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安全配慮義務違反で会社に慰謝料を請求できるの?弁護士が解説!

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会社が過重労働を強いてくる場合や、危険である状態を放置するなどして、従業員が病気・怪我をした際、会社が従業員に負う責任に「安全配慮義務」というものが問題となります。

雇用契約書などにも記載があるのですが、実際にこれはどのような義務で、義務違反によってどのような責任を会社に対して追及できるのでしょうか。

本記事では、安全配慮義務と、会社に対してどのような請求ができるのかについてお伝えします。

目次

1.安全配慮義務とは

労働契約における安全配慮義務とは、労働契約法5条に規定されており、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務」があるとされています。

1-1安全配慮義務の目的と背景

労働契約に限らず広い範囲での安全配慮義務は、最高裁判所昭和50年2月25日判決(いわゆる陸上自衛隊事件)で最高裁判所が示した「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して法令上負う義務」と定義されます。

自動車整備作業中に車両に轢かれて死亡した自衛隊員の遺族が損害賠償を求めた陸上自衛隊事件において、損害賠償義務を認めるための義務を観念したものです。

安全配慮義務は、川義事件(最高裁判所判決昭和59年4月10日判決)で会社と従業員との間にも認められると判示され、特に法律上の根拠がなくても労働契約に付随して存在するものとされてきました。

そして、平成19年11月28日に成立した労働契約法において、その内容が明文化され、安全配慮義務は会社が従業員に対して負うものとして確立しています。

1-2.安全配慮義務の内容

具体的に安全配慮義務としてどのような義務があるのでしょうか。

労働契約法5条は次のように定めています。

(労働者の安全への配慮)

第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働者が就労にあたって、生命や身体の安全を確保しながら労働できるように必要な配慮をする義務があるとされています。

生命や身体の安全を確保できるように必要な配慮をするといっても、具体的にはその会社がどのような会社かによって行うべき配慮の内容は異なります。

そのため、労働契約法に関する通達平成24年8月10日基発0810第2号では「一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるもの」とされ、具体的な内容はどのような会社か、労働者がどのような業務に従事しているかによって検討されることになります。

なお、労働安全衛生法などの労働者の健康を守るための法律については、当然守るべきものと解釈されています(平成24年8月10日基発0810第2号)。

この「生命や身体の安全」については精神的健康(メンタルヘルス)も含まれるとされており、先の平成24年8月10日基発0810第2号で明確に明記されるほか、過重労働によってうつ病を発症し自殺をした事件で会社に安全配慮義務違反があったとして損害賠償を認めています(最高裁判所平成26年3月24日判決:東芝うつ病事件)。

1-3安全配慮義務の対象者の範囲

労働基準法5条に規定されている安全配慮義務については労働者が対象となります。

この労働者の定義は労働基準法における労働者と同一で、会社から賃金を支払われて労働している人全般を指すので、アルバイトやパート、派遣社員であっても対象です。

また、店長や管理職であるとして管理監督者であるとされている場合や、雇用契約ではなく業務委託契約を結んでおり労働契約を結んでいないとされる場合でも、その実態からみて労働者であると判断できる場合には、安全配慮義務の対象者となります。

また、特別な社会的接触の関係に入った当事者であると認定される場合には、広い意味での安全配慮義務の対象となることがあります。

例えば、業務委託をしていたにすぎない場合でも、上述した広い意味での安全配慮義務違反に基づいて会社の責任を問うことができるケースもあります(例:大石塗装・鹿島建設事件:最高裁判所昭和55年12月18判決)。

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2.安全配慮義務違反となるケース

安全配慮義務違反となるケースとして次のようなものが挙げられます。

2-1.安全を守るための設備の配備を怠ったなど

危険な業務に従事する労働者が居るにもかかわらず、安全を守るための設備の配備を怠ったなどによって、労働者が怪我をしたような場合に、安全配慮義務違反となります。

たとえば、労働者が扱いを誤るを怪我をするような機械があり、怪我を防ぐためには防護柵を設置することが不可欠であるような場合に、その防護柵を設置しなかった場合には、安全配慮義務違反が認定されるでしょう。

上述した、川義事件でも夜間の宿直の人のために、のぞき窓、インターホン、防犯チェーン、防犯ベル等の安全を守るための設備がなく、外部からの侵入を許すことになり労働者が殺害されたことを理由に安全配慮義務違反を問われています。

2-2.従業員の健康問題に対する適切な配慮がなされなかった

従業員の健康問題に対する適切な配慮がなされなかった結果、従業員が病気になってしまった場合にも、安全配慮義務違反が認定されます。

上述したように、従業員の健康を守るための、労働安全衛生法による措置を守っていることは当然です。

また、従業員の健康問題との関係で安全配慮義務違反がよく問題となるのが、長時間労働です。

長時間労働によってうつ病などの精神疾患に罹患したような場合や、過労自殺をしてしまった場合には、安全配慮義務違反に問われることになります。

2-3.ハラスメントに対する適切な対応がされていない

最近問題となることが多いのが、ハラスメントに対する適切な対応がされていないことによって安全配慮義務違反が問われることがある点です。

代表的なハラスメントとして挙げられるのがセクシャルハラスメント(セクハラ)・パワーハラスメント(パワハラ)です。

これらハラスメントに対する適切な措置が取られていない結果、セクハラやパワハラの被害にあった労働者が精神疾患を発症したような場合には、安全配慮義務違反に問われることになります。

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3.安全配慮義務に違反した際の罰則

安全配慮義務に違反した場合にはどのような罰則に問われるのでしょうか。

3-1.安全配慮義務違反を直接処罰する規定はない

まず、安全配慮義務違反については、直接処罰をするための規定がありません

罰則を与えるためには法令で明確に記載してある必要があります。

しかし、労働契約法5条に規定されている安全配慮義務違反については特に罰則は設けていません。

また、広い意味での安全配慮義務は判例で認められたもので、損害賠償の根拠とするものにすぎず、これをもとに罰則を科すことはできません。

3-2.安全配慮義務違反行為が他の法律に反する場合には罰則がある

もっとも、安全配慮義務違反が、労働契約法以外の法律に抵触することがあります。

例えば、長時間残業をさせていたにもかかわらず、そもそも残業させるための36協定を結んでいなかったり、無効となっているような場合、36協定を結んでいても上限とされる残業時間を超えて残業をさせているとしましょう。

この場合、36協定を結んでいない・36協定が無効となっているにもかかわらず、労働基準法32条が定める上限である1日8時間・週40時間働かせたことになり、労働基準法119条1号によって、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑が規定されています。

また、36協定を結んだ上で労働基準法36条6項で定められている上限とされる残業時間を超えて残業していた場合には、同じく労働基準法119条1号によって、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑が規定されています。

また、セクハラ・パワハラと呼ばれる行為の中には、強制わいせつ・暴行・傷害などの刑法に違反する行為もあります。

安全配慮義務違反がこれら他の法律によって処罰されうる場合があります

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4.安全配慮義務違反で慰謝料請求できるのか

会社が何らかの安全配慮義務に違反して怪我や病気となった場合、会社に対して慰謝料の請求は可能なのでしょうか。

4-1.慰謝料請求の根拠

慰謝料請求とは、精神的苦痛を被った人が加害者に対して、精神的苦痛を慰謝してもらうために行う法的請求で、民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求を根拠に請求するものです。

労働契約において安全配慮義務違反があるということは、安全配慮義務を守って安全に労働する権利を侵害され、精神的苦痛を被ったといえます。

そのため、慰謝料請求をすることが可能です。

4-2.慰謝料請求を行う相手

慰謝料請求は誰に対して行うことができるのでしょうか。

この点について、基本的には会社(個人事業主である場合には雇用している個人)が賠償義務を負うことになります。

しかし、セクハラやパワハラのように、会社で特定の個人が精神的苦痛が生じることを行うこともあり、この場合にはその個人に対して行うことも可能です。特定の個人が行なった場合でも業務との関連性であれば、会社(雇用主)は使用者責任(民法715条)を負います。この場合、特定の個人と会社の双方に対して連帯して支払うように請求することができます。

4-3.請求可能な慰謝料の種類

安全配慮義務違反を理由に慰謝料を請求する場合、その種類には次のものがあります。

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

まず、安全配慮義務違反によって怪我・病気になった場合で、入院・通院を強いられた場合に、入院・通院を強いられること自体に精神的苦痛が発生します。

入院・通院を強いられたことに対する慰謝料のことを入通院慰謝料と呼んでいます。

また怪我や病気で後遺症が残った場合には、以後後遺症が残った状態になってしまうため、精神的苦痛が発生します。

これに対応する慰謝料のことを、後遺障害慰謝料と呼んでおり、労災保険で認定される後遺障害等級に応じた慰謝料の請求が可能です。

さらに、怪我・病気になった人が死亡した場合には、死亡慰謝料を遺族が請求することができます。

4-4.慰謝料以外に損害賠償請求可能なものは?

慰謝料以外にも損害が発生している場合には請求が可能です。

ただ、治療費などは労災保険によって給付が行われるため、労災保険で給付が行われないものについて請求することになります。

安全配慮義務違反の場合には、怪我や病気がなければ得られたであろう利益である逸失利益の請求が可能な場合があります。

ケースによっては何千万円もの高額の請求をできるケースもあるので、後遺症が残った・死亡したような場合には、請求ができないか必ず弁護士に相談してみるようにしてください。

4-5.安全配慮義務違反について時効があるのか

安全配慮義務違反で慰謝料請求ができる場合であっても、時効によって慰謝料の請求ができなくなることもあるので注意が必要です。

安全配慮義務違反に基づく慰謝料請求はここまでお伝えした通り不法行為に基づく損害賠償請求権を根拠に行使が可能です。

この不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害及び加害者を知ったときから3年・不法行為時から20年で時効にかかるとされています(民法724条)。

なお、安全配慮義務違反を契約上の債務不履行と捉えて、契約責任法理による請求も可能ですが、この場合でも時効は5年ないし10年です(民法166条)。

労働者が時効期間を過ぎて請求をしても、債務者は時効を理由に慰謝料の支払いを拒むことが予想されるので、慰謝料請求をしたい場合には早めに請求を行うようにしましょう。

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5.安全配慮義務違反で会社を訴えたいときに弁護士に相談、依頼するメリット

安全配慮義務違反で会社を訴えたいときに、弁護士に相談・依頼すべきなのでしょうか。

5-1.法律上は弁護士に依頼する必要はない

まず、必ず弁護士に依頼しなければ請求できないわけではありません。

損害賠償請求権や安全配慮義務違反の主張をするのに、弁護士やその他の人を代理人として立てなければならないことを法律で課しているわけではありません。

そのため、慰謝料の請求など、安全配慮義務違反で会社を訴えるのは個人でも可能です。

5-2.弁護士に相談・依頼すれば法的なサポートを受けることができる

弁護士に相談・依頼すれば、法的なサポートを受けることができます。

安全配慮義務違反だけではなく、会社に対して法的な請求を行う場合、根拠となる法律はもちろん、裁判を起こす場合には法的手続きを行うなど、法的な知識が欠かせません。

特に安全配慮義務については、会社がどのような会社で、労働者がどのような労働に従事しているかによって、会社に課せられる安全配慮義務は異なります。

安全配慮義務違反を主張する場合、会社と従業員の関係から、どのような安全配慮義務があったのかを特定し、その上で会社が安全配慮義務に違反したことを主張しなければなりません。

さらに、安全配慮義務があったこと、安全配慮義務違反があったことの証拠を集めなければ、裁判になったときに安全配慮義務違反を認定してもらえません。

これらの主張・立証は非常に難解であり、労働問題を得意とする弁護士の助力は欠かせません。

5-3.手続きを任せることができる

裁判などの訴訟を行う場合、弁護士に依頼すれば手続きを任せることができます。

裁判を起こすには訴状を作成し、添付書類を収集して、裁判所に提出する必要があります。

また期日に裁判所に出頭する必要があり、平日に予定を合わせる必要があります。

弁護士に依頼すれば、これらの手続きをすべて任せてしまうことができます。

5-4.会社と直接交渉する必要がない

安全配慮義務違反を主張して会社に慰謝料の請求をする場合、会社と直接交渉をする必要があります。

交渉にあたっては、会社が行う各種の主張が正しいのかどうか安全配慮義務に関する法的知識をベースに判断しながら行う必要があります。

また、会社が労働者に対して誠実に向き合う意思がないような場合には、非常に厳しい交渉を強いられることになります。

裁判になった後も和解のための期日が設けられ、そこで会社と交渉をする必要があり、最終的な解決までに何度も交渉をすることが必要です。

弁護士に依頼すれば、代理人として交渉を任せることができるので、会社と直接交渉をする必要が無くなります

5-5.他の問題についても弁護士が併せて検討してくれる

他の労働問題についても弁護士が併せて検討してくれます。

長時間残業で健康を害したため、慰謝料請求をしたいという場合に、実は残業時間の上限を超えていた、残業代の支払いがされていない、割増率の計算が誤っているなど、安全配慮義務違反以外にも様々な問題があるようなケースがあります。

安全配慮義務違反について検討する際には、これらの問題についても併せて検討してもらえます。

5-6.弁護士への相談は無料で可能!着手金も分割で良い場合もある

弁護士への相談・依頼で気になるのは弁護士費用でしょう。

通常、弁護士などの国家資格者に相談を行う場合、30分5,000円~の法律相談料を支払わなければなりません。

請求ができるかどうかわからない段階から費用を払うのに躊躇する方も多いのではないでしょうか。

しかし、弁護士への相談については、市区町村の無料の弁護士への相談や、法テラス・弁護士会で無料相談を行うことができます。

また、一部の弁護士は、相談の敷居を低くするために、無料で相談を受けていることがあります。

弁護士への相談は無料で行うことができるので、これらの無料の法律相談を積極的に利用してみましょう。

法律事務所リーガルスマートでは初回60分無料の法律相談を行っていいますので、是非ご利用ください。

また、弁護士に依頼する場合、弁護士が案件に着手する段階で支払う、着手金という費用がかかります。

着手金は請求する金額に応じてかかるので、大きな金額の請求をする場合には着手金も多額にかかります。

この場合でも、ケースによっては着手金の分割での支払いに応じている弁護士も居るので、相談してみましょう。

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6.安全配慮義務に関するよくあるQ&A

安全配慮義務に関するQ&Aを確認してみましょう。

6-1.安全配慮義務を負わないとする契約条項は無効

労働契約で安全配慮義務を負わない・制限するとする条項を記載した場合、その部分については無効であるとされます。

安全配慮義務は強行法規であり、契約で排除することはできません。

6-2.安全配慮義務違反は労働基準監督署に相談できるか

安全配慮義務違反について労働基準監督署に相談できるのでしょうか?

この点、安全配慮義務違反があり慰謝料を請求したいという場合、労働基準監督所は労働基準法や労働安全衛生法を守らせる機関であり、個人の慰謝料などの請求権については介入できません。

一方で、現在違法な長時間残業を強いられているような場合、安全配慮義務違反の中でも労働基準法や労働安全衛生法に違反している現状の改善を求めて労働基準監督署に相談することは、労働基準法・労働安全衛生法に関する相談なので可能です。

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7.まとめ

このページでは、安全配慮義務についてお伝えしました。

安全配慮義務は、判例をもとに構築されてきたもので、現在では労働契約法5条に規定されている明確な義務です。

会社が安全配慮義務に違反した場合には慰謝料請求をすることもできるので、まずは弁護士に相談してみてください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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