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タイムカードを改ざんされた!違法性や対処法などを弁護士が解説

タイムカードを改ざんされた!違法性や対処法などを弁護士が解説
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会社が残業代を出さないときの方法として、タイムカードを改ざんするケースがあります。

そもそもこのようなタイムカードを改ざんするようなことは法律に違反しないのでしょうか?

本記事では、タイムカードの改ざんについて労働問題に強い弁護士が解説します。

目次

1.会社がタイムカードを改ざんするよくある理由

どうして会社がタイムカードを改ざんするのか、その理由としてよくあるものとしては次のようなものが挙げられます。

1-1.残業代の支払いをしないため

残業代の支払いをしないためにタイムカードを改ざんすることが最も多いです。

所定労働時間を超えて労働をさせる場合、会社は残業代の支払いをする必要があります。

そのため、残業代の支払いをしないために、タイムカードの改ざんを行うことが考えられます。

次のような事例が典型例でしょう。

  • 実際に退勤した時間ではなく所定労働時間で計算をする
  • 固定残業代を超える残業代の支払い義務が生じそうなのでタイムカードを改ざんする

1-2.違法な長時間残業をさせていることを隠すため

タイムカードを改ざんする理由として次に多いのが、違法な長時間残業をさせていることを隠すためです。

36協定がある場合、会社は所定労働時間を超えて労働者を働かせることができます。

この場合でも時間外労働については上限があり、通常の36協定を結んだ場合には月45時間、特別条項付き36協定を結んだ場合には最高でも月100時間が上限です。

しかし、実際にはこの時間をはるかに超える残業をさせることもあり、この場合労働基準法に違反するものとして、労働基準監督署からの行政指導の対象になり、かつ、刑事罰の対象となります。

労働基準監督署からの行政指導や刑事罰を避けるため、タイムカードの改ざんを行うことが考えられます。

1-3.有効な36協定を結んでおらず残業させらないようなケース

そもそも有効な36協定を結んでいない場合には、法定労働時間を超える残業・時間外労働をさせることができません。

36協定を結んでいない場合はもちろん、36協定を結んでいたとしても、選出された従業員代表・交渉した労働組合が法律上の要件をみたしていないような場合には、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させることができません。

もし労働をさせた場合には、労働基準法違反として、行政指導・刑事罰の対象となるため、これを避けるために、タイムカードを改ざんすることが考えられます。

1-4.タイムカード改ざんの方法

タイムカード改ざんの方法としては次のようなものが挙げられます。

1-4-1.タイムカードの内容を改ざんする

まず、タイムカードの内容を改ざんする方法です。

紙のタイムカードの場合、記載内容を改ざんします。

例えば、19時に退勤して19時と記載あるいは打刻したものについて、手書きなどで18時と書き換えるような場合です。

従業員の認印を作成し、訂正印まで押すようなケースもあります。

昨今ではクラウド勤怠を管理するような場合もあり、この場合は勤怠の内容を変更できる権限を持つ人事部などが、勝手にログインして訂正するようなケースがあります。

1-4-2.別のタイムカードを作成する

タイムカードの改ざんは会社が意図した勤務時間に変更することです。

元からある勤怠を改ざんしたような場合、労働者がこれを見られるような環境にあると、改ざんしたことがわかってしまいトラブルになります。

そのため、会社の都合の良いタイムカードを別に作成して、そのタイムカードをもとに給与を支払うことが考えられます。

1-4-3.そもそもタイムカードすら作っていない

あまりにも勤怠が杜撰な会社の場合には、タイムカードを作っていないようなケースもあります。

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2.タイムカードの改ざんは違法なのか

タイムカードの改ざんは違法なのでしょうか。

2-1.タイムカードを改ざんすること自体は私文書偽造罪となる可能性

刑法159条は「権利義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者」場合には、私文書偽造罪となる旨を規定しています(民法159条3項)。

タイムカードは労働時間という事実を証明するため、あるいは給与・残業代請求に関する書類であるため、私文書偽造罪における私文書に該当します。

そのため、タイムカードを偽造することは、私文書偽造罪となる可能性があります。

私文書偽造罪となる場合、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金という刑罰が規定されています。

なお、タイムカードに印鑑を押す必要がある場合には、有印私文書偽造として、3月以上五年以下の懲役となることが規定されています。

加えて、会社は労働関係の重要書類を5年間保存すべき義務を負っており(労働基準法109条)、タイムカードを偽造することは、この保存義務に違反する行為に該当します。この保存義務違反が認定された場合には、30万円以下の罰金に処される可能性もあります(労働基準法120条)。

2-2.クラウドやシステム上のタイムカードを改ざんすることは電磁的記録不正作出罪となる可能性

刑法161条の2は「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った」場合には、電磁的記録不正作出罪となることが規定されています。

クラウドやシステム上のタイムカードを偽造することは、労働者が会社に対して給与を請求するという事務処理を誤らせる目的で、権利、義務、事実証明に関する電磁的記録を不正に作ったといえ、電磁的記録不正作出罪となります。

電磁的記録不正作出罪については、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が規定されています。

2-3.残業代の未払いは労働基準法違反

タイムカードを改ざんした結果、労働者に対して本来支払うべき残業代の支払いをしないことになります。

残業代は、所定労働時間を超える労働に対する対価で、労働基準法上の賃金に該当します。

賃金の支払いをしない場合、労働基準法に違反することになり、行政処分・刑事罰の対象になります。

また、支払っていない期間の遅延損害金として、2024年現在では年3%の法定利率を加えた金額を支払わなければなりません。

さらに、会社を退職した後には、賃金の支払の確保等に関する法律6条によって14.6%となります。

2-4.労働基準監督署に対して改ざんしたタイムカードを提出するのも労働基準法違反

労働基準監督署は、労働基準法等の違反がある場合、会社に対して行政指導を行います。

会社に対しては様々なことを行えるのですが、そのなかの一つとして、書類の提出を求めることができることになっています。

そこで、改ざんしたタイムカードを提出することが考えられるのですが、改ざんしたタイムカードを提出することは、労働基準法120条4号に違反し、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

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3.タイムカードを改ざんされた際の対処法

会社にタイムカードを改ざんされた場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか。

3-1.タイムカードの改ざんについては最終的には裁判をする必要がある

タイムカードの改ざんについて争う場合、その解決のためには最終的には裁判をする必要があります。

労働者側からタイムカードの改ざんを巡って争う場合の典型は、残業代が適切に払われていないため、その支払いを求める場合です。

この場合、会社に対して改ざんされる前の労働時間を基礎として会社に対して請求を行うことになり、会社が示す偽造した労働時間については偽造されたことを主張する必要があります。

この争いは最終的には裁判を起こして裁判所の判決という形で解決することになります。

3-2.元々のタイムカードと改ざんをした証拠を収集する

上述したように、タイムカードの偽造については、最終的には裁判で解決することになります。

民事裁判においては、請求する内容についての事実は原告となる労働者が主張し、その主張する事実については証拠で立証しなければなりません。

そのため、改ざんの事実を証明できる証拠をきちんと収集する必要があります。

元々のタイムカードと、そのタイムカードの通りに働いていたこと、タイムカードが改ざんされたことを証明できるような証拠を収集します。

3-3.会社と交渉をする

会社に対して交渉を行います。

残業代の支払いが適切にされていないのであれば、会社に対して適切な残業代の支払いを求めます。

労働時間・残業時間が法律の基準を超えているような場合には、労働時間・残業時間の短縮を求めて交渉を行います。

在職中に個人で交渉をするのは厳しいような場合には、労働組合に相談して交渉のサポートをしてもらうことも検討しましょう。

3-4.労働基準監督署への申告

労働基準法等に違反する場合には、労働基準監督署への申告を行います。

労働基準法104条1項は、会社が労働基準法に違反しているような場合には、その事実を行政官庁・労働基準監督官に申告することができる旨を規定しています。

タイムカードを改ざんして残業代の支払いをしないことは、給与の支払いをしないことなので労働基準法に違反します。

また、タイムカードを改ざんして労働時間・残業時間の定めに違反することも、それぞれ労働基準法に反します。

そのため、労働基準監督署への申告が可能です。

労働基準監督署への申告については、それが会社にバレた場合に解雇などの不利益な処分をされないか心配という方も多いですが、労働基準法104条2項は、この申告によって解雇などの不利益な処分を禁止しているので、そのような心配は不要です。

3-5.法的手続き

会社に対して残業代を求めても支払ってもらえなかった場合や、違法な長時間労働をした結果体調を壊したなどで安全配慮義務違反を問う場合で、相手が交渉をしても応じない場合には、法的手続きを行います。

法的手続きというと民事訴訟なのですが、労使間のトラブルについては、労働審判という法的手続きが用意されています。

裁判で勝訴するなどして、金銭の支払い義務が認められてもなお、支払いをしてこない場合には、会社の財産に対して強制執行をすることになります。

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4.タイムカードの改ざんから派生する労働問題

タイムカードの改ざんから派生する労働問題については次のようなものが考えられます。

4-1.未払い残業代請求

タイムカードの改ざんの動機が、残業代のカットにある場合、未払いの残業代請求が問題になります。

残業時間の計算・割増賃金の計算などを行い、これらの証拠を収集し、請求をすることになります。

残業代には、民法・賃金の支払の確保等に関する法律所定の遅延損害金(3%・退職後は14.6%)を付して請求することになります。

また、残業代未払いの内容が悪質であり、民事訴訟で支払いを求める場合には、未払残業代に併せて付加金の支払いを請求することも可能です(労働基準法114条)。

4-2.残業時間の上限

タイムカードの改ざんの動機が、残業時間の上限を超えている場合である場合には、残業時間の上限が何時間なのか、ということが問題になります。

そもそも36協定を結んでいないような場合には残業をさせることはできません。

通常の36協定であれば1ヶ月45時間・年360時間が上限です。

特別条項付き36協定であれば、1ヶ月100時間、2ヶ月~6ヶ月の平均が80時間、年720時間が上限です。

4-3.懲戒処分の適法性

タイムカード改ざんについて会社と交渉をした結果、懲戒処分を受けることがあります。

減給や降格はもちろん、ケースによっては解雇ということもあります。

労働基準監督署に申告をしたことを原因としてこのような懲戒処分を行った場合には、上述したように労働基準法104条2項に違反します。

それ以外の場合でも、懲戒処分について労働契約法15条は、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」としています。

タイムカードを改ざんしておきながら、そのことを指摘したことが原因で懲戒処分をするような行為は、社会通念上相当であるとはいえないので、懲戒処分は違法となります。

解雇されたような場合には不当解雇となるので、不当解雇として会社と交渉をすることができます。

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5.タイムカードに関するトラブルを弁護士に相談、依頼するメリット

タイムカードに関するトラブルについては弁護士に相談・依頼することに次のようなメリットがあります。

5-1.法的なサポートをしてもらえる

上述したように、タイムカードの改ざんをはじめとしたトラブルについては、残業代請求や違法な労働時間・残業時間などの民事上の問題、刑事事件となる可能性がある刑事上の問題、労働基準監督署による立ち入りなどの行政上の問題などが発生します。

タイムカードに関して発生したトラブルごとに、発生している法的問題・対処法を正確に把握しなければならず、通常は非常に困難です。

弁護士に相談・依頼することで、こういった難解な法的な部分でのサポートを受けることができます。

5-2.精神的なサポートをしてもらえる

他の労働者や労働組合などと歩調を併せて会社と交渉するような場合には、一緒に交渉できる心強い仲間がいます。

しかし、単独で会社と交渉することになったような場合、会社は非常に強い態度で交渉してくることが予想され、精神的に孤立することも珍しくありません。

弁護士に相談すれば、精神的にもサポートしてもらえることが期待できます。

5-3.複雑な労働問題を一気に解決できる

タイムカードの改ざんについては、上述したように様々な労働問題と複雑に絡む可能性があります。

また、タイムカードを改ざんするような雇用主との間には、他にも様々な労働問題が発生している可能性があります。

弁護士に相談・依頼することで、複雑な労働問題を一気に解決することが期待できます。

5-4.会社との交渉や法的手続きを任せてしまうことができる

弁護士に依頼すれば会社との交渉や法的手続きを任せてしまうことができます。

上述したように、タイムカードを改ざんするような会社と交渉する場合、非常に強い態度で交渉に臨むことが予想されます。

また、法的手続きを行う場合には、平日の日中に時間に裁判所に出向く必要があり、平日の日中に仕事をしている場合には会社を休む必要があり、手続き的負担となります。

弁護士に依頼をすれば、会社との交渉や、裁判・労働審判などの法的手続きを任せることができ、負担を減らすことができます。

5-5.弁護士には無料で相談することができる

弁護士に相談する場合、通常は30分5,000円程度の法律相談料が必要です。

しかし、市区町村の弁護士への相談制度や、一定の収入以下の場合には法テラスで無料で法律相談をすることができます。

また、労働者側で労働問題を扱っている弁護士のなかには、無料で法律相談に応じていることがあるので、上手に利用するようにしましょう。

法律事務所リーガルスマートでは初回60分無料の法律相談を受け付けているので、お気軽に利用してください。

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6.タイムカードに関するよくあるQ&A

タイムカードに関するよくあるQ&Aとしては次のようなものがあります。

6-1.タイムカードの改ざんが刑法に違反する場合必ず逮捕されますか

上述したように、タイムカードの改ざんをすることは、刑法に違反して刑事罰になる可能性があり、また、労働基準法上の保存義務に違反する行為でもあります。

もっとも、刑法等に違反するからといって必ず逮捕・起訴されるとは限らず、刑事事件化するのは非常に悪質なケースに限られます。

ですので、必ず逮捕・起訴されるとは限りません。

6-2.タイムカードの改ざんは労働基準監督署に相談すれば解決しませんか

タイムカードの改ざんは労働基準監督署に相談すれば解決しないのでしょうか。

労働基準監督署は、労働基準法などの労働関係の法令を遵守させるための行政機関で、労働基準法などの違反がある場合には、行政指導を行ったり、労働基準法違反が刑事事件になる場合に警察の代わりに捜査を行うことになります。

上述したように労働基準監督所に申告を行うと、会社に対して労働基準法の遵守をするように働きかけをしてもらえるので、それで解決しそうにも思います。

しかし、労働基準監督所は労働基準法違反の是正を目的としており、個々の権利の救済を目的とはしていません。

そのため、残業代の支払いに直接関与してもらえるわけではありません。

そして、労働基準監督署が会社にはたらきかけて、これによって会社が適切な対処をすることでトラブルが解決することが期待されますが、解決までは非常に遠回りです。

在職中に残業代の支払いがないのを解決したいような場合には、労働基準監督署に相談をして会社に働きかけてもらって解決してもらうのは、直接請求をすることで会社との関係が悪化することを防ぐための一つの手です。

しかし、退職後に会社に残業代の請求をしたいような場合には、労働基準監督署に相談をして間接的に解決を目指すのは遠回りなので、弁護士に相談しながら直接請求をするのが良いでしょう。

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7.まとめ

本記事では、会社によるタイムカードの改ざんについてを中心にお伝えしました。

会社によるタイムカードの改ざん自体が文書偽造罪などの犯罪になりうるとともに、タイムカードの改ざんの目的となる残業代の不支給などは、労働基準法違反などになり民事上の違法となります。

タイムカードの改ざんをするような会社との交渉は困難を極めますので、弁護士に相談・依頼して会社と交渉・法的手続きを行うようにしましょう。

私たち法律事務所リーガルスマートは、タイムカードのトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

南 陽輔
南 陽輔一歩法律事務所弁護士
■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立

大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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