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有給買取は違法?認めされるケースや計算方法を弁護士が解説!

有給買取は違法?認めされるケースや計算方法を弁護士が解説!

労働者を使用する者は、労働基準法を中心としてさまざまなルールを順守する必要があり、これらの法律に反して労働者を使用すると罰則規定があります。

労使問題において余計なトラブルを回避するためには、労使関係においてどういったルールがあり、労働者を使用するにあたってどういった範囲であればトラブルにならないかをきちんと把握しておく必要があるのです。

そこで本記事では、「有給買取」という問題について弁護士が解説します。

1.有給休暇の買取は可能なのか

そもそも「有給を買い取る」という行為は、どういった内容になるのかご存じない方も多いでしょう。

有給休暇といえば、労働者に対して認められている権利であり、休日をとりながら給与計算も行われるという制度です。

これを買い取るということは、使用者が有給を買い取るということまでは容易に想像できますが、具体的にはどういった制度になるのでしょうか。

そもそも、労働者から有給を買い取るという行為は労働基準法などの法律において認められているのでしょうか

これらの点をきちんと把握しておかないと、労使関係において余計なトラブルが起こることになるでしょう。

1-1.有給休暇の目的・概念

そもそも「有給休暇」とは、労働者が給料の減少を気にする必要なく、心身ともにリフレッシュして日常生活の質を落とさないために認められている制度です。

時給モデルの労働者を想定するとわかりやすいですが、働いた時間の分だけ給料が支払われる労使関係においては、休暇を取る、つまり労働時間が少なくなる分だけ受け取ることのできる給料も減少してしまいます。

また、そもそも日本人特有の考え方でもあるのでしょうが、休暇を取るということはその分だけ同僚や上司に仕事が割り振られるということになるため、仕事を休むこと自体を良くないこととしてとらえる人も少なくありません。

そうした考え方から脱却するためにも、法律で認められた休暇の権利として、有給休暇の制度が設けられているのです。

有給休暇を取っても既定の給料が支払われますし、会社としてもきちんと有給休暇をとらせないと罰せられることになりますから、労働者は当然の権利として有給休暇を申請し、休暇を満喫することができます。

労働者は、プライベートな用事のために有給休暇を使用することができますので、たとえば親戚の結婚式などのイベントがスケジュールに入った場合などに有給休暇を申請し、休んだ分の時間を使って用事を済ませることが可能です。

1-2.有給買取は原則としてNG

さて、この記事のテーマにもなっている「有給の買い取り」についてですが、法律的には原則として禁止されています。

有給休暇は労働者に与えられている権利であり、これを会社・使用者が自由に買い取ることができるとなると、労働者は金銭面ではデメリットがないように見えますが、休むことができなくなるということを考えると有給休暇の目的に反することになるのです。有給休暇の買取は、会社がお金さえ払えば労働者を休ませずに働かせることができるということにつながりかねず、これでは何のために有給休暇の制度があるか本末転倒になってしうまうので、買取は原則禁止とされているのです。

また、有給休暇を買い取ることが認められてしまうと、そのことを前提として給与計算がされてしまう可能性もあり、その点を考えると労働者にとってはデメリットが大きくなります。

有給休暇を買い取られてしまうと、結婚式などのイベントがスケジュールに入った際に有給休暇を申請しても買い取られれて出勤せざるを得なくなりかねず、絶対に休みたい労働者としては普通の休暇として休まざるを得ず、そうするとその日の分の給料が支払われませんし、有給休暇という体裁ではないため同僚や上司に対して負い目を感じてしまうことにもなるでしょう。

こうしたデメリットがありますので、使用者が雇用している労働者が持つ有給休暇の権利を現金等で買い取るという行為は認められていないのです。

ただし、有給買取については例外もあって、いくつかの特別な理由がある場合においては法的にも認められています。

どういったケースにおいて有給買取が認められているのかについては後の項目において解説しますが、ひとまず「原則として有給買取はできない」ということを、会社の責任者はきちんと把握しておくことが重要です。

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2.従業員にとっての有給休暇買取のメリット

有給休暇は労働者にとっては「権利」であるため、それを買い取られるという行為にはデメリットを感じる方も多いでしょう。

しかし、考え方や立場によっては、有給休暇を会社に買い取ってもらうことにはメリットが発生するケースもあるのです。

では、有給買取を実施された場合の、労働者側のメリットとは何なのでしょうか。

2-1.不要な有給を消化して現金化できる

1つ目のメリットは「不要な有給を消化して現金化することができる」という点にあります。

有給休暇は確かに労働者にとって認められている権利であり、仕事を休みながらも給料をもらえるというメリットがありますが、必ずしも労働者にとって有給休暇が必要ということにはならないでしょう。

人によっては働くことに生きがいを感じていたり、仕事を通じて同僚などとの人間関係を大事にしている方もおられます。

そういった考え方をしている人にとっては「過度に仕事を休む」ということ自体がデメリットになるケースもあり、そうなると労働者の権利として与えられている有給休暇の本来の目的に反することにもなりかねません。

とはいえ、与えられている権利を無為に放棄しても、労働者側としてはメリットがないのです。

そのため、仕事を休む権利を放棄する代わりにその分の対価を得たほうが、労働者側としてはメリットを最大化できます。

2-2.同僚や上司との関係を悪化させない

2つ目のメリットは「同僚や上司との関係を悪化させることがない」という点です。

労働に対する考え方は人によって大きく異なりますが、中には「忙しい中で休みやがって…」という感情を抱く人もいます。

有給休暇自体は労働者に与えられた権利ではあるのですが、同じ職場で働く人にとっては関係ないのでしょう。

有給休暇を申請して休んだ場合において、その日に働いているほかの同僚や上司からは、良くない感情を抱かれてしまう可能性もあります。

とはいえ、有給休暇を消化しないと会社としては困りますので、溜まっている有給休暇日数は規定の日にちまでに消化しなければならないというジレンマを抱えることになってしまうでしょう。

「休みたいわけではないのに、休まなければならない」というジレンマを、有給買取では解決することができます。

有給休暇のメリットである「休んでいる分の給料ももらうことができる」という金銭的なメリットについては、有給買取でも達成することが可能です。

有給休暇の取得についての考え方は職場の忙しさや人員配置などの都合もあるでしょうが、無用に職場の仲間との人間関係を悪化させることがなくなるため、不要であれば有給買取に応じることも必要でしょう。

2-3.退職時には税金対策になる

3つ目のメリットは「退職時の買い取りであれば税金対策にもなる」という点です。

通常、労働の対価として会社から給料をもらう場合、所得税の対象となり一般的には会社で源泉徴収されて納税し、年末には年末調整といって実際の納税額との調整がなされます。

この納税額は受け取る給料の金額に応じて税率が異なりますが、基本的には給料の一部が税金として支払われているという認識については間違っていません。

なのですが、有給買取の実行が退職時である場合には、その規定から外れることになります。

退職時に残っている有給休暇を会社が買い取る場合に支払われる対価は「退職所得」に該当するのですが、この退職所得は一般的な給与所得とは別の枠組みとなり、1年につき40万円の非課税枠があります。

つまり、退職時に買い取ってもらった有給分の対価については40万円までは所得税が課せられないため、その分の節税になるのです。

違法な手段で脱税した場合は罰則がありますが、このルールに則った場合は脱税ではなく適法な節税でしかありませんので、誰に罰せられることはありません。

このルールは退職所得に該当する場合にのみ適用されるので、退職時以外のタイミングだと適用されませんが、場合によっては節税になるということを覚えておきましょう。

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3.有給休暇の買取が可能なケースとは

先ほども説明していますが、原則として会社は自社が雇用している労働者が権利としてもっている有給休暇を買い取ることは認められていません。

有給休暇は労働者が心身ともにリフレッシュするための制度であるため、相応の対価を支払うことを確約するとしてもその権利を買い取ることは認められないのです。

ですが、3つの状況下においては、雇用している労働者の有給休暇を買い取ることが例外的に認められています。

使用者はそれ以外のケースにおいては有給休暇を買い取ることは認められませんので、どういったケースであれば有給買取ができるのかについてきちんと把握しておきましょう。

3-1.法定以上の有給休暇を与えている場合の余剰分

1つ目のケースは「会社が法律で定められている規定日数分以上の有給休暇を与えている場合の、その余剰分についての買い取り」のケースです。

有給休暇は法律により付与日数が定められていて、これは労働者の勤続日数などの条件により何日与えなければならないという厳格なルールが定められています。

しかし、この日数しか付与してはいけないというルールになっているわけではなく、最低でもその日数は与えなければならないというルールです。

たとえば、法律で10日の有給休暇を与えなければならない労働者がいた場合、11日以上の有給休暇を付与しても法律上とくに問題はありません。

会社によっては福利厚生で他社よりも多くの有給休暇を付与するケースがありますが、その余剰分、たとえば法定で10日の有給休暇が必要な労働者に対して12日分の有給休暇を与えている場合、余剰分の2日については会社が買い取ることが認められています。

法定分を超えている有給休暇の日数については法律の規制を受けませんので、買い取りが認められているのです。

3-2.労働者が退職する場合の残っている日数分

2つ目のケースは「有給休暇を残した状態で労働者が退職する場合」というケースです。

労働者によっては有給休暇を必要とせず、権利として与えられている状態にもかかわらず有給休暇を消化せずに退職まで至るケースもあるでしょう。

当然ですが、会社をやめてしまえば会社から与えられている有給休暇を消化することはできませんので、労働者としては未行使の有給休暇の分だけ損をすることになります。

こうしたケースでは、会社は退職する労働者に残っている有給休暇の未消化分を買い取ることが可能です。

そもそも、有給買取が法律で禁止されているのは「労働者のリフレッシュの権利を奪わせないため」という理由があります。

しかし、近いうちに退職することになる労働者の場合であれば、もう労働することはないため(転職というケースもあるでしょうが)、有給買取をしても労働者の権利を奪うという形にはなりません。

労働者としては与えられた有給休暇の権利を現金化でき、会社としても労働者の権利を奪う形にはならないという双方のメリットから考えても、退職する労働者の有給休暇の残日数分についての買取は法律により阻害されないのです。

なお、退職時の有給休暇の買い取りについて、就業規則などで会社の義務として定めてある場合には会社としては買取を拒否できませんが、そうした定めがない場合にはあくまで買取を求めるのも、買取に応じるのもあくまで任意ですので、会社が応じる義務までがあるわけではありません。

3-3.2年の時効が経過してしまった場合の残日数分

3つ目のケースは「有給休暇の付与から2年が経過し、時効が成立した場合の時効成立分の買い取り」というケースです。

実は有給休暇には時効という概念があり、権利の発生から2年が経過すると時効が成立し、時効が成立した分の有給休暇については労働者はその権利を失い、権利行使することはできません。

すでに権利が行使できない状態に法律上なっているため、その日数分を会社が買い取ることは禁止されないのです。

すでに時効が成立しているため、労働者はその日数分相当の有給休暇を申請することができず、会社としては福利厚生の一環としてその日数分に相当する対価を支払うことで買い取りという形をとることができます。

ただ、この点に関しては労働者側が中心になりますが1点だけ注意するべき点があるのです。

先ほど「退職時の残日数分の買取に会社が応じる義務があるわけではない」という話をしましたが、時効が成立した分の権利消失日数分の買取に関しても、会社側は拒否することができます。

「時効が成立している」ということは労働者側の権利が消失しているということになるわけですから、会社側としては買い取ることはもちろん可能ですが、すでに権利が失効しているため買い取りに応じる義務はないのです。

この点については今までに有給休暇を申請できなかった労働環境などの条件があれば交渉の余地があるかもしれませんが、近いうちに退職するなどの事情がなければ労働者は時効が成立するまでに有給休暇を消化しておくことが重要になります。

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4.有給休暇の買取の計算方法

有給買取をする場合は、その対価を労働者に対して支払う必要があります。

そうなると「いくらで買い取ることになるのか」という点が気になるでしょう。

4-1.有給の買い取り時の計算方法

有給買取を実施する場合の買取金額の計算方法ですが、大きく分けると3種類の計算方法があります。

1つ目は「平均賃金による計算方法」であり、これは対象となる労働者の直近3か月において支払われた賃金を参照し、そこから買い取る日数分の賃金を算定して買取金額とする方法です。

2つ目は「通常賃金による計算方法」で、これは対象となる労働者の時給または月給を参照し、そこから買い取り日数分の対価を算定する方法となります。

3つ目は「標準報酬月額の日割額」であり、これは社会保険料を算出する際に使用される基準額のことであり、その年の4月・5月・6月の3ヶ月間に支給された賃金の平均額を標準報酬月額表にある等級区分に当てはめて算出する方式です。

いずれにしても、基本的な法則としては「通常の有給休暇取得時に支給される賃金と同額である」ということを覚えておけば、大きな問題にはならないでしょう。

4-2.有給の買い取り金額の決定方法

有給買取の際の対価は、多くの場合は通常の有給取得時の賃金と同額で計算されることが多いですが、これは労働基準法などの法律によって定められているわけではありません。

たとえば、社則として有給買取の金額を一律に定めることも可能であり、これに労働者が異を唱えることはあるかもしれませんが法律上はそれでも問題はありません。

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5.有給の買い取りに関する注意点

有給買取の実施にあたっては、その行為が法律に抵触することがないことを確認したうえで実行する必要があります。

先ほどの項目では「有給買取が認められる3つのケース」について解説しましたが、労使関係や労働条件など複雑な関係性が存在する状況においては上記のようなシンプルなケースにおさまらない場合もあるでしょう。

ですが法律は厳格に適用されるものであり、少しでも労働基準法などの関連法に抵触するようなことがあれば、会社は罰せられてしまうことになります。

労働者側が訴えを出す場合もあるかもしれませんし、労使ともに合意の上であったとはいえ法的なトラブルに発展しないとも限りません。

会社として余計なトラブルを避けるためには、そのケースにおいて本当に有給買取が認められているかどうかをきちんと精査したうえで、有給買取を実行に移すことが重要です。

判断が難しいケースであれば、会社が雇用または連携している専門家に相談するなどして、有給買取の是非を確認することも必要になります。

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6.有給の買い取りに関するQ&A

最後に、有給買取に関してよくなされる質問をまとめましたので、参照してください。

Q.有給買取は法的に認められていますか?

A.原則として禁止されています。ただし「法定以上の有給休暇を与えている場合の余剰分」「退職時に残っている有給日数分」「2年の時効を迎えた分」については、例外的に会社が買い取ることが認められています。

Q.有給買取をする場合の対価に法律の規定はあるのか?

A.ありません、一律に金額を決めても法的には問題ありません。ですが一般的には普通に有給を消化した際に支払われる給料と同じ計算方法で計算されることが多いです。

Q.有給買取の対価の扱いは通常の賃金と同じ?

A.有給買取の対価は「賞与」として扱われます。健康保険や厚生年金の保険料天引きに関しても、通常の賞与と同じようにして処理する必要があります。

Q有給買取をすることによる会社側のメリットは?

A.労働者との労使関係を良好に保てるという点が1点。また、その労働者が退職する予定の場合は有給休暇の残日数分を買い取ることにより会社への所属を早めにやめさせることができ、その分の社会保険料負担を軽減できるというメリットもあります。

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7.まとめ

有給買取は基本的に違法となりますが、特定のケースにおいては法的にも認められているため、必要に応じて有給買取を実施する必要性も出てくるでしょう。

有給買取は労使関係に余計なトラブルを起こすリスクもある行為になりますので、必ずそのケースにおいて有給買取が認められているかどうかをきちんと精査し、余計なトラブルを起こすことのないように注意しましょう。

複雑なケースで判断が難しい場合には、この問題に詳しい専門家の意見も参考にしつつ、トラブルなく有給買取を実施できるかどうかの是非を判断して行動してください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、有給買取に関するトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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