自己破産
自己破産すると家賃滞納はどうなる?退去の流れを弁護士が解説!
借金などの債務の返済ができなくなって自己破産をする場合、すべての滞納している債務を対象に免責してもらうことになります。
その際に問題となる一つが家賃です。滞納している家賃の免責によって、自宅を退去しなければならないことになるのでしょうか。
本記事では自己破産する際に家賃滞納をしているとどうなるのかについて、自己破産・債務整理に詳しい弁護士が解説します。
目次
1.自己破産をした際の滞納している家賃の扱いについて
自己破産をする場合の滞納している家賃の扱いについて確認しましょう。
1-1.自己破産における債務はどのように扱われるか
まず、自己破産において債務はどのような扱いを受けるかについて確認しましょう。
自己破産手続きを行うと、申立人の資産を金銭に替え、金銭に替えた資産を債権額に応じて平等に配当することになります。
そして、残った分については免責手続きによって免責されます(配当を受けて免責の対象になるものを「破産債権」と呼びます)。
もっとも、破産法2条7号に規定される「財団債権」に該当するものについては、自己破産手続きの影響をうけず、そのまま請求することが可能となります。
1-2.滞納している家賃についての取り扱い
滞納している家賃について、破産法55条・56条によって、破産手続開始決定後の家賃については財団債権となる旨が規定されています。
この事から、破産手続開始決定前と後によって、滞納している家賃の取り扱いが異なります。
破産手続開始決定前の滞納家賃については、とくに財団債権となる規定はないため、破産債権としての取り扱いになり、配当された上で免責されることになります。
一方で、破産手続開始決定後の家賃については上述したように財団債権となるので、通常通り支払う必要があります。
1-3.原状回復義務についても同様に扱われる
賃貸借契約を巡っては契約解除時に原状回復義務が問題になります。
原状回復義務についても同様に破産手続開始決定前と後によって分かれることになり、破産手続開始決定前に生じた事由を理由とした原状回復義務については免責されることになります。
一方で、破産手続開始決定後の原状回復義務については財団債権となります。
1-4.敷金との関係
賃貸借契約を結ぶ際に敷金を賃貸人に対して差し入れます。
敷金は家賃滞納をした場合や、原状回復義務の履行を行えなくなった場合の担保として差し入れられるものです。
そして、賃借人が自己破産した場合、賃貸人は免責の対象となる滞納家賃と原状回復義務について、敷金と相殺することが可能です。
そのうえで、残った敷金がある場合は、債務者の債権となり、財産として取り扱われることになるので、管財人から支払いを求められた場合、賃貸人は差し引いた後の敷金を支払うことになります。
2.自己破産をする場合の賃貸借契約への影響
自己破産によって賃貸借契約にはどのような影響を与えるのか、確認しましょう。
2-1.賃借人が自己破産をしただけでは賃貸借契約は解除されない
まず、賃借人が自己破産をしたというだけでは、賃貸借契約は解除されません。
現在は賃貸借契約の終了原因として、賃借人が自己破産したことを定める法律の規定はありません(旧民法621条の規定では認めていた)。
そのため、賃借人が自己破産をした、というだけで賃貸借契約が終了することはありません。
2-2.賃借人の自己破産によって賃貸借契約を終了する旨の特約の効力
法律に賃借人が自己破産をしても賃貸借契約は終了する旨の規定はないとしても、契約で賃借人が自己破産をした場合に賃貸借契約は終了する旨の規定をおいている場合、賃貸借契約は終了するのでしょうか。
この点について、賃貸借契約の内容に自己破産をした場合に賃貸借契約が終了する旨の規定を置いてたことについて争われた最高裁判所昭和43年11月21日判決において、「建物の賃借人が差押を受け、または破産宣告の申立を受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法一条ノ二の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法六条により無効と解すべきであるとした原審の判断は正当」としました。
借家法は現在では借地借家法として受け継がれており、借家法1条の2に該当する同様の規定が、借地借家法30条に規定されており、現在でも同様の解釈がされると考えられています。
そのため、もし賃貸借契約を結んだ際に契約書の中に、自己破産をした場合に賃貸借契約を終了する旨の特約がある場合でも、それは無効であると考えられます。
2-3.破産管財人が賃貸借契約を終了することがある
破産管財人が賃貸借契約を終了することがあります。
破産法53条1項は、破産管財人は双務契約についてその履行を完了していない場合には、契約の解除をすることができる旨を規定しています。
双務契約とは当事者の双方が権利・義務を有している契約のことで、賃料の請求と目的物の使用収益をさせることという権利・義務を双方が有している賃貸借契約はこれにあたります。
そのため、破産管財人は賃貸借契約を終了させることが可能です。
通常は居住する場所を失ってしまうような賃貸借契約の終了を破産管財人が行うことはありませんが、債務者の収入に比してあまりにも賃料が高額な住居に居住している場合には、破産管財人が賃貸借契約を終了させ、賃借人(破産者)に退去を求めることがあります。
2-4.賃料債務が免責されることによって債務不履行を原因とし解除される可能性がある
賃料債務が免責されることによって債務不履行を原因として賃貸借契約を解除される可能性があります。
自己破産をすることで、滞納している家賃は破産債権として配当の上免責されることになります。
つまり支払われないことになるので、債務不履行を原因として解除される可能性があります。
この場合、賃貸借契約の解除における、信頼関係破壊の法理が適用され、一定期間の賃料の滞納がなければ(おおむね3ヵ月程度)賃貸借契約の解除は認められません。
2-5.退去した後に賃貸借契約を結ぶことはできるか
自宅の賃貸借契約が解除された場合、自宅を退去する必要があります。
この場合、新しい住居を見つける必要があるのですが、新しい賃貸借契約を結ぶ際には注意が必要です。
まず、賃貸借契約自体は当事者で合意ができれば可能であり、自己破産をしたからといって禁止されるわけではありません。
問題は、賃貸借契約を結ぶ際に必要となる連帯保証人について、保証会社による保証を受けることができない可能性があることです。
賃貸借契約を結ぶ場合には必ずといっていいほど、その契約には連帯保証人がつきます。
「連帯保証人不要」として契約をする場合でも、それは契約者が連帯保証人を用意する必要が無いだけで、契約をする際には家賃保証をする保証会社が連帯保証人となっていることが多いです。
この家賃保証について、消費者金融や信販会社が行っていることがあります。
自己破産を弁護士に依頼した時点で信用情報に異動情報が記録されており、与信に影響する状態となっています(いわゆるブラックリスト)。
消費者金融や信販会社が家賃保証をする場合、賃貸の審査に信用情報が用いられるため、家賃保証の審査が下りません。
このような場合には、消費者金融や信販会社といった信用情報による審査が行われない家賃保証会社を利用している不動産会社と契約したり、親族など信用情報による審査が不要の連帯保証人をつけて契約できないか打診してみましょう。
3.自己破産をする場合の退去までの流れ
自己破産をする場合の退去までの流れは次の通りです。
3-1.自己破産の依頼を受けた弁護士が賃貸人に受任通知を送る
自己破産の依頼を受けた弁護士が賃貸人に対して受任通知を送ります。
きちんと債務者が弁護士に報告をしていれば、未払いになっている家賃について弁護士は賃貸人に対して通知を送ることになり、賃貸人はこの時点で申立ての準備に入っていることを知ります。
3-2.賃貸人から賃貸借契約解除の通知がされる
賃貸借契約の解除が認められるケースであれば、賃貸人は賃貸借契約解除の通知を行います。
契約の解除については賃借人に対する意思表示を行う必要があり、この意思表示をしたことを証明できるようにするために内容証明郵便で行われます。
3-3.退去日について相談する
退去日について相談します。
新居をみつけるために必要な合理的な期間を示して、それまでは居住し続けられるように交渉しましょう。
なお、破産手続開始決定後の賃料については上述したように財団債権として免責の対象になりません。
受任通知を送ってから破産手続開始決定が下されるまでの間の支払いについては弁護士と相談しながら行うことになります。
3-4.退去をする
退去予定日までに退去を行います。
なお、退去を行わない場合には、賃貸人が立ち退きを求める裁判を起こし、強制執行によって退去させられることになるので、それまでにはきちんと住居を確保する必要があります。
4.自己破産する前に家賃を返済する場合のリスク
自己破産をする前に家賃を返済する場合には次のようなリスクがあります。
4-1.滞納していなければ毎月の支払いをすることは問題がない
まず自己破産前に家賃の滞納をしていなければ、毎月の支払いをすることは、賃料の支払いをしているだけであって、特定の債権者にのみ利益を与えているわけではないので、問題ありません。
4-2.滞納している分の支払いは偏頗弁済と判断されるおそれがある
すでに滞納している分の支払いは破産法が禁止している偏頗弁済と判断されるおそれがあります。
個人が自己破産をした場合の免責について、破産法252条1項に規定されている事項を行うと、免責しないものとしています。
この破産法252条1項に掲げられている事項のことを免責不許可事由と呼んでいます。
免責不許可事由の中に、特定の債務者について利益を与える目的での債務を消滅させる行為をしてはならないとしています。
債務を弁済する行為は債務を消滅させる行為なのでこれにあたります。
このような特定の債権者にのみ返済することを偏頗弁済(へんぱべんさい)と呼んでいます。
自己破産手続きにおいてはすべての債権者は平等に取り扱われることになっており、これは賃貸人が債権者である場合も同様です。
滞納している分については、他の借金などと同様に扱われるべきで、滞納家賃だけ支払ってしまうことはこの法の原則に違反します。
そのため、免責不許可事由とされています。
免責不許可事由に該当する行為を行うと、通常通りの免責をしてもらえず、裁判所の裁量による裁量免責に委ねることになってしまいます。
破産管財人が選任されない同時廃止で行えた手続も、裁量免責の可否の調査のために破産管財人が選任されることになり、自己破産にかかる費用が嵩むことになります。
また、破産管財人が偏頗弁済に該当する金銭を、債権者である賃貸人から取り戻すこともあり、賃貸人にさらに迷惑をかけることになります。
5.自己破産後も現在の家を借り続ける方法と注意点
自己破産後も現在の家を借り続ける方法と、注意すべき点を確認しましょう。
5-1.滞納家賃について親族などに支払ってもらう
滞納家賃について親族などに支払ってもらうことを検討しましょう。
滞納家賃を自分で支払うことは、上述した通り偏頗弁済にあたるため、行えません。
もっとも、この滞納家賃を第三者が支払ってくれれば、滞納は解消でき、債務者が特定の債務者を優遇したことにもなりません。
そこで、親族などに援助をしてもらって、支払ってもらうことを検討しましょう。
この時にいくつか注意があります。
5-1-1.支払いは親族などから直接賃貸人に支払う
親族などからの支払いをする際には直接賃貸人に支払ってもらいましょう。
賃借人に対して金銭を与えて、賃借人が賃貸人に支払うと、法形式上ではやはり偏頗弁済となってしまいます。
この時のお金の流れとして、親族が賃借人にお金を振込み、賃借人がそのお金を引き出して不動産管理会社等に払いにいったり、振込で返済をすることになり、このお金の流れは通帳記載を通じて裁判所・破産管財人に知られることになります。
きちんと第三者の立場で支払ったことを示すために、第三者側から賃貸人に直接お金を振込み、領収書で滞納家賃を第三者として弁済する旨であることを記録しておいてもらうようにしましょう。
5-1-2.支払ってもらう親族に対して金銭を事前に払わない
親族に支払ってもらうとして、その支払いのために親族に対して事前に金銭を払うことは絶対にしてはいけません。
当然ですがこれは名義を借りた偏頗弁済であり、通常の偏頗弁済より計画的なものとして、裁量免責の際に大きなマイナスの評価を与えます。
5-1-3.親族に支払ってもらった後も破産手続きが終わるまでは親族には支払わない
親族に支払ってもらった後に、親族が支払った分についてその親族に金銭を払ってしまうこともやめましょう。
親族が支払った場合、法律上は求償権という権利が発生し、支払った親族が債務者に対して支払った分の支払いを求めることができます。
この権利についても自己破産をする場合には免責してもらうことになるので、親族に対する支払いをすることも偏頗弁済にあたります。
5-1-4.同一世帯の親族に支払いを依頼しない
同一世帯の親族に支払いを依頼しないようにしましょう。
たとえば、夫婦共働きで家計をやりくりしている場合に、夫の名義で賃貸している家賃の滞納がある場合、妻や子の名義で支払うとしても、家計が同一である以上は実質的には賃借人である夫の偏頗弁済であると評価されます。
同一世帯の親族に依頼して支払ってもらってはいけません。
6.自己破産すると支払義務が免除される対象のもの
滞納家賃の他に、自己破産によって免責される対象となるのは、どのような債務なのでしょうか。
免責の対象となるものは、破産法253条1項に規定されている非免責債権以外のもの全てです。
破産法253条は免責されない債権について規定しており、それ以外の債務については基本的に免責してもらえます。
破産法253条1項に規定されている非免責債権には次のようなものがあります。
- 税金(1号)
- 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(2号)
- 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(3号)
- 養育費や婚姻費用など(4号)
- 個人事業主等である場合の従業員への給与(5号)
- 罰金(7号)
7.借金問題を弁護士に相談、依頼するメリット
自己破産は借金問題は弁護士に相談・依頼することに次のようなメリットがあります。
7-1.自分に最適な手続きや不明点がすぐにわかる
自己破産を含めた債務整理については、借金の額や収支の状況、などに応じて適切な手続を選ぶ必要があります。
インターネットや書籍による情報は、一般的なことを伝えているにとどまり、個々の事情に応じて。
弁護士に相談すれば、適切な手続や不明点の解消を行えます。
7-2.厳格な手続をスムーズに行うことができる
自己破産手続きは、本来支払うべき債務を特別に免責するものであり、その手続きは厳格に運用されています。
申立書の作成や添付書類の収集などをスムーズに行うためには、弁護士に依頼することが欠かせないといえるでしょう。
7-3.督促を止めることができる
返済が遅れていると電話や書面で督促を受け続けることになります。
貸金業者については貸金業法21条1項9号で、弁護士に依頼した後は、正当な理由なく本人に督促することができなくなります。
これにより、貸金業者からの督促は止めることができます。
また、家賃の滞納についても、不動産管理会社や債権回収会社・大家などと協議をしてもらうことが期待できます。
8.自己破産した際の家賃に関するよくあるQ&A
自己破産した際の家賃に関するよくあるQ&Aとしては次のようなものが挙げられます。
8-1.家賃の滞納を黙っていたらどうなるのか
家賃の滞納を黙っていた場合には次の2点が問題になります。
- 免責不許可事由に該当すること
- 非免責債権となること
まず、破産法252条1項7号は、虚偽の債権者名簿を提出したことを、免責不許可事由としています。
家賃の滞納があるにもかかわらず、これを隠して債権者名簿に載せないで提出した場合、虚偽の債権者名簿を提出したとして、免責不許可事由となります。
家賃については銀行引き落としにしていて毎月引き落とされるのが通帳に記帳されることになり、自己破産の申立て時には通帳のコピーを提出することになるので、滞納がある場合には本来記録があるものが無いことからわかってしまいます。
また、免責手続きによっても免責されない債務として、破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権が規定されています(破産法253条1項6号)。
そのため、滞納家賃は非免責債権として、自己破産後も支払う必要があります。
したがって、滞納を黙っていてもメリットはありませんので、代理人となる弁護士に正確に伝えるようにしましょう。
9.まとめ
本記事では、自己破産をした場合の家賃滞納によって、滞納していた家賃や自宅の賃貸借契約がどのようになるのかについてを中心にお伝えしました。
滞納していた家賃は破産債権として免責の対象となる結果、賃貸借契約については債務不履行になり、信頼関係が破壊されたといえる場合には解除され、自宅を退去する必要があります。
賃貸人との交渉で居住を継続したい場合には、なるべく早く弁護士に依頼するようにしましょう。
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- 債権者からの督促が止まる
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- 弁護士は、任意整理、個人再生、自己破産などの手続きの中から、状況に合わせた最適な解決方法を選択し、手続きを進めます。これにより、スムーズな解決が期待できます。
- 時間と手間の節約
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- 家族に知られずに手続きが可能
- 弁護士が債権者との連絡窓口となるため、家族に知られることなく手続きを進めることができます。これにより、家族に心配をかけずに問題を解決することができます。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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