親権・養育費
親権はどのように決まる?流れや獲得するポイントを弁護士が解説
離婚をすることになった際、18歳未満の子供がいる場合は親権者を定める必要があります。通常は母親が親権者となるケースが多いですが、お互いが親権を主張して話し合いがまとまらない場合もあります。
本記事では、親権はどのように決まるのか、親権者になるための要素、親権の獲得を有利に進めるためのポイントなどを弁護士が詳しく解説します。
親権について争いがあり悩んでいる方や、将来に備えて親権を獲得する方法を知っておきたい方はぜひ最後までご覧ください。
目次
1.親権とは
親権とは、子供の利益のために、子供に対する監護・保護・教育をする権利及びそれらに対する責任をいいます。親権を持つ者を親権者といいます。親権者は、子供の日常生活や健康、教育、精神的・身体的な発達などを管理し、その利益のために行動する責任があります。親権は、一般的には親が持つものであり、子供が成人するまでの間、その責任を負います。
親権は、子供の利益を最大限に考慮して定められます。
離婚前については両親が共同で親権を持つ共同親権という形態を取ることが通常ですが、離婚後は片方の親が親権を持つ単独親権しか認められていません。
親権には「財産管理権」と「身上監護権」の2つの側面があります。この2つについて簡単に説明します。
1-1.財産管理権
財産管理権とは、子供の財産を包括的に管理する権利をいいます。また、親権者は、子供が契約など法律行為を行うに際し、同意する権利を持ちます。
1-2.身上監護権
身上監護権とは、子供の身の回りの世話を行い、子供を監護していく権利です。身上監護権には、子供が住む場所を決める居所指定権や、子供のしつけをする懲戒権があります。
2.親権者になるための要素
両者の話し合いによって親権者を定める場合、特に必要な条件はありません。しかし、両者の話し合いによっても親権者を定めることが困難な場合、親権者を定める調停を経て最終的には裁判所で親権者を定めてもらう必要があります。
裁判所が親権者を定める際に考慮される5つの要素について、以下で具体的に解説します。
2-1.子供との関係性
子供にどれだけ愛情を注いできたかや、子供の身の回りの世話をどれだけしてきたかについては、親権を定めるにあたって最も重視されます。離婚後も子供の身の回りの世話ができるかについては、子供の利益に大きく影響するからです。
2-2.子供の意向
子供がある程度の年齢に達し、しっかりとした意思が形成される年齢になれば、子供の意向も尊重されます。一般的には、15歳以上になった場合には子供の意向も重視されてきます。
他方、子供がまだ幼い場合には、母親が必要不可欠な場合が多いと判断され、母親が親権者として優先されることが多い印象です。
2-3.親の健康状態
親が精神的にも肉体的にも健康であることは、子供の利益を考えるにあたって重要な要素の一つです。親が健康でなければ、子供を十分に監護することができないと考えられるためです。
肉体的のみならず、精神的にも健康であることがチェックされます。うつ病などの精神疾患の他、ギャンブル依存症やアルコール依存症などになっていないか等も考慮要素の一つとされます。
2-4.離婚後の生活環境
親が離婚後にどのような生活状況になるかも判断要素の一つです。仕事が忙しくて家にいる時間が短かったりすると、子供と過ごす時間が取れず子供の利益につながらない、適切な子供の監護が行えない可能性があるためです。
2-5.離婚後の経済状況
離婚後の経済状況も親権を定める際の一つの要素です。経済的に困窮した状態では、子供の利益につながらないおそれがあるためです。
もっとも、親の年収が低かったとしても、もう一方の親から養育費がもらえるのであれば、経済状況は他の要素に比べてあまり重視はされないといえます。
ただし、浪費癖やギャンブル依存などの性向については判断の要素として重視されます。
3.離婚時に親権者を決める方法と流れ
離婚時に親権者を決める方法についてはおおむね以下の3つのステップを踏んでいきます。
3-1.話し合い
まずは親権者をどちらにするか夫婦でお互いが話し合います。なお、子供が未成年の場合、親権者を定めずに離婚をすることはできないため、協議離婚であれば親権者を定める話し合いが必須です。
話し合いで親権を定めることができれば、この後のステップは不要です。しかし現実にはお互いの意見が合わず話し合いが平行線となることもあります。その場合、次のステップに進みます。
3-2.親権者を定める調停
話し合いで親権者を定めることが困難である場合、家庭裁判所に対し、親権者を定める調停を申し立てます。離婚についても争いがある場合、離婚調停の中で、親権者指定の申立てをします。
親権者を定める調停は、家庭裁判所で行われる手続きです。当事者間で話合いによる解決をすることが困難な場合に、男女1名ずつの調停委員が当事者双方の話を聞き、親権者をどちらにするかについて調整を行ってくれます。
ただし、調停はあくまで話し合いによる解決を目指す手続きですので、調停委員や裁判官が強制的に親権者をどちらかに決めることはできません。調停によっても双方の合意が得られない場合や、そもそも相手方が調停に出頭しないような場合、調停は不調に終わります。
3-3.審判または訴訟
親権を定める調停が不調に終わった場合に、離婚については双方合意しているものの親権者に争いがあるときは、親権者の指定の審判を行うことによって親権者を定めることが可能です。
一方、離婚についても争いがある場合、離婚訴訟を起こして裁判で親権を定めることになります。裁判は話し合いによる合意を目指す調停と異なり、双方の主張を踏まえて裁判所が最終的な判断を下します。
4.親権の獲得を有利に進めるポイント
親権を獲得するためには、5つの要素が考慮されることを説明しましたが、これらの要素を踏まえて、親権の獲得を有利に進める重要なポイントを3つ挙げて説明します。
4-1.子供の利益を最優先に考える姿勢
裁判所は、親権を定めるにあたって子供の利益を最大限に考慮します。したがって、親権を獲得するためには、自分の都合を主張するのではなく、子供の利益を最優先に考えている姿勢を見せることが重要です。
4-2.親としての能力を証明する
裁判所は、子供の利益を最優先に考える姿勢の他、本当に親権を行使することが可能かどうかについて、親としての能力を評価します。財産管理権と身上監護権を適切に行使することができる能力を備えているかが重要な要素です。具体的には、日常生活の世話ができるだけの時間的余裕や経済力、子供とのコミュニケーション能力があるか等が考慮されます。
親権を獲得するためには、裁判所に対して自分の主張を支える証拠を提出することが重要です。具体的には、離婚までの子供との関わり方がわかる証拠、身の回りの世話をする能力を示す証拠、安定した生活環境や経済力を示す証拠などです。
4-3.心身の安定
裁判所は、親の精神的な安定性も評価の対象とします。親が子供のニーズに応え、適切なケアを提供できるだけの心身の安定を示すことが重要です。
5.親権者を決める際の子供の意思について
親権者を決める際、子供の意思が重要な要素の一つであることを説明しました。ここでは、子供の意思を尊重する前提として、一般的に考慮されるポイントを3つ説明します。
5-1.子供の年齢と成熟度
子供の年齢や成熟度に応じて、その意思がどれだけ重視されるかが異なります。幼い子供の意思は、親権を決定する際の主要な要素にはならないことが多いですが、年齢が上がるにつれて、子供の意思はより重視される傾向があります。
特に年齢が15歳以上である場合、裁判所は子供の希望を聴取し、その意見を考慮します。ただし、子供の意見のみで親権者が決まることはなく、他の要素も踏まえて総合的な考慮がされます。1
5-2.子供の意思と最善の利益との関係
子供の意思は尊重されるべきですが、親権を定める際に子供の利益を最大限考慮する際に、子供の意思が子供の利益と対立するケースもあります。裁判所は、子供の意思を尊重しつつも、最善の利益を考慮します。
5-3.子供の意思の表明方法
裁判所は、子供が自分の意思をどのように表明したかを考慮します。それが直接的な表明である場合や、中立的な環境で行われたカウンセリングや面会の場での意見である場合、その信憑性や重みが異なることがあります。一般的な手続としては、家庭裁判所の調査官が子供の生活環境を調査する中で子供の意思確認も行います。
6.父親が親権を取りにくい理由
話し合いで親権を定めることが困難である場合、調停や裁判で親権を定めることになります。裁判所が公表している司法統計によれば、母親が親権者となるケースは9割であり、父親が親権者となるケースは極めて限られているのが現状です。
参考:令和2年度 司法統計
特に幼い子供の場合、母親が親権を獲得することを優先する「母性優先の原則」が採用される傾向があります。これは、幼い子供に対する安定したケアを確保するために一般的に見られる傾向ですが、親権を獲得したい父親に対して不利に働く場合もあります。
7.母親が親権を獲得できないケース
司法統計によれば、親権者が母親になるケースは9割を超えていますが、逆にいうと父親が親権を獲得するケースもあるということを示しています。
ここでは、母親が親権を獲得できないケースを3つ説明します。
7-1.母親の能力や状況に不安がある場合
裁判所は、子供の利益を最大限考慮して親権を決定します。母親の監護能力や状況に不安がある場合には、母親が親権を獲得できないケースがあります。
例えば母親が統合失調症などの精神的な問題を抱えている場合や母親自身が介護を要するような肉体的な問題を抱えている場合です。
また、子供に対する虐待やネグレクトの疑いがある場合や、ギャンブル依存症など経済的に安定しない生活環境などが疑われる場合、父親が親権を獲得する可能性が高まります。
7-2.父親が積極的に子供のケアを求める場合
父親が子供の監護に積極的に関与し、子供との関係を構築しようと努力している場合、裁判所はこれを評価し、親権を父親に与える場合があります。ただし、姿勢を示すのみでは不十分であり、子供の利益を最大限に確保できるだけの証拠を示す必要があります。
7-3.子供の意思が父親との関係を望んでいる場合
子供が適切な意思表示ができる年齢に達している場合、裁判所は子供の意思を尊重します。子供が父親を親権者とすることを望んでいる場合、その希望を尊重して親権を父親に与えることがあります。
8.離婚後に親権者を変更する方法
離婚時に親権者を定めたとしても、離婚後の事情により親権者を変更したい場合があります。離婚後に親権者を変更することは可能ですが、離婚時と異なり、両親の話し合いで親権者を変更することはできません。裁判所による一定の手続きを踏む必要があります。以下では、離婚後に親権者を変更する手続きの流れを説明します。
8-1.親権者変更調停の申し立て
離婚後に親権者を変更するためには、相手方の住所を管轄する家庭裁判所に対し、親権者変更調停を申し立てる必要があります。
離婚時の親権者を定める調停と同様、調停委員を交えて親権者の変更を話し合います。調停により親権者の変更の合意を得ることができた場合、調停成立から10日以内に役所に届け出る必要があります。
8-2.親権者変更審判
親権者変更調停の申し立てが不調に終わった場合、自動的に審判へ移行します。審判は調停と異なり、裁判官がさまざまな状況を調査し、親権者を変更するかどうかを決定します。
実際は家庭裁判所の調査官が子供や両親の状況を詳しく調査し、調査報告書をまとめます。調査官がまとめた調査報告書をもとに裁判官が親権者の変更をするかを決定しますので、調査官の調査が重要になってきます。
8-3.調停以外で親権者を変更できるケース
離婚後は原則として調停によれなければ親権者を変更することはできませんが、調停以外で親権者を変更できるケースもあります。それは、離婚後に生まれた子供を父親が認知した場合です。
離婚後に子供が生まれた場合、母親が親権者となります。その後に父親が認知すれば、調停によらず親権者を父親に変更することが可能です。
このように、調停以外で親権者を変更できるケースはありますが、離婚後に子供が生まれた場合に限られるため、ほとんどの場合は調停を申し立てる必要があります。
9.親権獲得を弁護士に相談、依頼するメリット
親権を獲得するためには一定の手続きを踏む必要があります。親権獲得を弁護士に相談、依頼すればさまざまなメリットを得ることができます。特に、父親が親権を獲得するためには調停委員や裁判官に事情をしっかりと説明する必要があるため、弁護士に依頼すべきでしょう。
以下では、親権獲得を弁護士に相談、依頼するメリットを3つ挙げて説明します。
9-1.交渉の代理が可能
弁護士は、離婚や親権者に関する話し合いに関し、交渉を代理する権限を持っています。離婚や親権者に関する話し合いは感情的になって話し合いが困難になる場合が多いため、第三者である弁護士が交渉を代理するメリットは大きいといえます。
弁護士が交渉を代理することにより、感情的になっていた相手方が話し合いに応じてくれることもあるため、調停に進まずに解決できる可能性が高まります。
9-2.調停や審判の代理が可能
弁護士は、裁判所のあらゆる手続きを代理できる権限を持っています。本人を代理して調停や審判を申し立てることが可能ですし、本人に代わって調停や審判に出席することもできます。
調停・審判の申立書の作成や、調停・審判への出席に不慣れな本人にとって、法律の専門家である弁護士に依頼するメリットは大きいといえるでしょう。また、本人が仕事で多忙な場合であっても、弁護士が代理人として調停や審判に出席することによって手続きを進めることが可能です。
9-3.適切な証拠の収集と主張が可能
親権をめぐって相手方と交渉をしたり調停を申し立てたりする場合、相手方や調停委員を説得する必要があります。特に父親が親権を獲得したい場合、なぜ父親が親権者となるのにふさわしいのかを説得的に主張する必要があります。
離婚や親権者に関する夫婦間の法的な問題に精通している弁護士であれば、過去のケースを踏まえた上で適切な証拠を収集することが可能です。本人が相手方や調停委員を説得するよりも弁護士に依頼したほうが有利に進めることができる可能性が高いでしょう。
10.親権獲得に関するよくあるQ&A
以下では、親権獲得に関するよくある3つの質問について回答します。
10-1.親権を放棄することはできるのでしょうか?
離婚時に親権者を定める際、話し合いによって親権を相手方に譲ることは可能です。しかし、一度親権者が定まった後に本人の意思のみで親権を放棄することはできません。親権は権利でもありますが、子供の財産管理や監護に対する義務の側面もあるからです。
親権を勝手に放棄できるとすると、子供の利益を最大限に尊重しなければならないとする趣旨に反してしまいます。親権を放棄するためには、家庭裁判所に親権者変更の手続きを申し立てて、裁判所に認めてもらう必要があります。
10-2.離婚については双方合意していますが、親権者をどちらにするか争いがあります。この場合は離婚できないのでしょうか?
親権者を定めないまま離婚をすることはできません。よって、離婚については双方合意していたとしても親権者を定めなければ離婚をすることはできません。
この場合、家庭裁判所に対し、離婚調停または親権者を定める調停を申し立てる必要があります。
10-3.母親ですが、離婚後は経済的に余裕がない場合でも親権を獲得できるのでしょうか?
経済的な状況は、親権者になるための要素の一つとして考慮されます。経済的に困窮した状況では子供の利益につながらないおそれがあるためです。
もっとも、離婚後は双方の経済力や生活水準に応じ、親権者に対し養育費を支払う必要があります。よって、経済的に余裕がない場合でも養育費をもらうことによって子供を育てることが可能であれば、母親の年収が低い場合であっても親権を獲得することは可能です。
11.まとめ
親権を獲得する際の手続きの流れや、親権獲得のための考慮要素などについて解説をしました。
話し合いによって親権者を定めることができれば円満に解決することが可能ですが、実際は親権について双方が合意せず話し合いが平行線をたどることもあります。
親権について相手方が争う姿勢を見せた場合、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に依頼すれば、交渉の段階から弁護士が対応することが可能であり、早期解決につながる可能性が高まります。
調停や裁判になった場合でも、弁護士は証拠を収集し、適切な主張を組み立ててくれます。ご本人が父親で親権を獲得したい場合や、ご本人が母親で親権を獲得できないケースに当たる場合などは特に弁護士に相談するメリットがあるでしょう。
法律事務所リーガルスマートは、親権をはじめとする家庭内の法律問題に精通した弁護士が在籍しています。初回60分無料でのご相談をお受付しています。親権に関して不安なことがございましたら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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