その他
会社に誓約書を書かされた際の対処法を弁護士が解説!
会社で働く中で、会社から「誓約書」を書かされる場面に遭遇するかもしれません。
一般的には会社に不利益にならないように社員の行動を制限する目的で書かせるのですが、中には不合理な内容を含んだ誓約書にサインをするように強要されることもありえます。
場合によっては誓約書にサインしたことによって思いもよらない大きな不利益をもたらすこともあります。もちろん、そのような誓約書にはサインしないほうが良いのですが、何かしらの理由でその誓約書にどうしてもサインしないといけない場面もあるでしょう。
本記事では、会社に誓約書を書かされた場合の適切な対処法について弁護士が解説します。
目次
1.「誓約書」とは
まずは、そもそも誓約書とはどのような書類になるのかについて簡単に解説します。
1-1.誓約書とは何か?
「誓約書」とは、書面に記載されている内容をしっかりと守ることを約束するための書類です。
一般的に入社時と退職時に機密情報の漏洩を禁止する目的のもとで書かされることが多く、その性質ゆえに、その他の場面であまり多くの誓約書を書かされることはないでしょう。
1-2.誓約書と契約書の違いとは
会社ではどちらかといえば「契約書」に触れる機会のほうが多いかもしれませんが、誓約書と契約書ではその性質が大きく異なります。
- 誓約書は当事者の一方のサインだけでOK
- 誓約書はサインした当事者だけがその内容に拘束される
契約書が当事者双方の合意により効力をもたらすのに対して、誓約書はその内容を順守する人だけがサインをして、その内容に拘束されることになります。
2.会社が誓約書を書かせる場面とは
会社が自社の社員に誓約書を書かせる場面はそれほど多くありませんが、たとえば以下のような場面において誓約書を書かせることになるでしょう。
- 入社時に服務規程の遵守について
- 入社時の秘密保持について
- 退職時の秘密保持について
- 退職時の貸与品の返還について
- 退職時の競業避止義務について
会社が社員に対して誓約書を書くように指示するのは、基本的に会社の損失につながるような行動をさせないためです。
そのため、秘密保持のように重要な情報が外部に漏れて損害につながるような行動をとらせないためにも、誓約書という手段で社員の行動を拘束します。
基本的にその内容は社会的に見ても合理性のあるものであることが多いため、多くの誓約書は法的拘束力を持ち、サインした人はその内容を遵守しなければなりません。
3.労使間における「誓約書」は法的効力があるのか
労使間における誓約書は、その内容に合理性が認められ、その内容について社員が合意したうえでサインしたものであれば、法的拘束力が発生します。
合理的な内容でまとめられた誓約書となれば、その多くは違反することで会社に損害を与えかねない内容が揃っているでしょう。
そのため、誓約書の内容に違反した場合には誓約書を根拠として損害賠償請求ができる場合があります。
秘密保持など社員側が遵守することが困難とは言えない内容であれば社員側の負担はそれほど大きなものにはなりませんから、自由意思によりサインした誓約書の内容はしっかりと守る必要があるのです。
4.法的効力を持たない誓約書とは
先ほど「合理性がある誓約書には法的拘束力がある」という話をしましたが、逆に言えば合理性が認められないような誓約書の場合だと、法的な効力は発生しないということになります。
どのような内容の誓約書であるかにもよりますが、一般的には以下の2種類に該当するような誓約書には法的効力がないと考えられています。
4-1.(1)公序良俗に反する内容
民法90条においては「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効とする」とありますので、公序良俗に反するような内容を約束させるための誓約書は法的効力を持ちません。
たとえば、犯罪を助長するような内容であったり、労働基準法に違反するような雇用関係を強制するような誓約書は、公序良俗に反することになりますので無効となります。
ほかにもビジネス関係でよくあるトラブルとしては、社員を男女で区別して給与面や定年年齢などで不当な差別をすることがありますが、それを記載した誓約書も同様に公序良俗に反する内容となるため法的効力を持たないのです。
何が公序良俗に反するのかについては法律に詳しくないと判断が難しいので、もし「この誓約書って問題があるのでは?」と疑う場合にはすぐにはサインせず、弁護士などの専門家に相談してその是非を確認しておくことをおすすめします。
4-2.(2)誓約書の作成を強要された場合
誓約書が法的な効力を持つのは、サインする側がその内容について合意し、自由意思のもとにおいてサインをした場合です。
そのため、逆にいえばサインする側がその誓約書の内容について十分に確認できなかった場合や、会社側から誓約書へのサインを強要された場合には、サインする側に自由意思がないため誓約書としての法的な効力も否定されます。
こうした場合に作成される誓約書としては、例えば、「未払いの残業代を請求しない」など、社員側が不利益を被るような内容であることが多く、そうであればサインしなければ良いのでしょうが、何らかの条件を突き付けられたことによりサインせざるを得ないことになるケースもあります。
このような誓約書には合理性が認められないケースが多く、最終的には裁判で争うことになるかもしれませんが、誓約書の内容が不合理であるのならばしっかりとその無効について会社に認めさせる必要があります。
5.誓約書を守らなかった場合どうなるのか
サインした誓約書の内容は、基本的に遵守しなければなりません。
もし、その内容に合理性が認められ、その内容について精査したうえで合意してサインしたのであれば、その誓約書の内容に基づいて行動を制限されることになります。
誓約書の多くは、会社が自社の社員の行動によって不利益を被ることを避けるために、就業規則の遵守や秘密保持について約束させるために書かせているはずです。
つまり、誓約書の内容に反する行動をとったら、会社に不利益を与えることになるでしょう。
たとえば社内で重要な情報を外部に漏らしてしまえば、競合他社の利益になってしまったり、それが取引先の情報についても含まれていたらその取引先にも被害が及ぶことになります。
どういった内容の誓約書のどの内容について違反するような行動をとったかにもよりますが、場合によっては会社は誓約書の内容を根拠として損害賠償請求をしたり、解雇通知をしてくることもあるでしょう。
それに対して、誓約書の内容が公序良俗に反する内容であったり、サインを強要された場合の誓約書には法的効力が無効となりますので、その内容に反する行動をしたからといってそれを根拠として何かしらを要求・請求がされることはありません。
重要なのは「法的拘束力を持っているかどうか」になりますので、合理性がある誓約書の内容は遵守して、法的効力が無効となる誓約書の場合は違反しても問題ない、そもそもサインしないというのが重要です。
6.誓約書に関するトラブル事例
いわゆるブラック企業が中心になると思いますが、労使間で誓約書の内容についてトラブルになるケースは決して珍しいことではありません。
多くの事例は弁護士などの専門家に相談して解決へと導くことになりますので、誓約書のトラブルは時間と労力を奪われるトラブルに発展しやすいのです。
たとえば、以下のようなトラブル事例が挙げられます。
- 〇年間は退職しないという内容の誓約書
- 残業代を請求しないという内容の誓約書
- 就業中に誓約書へのサインを強要された
- 退職時に競業避止の内容に合意しないと退職金が支払われない
トラブルに発展するような誓約書ですから、その多くは合理性が認められない無効な誓約書となっていることでしょう。
無効な誓約書は法的効力を持ちませんので、その内容を遵守しなくても問題ありませんが、会社から何かしらの不利益をもたらされてしまう可能性は否定できません。
その場合はどうするべきかについては、次の項目で詳しく解説します。
7.会社から誓約書を強制で書かされた際の対処法
会社からの圧力によって、合意していない誓約書を無理やり書かされることもあるかもしれません。
その多くはサインした側に大きな不利益をもたらす内容となっているため、できるだけ早めにその効力を無効にしてしまう必要があります。
不当な誓約書に対しては、大きく分けて3つの手段で対抗しましょう。
7-1.(1)誓約書へのサインを拒否する
まずは予防策として、誓約書へのサインを拒否して断ることが何よりも重要です。
会社によっては、入社時や在職中、退職時とさまざまなタイミングで誓約書にサインを求めることがあります。
まず、誓約書の内容はどれだけ長い文章がびっしりと詰まっていたとしても、サインすればその内容に拘束されることになりますので、必ず隅から隅まできっちりとその内容を確認しておきましょう。
そして、もしその一部または全部について合理性を欠き、不当な要求を突き付けられているのだとすれば、サインを拒否してください。
不当な内容であっても「誓約書にサインをした」という事実は大きく、これを根拠として今後の行動を制限され、生活の質を落とすような事態になってしまう可能性もあります。
不当な誓約書へのサインを回避するためには、誓約書の内容を精査して、その合理性を確認しておくことが重要です。
もし「すぐにサインするように」と言われても無視して、きちんと納得できる内容だけしか書かれていないことをきちんと確認したうえで、誓約書にサインするようにしましょう。
7-2.(2)誓約書を撤回する
不当な誓約書にはサインをしないことが一番大切なのですが、会社や上司からの圧力に耐えられずに、不合意ながらも誓約書にサインをしてしまうケースもあるでしょう。
仮にその内容が不当なものであったとしても、一度サインをしてしまえば基本的に効力を発揮しますので、その内容を遵守しなければならなくなります。
基本的に一度サインした誓約書を撤回することは難しいのですが、サインした経緯が自由意思のもとではなく、詐欺や脅迫などを理由とすれば誓約書を撤回することも可能です。
誓約書の撤回には会社に対して書面でそのことを通知する必要があります。
その書面には「サインをする経緯に問題があった」「脅迫を理由として誓約書を撤回する」といった内容を書いておきましょう。
これで会社側が納得すれば良いのですが、場合によっては裁判手続きに移行しなければならないケースもあります。
その際に証拠として利用できるように、上記の書面は配達証明付きの内容証明郵便を利用しましょう。
書面の用意や各種手続きが面倒だと感じる場合には、労使問題に強い弁護士などの専門家に相談して、万全の態勢でこの問題と向き合うことが重要です。
7-3.(3)誓約書の効力を争う
こちらから誓約書の撤回を通告しても会社側がそれに応じてくれなかった場合には、少し手間はかかりますが裁判所に訴えを起こして誓約書の効力について会社側と争うことになります。
ここで重要なのは「誓約書が無効である」ということを、こちらから立証しなければならないということです。
裁判所は、誓約書にサインされていることから、労使間で合意が形成されているものであると推測します。
しかし、実際には不当な誓約書を書かされているわけですから、いかにしてその誓約書が法的効力を持たない無効なものであるかを立証する必要があるのです。
たとえば、サインすることを上司から強要された場合であれば、その際のやり取りを録音した音声データやメールでのやり取りを記録したもののように、強要された場面を証明できる証拠が複数あると強力な証拠として裁判を有利に進められるでしょう。
裁判を起こすことにより会社との関係は悪化する可能性が高いですが、不当な誓約書を書かされたことを考慮すれば必然的な措置でもあります。
裁判を起こすなんてあまり日常的なことではありませんから、不安な方は労使関係に強い弁護士に相談して、誓約書トラブルを納得のいく形で解決してもらってください。
8.誓約書を書いてしまう前に弁護士へご相談ください。
先ほども触れていますが、不当な誓約書によるトラブルを回避するためには、契約書を書かされないことが最も合理的な手段です。
しかしながら、実際にはさまざまな場面において誓約書を書かされる可能性があり、そのリスクを判断するためには高度な法律の知識が求められます。
不当な誓約書を書かされることを回避するためには、法律に詳しい弁護士に相談することが重要です。
8-1.(1)誓約書の内容をチェックしてもらえる
弁護士に相談することにより、誓約書の内容を法律の専門家視点からしっかりとチェックしてもらうことができます。
先ほども触れていますが、誓約書の内容は公序良俗に反すれば無効なものとして争うことができますが、法律に詳しくなければ何が公序良俗に反する内容であるのかを判断することは難しいです。
無効となるような誓約書にサインしてしまうと、不当な拘束により無用な被害を被ることもあるでしょ。
そのため、不当な誓約書であるのかどうかを判断することが重要なのですが、問題なのは誓約書の内容が法律の知識を持っていないとわかりにくいということです。
内容をわからないまま誓約書にサインしてしまうと、思わぬ落とし穴が待っています。
そのため、その場では誓約書にサインせずにいったん持ち帰り、弁護士に相談してその誓約書の内容を確認してもらうのです。
弁護士であれば誓約書の内容を精査するのに十分な法律の知識を持っていますし、労使問題に強い弁護士であれば誓約書の内容をチェックした経験が豊富な事務所もあります。
弁護士がチェックして問題がなければサインして会社に提出できますし、何か問題があるような内容であればそのことについて会社側と争う準備ができるでしょう。
8-2.(2)サインをしてしまった場合でも誓約書の効力を争うことができる
もし、会社側から誓約書へのサインを強要され、不当な内容であった、もしくは内容を精査する時間も与えられなかった場合でも、弁護士が味方に付いているとその後の行動を有利に進めることができます。
誓約書の内容次第では無効を主張できますし、サインを強要された場合であれば撤回を求めることも可能です。
これらの行動は弁護士がいなくても進められないことはありませんが、重要なのは「弁護士が味方についている」ということ自体になります。
会社側を相手取って誓約書の撤回を要求したり、裁判でその無効を争うという行動には、少なからず心理的なストレスを感じてしまうでしょう。
場合によってはそのプレッシャーに押しつぶされて、途中で誓約書トラブルを受け入れてしまう方も少なくありません。
しかし、さまざまな事案を取り扱ってきた弁護士が味方に付いていれば、強力な後ろ盾を得られるので心理的なプレッシャーに押しつぶされることなく、トラブルの解決へと導いてもらうことができます。
また、交渉を有利に進められるという点においてもメリットです。
これは労使間トラブルに限った話ではありませんが、交渉相手はこちらが弁護士を雇っていると知ると、態度を軟化させて撤回などに応じてくれる可能性が高くなります。
誓約書問題でトラブルになったと把握したら、できる限り早めに弁護士に相談しておくことをおすすめします。
トラブル発生から早い段階で弁護士が事態を把握できていると、今後とれる行動の選択肢が広がるのです。
労使間のトラブルを少しでも良い形で決着させるためには、早い段階での弁護士への相談をおすすめします。
9.誓約書に関するよくあるQ&A
最後に、誓約書に関するよくある質問をまとめてみました。
9-1.「誓約書」と「契約書」は違うの?
契約書は当事者双方の合意をもって書面を作成、両者がサイン等をすることで効力を発揮し、その内容は当事者双方に効力が及びます。
一方で誓約書の場合は当事者の一方だけがサインをして、その効力もサインした側にだけ及ぶ点で、契約書とは異なるのです。
9-2.誓約書に法的効力は発生するの?
当事者の自由意思による合意に基づいてサインしたものであれば、その内容が合理的なものであれば法的効力を発生させます。
そのため、もし誓約書にサインしたのちに誓約書で禁止されている行動をとって会社に損害を与えた場合には、損害賠償請求される可能性も出てくるのです。
9-3.どんな誓約書だと法的効力が認められないの?
「公序良俗に反する内容」「誓約書の作成を強要された」といった場合には、法的効力が否定されます。
合意していない誓約書を書かされて、それに対して反論する場合にはこれらの根拠を持ち出して、最終的には裁判所で争うことになります。
9-4.不当な誓約書に対する具体的な対抗策は?
合意していない誓約書にサインさせられた場合は、まず書面にて誓約書を撤回する旨を会社側に通知します。
会社側が撤回に応じなかった場合は、裁判所で誓約書の効力は無効である旨を争うことになります。
10.まとめ
会社から誓約書を書かされる場合には、その内容をきちんと確認して、不当な要求をされていないことを確かめてからサインすることが重要です。
仮にサインした誓約書でもその内容や書かされた際の状況次第では撤回や無効について争うことも可能ですが、高度な法律の知識が必要ですし手間もかかります。
労使間での誓約書トラブルに巻き込まれてしまった場合には、早めに弁護士に相談して最適な形でこのトラブルを解決しましょう。
私たち法律事務所リーガルスマートは、誓約書に関するトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
担当者
-
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
担当記事
- 交通事故10月 22, 2024交通事故の慰謝料は誰が払う?治療費や修理費、弁護士費用も解説!
- 交通事故10月 22, 2024後遺障害14級の金額は75万円なの?増額する方法を弁護士が解説!
- 交通事故10月 22, 2024休業損害は自賠責保険に請求できる?条件や計算方法を弁護士が解説!
- 交通事故10月 22, 2024物損事故は弁護士に依頼すべき?メリットや依頼の流れを弁護士が解説