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家庭内別居とは?メリットやデメリットなどを弁護士が解説!
夫婦の関係が悪化したときには、離婚したり別居したり生活環境が変わることがよくあります。
そのような夫婦の関係が悪化したときの状態を指す言葉に家庭内別居という言葉があります。
家庭内別居とはどのようなもので、夫婦関係や離婚をする場合にどのような影響を与えるのでしょうか?
本記事では、家庭内別居について離婚・男女問題に強い弁護士が解説します。
目次
1.家庭内別居とは
家庭内別居とは、同じ家に住んでいながら、夫婦としての実態がない状態をいいます。
特に法律用語として規定されているわけではなく、一般的に上記のような状態になっているような場合をいいます。
同じ家には住んでいながら、例えば性行為は行わず、寝室や食事も別にして、一緒に行動せず、顔を合わせても会話もしないという状態で、夫婦としての実態はすでになく、シェアハウスをしているような状態であるといえます。
まるで別居をしているような状態ですが、同じ家に居ることを指すために「家庭内」という言葉を合わせています。
一応同居をしていることから、夫婦に課せられる同居義務(民法752条)は守られているという状態です。
1-1.家庭内別居と別居との違い
家庭内別居と別居とはどのような違いがあるのでしょうか。
別居とは、夫婦が別の場所に住んでいる状態を指す一般的な用語で、家庭内別居と同様に法律用語ではありません。
夫婦関係が悪化して一緒に暮らせないような場合に行われる場合が多いのですが、最近ではお互いの生活スタイルを尊重するために、別々に住所を構えるような場合もあります。
別居は夫婦に課せられる同居義務に違反する行為になり、一方的に行うような場合には離婚原因を定める民法770条1項2号の悪意の遺棄に該当する行為になりえます。
1-2.家庭内別居と単身赴任との違い
家庭内別居と単身赴任はどのように異なるのでしょうか。
単身赴任とは、夫婦の一方が仕事の都合で住居とは違うところに拠点を構えて生活している状態をいいます。
例えば、東京に住んでいる夫が、大阪に転勤することになった際に、子どもの生活環境を変えないために妻と子は東京にそのまま残り、夫だけが大阪に赴くという場合があります。
同じ家に居る点や夫婦としての実態が無くなっているという点で、家庭内別居は単身赴任と異なります。
1-3.家庭内別居と仮面夫婦の違い
険悪な夫婦関係を指す一般的な用語に仮面夫婦という言葉があります。
仮面夫婦とは、体外的には良い夫婦のように見えるにも関わらず、実態としては夫婦関係は冷え切っていることを指す一般的な用語であり、法律用語ではありません。
世間体や子どものために、表面上は良い夫婦を装っているだけということがあります。
家庭内別居は険悪となっている夫婦の居住に関する生活の実態を指す用語であり、外からどのように見えるかという実態に関する用語であるのが仮面夫婦です。
そのため、家庭内別居をしているものの、外では夫婦のように振る舞っていれば仮面夫婦でもあるということはあります。
2.家庭内別居になるよくある理由
どうして家庭内別居を行うのでしょうか。
その理由として次のようなものが挙げられます。
2-1.経済的な理由
別居を行うということは夫婦がそれぞれ住むための自宅を用意しなければなりません。
これは経済的に大きな負担となることから、家庭内別居をしているという夫婦は多いです。
賃貸物件に住んでいる場合には、元々の住居の賃貸借契約を解約すれば良いのですが、住宅ローンで自宅を購入している場合には解約するというわけにもいかず、どちらか一方がその住宅に住むのは無駄です。
そのため、住宅ローンが終わるまでは家庭内別居を続けることも考えられます。
2-2.子どもの生活環境を変えないため
子どもの生活環境を変えないために離婚せずに家庭内別居をすることがあります。
離婚をして母が親権を取得し従来の住居から去るような場合には、子どもの生活環境が大きく変わることが避けられません。
生活環境の変化は大きな精神的負担になったり、将来の教育方針に影響しかねません。
そのため、子どもの生活環境を変えないために、家庭内別居をすることが考えられます。
2-3.その他
離婚自体については賛成しているものの、世間体が気になる、手続きが面倒である、それぞれ一人で生活していくのは寂しい、あるいは復縁の可能性を探っている、などの理由から、家庭内別居を選択することがあります。
なお、宗教で離婚を禁止しているような場合に、家庭内別居をする場合などもあります。
3.家庭内別居のメリット
家庭内別居には次のようなメリットがあります。
3-1.経済的負担が少ない
家庭内別居の最も大きなメリットとしては、経済的負担が少ないことが挙げられます。
住居を維持するための家賃の負担はもちろん、水道光熱費やインターネット回線なども夫婦それぞれで契約する必要があります。
家庭内別居はこういった負担を軽減することができ、経済的負担が少ないといえます。
3-2.子どもへの影響を最小限に抑えることができる
子どもがいる場合には、子どもへの影響を最小限に抑えることができます。
上述したように、離婚によっては、子どもの生活環境に大きな変化があることがあります。
父母と一緒に暮らせなくなることはもちろん、苗字が変わり、引っ越して友人と離れ離れになり、転校によって新しい環境に馴染む必要があるようなこともあり、これをきっかけに不登校となってしまうこともめずらしくありません。
また、父母が離婚をするような場合、小学校や中学校の受験に影響することもあったり、地方に引っ越すような場合には進学校の数が少なくなったり、教育環境が変わってしまうようなこともあります。
家庭内別居によって、子どもへの影響は最小限となります。
3-3.世間体を気にしなくても良い
家庭内別居のメリットの3つめは、世間体を気にしなくても良いことです。
離婚をすれば、今まで住んでいたところから引っ越ししなければならなかったり、元の苗字に戻らなければならなくなったりします。
家庭内別居をすることで、世間体に対する影響なく暮らすことが可能となります。
3-4.復縁の可能性がある
復縁をしたいと望んでいるような場合には、復縁の可能性があることはメリットでしょう。
家庭内別居といっても、ある程度は共同生活をし、日常的に顔を合わせることになります。
夫婦関係が冷え切っている間は会話すらできないような場合でも、家庭内別居の期間を経ることで少しづつ会話ができるようになり、復縁ができるような場合もあるでしょう。
4.家庭内別居のデメリット
家庭内別居のデメリットには次のようなものがあります。
4-1.同じ家に居ることのストレス
夫婦関係が冷え切っている間は、同じ家に居ることにストレスを感じるでしょう。
顔を見るのも嫌、台所やトイレ・風呂など共有するものの使い方が気に食わないといったストレスを受けることになります。
4-2.関係がより悪化することもある
上述したように復縁する可能性もあるのですが、夫婦関係が険悪な状態ですと、夫婦関係が余計に悪化することもあります。
顔を合わせるだけでストレスであるような状態が長く続くことで、復縁のきっかけを失ってしまうことは否定できません。
4-3.新しい交際相手が出来た場合の問題
お互いに新しい交際相手ができることもあるでしょう。
この場合でも、自宅にその相手を招くことは非常に難しいでしょう。
また、婚姻関係がある場合、相手方から不倫と指摘されて慰謝料請求をされる可能性もあります。
精神的苦痛に対する損害賠償である慰謝料は、婚姻関係が破綻した後の不倫については認められないことがありますが、家庭内別居をしている場合には一応は同居をしていると認定されるため、慰謝料請求が肯定される場合もあります。
4-4.離婚を認めてもらえない
家庭内別居ではいざ離婚をしようと思っても離婚を認めてもらえない可能性があります。
離婚をする場合、相手と合意できない場合、離婚協議・離婚調停では離婚ができず、離婚裁判を起こす必要があります。
離婚裁判を起こす際には、民法770条に規定されている離婚原因がなければならないのですが、例えば不倫をされた、悪意の遺棄をされたというような事情がない場合には、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として、実質的な婚姻関係の破綻を認定するほかありません。
このときに別居の有無・期間が認定要素の一つになるのですが、家庭内別居をしている場合別居をしていないと認定されることになり、婚姻関係が破綻していないという認定に傾く可能性があります。
そのため、離婚を認めてもらえない可能性があります。
4-5.子どもに悪影響である
家庭内別居で子どもを育てる場合、子どもに悪影響を及ぼす可能性があります。
どのような影響がありうるかは次項で解説します。
5.家庭内別居が子どもに与える悪影響
家庭内別居で子どもに与える可能性がある悪影響としては次のようなことが指摘されています。
5-1.人の顔色を伺う癖がついてしまう
家庭内別居をする場合、両親が険悪であることが多いでしょう。
そのような家庭では、子は親の顔色を見ながら行動することになり、それが癖になることがあります。
その結果普段から人の顔色を伺う癖がついてしまうことがあります。
5-2.コミュニケーション能力が低くなる可能性
家庭内別居をしている家で育った子についてはコミュニケーション能力が低くなる可能性があります。
家庭内別居をしている両親のもとでは、夫婦のコミュニケーションがないため、子どもがコミュニケーションをとる機会が少なくなります。
ましてや、その両親が不仲ともなると、人と話しかけるのが難しくなることも珍しくありません。
こうして、コミュニケーション能力が低くなる可能性があります。
5-3.家にいても落ち着かず門限を破る・家出をする
家庭内別居をしている家で育つと、家の中がピリピリとした雰囲気で、終始落ち着きません。
そのため、家に帰っても落ち着いて生活できないでしょう。
なかなか家に帰りたがらず、門限を設定しても破ってしまったり、家出をしてしまう、ということも起こり得ます。
5-4.心身に変調を起こしやすい
家庭内別居の家でストレスフルな生活で育ってしまうと、どうしても心身に変調を起こしやすい可能性があります。
6.家庭内別居の始め方やルール決めについて
家庭内別居の始め方やルールはどのように決めれば良いでしょうか。
6-1.当事者での合意は不可欠
家庭内別居をする場合には当事者での合意はかかせません。
中には夫婦で冷戦状態になり、そのまま家庭内別居が続いているというケースもあるでしょう。ただ、このようなケースでもどこかの時点で家庭内別居の条件を合意しておかないと、あとあと更に揉めることになりかねません。
家庭内別居は、特に法律上の制度ではない以上、調停や審判・裁判などの手続きによって家庭内別居をすることを決めるわけにはいきません。
当事者でよく話し合って合意をして家庭内別居を始めるようにしましょう。
6-2.お金に関するルールはしっかりと決める
当事者でストレスの無いように暮らすためには、ある程度ルールを決めることは不可欠です。
夜間に物音を立てない、自宅に人を連れてこない、台所風呂トイレなどの共有部分の清掃など、生活に必要な最低限のルールを決めるようにしましょう。
とくに大きなトラブルになる可能性があるのは、家賃や水道光熱費、インターネットやサブスクの契約など、お金にまつわるものです。
お金に関するルールはしっかりと決めるようにします。
6-3.子どもがいる場合には子どもに配慮したルールを
子どもがいる場合には子どもに配慮したルールを決めましょう。
家庭内別居が子どもに悪い影響を与える可能性があることは上述した通りで、子どもがいる場合には最大限配慮を行うべきです。
子どもの前では喧嘩をしたり大きな声を出さない、他方の悪口を言ったりしないなど、子どもが気を使いすぎないようにできるルールを決めましょう。
7.家庭内別居から夫婦関係を再構築する方法
家庭内別居から夫婦関係を再構築するにはどのようにすれば良いのでしょうか。
7-1.関係が悪化している場合にはまず冷静になる
例えば不倫をしてしまって関係が悪化し、家庭内別居に至った場合には、不倫が発覚した直後に関係の再構築のために話し合いを重ねようとしても、冷静になれずに感情的な対立が深まる一方であることもあるでしょう。
このような場合には、冷静に話し合いができるようになるまで、まずはじっくり時間をかけることを検討しましょう。
顔を合わせるだけでも感情的になってしまうような場合には、家庭内別居ではなく別居をすることも検討に入れます。
7-2.カウンセラーなど第三者を交えて話し合いを
当事者間での話し合いをする場合にどうしても話し合いが平行線となる場合があります。
このような場合には第三者を交えて話し合いをするのが良いのですが、一方の親や友人などだとどうしてもその一方に肩入れしてしまい、話し合いによって不満を大きくしてしまう当事者があらわれることがあります。
また、客観的には公平なアドバイスをしていても、一方に偏ったアドバイスばかりしているように感じて、解決に至らないということもあるでしょう。
このような場合に活用したいのが、カウンセラーです。
夫婦関係の改善に詳しいカウンセラーというものがあり、夫・妻・夫妻両方揃ってなど必要に応じて様々なカウンセリングを受けることが可能です。
一定の知識を持ったカウンセラーが、問題となっている事項を整理しながら、適切に解決に導いてくれるでしょう。
8.家庭内別居から離婚することは可能なのか
家庭内別居を続けていたけども、毎日顔を合わせるのに耐えられない、新しい交際相手がいて結婚をしたいので家庭内別居を解消したい、など様々な理由で離婚したい場合に、離婚は可能なのでしょうか。
8-1.協議離婚・調停離婚ならば夫婦で合意できれば可能
協議離婚・調停離婚であれば、夫婦で合意できれば離婚が可能です。
協議離婚の場合は離婚をすることと、子どもがいる場合には子どもの親権だけを決めて、離婚届を提出すれば離婚が可能で、慰謝料・養育費・財産分与・面会交流などは後から決めてもかまいません。
調停離婚であれば、離婚調停の中でこれらの事項も決め、すべてに合意できれば離婚できます。
8-2.離婚裁判を行う場合には離婚原因が必要
協議離婚、調停離婚で夫婦で合意ができなかった場合には、離婚裁判を起こします。
ただし、離婚裁判を起こすに当たっては離婚原因が必要となるので注意が必要です。
離婚原因については民法770条1項の1号から5号に記載されており、よくある事例としては1号の不貞行為、2号の悪意の遺棄が挙げられます。
こういった明確な不貞行為がなくても、夫婦関係が破綻しているような場合には一切の事情を考慮して「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」といえれば離婚原因ありとされます。
ただし、家庭内別居は同居しているといえることから、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」という認定をしてもらいづらくなることがあるので注意しましょう。
9.家庭内別居から離婚するためにやるべきこと
家庭内別居から離婚をするためには次のようなことを行います。
9-1.離婚を有利にすすめるための証拠の収集
離婚を有利にすすめるための証拠の収集は、家庭内別居をしているうちから行うようにしましょう。
証拠がなければ、離婚裁判や慰謝料の請求に負けてしまい、途中の交渉でも不利を強いられることになりかねません。
離婚の交渉をはじめると、証拠となるものを隠されてしまうことも考えられるので、離婚を有利にすすめるための証拠の収集は、家庭内別居中から行うようにしましょう。
9-2.慰謝料・養育費・財産分与を請求する場合は相手の財産を調査
慰謝料・養育費・財産分与を請求する場合には、相手の財産を調査しておきましょう。
慰謝料・養育費・財産分与の請求は、相手が任意に応じない場合には、最終的には強制執行を行う必要があります。
強制執行を行う場合にも相手の財産についてある程度の特定が必要で、例えば銀行口座で言うと銀行名と支店名が必要となります。
また、財産を隠されると公平な財産分与の請求ができません。
相手の財産をきちんと調査しておきましょう。
10.家庭内別居のトラブルや離婚を弁護士に相談、依頼するメリット
家庭内別居でトラブルになった場合、離婚をする場合には弁護士に相談・依頼をすることをお勧めします。
その理由は次の通りです。
10-1.法的なサポートを受けられる
家庭内別居のトラブルや離婚の相談は弁護士にすべき理由の1つ目は、法的なサポートを受けられることです。
家庭内別個は法的な制度ではなく、トラブルになった際にはそのトラブルをどのように解決するのが妥当か、様々な法律的な観点から検証する必要があります。
また離婚する場合で、特に不倫や悪意の遺棄のような離婚原因がないような場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するといえるかを検討し、もしこれにあたらない場合には別居を開始するなどの必要があります。
その判断は非常に難しいので、弁護士に相談すべきであるといえるでしょう。
10-2.トラブルをスムーズに終えることができる
トラブルをスムーズに終えることができます。
トラブルになってしまっているようなケースでは、お互いが感情的になってしまい、冷静な話し合いができなくなっていることがあります。
弁護士に相談することで、客観的なトラブル解決方法を認識することができます。
また弁護士に依頼すれば、交渉の代理をしてもらうことができるので、冷静に話あうことが可能です。
11.家庭内別居に関するよくあるQ&A
家庭内別居に関するよくあるQ&Aとしては次のようなものがあります。
11-1.家庭内別居中の生活費は相手に請求できる?
家庭内別居中に生活費を相手に請求できるのでしょうか?
婚姻をしている夫婦は、婚姻費用を相互に分担する義務があります(婚姻費用分担義務:民法760条)。
別居当事者でもこの義務に基づいて婚姻費用の分担を請求することができるので、家庭内別居中も生活費を請求することが可能です。
12.まとめ
本記事では、家庭内別居についてお伝えしました。
夫婦が同じ家に住んでいながら、夫婦としての実態がない状態をいうのが家庭内別居です。
家庭内別居から離婚をするような場合には、離婚原因の有無で問題になりやすいので、なるべく早く弁護士に相談してみるようにしましょう。
担当者
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■経歴
2004年3月 大阪大学法学部卒業
2007年3月 関西大学法科大学院卒業
2008年12月 弁護士登録(大阪弁護士会所属)
2008年12月 大阪市内の法律事務所で勤務
2021年3月 一歩法律事務所設立
大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件等幅広く法律業務を担当しておりました。2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立し、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っております。皆様が利用しやすい弁護士サービスを提供できるよう心掛けております。
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