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内部告発とは?具体的な方法や注意点、リスクなどを弁護士が解説
会社が不正行為や違法行為を行っている場合に、その不正行為・違法行為について警察や行政庁などに対して通報する行為のことを一般に内部告発といいます。
内部告発については内部告発者を保護する法律があるのですが、それはどのような法律で、内部告発を行った者をどう保護してくれるのでしょうか。
本記事では、内部告発とはどのようなものか、保護されるための要件や、会社にバレないのかなどについて労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1.そもそも内部告発とは
そもそも内部告発とは、自分が所属している組織についての不正行為・違法行為について、外部の監督機関や報道機関などへ知らせて周知させようとする行為をいいます。
1-1.内部告発は公益通報者保護法によって保護されることがある
内部告発がされると、会社が行っている不正行為や違法行為が公になりますので、会社の健全な運営に繋がり、ひいては社会経済の安定的な発展に繋がります。
そのため、内部告発をした者を保護する法律として、公益通報者保護法という法律が制定されました。
このページでは公益通報者保護法で保護される内部告発についてを中心に取り扱います。
1-2.公益通報者保護法による保護の内容
公益通報者保護法では、公益通報をした人について、次のような規定を置いてます。
- 解雇の無効(3条)
- 派遣契約の解除の無効(4条)
- 不利益取扱いの禁止(5条)
- 役員を解任された場合の損害賠償請求(6条)
- 公益通報者への損害賠償を制限(7条)
1-2-1.解雇の無効
一定の要件のもとになされた公益通報を理由に解雇をしても無効であると規定されています(公益通報者保護法3条)。
現実に解雇された場合には、公益通報者保護法3条に基づいて解雇の無効を主張することが可能です。
その結果、雇用されていたことを前提の給与の支払いを受けること、職場に復帰することができます。
また、不当解雇であるとして解決金の支払いをするように請求することも多いです。
1-2-2.派遣契約の解除の無効
公益通報者が派遣社員のような場合、派遣元が派遣契約を解除することが考えられます。
そのため、派遣契約の解雇も、同様に無効とされています(公益通報者保護法4条)。
1-2-3.不利益取扱いの禁止
公益通報をしたことを理由に解雇をする以外にも、降格や減給、退職金の不支給など、不利益な取り扱いをすることも考えられます。
公益通報者保護法5条は、公益通報者に対する不利益取扱いを禁止しています。
もし降格・減給・退職金の不支給のような行為を行うと、公益通報者保護法5条を理由にその行為は無効であると主張することができます。
1-2-4.役員を解任された場合の損害賠償請求
公益通報は役員も行うことができます。
役員が公益通報した結果、役員を解任された場合には、会社に対して損害賠償請求をすることができます。
役員を解任されたことを無効と主張することはできませんが、損害が発生している場合には損害賠償請求をすることができるように定められています。
1-2-5.公益通報者への損害賠償を制限(7条)
公益通報によって会社に損害が生じたときに、公益通報者に対して損害賠償を請求することがあります。
この請求を認めると公益通報者は保護されないので、公益通報者保護法7条で、損害賠償請求をすることを制限しています。
損害賠償請求をされてもこれを拒むことができ、仮に支払ってしまった場合には公益通報者保護法7条を理由に受け渡しをした金銭について不当利得であるとして返還を求めることができます。
1-3.ほかの法律でも内部告発が保護されるようなケースもある
公益通報者保護法以外でも、内部告発を保護する内容の法律がある場合があります。
例えば、労働基準法は、労働基準法違反について監督官庁である労働基準監督署に申告をすることができるとしており(労働基準法104条1項)、申告によって解雇などの不利益な処分を禁じています(労働基準法104条2項)。
同様の規定が労働安全衛生法にもあり(労働安全衛生法97条)、法律ごとに内部告発を保護するようなケースもあることを知っておきましょう。
2.内部告発が公益通報保護法で保護されるための要件
では、内部告発公益通報者保護法との関係で保護の対象となるケースはどのようなものでしょうか。
2-1.内部告発をして保護される人
公益通報者保護法が内部告発を行っても保護する対象となるのは次の人です。
- 労働者
- 派遣労働者
- 取引先の労働者など
- 退職をした人
- 役員
2-1-1.労働者
労働者が内部告発をした場合には公益通報者保護法で保護されます。
労働者の定義については、公益通報者保護法2条1項1号が、労働基準法9条における労働者の定義と同じとしているので、事業所に使用されるもので賃金を支払われる者のことをいいます。
そのため、正社員・契約社員・アルバイト・パートなど、労働の形態は問いません。
2-1-2.派遣労働者
派遣労働者も公益通報者保護法で保護されます。
派遣労働者の定義については、労働者派遣法2条2号に規定する派遣労働者の定義と同じとしており、雇用関係に基づいて他人の指揮命令を受けて、その他人の労働に従事させるタイプの労働者をいいます(公益通報者保護法2条1項2号)。
2-1-3.取引先の労働者など
業務委託契約先・物品の納入をしている会社・コンサルティング会社など、通報の対処となっている会社の取引先の労働者も、公益通報保護法2条1項3号で保護されます。
2-1-4.退職した人
退職後1年・派遣労働終了から1年以内に公益通報をした人も、公益通報保護法で保護されます(公益通報者保護法2条1項1号・2号)。
2-1-5.役員
最後に、通報の対象となる会社の役員や、外注先の会社の役員も、公益通報者保護法2条1項4号で保護の対象となります。
2-2.公益通報者保護法で保護される内部告発の内容
公益通報者保護法で保護される内部告発の内容は、次の要件を満たす必要があります。
- 通報者の役務提供先に関する内部告発であること
- 公益通報者保護法で通報の対象となっている法律についての内部告発であること
- 公益通報者保護法で通報の対象となっている事実に関する内部告発であること
2-2-1.通報者の役務提供先に関する内部告発であること
通報者の役務提供先に関する内部告発であることが必要です(公益通報者保護法2条1項)
労働者である場合は勤務先・派遣労働者である場合は派遣先・取引先である場合には取引先が対象となります。
2-2-2.通報の対象となっている法律についての内部告発
通報の対象となっている法律についての内部告発である必要があります(公益通報者保護法2条3項)。
公益通報者保護法で保護の対象となるのは、公益通報者保護法の別表に定められている法律となっています。
現在は合計500本の法律が、公益通報者保護法と公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令によって定められています。
代表的なものでは刑法・食品衛生法・廃棄物処理法・個人情報保護法などがあります。
対処となる法令は非常に多いので、消費者庁のホームページで50音順になったものが掲載されているので参考にしてみてください。
通報対象となる法律一覧(PDFファイル)|消費者庁ホームページ
2-2-3.内部告発の対象となっている事実
内部告発の対象となっている事実である必要があります。
内部告発の対象となっている事実として、公益通報者保護法2条3項で次の2種類が規定されています。
- 犯罪行為・過料の理由とされている事実
- 行政指導・行政処分の理由とされている事実
犯罪行為となっている事実や、刑事罰ではない行政罰である過料の対象となっている事実は公益通報者保護法2条3項1号で対象とされています。
次のような事実が当てはまります。
例)
- 業務上横領を行った(刑法)
- 有害物質が含まれる食品を販売した(食品衛生法違反)
- カルテルを結んだ(独占禁止法違反)
行政指導・行政処分の対象となっている事実で、その指導・処分に従わないことによって罰則の規定が適用される場合には、対象となります(公益通報者保護法2条3項2号)。
例)
2-3.内部告発先
内部告発をする対象については以下の3つに分けられます。
- 役務提供先
- 権限のある行政機関
- 外部への通報
保護を受けるためには以上の3つの種類のどこかに内部告発をした場合である必要があります。
2-3-1.役務提供先への内部告発(1号通報)
役務提供先に対して行う内部告発は保護の対象となります(公益通報者保護法3条1号、第2条1項本文、6条1号)。
この通報のことを1号通報と呼んでいます。
2-3-2.権限のある行政機関(2号通報)
権限のある行政機関に対する内部告発は保護の対象となります(公益通報者保護法3条2号、2条1項本文、6条2号)。
行政機関に対する通報を2号通報と呼んでいます。
内部告発の窓口を探す場合には、法律ごとに通報先・相談先の行政機関を検索できるページが消費者庁に設置されているので、参考にしてください。
2-3-3.外部への通報
通報対象となる事実による被害の発生などを防ぐために必要な通報先に対する通報は保護の対象となります(公益通報者保護法3条3号、2条1項本文、6条3号)。
報道機関や消費者団体、事業者団体、労働組合などがこれにあたります。
2-4.対象となる具体的なケース
以上の要件を踏まえて、次のようなケースでは内部告発をした場合に保護の対象となります。
- 消費期限を改ざんした食品を販売していた会社について労働者が保健所に内部告発した場合
- 経理担当者が業務上横領を行った場合に勤務していた派遣労働者が所轄の警察署に内部告発した場合
- カルテルを行った会社について役員が公正取引委員会に内部告発をした場合
2-5.対象とならない具体的ケース
一方で次のようなケースでは内部告発の対象となりません。
- 自分の友人の会社の経理担当者が業務上横領をしているとして報道機関に内部告発を行った
- 会社の代表者が不倫をしていることを労働者が報道機関に内部告発した
- 消費期限を改ざんした食品を販売していた会社についてライバル会社に対して内部告発を行った
1つ目のケースは、会社の労働者の友人が内部告発を行ったもので、保護の対象となる人からの内部告発でないため対象となりません。
2つ目のケースでは、保護の対処となる事実についての告発ではないので、対象となりません。
3つ目のケースは、ライバル会社に対する内部告発は、告発先の要件を満たさないため、保護の対象となりません。
3.内部告発をする際の注意点
内部告発をする際の注意点としては次のようなものが挙げられます。
3-1.要件を満たすものか慎重に調査をする
内部告発として公益通報者保護法の要件を満たすものか、慎重に調査を行いましょう。
公益通報者保護法によって内部告発者が保護されるための要件は、ここまでお伝えしたように非常に複雑です。
そのため、自分が告発をしたときに、きちんと保護されるかどうか、法律の要件を満たしてるかは慎重に調査すべきでしょう。
できる限り、弁護士に相談することをお勧めします。
3-2.内部告発をする内容で自分が特定されないように気をつける
内部告発をする内容によって自分が特定されないように注意しましょう。
内部告発を行って、公益通報者保護法によって保護される場合でも、会社内での人間関係の悪化や、重要な仕事から外され出世の機会を失うなど、事実上の不利益が発生することもあります。
内部告発をする際に、証拠として提出した書類にアクセスできる人間が限られていた、写真に自分や自分と特定できるものが写っていた、などが原因で、内部告発をしたことが知られる・疑われるという可能性は否定できません。
内部告発をする際に提出するものなどには注意をして、自分であると特定されないように注意をしましょう。
3-3.内部告発をしたことは秘匿しておく
内部告発をしたことは秘匿しておきましょう。
内部告発をしたことを他の従業員や第三者に話してしまうことは、当然ですが内部告発をしたことが会社にバレるリスクを高めることになるからです。
4.内部告発したことが会社にバレた際のリスク
上述したように、提供された情報の出処があきらかになることで、内部告発をしたことがバレてしまう可能性は否定できません。
この場合、次のようなリスクがあります。
4-1.解雇・不利益処分など
公益通報者保護法では無効とされていても、解雇が実際に行われる可能性があります。
解雇のように目立つ処分ではなくても、ほかの理由をつけて降格・減給などの処分が行われる可能性は否定できません。
この場合、解雇・不利益処分などの無効を争って、会社と交渉・裁判等を行う必要があるというリスクがあります。
最終的にはこれらの処分は無効とされるべきことになるのですが、会社が徹底的に争うような場合には、長期間の裁判を強いられる可能性があります。
4-2.会社における事実上の不利益取扱い
表立って解雇などの不利益処分をしなくても、会社において事実上の不利益取扱いをされる可能性があります。
仕事を振ってもらえない、大きなプロジェクトを任せてもらえなくなる、重要なポストにつかせてもらえない、といったことが挙げられます。
これによって、解雇・減給等がなくても、昇格・昇給なども見込めなくなるという可能性は否定できません。
4-3.会社における人間関係の悪化
会社における人間関係の悪化も否定できません。
無視をされる、陰口を言われるなど、会社に行きづらくなってしまうことが考えられます。
モラハラ・パワハラに該当する場合には、損害賠償を請求されることもある可能性がありますが、その解決には非常に労力がかかります。
5.内部告発に関する裁判例
実際に内部告発を行った結果、裁判になった事例をお伝えします。
5-1.京都地方裁判所決定 平成19年(ヨ)243号
会社がいわゆる白タク行為を行っていたことを陸運事務局および警察に内部告発したことをきっかけに雇止めをされたことに対して、公益通報者保護法に基づいて雇止めは無効であるとして提起された民事保全事件について、京都地方裁判所は雇止めは無効であり、本案判決確定日まで1ヶ月金20万円の仮払いを命じる決定を出しました。
5-2.京都地方裁判所判決平成28年(行ウ)第20号
児童相談所に勤務していた原告が、児童養護施設で起きたと疑われる児童虐待についての公益通報を行ったところ、停職3日の処分が下された件について争われた裁判で、同処分が取り消されました。
6.内部告発に関するよくあるQ&A
内部告発に関するよくあるQ&Aとしては次の通りです。
6-1.証拠も無く繰り返し内部告発を保護されますか
証拠も無く繰り返し内部告発をするようなケースがあります。
内部告発を受けて会社で内容について調査をして、該当事実がないにも関わらず、新たな証拠もなく繰り返し内部告発をするような場合、個々の行為は公益通報者保護法で保護されても、繰り返し証拠もなく内部告発を繰り返して会社の秩序を乱すことに対して処分が下される可能性は否定できません。
実際に東京地方裁判所判決平成23年(ワ)第16157号では、他の従業員が麻薬を使用していることを内部告発することを繰り返していたような案件で、調査の結果麻薬使用の事実はなく、今後は問題行動をしないように注意したにもかかわらず、問題行動を続けたことを理由とするものとして、公益通報者保護法による保護を主張して争った原告の主張を認めませんでした。
6-2.内部告発のどの段階で弁護士に相談・依頼すべきか
内部告発を行う際、弁護士に相談・依頼をすることが望ましいです。
では、内部告発のどの段階で弁護士に相談・依頼するのが望ましいでしょうか。
この点について、内部告発が公益通報者保護法によって保護される要件は、ここまでお伝えした通りかなり細かく難解です。
また、通報する内容について適切かどうか、きちんと証拠を保全して通報が意味あるものになるか、自分が内部告発をしたことが特定されないか、なども検討する必要があります。
これらに失敗をして、解雇をされて後に争うとなった場合、最終的に公益通報者保護法を理由に解雇の無効を勝ち取れても、当初は職を失うなどの不利益を被ります。
なるべく早い段階から弁護士に相談・依頼をして、内部告発を効果があるものとして、かつ自分に不利益が発生しないようにするのが肝心です。
法律事務所リーガルスマートでは、初回60分無料の法律相談を承っていますので、まずはご相談ください。
7.まとめ
本記事では、内部告発についてお伝えしました。
内部告発については、公益通報者保護法という法律の要件を満たせば、解雇などの不利益処分を無効としてもらえるのですが、その要件は非常に細かく、注意が必要です。
弁護士に相談をしながら、適切な内部告発を行うことをお勧めします。
私たち法律事務所リーガルスマートは、内部告発に関するトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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