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アスペルガー症候群の夫との離婚手続きや注意点を弁護士が解説!
離婚の原因として夫とコミュニケーションが上手くとれず、夫婦生活が続けられない、ということがよくあります。
そのようなケースの一定割合の中に、いわゆる「アスペルガー症候群」であるというケースがあります。
アスペルガー症候群である夫と離婚をする場合にはどのような特徴があるのでしょうか。
本記事では、アスペルガー症候群の夫と離婚する場合の注意点や手続きについて、離婚・男女問題に強い弁護士が解説いたします
目次
1.アスペルガー症候群とは
アスペルガー症候群とは、発達障害の1つの種類で、知的障害を伴なっていないものの、コミュニケーション能力に特異性が認められるものをいいます。
医学上は、自閉症・広汎性発達障害とともに、アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5において自閉スペクトラム症としてまとめてられています。
知的障害を伴っていないことから、あまり関わりがないと「少し変わった人」程度の認識をされることが多いですが、社会性やコミュニケーションの部分で障害を抱えているという状態になります。
コミュニケーションを上手に取れない人のことを「アスペ」と侮辱的に表現することがあるのですが、この言葉はこのアスペルガー症候群を省略したものです。
2.アスペルガー症候群の夫の特徴
夫とうまくコミュニケーションが取れないという人の中には、「ひょっとしたら夫はアスペルガー症候群なのかも?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか?
そこで、アスペルガー症候群にはどのような特徴があるのかを確認しましょう。
2-1.コミュニケーションが難しい
アスペルガー症候群の特徴の一つに、コミュニケーションが難しいことが挙げられます。
通常コミュニケーションには、相手の立場に立ったり、相手の気持ちを理解したり、場の空気を読むなどの能力が必要です。
しかし、アスペルガー症候群の人はこれらが非常に苦手です。
- 空気が読めない発言をする
- 一方的に話をする
- 難解な言い回しや比喩的表現が通じず言葉通りに受け取ってしまう
このようなコミュニケーション能力の欠如によって、夫婦だけではなく会社・友人などともトラブルになることが珍しくありません。
2-2.特定の事柄に強い興味やこだわりを持つ
アスペルガー症候群の特徴の一つに、特定の事柄に強い興味やこだわりを持つことが挙げられます。
自分が興味を持った特定の事柄については、寝食を忘れて没頭する一方で、自分が興味のない事柄については全く実行することができない、ということがよくあります。
夫婦間においては、自分の趣味に没頭してしまって、一緒に食事もせず家事も手伝わない、というような行動を取り、妻に呆れられてしまうということがあります。
2-3.行動がパターン化しやすい
アスペルガー症候群では行動がパターン化しやすいという特徴があります。
生活において食事・入浴などをパターン化・ルーティーン化することがあり、その順番が入れ替わることを極端に嫌うため、ケースによってはパニックになってしまうこともあります。
夫婦間においては、なにか想定外のことが起きて、パターンが崩れてしまい、そのことを説明しようにもコミュニケーションが取れず、トラブルになるということが起こり得ます。
2-4.知能・言語などの遅れはない
なお、アスペルガー症候群では、知能や言語能力に遅れはありません。
そのため、直接コミュニケーションをとらない限り、アスペルガー症候群であると気づかれることなく過ごすことができます。
3.アスペルガー症候群の夫をもつ妻がカサンドラ症候群になる理由とは
夫がアスペルガー症候群にある妻について、カサンドラ症候群という症状に悩まされることがあることも知っておきましょう。
3-1.カサンドラ症候群とは
カサンドラ症候群とは、身近な人にアスペルガー症候群があることで、その人とコミュニケーションを取らなくてはいけない人にかかるストレスが原因で不安障害・抑うつ状態・PTSDなどの症状が起きている状態のことをいいます。
正式なカサンドラ症候群以外にも、「カサンドラ情動剥奪障害」「カサンドラ状態」などと呼ばれることもあります。
夫がアスペルガー症候群である場合、妻は最も身近な存在として夫に影響されることになるため、カサンドラ症候群となることがあります。
カサンドラ症候群は正式な病名でなく、発症した症状に応じて、不安障害・うつ病・PTSDなどと診断されて治療をすることになります。
3-2.カサンドラ症候群の原因
カサンドラ症候群の原因はどのようなことにあるのでしょうか。
(1)夫と話が噛み合わない・日常生活が困難
カサンドラ症候群となる原因として、アスペルガー症候群の夫と会話が通じないことが挙げられます。
上述したように、アスペルガー症候群の人は、コミュニケーションが難しいといえます。
また、自分のパターン・ルーティーンを重視するため、他人に乱されることを非常に嫌がります。
例えば、通常は食事を用意しているような場合に、本人が体調を悪くしていることからコンビニでお弁当を購入して食べようと提案した場合に、夫は通常のルーティーンとは違うことを理由に怒り出してしまう、ということも珍しくありません。
体調が悪いときに自分を気遣ってもらえないばかりか、怒り出すような相手に悩んでしまってストレスを抱えて、上記のような症状を発症してしまうことが考えられます。
(2)第三者に失礼な態度を取ってしまう
結婚をすればお互いがお互いの親族や知人と交流する機会もあるでしょう。
このような場合にアスペルガー症候群の夫が妻の親族・知人に対して失礼な態度を取ってしまうことがあります。
中には暴言を吐いたり、暴れ回ってしまうようなこともあり、代わりに謝罪をしたりアスペルガー症候群であることを説明する必要があることがあります。
このように、第三者に失礼な態度を取ることで非常にストレスを感じることもあります。
4.アスペルガー症候群の夫に悩んでいる方が取るべき対処法
夫がアスペルガー症候群で悩んでしまった場合、どのような対処法があるのでしょうか。
4-1.専門医・カウンセラーのもとで診断・治療をうける
夫に専門医・カウンセラーのもとで診断・治療を受けてもらいましょう。
発達障害には様々なカテゴリーがあり、コミュニケーションが難しいというだけではアスペルガー症候群かどうか判断するのは困難です。
アスペルガー症候群かもしれないと考えていても、実際には別の発達障害であり、対応方法が異なる可能性もあります。
また、アスペルガー症候群のように発達障害を抱えている場合には、二次的に精神疾患に罹患することが多く、その治療をする必要がある場合もあります。
もし専門医のもとで、診断・治療を受けたことが無い場合には、まず発達障害に関する専門医の診断・治療を受けましょう。
なお、特に投薬等でアスペルガー症候群を治療するというような方法はないので、これが原因で困っていることに対する対処療法を行うにすぎません。
4-2.アスペルガー症候群の特性に沿ったコミュニケーションをはかる
アスペルガー症候群の特性に沿ったコミュニケーションをはかってみましょう。
アスペルガー症候群には上述した通り、コミュニケーションに一定の特性があります。
家事に参加しないことを叱責するのではなく、家事に興味を向けさせることができれば、寝食を忘れる程度に家事に参加してくるという可能性もあります。
また、生活に必要なことについてルーティーン化することで、自主的にそのルーティーンを守ってくれるでしょう。
このように、アスペルガー症候群の特性をうまく生かしてコミュニケーションをはかってみましょう。
4-3.同じ病気に苦しむ方や家族などと交流してみる
アスペルガー症候群を含む発達障害に苦しむ当事者や家族の方と交流してみましょう。
夫がアスペルガー症候群であるような場合、これを親や友人などに話して相談することはなかなか難しいケースもあります。
アスペルガー症候群の名前をよく聞くようになったとしても、実際に当事者となって特性や対応方法について理解してくれることは難しく、時には的はずれなアドバイスや叱責を受けることもあります。
アスペルガー症候群を含む発達障害に苦しむ当事者や家族は、自分や相手の理解のために団体を作ったり、交流の場を持っていることがあります。
こういった同じ病気に苦しむ方やその家族との交流を通じて、アスペルガー症候群への理解や日頃の苦労を分かち合うことで、精神的な負担を減らすことができます。
4-4.離婚を検討する
以上のようにアスペルガー症候群である夫と、上手に生活をしていく対処法自体はありますが、このような対応・努力をすること自体、自分の生活やライフスタイルを犠牲にすることにもなりかねません。
そのため離婚することも検討してみましょう。
5.アスペルガー症候群の夫との離婚手続きを進める方法や注意点
アスペルガー症候群の夫との離婚手続きを進める場合の方法・注意点を確認しましょう。
5-1.離婚手続きを進める方法
まず、離婚手続きをすすめる方法を確認しましょう。
(1)離婚協議
まず、離婚協議を検討しましょう。
お互いに合意ができて、離婚届を作成して市区町村役場に提出すれば、協議離婚が成立します。
子どもがいる場合には、父母どちらの親権となるかを決めなければなりません(離婚届にも記載する必要があり、記載がない場合には離婚届は受理されません)。
慰謝料・財産分与・養育費等については一緒に定めることも別途定めることも可能ですが、離婚後に交渉することは困難であることが多いので、なるべく離婚時に定めておくようにしましょう。
(2)離婚調停
合意で離婚できない場合には、法的手段によって離婚することになります。
離婚裁判を申し出る前に、必ず離婚調停を行う必要があります。
離婚調停は、裁判官と調停委員が間に立って、当事者の主張や希望をまとめながら、法的に妥当な合意を目指すものです。
離婚調停では、慰謝料・財産分与・養育費など、離婚に関連するあらゆることを決めることができます。
(3)離婚裁判
離婚調停で合意ができない場合には離婚裁判を申し立てて離婚を請求します。
裁判所が離婚についての判断を判決という形で示し、法的問題が最終的に解決されます。相手が離婚に反対していても、判決を得れば強制的に離婚することが可能です。
離婚裁判でも慰謝料・財産分与・養育費など、離婚に関するあらゆることについて判断を下してもらうことができます。
(4)強制執行
当事者の合意や調停・裁判で確定した慰謝料・財産分与・養育費については、相手が任意に支払わない場合には強制執行を行うことになります。調停離婚の調停調書、裁判離婚による判決書であれば、そのまま強制執行ができます。これに対して、協議離婚の場合、公正証書で書面を作成しておかなければ強制執行はできません。公正証書がない場合には慰謝料等の不払いに関して改めて裁判所の判決等の執行力のある債務名義を取得する必要があります。
5-2.相手がアスペルガー症候群である場合の離婚手続きの注意点
相手がアスペルガー症候群である場合の離婚手続きの注意点として次のようなことが挙げられます。
(1)アスペルガー症候群であるというだけで離婚原因とはならない
相手がアスペルガー症候群であるというだけでは離婚原因とはならないことを知っておきましょう。
離婚協議・離婚調停で合意できない場合には離婚裁判を起こす必要があるのですが、離婚裁判を起こすためには民法770条1項各号に規定する離婚原因があることが必要です。
相手がアスペルガー症候群であること自体の直接の規定はありません。
また、アスペルガー症候群であることだけで、民法770条1項4号「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」には該当しないと考えられています。
そのため、離婚裁判を起こすためには、夫婦関係の実質的な破綻を意味する、民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」といえる場合である必要があります。
アスペルガー症候群であるというだけで夫婦関係は当然に破綻するとはいえず、その他の事情(DVやモラハラの有無・別居の期間等)なども合わせて夫婦関係が実質的に破綻しているかを検討する必要があります。
そのため、できれば離婚協議・離婚調停で離婚に合意ができるのが望ましいです。
(2)離婚原因が認められない場合には別居をすることを検討
離婚原因が認められない場合、離婚裁判が起こせません。
それでも離婚をしたいという場合には、別居を長期間することで夫婦関係の破綻を認定してもらうことが必要となります。
他方で、明確な離婚原因が認められなくても、離婚調停は手続きが可能です。調停委員に間に入ってもらって相手を説得してもらい、離婚成立に至る可能性はあります。
(3)離婚の交渉が難航する可能性が高い
上述したように、アスペルガー症候群自体は離婚原因とならないため、離婚に合意しての協議離婚・調停離婚をするのが望ましいのですが、アスペルガー症候群が原因でコミュニケーションが上手く取れないため、離婚の交渉も難航する可能性が高いです。
6.アスペルガー症候群の夫との離婚を弁護士に相談、依頼するメリット
アスペルガー症候群の夫との離婚を弁護士に相談・依頼するメリットには次のようなものがあります。
6-1.法的なアドバイスをもらえる
アスペルガー症候群の夫との離婚について法的なアドバイスをもらうことができます。
ここまでお伝えした通り、アスペルガー症候群の夫との離婚には、離婚原因の有無が問題になったり、合意が難しいことからどうしても調停・裁判といった手続きになりかねません。
特に離婚原因の有無については、不倫や悪意の遺棄のような明確なものではなく、夫婦関係の破綻を実質的に検討する必要があり、かつこれらを基礎づける事実についてはきちんと証拠を収集して裁判で利用できるようにする必要があります。
ケースバイケースの判断が必要で、かつ離婚問題の中でも応用的な知識や経験が必要となるため、インターネットのコンテンツや書籍を調べただけでは対応できないこともあります。
弁護士に相談すれば、アスペルガー症候群の夫と離婚するための法的なアドバイスをもらうことができます。
6-2.弁護士に相談だけで精神的に楽になることもある
ここまでお伝えしたように、アスペルガー症候群の夫との離婚は困難を極めます。
どのような法的問題があるのかわからず、周りに気軽に相談ができる人も居ないという状態は、精神的にも負担が大きいものです。
弁護士に相談すれば、問題解決のための道筋がわかるようになり、かつ話を聞いてもらう味方がいる事実もあり、精神的に楽になることが期待できます。
6-3.粘り強い交渉を期待できる
アスペルガー症候群の夫との交渉は、アスペルガー症候群のコミュニケーションに問題があるという特性から、非常に粘り強く行う必要があります。
粘り強い交渉をするためには、法的知識と交渉のための技術が不可欠です。
弁護士に依頼すれば、法的に正しい知識を持って、相手と粘り強く交渉してもらうことができます。
6-4.相手と顔をあわせる必要がない
自分で交渉を行う場合、相手と顔をあわせて交渉を続けることを強いられます。
離婚を決意した中で、アスペルガー症候群でコミュニケーションがきちんと取れないような場合、顔をあわせるだけでも精神的な苦痛を感じることも珍しくありません。
弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として相手と交渉してくれるので、顔をあわせる必要がありません。
6-5.法的手続きも任せることができる
法的手続きも相手に任せることができます。
法的手続きの中でも、特に離婚裁判では、訴状・準備書面・証拠説明書などの書面の作成が不可欠で、離婚に関する法律の知識とともに手続きに関する知識も必要です。
また、調停・裁判は平日の昼間に時間を割いて裁判所に出向く必要があります。
弁護士に依頼すれば、これらの法的手続きも任せることが可能です。
7.アスペルガー症候群の夫との離婚に関するよくあるQ&A
アスペルガー症候群の夫との離婚に関するよくあるQ&Aとしては次のようなものがあります。
7-1.アスペルガー症候群の夫に対して慰謝料請求できますか?
アスペルガー症候群である夫に対して慰謝料請求はできるのでしょうか。
離婚の際の慰謝料請求は、相手が精神的苦痛を与え、相手の権利や法律上保護すべき利益を侵害した場合に請求をすることができます。
典型的な例としては、不倫・DV・モラハラなどを行った場合がこれにあたります。
アスペルガー症候群である夫とはコミュニケーションが上手く取れず、精神的な負担に感じることはありますが、これが相手の権利や法律上保護すべき利益を侵害したとまではいえず、慰謝料請求をすることは難しいでしょう。
ただし、アスペルガー症候群の夫が不倫・DV・モラハラなどを行った場合には、その不倫・DV・モラハラなどの行為について慰謝料請求をすることは可能です。
7-2.弁護士に無料で相談することはできるか
アスペルガー症候群である夫との離婚については、なるべく弁護士に相談するのが望ましいです。
しかし、弁護士に相談するには通常は30分5,000円程度の相談料が必要です。
法テラスや市区町村などで弁護士による無料相談が実施されているのですが、相談時間が短いようなケースもあり、十分に相談できないケースがありますので、事前に相談したいことをしっかりまとめておくようにしましょう。
また、弁護士の中には法律相談を無料としているケースもあるので、上手に利用しましょう。
法律事務所リーガルスマートでは、初回60分無料の法律相談を実施しているので、お気軽にご利用ください。
8.まとめ
このページでは、アスペルガー症候群の夫との離婚についてお伝えしました。
アスペルガー症候群の夫との離婚をする場合、離婚原因の有無について問題になったり、相手との交渉が非常に難しいです。
離婚を決意した場合には、なるべく早く弁護士に相談してみるようにしましょう。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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