損害賠償・慰謝料
交通事故の過失割合と損害賠償請求額の計算方法を弁護士が解説!
目次
1.交通事故における過失割合とは
交通事故における過失割合とは、事故の原因について被害者と加害者の過失の度合いを数値で表したものです。
交通事故は、車の運転者など誰かの不注意な運転により、事故が発生することがほとんどですが、この不注意を法律上では「過失」といいます。
交通事故では、通常は当事者双方が被害を受けますが、過失割合が大きい方の当事者を「加害者」、過失割合の小さい方を「被害者」と呼ぶのが一般的です。
過失により交通事故を起こして、被害者に怪我をさせてしまった場合には、加害者は被害者に対して損害賠償金を支払わなければなりません(民法709条)。
過失の大きさは、損害賠償請求に大きな影響を及ぼします。加害者の過失の割合が大きくなれば被害者の請求できる金額は大きくなります。
反対に、被害者側の過失も認められれば、その分請求できる損害賠償の金額は少なくなります。加害者は、損害賠償金のうち、被害者の過失割合を相殺した金額を支払います。
例えば、交通事故を起こして、被害者に治療費や修理代など100万円の損害があり、事故の過失割合が加害者8、被害者2と認定されたとします。
この場合、加害者が被害者に負うべき損害賠償金額は、100万円×0.8=80万円となります。
被害者にも過失があるため、残りの20万円は自己負担となります。
この記事では、交通事故の過失割合の基本知識、過失割合から損害賠償額を計算する方法、過失割合別の計算例などについて、交通事故に強い弁護士が解説します。
2.過失割合は誰がどのように決めるのか
過失割合は、基本的には、被害者と加害者の当事者間での合意により決められます。交渉がまとまらず過失割合が決まらない場合は、裁判所の判決等により過失割合が決められます。
以下では、過失割合の決め方について詳しく見ていきます。
2-1.当事者間の合意による
過失割合は、当事者間の合意により決められますが、実際には、当事者が加入している任意保険会社との話し合いで決められるのが一般的です。
保険会社はあくまでも加害者側の立場であるため、加害者に有利な過失割合を提示してきます。加害者の過失割合を有利に認定することで、少しでも被害者への賠償金額を下げるためです。
保険会社の提示に従い、一度でも過失割合の示談書に署名してしまうと、その後のやり直しがほぼ不可能になります。署名する前に、弁護士に一度相談することをおすすめします。
過失割合は、当事者の保険会社との話し合いで決められますが、基本的には、過去の判例などを基にして公表されている「基本過失割合」を基準にして決められます。
具体的には、以下のような流れに従い決められます。
- 事故の状況把握
- 基本過失割合の決定
- 過失割合の修正
まずは、当事者による事故の状況把握が行われます。事故現場や事故車両の写真、ドライブレコーダー、防犯カメラ、目撃証人などから事故の正確な状況を把握します。
次に、過去の判例などから類似の事故類型を見つけて「基本過失割合」を確認します。
基本過失割合の確認ができた後に、それぞれの具体的な事故状況を過失割合に反映させるために「修正要素」を加えて、最終的な過失割合を決めます。
例えば、被害者側にも信号無視や一時停止無視などの過失が認められる場合には、過失割合も責任の度合いに応じて修正されることになります。
2-2.裁判所の判決による
当事者間での交渉により過失割合が決まらないときは、裁判所の民事調停、裁判上の和解または裁判上の判決などにより過失割合が決められます。
民事調停とは、裁判所の仲介を基にして行われる話し合いです。裁判官と調停委員が、交通事故の被害者と加害者の仲立ちを行います。
民事調停は裁判とは異なり、調停室において話し合いで問題やトラブルの解決を図ります。
被害者と加害者が過失割合に基づいた損害賠償金の支払内容について合意しなければ、民事調停は成立しません。
民事調停でも当事者の合意が得られない場合には、裁判所での訴訟に進むことになります。
訴訟では、まず訴状を作成して裁判所に提出して訴えを提起します。交通事故の発生日時や場所、車両、事故の状況や態様や責任原因を記載します。
人身事故では、被害者の傷害の内容や治療経過、入通院先、入通院日数、後遺障害等級などを考慮したうえで算定される具体的な請求額を記載します。
次に、証拠を提出します。警察の交通事故証明書、現場見取り図、刑事事件記録、陳述書、医療記録、事故現場写真、ドライブレコーダー、修理の見積や領収書などがあげられます。
上記の証拠を参照して、裁判所は過失の有無および過失割合を認定し、それを基に損害賠償額を算定して判決を出します。
訴訟にまで進むと、法的な専門知識が不可欠になるため弁護士に対応を依頼したほうが良いでしょう。早い段階から弁護士に相談することで、事案に応じた対応策を提案してもらえます。
3.過失割合の計算方法
ここでは過失割合の計算方法について解説します。
過失割合を計算する流れは、以下の通りです。
- 事故態様の整理
- 事故類型の確認
- 基本過失割合
- 修正要素を加味
それぞれ見ていきましょう。
3-1.事故態様の整理
過失割合を計算するために、まずは、事故の態様を整理します。
被害者と加害者がどのように事故を起こしたのか、目撃証言やドライブレコーダーなどを基にした情報を収集することが必要です。
事故現場の信号や一時停止線の有無、道路の幅員の違いや侵入方向なども確認しておきましょう。
事故の態様には、以下の例があります。
- 歩行者と車の接触
- 交差点での直進者同士の出合がしらの事故
- 道路側からの車と直進者との事故
- 同一方向に進行する車の事故
- 交差点での左折車と直進車の賞取る事故
3-2.事故類型の確認
過失割合を計算するために、次に、事故の類型を確認します
事故の類型とは、交通事故の当事者間の関係をいいます。
事故の類型を確認するためには、裁判でも参考にされている「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準/別冊判例タイムズ第38号」を参照し、どの事故に当てはまるのかを確認します。
3-3.基本過失割合
判例タイムズには、事故の類型ごとに「基本過失割合」が掲載されていますので、ご自身の事故類型を基にして基本過失割合を出します。
例えば、以下のケースの基本過失割合は10対0になります。
- 交差点における直進者同士の事故において
- 赤信号側:青信号側
- 対向車同士でセンターオーバーした事故において
- センターオーバーした車:していない車
- 同一進行方向で停車中の車に後続車が追突した事故において
- 追突した車:追突された車
- 駐車場内で駐車スペースに駐車している車に他車が追突した事故において
- 追突した車:駐車していた車
3-4.修正要素を加味する
基本過失割合を出したら、修正要素があるか否かを確認します。
修正要素とは、最終的な過失割合を算定するために加味される、個別の事故態様に応じた変動要素です。
例えば、速度違反、ウィンカーの有無、歩行者が児童または高齢者、わき見運転などが修正要素として加味されます。
その他にも、信号無視、優先道路、一時停止、徐行、センターラインオーバー、右折左折のタイミングなども修正要素になります。
修正要素を加味する場合の計算式は、以下の通りです。
- 基本過失割合:追突者:被追突者=100%:0%
- 修正要素:被追突者が駐車禁止場所に駐車していた加味要素:ー10%
- 追突者:100% ー10%=90%
- 被追突者:0%+10%=10%
修正要素の加味については、専門的な知識を要するため、弁護士に相談することをおすすめします。
4.過失割合から損害賠償額を計算する方法
ここでは過失割合から損害賠償額を計算する方法について見ていきます。
被害者が無過失の場合は、損害賠償額の全額を請求することが可能ですが、被害者側にも過失がある場合には、過失相殺により損害額が計算されます。
例えば、被害者に100万円の損害が発生し、被害者に30%の過失割合が認定された場合、加害者の過失割合は、以下の計算式により求められます。
100万円 × 70% = 70万円
過失割合がどの程度になるかにより、損害賠償金額が大きく異なることになるため、適切な過失割合を計算することが重要になります。
5.過失割合別の計算例
ここでは過失割合別の例を幾つか挙げて、計算例を見ていきましょう。
5-1.7対3の過失割合
被害者の損害額が1000万円、過失割合が7対3の場合において、被害者が請求できる損害賠償額の計算式は、以下の通りです。
1000万円 × 70% = 700万円
加害者にも損害がある場合、被害者は加害者の損害額30%の支払が必要です。被害者の損害額が50万円である場合の計算式は、以下の通りです。
50万円 × 30% = 15万円
支払の清算方法は、以下の2つがあります。
①クロス払い
加害者と被害者がお互いに負担部分を支払う方法
- 加害者が被害者に700万円支払う
- 被害者が加害者に15万円支払う
②相殺払い
事前に支払う金額を相殺したうえで、残りの金額を加害者が被害者に支払う方法
- 加害者が700万円ー15万円=685万円を被害者に支払う
5-2.8対2の過失割合
被害者の損害額が1000万円、過失割合が8対2の場合において、被害者が請求できる損害賠償額の計算式は、以下の通りです。
1000万円 × 80% = 800万円
加害者にも損害がある場合、被害者は加害者の損害額20%の支払が必要です。被害者の損害額が50万円である場合の計算式は、以下の通りです。
50万円 × 20% = 10万円
支払の清算方法は、以下の2つがあります。
①クロス払い
加害者と被害者がお互いに負担部分を支払う方法
- 加害者が被害者に800万円支払う
- 被害者が加害者に10万円支払う
②相殺払い
事前に支払う金額を相殺したうえで、残りの金額を加害者が被害者に支払う方法
- 加害者が800万円ー10万円=790万円を被害者に支払う
5-3.9対1の過失割合
被害者の損害額が1000万円、当事者の過失割合が9対1の場合において、被害者が請求できる損害賠償金額の計算式は、以下の通りです。
1000万円 × 90% = 900万円
加害者にも損害がある場合、被害者は加害者の損害額10%の支払が必要です。被害者の損害額が50万円である場合の計算式は、以下の通りです。
50万円 × 10% = 5万円
支払の清算方法は、以下の2つがあります。
①クロス払い
加害者と被害者がお互いに負担部分を支払う方法
- 加害者が被害者に900万円支払う
- 被害者が加害者に5万円支払う
②相殺払い
事前に支払う金額を相殺したうえで、残りの金額を加害者が被害者に支払う方法
- 加害者が900万円ー5万円=895万円を被害者に支払う
6.過失割合に納得できないときの対処法
過失割合に納得できないときの対処法は、以下の2つです。
- 交通事故に強い弁護士に相談する
- ADR、調停、裁判を利用する
それぞれみていきましょう
6-1.交通事故に強い弁護士に相談する
過失割合に納得できないときには、早い段階で交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。
保険会社の担当者は、交通事故の交渉を専門にしているため、被害者がいくら証拠や根拠を主張してみても、聞き入れてもらえないケースが少なくありません。
交通事故に詳しい弁護士に介入してもらうことで、示談交渉をスムーズに進めることが可能となります。
保険会社では自社の損失(被害者への支払い)を少なくするために、被害者の過失割合を多く見積もる傾向がありますが、弁護士が適正な過失割合を法的に主張・立証することで過失割合を変更できます。
特に、保険に弁護士費用特約が付帯していれば、弁護士費用を保険会社が負担してくれることになるため、弁護士費用を支払う必要はありません。
ご自身の保険に弁護士特約がついているのか否か、確認してみましょう。
6-2.ADR、調停、裁判を利用する
過失割合に納得できないときは、ADR、調停、裁判を利用して過失割合の変更を主張することが可能です。
ADRとは、裁判外紛争解決をいいます。民事上のトラブルについて、中立的な第三者が当事者の言い分を聞いて、合意に導く紛争解決手段です。
ADRには、交通事故紛争処理センターがあります。ここでは、交通事故、損害賠償に詳しい弁護士が公正中立的な立場で和解を斡旋してくれます。
ただし、加害者と合意に至らなかった場合には、手続きはそのまま終了になり解決にはならないため、注意が必要です。
調停は、裁判所において、裁判官1名と調停委員2名による調停委員会が当事者を仲介して、話し合いにより紛争を解決する制度です。
当事者が合意して調停が成立すると、その内容は裁判の判決と同等の効力を有します。
裁判は、裁判所において当事者が証拠に基づいて主張して、裁判官が法律に従って最終的な判決を出すことでトラブルを解決する手続です。
ADRや調停のように相手方の合意がなくても、裁判官の判決により紛争を解決できるため、紛争が解決しない場合の最終手段として利用されることが多くなります。
ただし、裁判には時間と費用を要すること、必ずしも被害者の有利な過失割合が出されるわけではない点に留意しましょう。
7.納得できない過失割合を弁護士に相談、依頼するメリット
交通事故では、過失割合により受け取れる損害賠償金額、支払わなければならない損害賠償金額が大きく異なることになります。
特に、重症や死亡に至る人身事故では、過失割合が少し変わるだけでも、損害賠償額が数百万円から数千万円も変わってしまうケースも少なくありません。
保険会社との示談交渉では、加害者側の保険会社の判断で、過失割合を一方的に主張してくることが少なくありませんが、納得できない場合には、弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談・依頼するメリットは、以下の通りです。
7-1.保険会社と示談交渉を代行してもらえる
弁護士に依頼する1つめのメリットは、保険会社との示談交渉を代行してもらえることです。
過失割合は加害者の保険会社が判断しますが、この判断基準は判例などを基にした「基本過失割合」に則って決められています。
したがって、保険会社とは異なる過失割合を主張するためには、専門的な知識に基づいた分析が不可欠になります。
交通事故に精通している弁護士に依頼することで、過失割合についても専門的な見地に基づいた主張を行えます。
また、保険会社との示談交渉についても代行してもらえるため、有利な過失割合を主張して示談できる可能性が高くなります。
7-2.過失割合の認定に必要な証拠を確保してもらえる
弁護士に依頼する2つめのメリットは、過失割合の認定に必要な証拠の確保をサポートしてもらえることです。
保険会社との示談交渉で過失割合の修正を主張する場合には、その主張を裏付ける証拠が必要になります。
過失割合の決定には、交通事故を起こした当事者の言い分を基に、事故の類型や態様、修正要素などを判断しなければなりません。
当事者間の意見が異なる場合は、それぞれの言い分を裏付けるのに充分な証拠がなければ、加害者の保険会社としても過失割合の判断を変更できないのが実情です。
ただし、どのような証拠が必要になり、どのようにしてこれらの証拠を入手できるのかについては、ケースバイケースにより異なります。
弁護士に依頼することで、事案に応じた有効な証拠を確保して適切な主張をすることにより、有利な内容で示談を進めてくれます。
7-3.裁判に移行した場合はサポートしてもらえる
弁護士に依頼する3つめのメリットは、裁判に移行した場合でも継続してサポートしてもらえることです。
過失割合の認定について合意が得られない場合は、裁判所での民事手続きにより解決することになります。
裁判では、当事者間の示談交渉とは異なり、事実を証明できる証拠に基づいて法律的に意味のある主張をしなければならないため、専門的な知識が不可欠になります。
万が一、裁判で負けてしまえば、その後もこの判決を覆すことは非常に難しくなるでしょう。
弁護士に依頼することで、裁判に移行した場合でもそのまま手続きを代行してもらえるため、勝訴できる可能性は高くなるでしょう。
8.過失割合の計算に関するよくあるQ&A
ここでは、過失割合の計算に関するよくあるQ&Aについて見ていきます。
8-1.過失割合は誰が決めますか?
過失割合は、警察が決めるわけではありません。基本的には、交通事故を起こした当事者により決められますが、実際にはそれぞれが加入する任意保険の担当者により決められます。
当事者間で過失割合の認定について合意が得られない場合には、調停や裁判などの民事手続により裁判所が過失割合を決めることになります。
8-2.人身事故になると、過失割合は大きくなりますか?
いいえ、過失割合は当事者間にどれだけの過失があったかを認定するものであるため、人身事故であるか物損事故であるかは関係ありません。
人身事故でも過失割合が変わることはありません。
9.まとめ
交通事故の過失割合は、損害賠償金額に大きな影響を及ぼします。
交通事故の経験がない方にとっては、過失割合を提示されても、その割合が適正であるのか否かの判断が難しいでしょう。
加害者の保険会社から過失割合が提示された際には、安易に合意せずに、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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弁護士に依頼すると示談金が増額する理由とは
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- 慰謝料請求のため、入通院記録や診断書の収集、通院打ち切り防止対応、保険会社との連絡および交渉の代行を行います。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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