開示手続に必要な書類としては、申立書等の作成する書類と、添付をする書類が必要となります。

6-1-1.財産開示手続申立書等

財産開示手続申立書等を作成する必要があります。

執行力のある債務名義の正本を有する債権者が財産開示手続をする場合は次の書類を作成します。

  • 財産開示手続申立書
  • 当事者目録
  • 請求債権目録
  • 財産調査結果報告書
  • 債務名義等還付申請書

一般の先取特権を有する債権者が財産開示手続を行う場合には次の書類を作成します。

  • 財産開示手続申立書
  • 当事者目録
  • 担保権・被担保債権・請求債権目録
  • 財産調査結果報告書

これらの書類は裁判所のホームページにPDFファイル・Wordファイルがあるので、これを利用するのが良いでしょう。

参考:財産開示手続を利用する方へ|裁判所

その他に、当事者が法人の場合には資格証明書、債務名義の正本と送達証明書、要件を証明するのに必要な書類が必要です。

6-1-2.添付書類

添付書類には次のようなものが必要です。

共通書類

  • 当事者が法人の場合には、商業登記事項証明書、代表者事項証明書等
  • 代理人による申立ての場合には、委任状/代理人許可申立書等
  • 債務名義上の氏名・名称・住所について変更・移転がある場合:住民票、戸籍謄本、戸籍の附票、履歴事項証明書、閉鎖商業登記事項証明書等
  • 民事執行法197条1項~3項の要件を満たすことを証明する書類

執行力のある債務名義の正本を有する債権者による申立ての場合

  • 執行力のある債務名義の正本・送達証明書
  • 債務名義が更生されている場合はその決定正本・送達証明書
  • 家事審判の場合は確定証明書
  • 執行開始要件を備えたことの証明を要する場合は証明文書
  • 債務名義等還付申請書
  • 原本を提出する場合には上記の書類の写しを各1通

一般の先取特権を有する債権者が申立てをする場合

  • 一般の先取特権を有することの証明文書(雇用関係の先取特権の照明文書は原本と写しの2通を提出)

6-2.費用

財産開示手続に必要な費用は次の通りです。

  • 申立手数料:2,000円
  • 予納郵券:裁判所による

申立手数料は収入印紙を購入して、申立書に貼って提出します。

裁判所が利用する予納郵券は、指定の券種を購入して裁判所に納めます。

納める予納郵券は裁判所によって異なりますが、概ね3,000円~6,000円程度です。

東京地方裁判所に申立てをする場合は、6,000円(500円×8枚・100円×10枚・84円×5枚・50円×4枚・20円×10枚・10円×10枚・5円×10枚・2円×10枚・1円×10枚)です。

裁判所には売店があり、そこでは収入印紙や予納郵券のセットになったものが販売されていますので、利用すると良いでしょう。

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7.財産開示手続を弁護士に相談するメリット

財産開示手続を弁護士に相談するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

7-1.複雑な財産開示手続についてサポートを受けられる

ここまでお伝えしてきた通り、財産開示手続は非常に複雑で難解です。

財産開示手続を行う要件を備えているかを判断する必要がある上に、書類の作成・添付書類の収集等、様々な準備が必要です。

また、当然ながら請求する元の債権についての法律的な知識も欠かすことができません。

弁護士に相談をすれば、これらの複雑な財産開示手続や債権回収についてサポートが受けられます。

7-2.必要書類の収集などの手続きがスムーズ

手続きを行う際に取得が困難である書類がある場合があります。

弁護士に依頼すればスムーズに資料や書類を収集することができるでしょう。

また、弁護士は弁護士照会という制度によって、銀行預金を探すことができるなど、ケースによって財産開示手続が必要なくなることもあります。

財産開示手続の申立てをした後は、財産開示期日の10日前までに財産目録が提出されますが、もし質問をする場合には、その10日の間に質問書を裁判所に送る必要があるので、速やかに行わなければなりません。

弁護士に依頼すれば、これらの手続きすべてをスムーズに行うことができます。

7-3.債権回収を1から見直すことができる

債権回収で財産開示手続を行うまでには、裁判・強制執行など様々な手続きを行うことになります。

多くのケースで、相手と交渉し、裁判を起こし、強制執行を行うという方法が取られるのですが、債権回収には他にも様々な方法が存在します。

また、一つ一つの行動について適切なタイミングがあります。

弁護士に相談することで、債権回収を1から見直すことができ、より効率的な債権回収方法を見つけることが可能となる場合があります。

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8.財産開示手続に関するよくあるQ&A

財産開示手続に関するよくあるQ&Aをご紹介します。

8-1.管轄の裁判所の探し方

財産開示手続は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に対して行われます。

債務者の住所地を管轄する裁判所がどこかは、裁判所のホームページで確認ができます。

(参考)裁判所の管轄区域|裁判所

8-2.開示された財産は必ず強制執行できるとは限らない

開示された財産は必ず強制執行ができるのでしょうか。

開示された財産でも、それが差し押さえ禁止財産に該当する場合には、強制執行することができません。

差し押さえ禁止動産については民事執行法131条に、差し押さえ禁止債権については民事執行法152条に規定があります。

差し押さえ禁止動産としては、生活のために必要な家具など(1号)、標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭(3号)、仕事をするのに必要な道具(4号・5号・6号)などがあり、差し押さえ禁止債権としては、給与の3/4に相当する部分(1項)、生活保護費・年金などが挙げられます。

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9.まとめ

この記事では、財産開示手続についてお伝えしました。

2020年に改正された現在の民事執行法が施行され、適用対象が広がり、罰則が強化されるなどして、強制執行のために使える制度として認知が広がっています。

財産開示手続や債権回収については、手続きが難しく、タイミングが重要であることが多いので、まずは弁護士に相談するようにしましょう。

法律事務所リーガルスマートでは初回60分無料の法律相談を実施しているので、ぜひ利用してみてください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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