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支払督促とは?メリットデメリットや手続きの流れを弁護士が解説

支払督促とは?メリットデメリットや手続きの流れを弁護士が解説
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「友人にお金を貸したけれど、返済を催促しても返してもらえない」

「取引先が売掛金を支払ってもらえない」

このような場合、相手を訴えることを思い浮かべる人が多いと思いますが、実は訴訟以外にもお金を回収する手段は存在します。

今回の記事では、その手段の一つである「支払督促」について、支払督促のメリットやデメリット、支払督促の手続きの流れなどを現役弁護士が徹底解説します。

お金を支払ってもらえず困っている人はぜひ最後までお読みください。

1.そもそも支払督促とは?

お金を貸した相手に対して貸金の返還を請求することができる権利や、取引先に対して売掛金を請求することができる権利を「債権」といいますが、期限までに支払われなかった債権を回収する行動を「債権回収」といいます。

債権回収の手段としてまず思い浮かぶのは訴訟だと思いますが、訴訟の他にも債権回収の手段はいくつか存在します。

支払督促はその債権回収の手段の一つであり、訴訟よりも簡便で迅速な債権回収を実現できる可能性があります

支払督促とは、金銭等の請求について、債権者からの申し立てにより、債権者の請求に理由があると認められる場合に、債務者に対し、簡易裁判所の書記官から支払いを督促する書面を送ってもらう手続をいいます

2.支払督促のメリット

債権回収の方法の一つとして支払督促がありますが、以下では支払督促を選択したときのメリットを3つお伝えします。

2-1.手続きが簡単

支払督促の最大のメリットは、手続きが簡単なことです簡易裁判所に支払督促の書面を提出すると、支払の督促に理由があるかどうか簡単な書類審査だけで、債務者の意見を聞かずに債務者に対して支払督促をしてくれます

訴訟の場合、訴状を提出した後、裁判所に出頭し、口頭弁論において証拠調べや主張整理を行うといった煩雑な手続きを経る必要がありますが、支払督促はその必要がありません。裁判所へ行かず郵送で手続きを行うことも可能です。

このように、相手方の反論を待つことなく簡易な書面審査だけで迅速に支払督促を発することができる点が最大のメリットです

2-2.費用が安い

訴訟をする場合、訴状に印紙を貼って裁判所に手数料を支払う必要がありますが、支払督促の場合、この印紙代が訴訟の半額で済みます。

例えば相手方に50万円を貸したけれど返してもらえない場合、訴訟ですと印紙代として5,000円がかかりますが支払督促はその半分の2,500円で済みます。

2-3.判決と同様の効果が発生

支払督促を債務者が受け取った後、債務者が異議を申し立てずに2週間が経過すると、債権者は仮執行宣言という宣言を申し立てることが可能になります。この仮執行宣言がなされた後は、債務者の財産に対し強制執行が可能となります。

このように、支払督促は訴訟よりも簡易迅速な手続で勝訴判決と同様の効果を得ることができます

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3.支払督促のデメリット

支払督促には主に3つのメリットがあることをお伝えしましたが、逆にデメリットも存在します。以下では、支払督促のデメリットを解説します。

3-1.異議申立てにより通常訴訟へ移行する

債務者が支払督促を受け取ってから2週間以内に異議を申し立てると、通常の訴訟手続に移行してしまいます。つまり、異議を申し立てられると、支払督促をせずに最初から訴訟をしたほうが早いことになるのです。

相手方がこちらの請求を無視しているような場合は支払督促に対し異議を申し立ててくる可能性は低いですが、相手方と争いがあるような場合は異議を申し立てられる可能性が高いです。その場合は支払督促ではなく当初から通常の訴訟を提起したほうがよいでしょう。

3-2.債務者の住所地が管轄になる

支払督促は、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に対し申立てを行います。よって、債務者が遠方に住んでいる場合には、遠方の簡易裁判所に申立書を提出しなければならず手続きが面倒になります。

また、支払督促に対し債務者が異議を申し立てると通常の訴訟手続に移行しますが、この訴訟手続は債務者の住所を管轄する裁判所で行われます

一方、支払督促をせず最初から訴訟を提起する場合、自分の住所を管轄する裁判所に訴えを提起することができます。

例えば、債権者が東京都に住んでいて債務者が沖縄県那覇市に住んでいる場合、那覇簡易裁判所に対し支払督促を申し立てなければならず、債務者が異議を申し立てると那覇簡裁または那覇地裁で訴訟手続が行われることになります。よって、東京に住んでいる債権者は那覇まで出頭する必要があります。

一方、最初から訴訟をしていれば東京簡裁または東京地裁に訴えることができるため、逆に債務者側が那覇市から出頭しなければなりません。

つまり、最初から訴訟を提起していれば債権者の住所地を管轄する裁判所で訴訟ができたのに、支払督促に異議を申し立てられると相手方の住所地を管轄する裁判所まで出頭しなければならないのです。この点は支払督促の最大のデメリットです。

4.支払督促の手続きの流れ

支払督促は裁判と異なる手続きにより進みます。以下では、支払督促の手続きの流れを解説します。

4-1.支払督促申立書の提出

債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に支払督促申立書を提出することにより支払督促の手続きが開始します。申立書は直接簡易裁判所に出向いて提出してもよいですし、郵送で提出することもできます。

債務者の住所が遠方の場合は郵送で提出することになるでしょう。

4-2.申立書の審査

支払督促申立書が簡易裁判所に提出されると、裁判所書記官が申立書を審査します。審査といっても、裁判のような証拠調べはされません。支払督促では、そもそも金銭消費貸借契約書といった証拠を提出する必要はありません。

4-3.支払督促の送達

申立書に必要事項が記載されていれば審査は終了し、債務者に対し支払督促が発せられます。

4-4.仮執行宣言の申し立て

債務者が支払督促を受領してから異議を申し立てることなく2週間が経過すると、債権者である申立人は仮執行宣言を申し立てることができます。

仮執行宣言とは、文字通り仮に執行できるという宣言であり、判決が確定しなくても相手方の財産に対し強制執行が可能となる効力を与えるものです。

一方、債務者が異議を申し立てると支払督促は失効し、通常の訴訟手続きに移行します。

4-5.仮執行宣言付き支払督促の送達

仮執行宣言が申し立てられると、簡易裁判所の書記官は申立書を審査し、問題がなければ債務者に対し仮執行宣言付き支払督促を送達します。

債務者が仮執行宣言付き支払督促を受領した日から2週間以内に異議を申し立てなければ、仮執行宣言付き支払督促は確定し、債務者の財産に対し強制執行が可能な状態になります。

つまり、通常の訴訟において勝訴判決を得たのと同様の効果を得ることができます

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5.支払督促に必要な申立書の書き方

支払督促を申し立てるためには、支払督促申立書を作成する必要があります。支払督促申立書には以下の事項を記載しなければなりません。

なお、裁判所のホームページに支払督促申立書の書式と記載例がありますので、詳しくはそちらを参照するとよいでしょう。

  • 請求事件

貸金の場合は貸金請求事件と記載します。

  • 「債務者は、債権者に対し、請求の趣旨記載の金額を支払え」

債務者が複数いる場合は、「債務者らは、連帯して」等になります。

  • 申立手続費用

書式に記載されている手数料の合計を記載します。

  • 申立年月日

支払督促申立書の提出日を記載します。

  • 申立人(債権者)の氏名

債権者の氏名を記載します。法人の場合、法人名と代表者を記載します。

  • 提出する簡易裁判所

提出する簡易裁判所を記載します。

また、支払督促申立書のほか、以下の書類を添付しなければなりません。

5-1.請求の趣旨および原因

請求の趣旨および原因とは、債務者に対しどういった支払いを請求するのか、その支払いを請求するに至った理由を記載する部分になります

例えば、貸金100万円の支払督促を申し立てる際の請求の趣旨および原因の例は以下のようになります。

請求の趣旨

1.金 1,000,000円

2.上記金額に対する支払督促送達の翌日から完済まで、年〇%の割合による遅延損害金

3.金 〇〇円(申し立て手続き費用)

請求の原因

1.貸付日 令和5年4月1日

2.借主 債務者

3.利息 定めあり(利率〇%)

  遅延損害金 定めあり(利率〇%)

  連帯保証人 なし

4.

貸付金額利息等合計額支払済みの額残額
1,000,000円〇〇〇円〇〇〇円〇〇〇円

5.最終支払期限(令和〇年〇月〇日)の経過

5-2.当事者目録

当事者目録には、債権者欄と債務者欄があります。

債権者欄には、債権者の住所及び氏名、送達場所等の届出を記入します。

債務者欄には、債務者の住所及び氏名を記入します。債務者が複数いるときには全ての債務者を記入します。

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6.支払督促にかかる裁判所費用

支払督促を申し立てるためには、裁判所への申し立て手数料など、以下の費用がかかります。

6-1.手数料

請求額に応じた手数料を収入印紙で支払う必要があります。例えば請求額が100万円であれば5,000円と決まっています。支払督促は通常訴訟の印紙代の半額です

なお、具体的な手数料の額については裁判所に早見表がアップロードされていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

6-2.郵券代

債務者に送達するための郵便切手が必要です。簡易裁判所によって郵便切手の組み合わせが決まっているため、詳しくは簡易裁判所に確認してください。例えば、東京簡易裁判所であれば債務者一人の場合1,245円分の切手(内訳:500円切手2枚、100円切手2枚、10円切手4枚、5円切手1枚)が必要です。

6-3.必要書類の取得費用

債権者または債務者が法人の場合、申立書のほか、資格証明書や登記簿謄本が必要です。その取得費用に一通450円~600円程度の手数料がかかります。

7.支払督促で失敗しないための確認事項

支払督促には上記のとおりデメリットが存在します。デメリットをしっかり認識した上で支払督促を利用しないと失敗することにもなりかねません。

以下では、支払督促で失敗しないための確認事項を解説します。

7-1.債務者の態度の確認

支払督促を申し立てる前に、相手方に対し支払う意思があるかを確認しましょう。できれば電話や電子メールではなく内容証明郵便などを送付しましょう。

内容証明郵便に対し相手方からの返答がなかったり、支払うとは言っているものの一向に支払いがなかったりした場合は支払督促を検討してもよいでしょう。

一方、相手方が支払わない旨の返答をしてきたり、額などを争ってきた場合には、支払督促以外の債権回収方法を検討したほうがよいでしょう。なぜなら、支払督促を発しても異議を申し立てられる可能性が高いからです

異議を申し立てられると通常の訴訟手続きに移行することとなるため、初めから訴訟をしたほうが管轄の点で有利ですし手間がかからないでしょう。

7-2.債務者の住所地の確認

支払督促に対し債務者が異議を申し立てると、通常の訴訟手続きに移行します。この訴訟は債務者の住所地を管轄する裁判所で行われます。

仮に債務者から異議を申し立てられた場合にどの裁判所になるかは非常に重要となるため、必ず債務者の住所地を確認しましょう。

例えば、債権者と債務者がともに東京23区に住んでいる場合は東京簡易裁判所が管轄となるため異議を申し立てられても特段不利とはなりません。他方、債権者の住所が東京で債務者の住所が沖縄県那覇市ですと那覇簡裁まで出頭する必要があります。

このように、支払督促では異議を申し立てられた場合の管轄裁判所が重要となるため、債務者の住所地の確認が必要です。

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8.支払督促以外で債権回収する方法

支払督促はメリットもありますがデメリットもあります。場合によっては支払督促以外の債権回収手続きを取ったほうがよい場合もあります。

以下では、支払督促以外の債権回収方法を解説します。

8-1.訴訟

債権回収の代表的な方法としては訴訟が挙げられます。通常訴訟は支払督促と比べて結果が出るまでに時間がかかりますが、勝訴判決を得ることができれば相手方が任意に支払う可能性が高まりますし、強制執行も可能です。

訴額が140万円以下の場合は簡易裁判所へ、140万円を超える場合は地方裁判所へ訴えを提起することになります。訴額が大きい場合、相手方が異議を申し立てる可能性が高いため、初めから訴訟を選択したほうがよい可能性があります。

また、通常訴訟のほかに、債権額が60万円以下の場合は少額訴訟手続きを利用することができます少額訴訟とは60万円以下の債権額である場合に、1回の審理で結審して即日判決を言い渡す手続きをいいます。迅速に判決を得ることができるため、債権額が60万円以下の場合は支払督促の代わりに少額訴訟を検討してもよいでしょう。ただし、少額訴訟は1人が同じ裁判所に年間10回までしか提起することができないという回数制限がありますのでご注意ください。

8-2.民事調停

民事調停とは、裁判所が当事者の間に入って話し合いを進めることで解決を図る手続きをいいます。調停委員がお互いの言い分を聞いた上で、お互いの合意が得られるよう話し合いを進めます。

民事調停は訴訟に比べて費用が安く、訴訟のように準備書面を作成する必要はない点がメリットです。

合意が成立した場合、調停調書が作成されます。調停調書は確定判決と同一の効力を有するものとされ、強制執行をすることも可能です。

一方、民事調停はあくまで話し合いでの解決を目指すものであるため、相手方の協力がなければ解決ができない点がデメリットです

支払いを催促しても相手方が無視しているような場合は調停を申し立てても出頭しない可能性が高いでしょう。また、相手方が出頭したとしても話し合いでの合意が得られなければ調停不成立となるため、最初から訴訟をしたほうがよい場合があります。

9.支払督促を弁護士に相談するメリット

支払督促は訴訟よりも簡易迅速な手続きで債権回収を図ることができますが、弁護士に相談したほうがメリットは大きいでしょう。

以下では弁護士に相談するメリットを解説します。

9-1.支払督促手続きを代理できる

弁護士に支払督促手続きを依頼すれば、弁護士が代理人となって全ての手続きを行ってくれます。支払督促は訴訟よりも簡易な手続きとはいえ、支払督促申立書や仮執行宣言申立書を作成する必要があります。自分で手続きをする場合、手続きに不慣れで時間がかかるかもしれません。

弁護士は債権回収手続きに慣れていますので支払督促申立書の作成で手間取ることはありません。自分で申立書を書く余裕がない、仮執行宣言とは何かよくわからないという人は弁護士に依頼することをおすすめします。

9-2.訴訟や強制執行がスムーズにできる

仮執行宣言付き支払督促が確定した場合、強制執行が可能となります。しかし、強制執行をするためには差し押さえに関する法的知識が必須であり、法律に詳しくない人が自分で行うにはハードルが高いでしょう。

弁護士に依頼すれば、仮執行宣言付き支払督促が確定した後に債務者が任意に支払わない場合、スムーズに強制執行に移行可能です

また、支払督促に対し債務者が異議を申し立ててきた場合、通常の訴訟手続きに移行します。弁護士に依頼すれば、訴訟手続きに移行した場合でも訴訟代理人となって書類の作成から裁判への出頭まで全て代理してくれますので安心です

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10.支払督促に関するよくあるQ&A

以下では、支払督促に関するよくある質問に回答してまいります。

10-1.相手方の住所がわからないのですが支払督促は可能でしょうか?

支払督促は相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てるため、相手方の住所がわからない場合は利用することができません

訴訟の場合は公示送達という手段によって相手方の住所がわからない場合でも進めることができますが、支払督促は公示送達を利用できないためです。ただし、支払督促が送達された後に所在不明となった場合は公示送達が可能となります。

10-2.貸金債務は持参債務なので債権者の住所地に支払督促を申し立てることはできますか?

訴訟では債務者の住所地のほか、義務履行地を管轄とする裁判所に訴えを提起することができます。しかし、支払督促においては義務履行地を管轄とする裁判所に申し立てることはできず、債務者の住所地を管轄とする裁判所に申し立てなければなりません

よって、貸金債務が持参債務であっても、義務履行地である自分の住所地を管轄とする裁判所に申し立てることはできません。自分の住所地を管轄する裁判所に申し立てたい場合、初めから訴訟を提起したほうがよいでしょう。

11.まとめ

支払督促は訴訟よりも簡易迅速な手続きで債権回収を図ることができるため、さまざまなメリットがあります。一方で、異議を申し立てられた場合に通常の訴訟手続きに移行するなどデメリットもあります

また、簡易な手続きとはいえ、仮執行宣言の申し立てやその後の強制執行手続きなど、法的な知識が必要となってきます。

支払督促を利用すべきかどうか検討している場合、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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