自己破産
自己破産の免責とは?免責不許可だった際の対処法を弁護士が解説
自己破産をする場合にセットになる言葉として「免責」という言葉が挙げられます。
「自己破産をすると借金が免除される」「借金がチャラになる」「債務が0になる」「借金から救済される」などという言葉で言い変えられるのですが、自己破産手続きを規定している破産法の12章には「免責手続及び復権」という名前の章になっています。
免責の意味をきちんと知っておくことは、自己破産手続きの理解を深めることになります。
そこで本記事では、免責について債務整理に強い弁護士が解説します。
目次
1.自己破産の免責とは
自己破産の免責とはどのような意味なのでしょうか。
1-1.自己破産手続きの概要
自己破産における免責について理解するにあたって、自己破産手続きとはどのようなものなのか確認しましょう。
自己破産手続きとは、債務整理の一つの方法で、裁判所に申立てをして借金を免責してもらう手続きです。
主に3つの方法がある債務整理の中でも、借金をすべて免責してもらえるのは自己破産だけで、手続き後には返済しなくてよくなるという強力な効果を持っています。
1-2.自己破産は本来債務の精算と免責の手続きからなる
自己破産は、裁判所に申立てをして借金を免責してもらう手続きと説明されますが、破産手続きを詳細に見ると、資産と債務の清算に関する手続きと、免責に関する手続きに分かれます。
免責に関する破産法248条1項は「個人である債務者(中略)は、破産手続開始の申立てがあった日から破産手続開始の決定が確定した日以後一月を経過する日までの間に、破産裁判所に対し、免責許可の申立てをすることができる。」と規定しています。
破産手続きは本来、支払不能となった債務者の資産を、債権者に平等に分配する手続きとなっており、免責は破産手続きと併せて行われる手続きであると言えます。
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2.自己破産において免責が許可される条件
自己破産において免責が許可される条件にはどのようなものがあるのでしょうか。
2-1.免責の申立てがあること
免責の許可は免責の申立てに対して行われます。
そのため、免責の申立てがあることが必要です。
自己破産は通常は弁護士に依頼して行われ、弁護士は破産申立書のフォーマット通りに免責の許可を裁判所に対して申立てるので、この要件があまり問題になることはありません。
2-2.免責不許可事由がないこと
免責について定める破産法252条1項は「裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。」と規定して、この規定の後に免責を認めないケースについて規定しています(免責不許可事由)。
そこで、免責が許可されるための要件として、免責不許可事由がないことが要件となります。
免責不許可事由については後述します。
2-3.裁量免責
免責不許可事由があって破産法252条1項の規定によっては免責許可の決定ができない場合でも、破産法252条2項は「裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」と規定しています。
破産法252条2項に規定する免責は、裁判所の裁量による免責であることから、裁量免責と呼ばれています。
実際に免責不許可事由がある場合でも、ほとんどの場合で裁量免責がおこなわれます。
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3.免責不許可事由
免責をしてもらうためには免責不許可事由が無いことが必要です。
では、免責不許可事由にはどのようなものがあるか確認しましょう。
3-1.1号:破産財団に属する財産を減少させる行為
債権者を害する目的で、隠匿・損壊・不当に処分するなどで、破産財団に属する財産を減少させる行為は、免責不許可事由とされています。
破産財団とは、債権者への配当可能な財産のことをいいます。
たとえば、高価な貴金属や美術品を所有している場合、破産手続きでは金銭に換えて債権者に配当するのが筋です。
債権者への配当に回されるべき財産を、隠す・壊す・安く売ってしまうような債務者を免責する必要はないので、免責不許可事由とされています。
3-2.2号:不当に債務を負担する行為
破産手続の開始を遅延させる目的で、債務を負担する行為を行うことは、免責不許可事由とされています。
不利益な条件で債務を新たに負担すると、その債務についても破産手続きで処理することになり、従来の債権者の配当が経ることになります。
このような行為を行う債務者に免責の恩恵を与える必要はなく、免責不許可事由とされています。
この条項にあてはまるものとしてよく挙げられるのは次の2つです。
- ヤミ金融からお金を借りる
- ショッピング残額をつかって物品を購入して安価で売却して金銭を取得するいわゆる換金行為
3-3.3号:特定の債権者について利益を与える行為
特定の債権者に対して特別の利益を与える行為は免責不許可事由とされています。
破産手続きにおいては、債権者は平等に取り扱われる、債権者平等の原則というものがあります。
特定の債権者についてのみ利益を与える行為は、債権者平等の原則に違反する行為で、そのような行為を行う債務者を免責する必要はないといえ、免責不許可事由とされています。
具体的な行為としてよく問題になるのが、債権者の中に親・親族・知人・会社からの借り入れについて返済してしまう偏頗弁済です。
破産手続きは貸金業者との関係だけで処理するものではなく、すべての債権者が対象になるもので、たとえ親や知人であっても債権者として取り扱われます。
3-4.4号:浪費・ギャンブル
浪費やギャンブルによって過大な債務を負った場合も免責不許可事由とされます。
このような借り入れ理由で免責を認めることはモラルに反するからです。
なお、1円でも浪費やギャンブルがあってはいけないということではなく、借り入れ全体に比して浪費・ギャンブルが多く、モラルに反すると評価できる場合に免責不許可事由となります。
たとえば、カードを作った当初に5万円ほど浪費をしたけども、そこから先は浪費をしておらず、その後生活難から借金を増やして200万円の借金となってしまった程度であれば、免責不許可事由にはあたらないといえるでしょう。
浪費・ギャンブルにあたるかどうか、判断が難しい場合には、弁護士に相談しましょう。
3-5:5号:詐術による信用取引
申立てをした日から1年以内に、嘘をついて信用取引をした場合には、免責不許可事由にあたります。
たとえば、クレジットカードの新規発行を受ける際には、勤務先などの申告が必要です。
これらについて有利に働くように虚偽の申告を行ってカードを発行してもらって、キャッシングをしたような場合がこれにあたります。
このような不誠実な取引をするような人に免責を認める必要はないため、免責不許可事由としています。
3-6:6号:帳簿の隠匿・偽造・変造
帳簿を隠匿・偽造・変造した場合には、免責不許可事由にあたります。
個人事業主である場合には、商業帳簿の作成をしますが、その帳簿を隠匿したり偽造したり変造したような場合、免責を認める必要はありません。
そのため、免責不許可事由とされています。
3-7:7号:虚偽の債権者名簿・債権者一覧表を提出する
虚偽の債権者名簿・債権者一覧表を提出することは、免責不許可事由にあたります。
自己破産手続では、債権者名簿・債権者一覧表を作成して提出します。
たとえば、会社の社長に借り入れをしているような場合、秘密にしたいという理由から債権者名簿・債権者一覧表に記載せず、あとから返済する、という場合があります。
このような不公正な行為をする人に免責を認める必要はありません。
そのため、免責不許可事由としています。
3-8.8号:裁判所・破産管財人に対する説明を拒否すること・虚偽の説明をすること
裁判所・破産管財人に対する説明を拒否すること、虚偽の説明をすることは、免責不許可事由となります。
自己破産手続きや免責の手続きにおいて、裁判所あるいは裁判所から選任された破産管財人は、債務者に対して自己破産に関する事項の説明を求めることができます。
債務者がこれらの説明を拒否したり、虚偽の内容を説明するのであれば、もはや免責を認める必要はありません。
そのため、免責不許可事由とされています。
3-9.9号:破産管財人等の職務を妨害
破産管財人等の職務の妨害をすることは、免責不許可事由となります。
自己破産手続きで破産管財人が選任されると、破産管財人は財産を換価して債権者に配当し、免責について調査を行う等します。
これら一連の職務を妨害するような債務者に免責を認める必要はなく、免責不許可事由とされています。
3-10.10号:過去7年以内に自己破産・個人再生をしている
過去7年以内に自己破産・個人再生をしている場合には、免責不許可事由となります。
自己破産をして免責してもらっていたり、個人再生をしていて債務の減免をしていらっているにも関わらず、また借り入れを繰り返すような行為に免責を認めることは、モラルに反します。
そのため、前回の免責・個人再生から7年経っていない自己破産の申立ては免責不許可事由とされています。
3-11.11号:破産法に規定された義務に違反すること
破産法に規定されている義務に違反することは、免責不許可事由となります。
破産法には債務者に様々な義務を課しています。
これらの義務に違反するような不誠実な債務者に免責を認める必要はありません。
そのため、免責不許可事由としています。
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4.自己破産で免責許可がおりたらどうなるのか
自己破産で免責許可がおりたらどうなるのでしょうか。
破産法253条は、債務の支払いについて責任を免れる旨を規定しています。
この規定の正確な意味は、債権者は法的手段で回収をすることができなくなることを意味し、債権・債務が無くなるわけではないと解釈されています。
そのため、債務者が自己破産・免責後に任意に支払った場合、その金銭を受け取る正当な権限まで失うものではないとされます。
そのため、贈与と評価されて贈与税の課税対象となったり、支払った金銭について返還を求められてもこれを拒否することができるとされています。
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5.免責許可がおりるまでの流れと期間
免責許可がおりるまでの流れと期間を確認しましょう。
免責手続きの流れは次の通りです。
- 裁判所に対して免責許可の申立てをする(破産法248条)
- 裁判所が免責についての調査をする(破産法250条)
- 裁判所が免責の許可をする(破産法252条)
- 免責が確定し破産債権の責任を免れる(破産法253条)
5-1.免責許可の申立て
裁判所に対して免責許可の申立てをします。
破産申立をする際に申立書を提出するのですが、そのフォーマットの中に免責許可を求める旨の記述があり、チェックボックスにチェックをして提出することで行います。
5-2.裁判所による調査
免責についての要件を満たすか裁判所が調査を行います。
この調査については、裁判所が選任する破産管財人に行わせることもできます(破産法250条)。
破産手続きには破産管財人が選任される管財事件と、破産管財人が選任されない同時廃止があるのですが、管財事件の場合には破産管財人が調査をして裁判所に対して報告を行います。
5-3.裁判所による免責の許可
裁判所によって免責の許可が行われます。
この免責許可には即時抗告という異議申立ができることになっています。
5-4.免責の確定
免責の許可から1ヶ月が経過すると免責が確定します。
これにより債務についての責任から免除されます。
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6.免責許可がおりるまでの注意点
免責許可がおりるまでの注意点としては次のことが挙げられます。
6-1.免責不許可事由を行わない
まず、免責不許可事由を行わないことです。
免責不許可事由がない場合には、免責の許可についてはスムーズにもらうことができます。
弁護士に依頼して自己破産手続きに入った後にも問題となる免責不許可事由があるので、これらにも注意をします。
6-2.裁判所・破産管財人の調査等には素直に応じる
裁判所・破産管財人の調査等には素直に応じましょう。
特に裁量免責をもらう必要がある場合には、裁判所・破産管財人からの調査等には素直に応じるようにしましょう。
裁量免責は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮しておこなわれます。
そのため、たとえば反省をしているかどうかを確認するために、反省文の提出をしてほしい、という依頼を破産管財人から受けることがあります。
このような場合にも真摯に応えることで、裁量免責を勝ち取ることが可能となります。
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7.免責不許可になった際の対処法
万が一免責不許可となった場合には、どのような対処法があるのでしょうか。
7-1.免責不許可について即時抗告を行う
免責不許可という判断に対して、不服申立て手段として即時抗告というものがあります。
即時抗告によって不服申立てを行い、裁量が相当であるという判断を勝ち取ります。
なお即時抗告は決定が送達されてから1週間以内に行う必要があり、期間が短いので注意をしましょう。
7-2.任意整理や個人再生といった他の手続きを行う
任意整理や個人再生といった他の手続きを行います。
いずれも返済をすることが前提の手続きとなるので、返済できない場合には利用できません。
自己破産の申立てをするような状態であれば、貸金業者と元金額で和解をして分割弁済をする任意整理の利用は難しいです。
そのため、個人再生を利用することが現実的となります。
借金は減額されますが、減額された分については支払う義務があるので、その返済能力をなんとか確保する必要に迫られます。
7-3.誠実に破産手続きに協力すれば免責はもらえる
上記のように、免責されない場合には、返済を前提とする手続きをするしか債務整理方法はありません。
非常に苦しい立場に立たされることになり、特に収入が無い・少ないようなケースでは八方塞がりになってしまいます。
自己破産で免責されないということはほとんどなく、免責されないケースとしては、免責審尋や債権者集会に出頭しないなど、破産手続きに対する協力を全くしないような場合に限られます。
誠実に破産手続きに協力し、免責をもらうようにしましょう。
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8.自己破産の手続きを弁護士に相談、依頼するメリット
自己破産の手続きを弁護士に相談・依頼するメリットには次のようなものがあります。
8-1.免責をしてもらえる可能性が非常に高い
弁護士に相談・依頼することで免責をしてもらえる可能性が非常に高くなります。
自己破産は申立書・添付書類を提出して行います。
この申立書・添付書類に疑問点や不明点、添付漏れなどがあると、厳しく調査を受けることになります。
弁護士に相談・依頼することで、きちんとした申立書・添付書類を作成し、裁判所・破産管財人に免責を認めてもらいやすくなります。
また、細かなことでも弁護士に相談することで、依頼後に免責不許可事由に該当する行為を知らないうちにしてしまうことを防ぐことができます。
8-2.自己破産の費用が安くなる
自己破産の費用として、最も高い割合なのが、破産管財人が選任されるときの、破産管財人の報酬となる引継予納金が挙げられます。
自分で申立てをすると通常管財(特定管財)となる運用をしている裁判所が多く、この場合50万円~がかかります。
一方で弁護士に依頼して行うと、破産管財人がつかない同時廃止や、破産管財人がついても簡易な手続きで費用が安い少額管財の手続きを利用することができます。
同時廃止の場合は破産管財人に対する費用が不要となりますし、少額管財の場合でも20万円~で済みます。
8-3.取立てを止めることができる
弁護士に依頼をすると、取立てを止めることができます。
返済期日に返済できない場合には、自宅や携帯電話に督促の電話がかかったり、支払いを求める郵送物が送付されてきます。
弁護士に依頼すると、貸金業法21条1項9号によって、本人への取立てが規制されることになっています。
そのため、督促・取立てを止めることができます。
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9.自己破産の免責に関するよくあるQ&A
自己破産の免責に関するよくあるQ&Aには次のようなものがあります。
9-1.免責がされれば必ず全ての債務は免責されますか
免責がされれば必ず全ての債務は免責されるのでしょうか。
この点、免責がされる場合でも、破産法253条1項に規定されている債務については、免責されないことになっています(非免責債権)。
非免責債権の例としては、税金・罰金・養育費・一部の損害賠償請求権が挙げられます。
9-2.免責不許可事由があるのを弁護士に隠しているとどうなりますか
免責不許可事由があることを弁護士に隠しているとどうなるのでしょうか。
まず申立てにあたっては、通帳の取引履歴などをチェックするなど非常に細かいところまでチェックを行います。
そのため、たとえば銀行振込で知人だけに返済していたような場合、記録が残っているので、偏頗弁済をしていたことがわかってしまいます。
弁護士にこれを隠してると、申立てを適切に行えず、申立後に不明点として裁判所や破産管財人から指摘されて、その後の対応をする必要がでてきます。
裁判所から免責不許可事由がないか、疑いの眼差しをもったまま手続きをすすめられることになりますし、弁護士は重要な情報を隠匿されていたとして辞任することもあります。
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10.まとめ
このページでは、自己破産の免責についてお伝えしました。
借金が免責される手続きである自己破産は、法形式上は財産の清算・配当を行う破産手続きと、個人の借金を免除する免責という手続きで構成されます。
自己破産についてわからないことがある場合には、無料で相談が可能な弁護士に相談するのが一番です。
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担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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