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変形労働時間制とは?メリットや残業代の計算方法を弁護士が解説

変形労働時間制とは?メリットや残業代の計算方法を弁護士が解説

変形労働時間制は、高度成長期以降のサービス業の発展等の社会情勢の変化や、法定労働時間が段階的に縮小されたことに伴って労働時間に関する規制の弾力化が必要となったことを受けて、1987[S62]年の労働基準法改正時に定められた制度です。

本記事では、変形労働時間制と他の労働制度との違い、変形労働時間制のメリット・デメリットや残業時間・残業代の計算方法等を弁護士が解説します。

1.変形労働時間制とは

変形労働時間制(労働基準法第32条の2)とは、会社が月単位・年単位など一定期間の間で総労働時間を決定し、週あたりの平均が40時間となるように各週の労働時間を調整する制度です。本章では、変形労働時間制とは何か、及び他の労働制度(フレックスタイム制・裁量労働制)との違いを解説します。

1-1. 法定労働時間と変形労働時間制

(1)法定労働時間に関する労働基準法第32条の原則

労働基準法は、休憩時間を除く1日の労働時間の上限を8時間、1週間当たりの労働時間の上限を40時間と定めています(法定労働時間:労働基準法第32条)。従って会社は、法定労働時間を超える時間数の労働時間を所定労働時間として定めることはできません。

例えば1日あたりの所定労働時間を9時間と定めることは認められず、法定労働時間の8時間を超える1時間分については法定時間外労働として残業代(割増賃金:労働基準法第37条)を支払わなければなりません。

(2)労働基準法第40条(特例措置)による例外

なお、労働基準法が定める特定の事業に該当する事業所で従業員が常時10人未満である場合については、例外的に週あたりの法定労働時間が44時間を超えなければよいとされています(労働基準法第40条・労働基準法規則第25条の2)。この場合の「従業員」には継続雇用されているパート・契約社員も含まれます。

この特例措置に該当する事業(特例事業)は労働基準法の別表第1に定められた以下の事業です。

  • ①商品の販売・配給・保管・賃貸または理容業(第8号)
  • ②映画製作・演劇その他興行事業(第10号)
  • ③医療・保健衛生業(第13号)
  • ④旅館・料理店・飲食店その他接客娯楽業(第14号)

(3)変形労働時間制

変形労働時間制は、法定労働時間制度を一部緩和して、一定期間の総労働時間を平均すれば法定労働時間内に収まるようにすることで、特定の日や週の所定労働時間においては法定労働時間を超える労働時間を設定することを認めています。

この制度は法定労働時間制という「原則」に対して変則的な取り扱いであることから、変形労働時間制と名づけられました。

なお、変形労働時間制においても、上記(2)の特例事業に該当する場合の週あたりの法定労働時間に関する例外が適用されます。

1-2.フレックスタイム制との違い

(1)フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)

フレックスタイム制とは、会社側が最大3ヶ月の範囲で一定期間内の総労働時間を設定し、1日あたりの労働時間及び始業・終業時刻については個々の従業員が決めることができる制度です。

最大3ヶ月の範囲で設定された期間は「清算期間」と呼ばれ、残業時間についてはこの清算期間ごとに計算します。

例えば会社が清算期間1か月・総労働時間170時間と定めた場合、ある従業員の1か月間の労働時間が170時間を超えていれば超過時間分の残業代が発生します。

(2)変形労働時間制とフレックスタイム制の違い

フレックスタイム制は、労働基準法が定めた変形労働時間制の一種である(つまり広い意味では変形労働時間制に含まれる)点で、他の変形労働時間制と共通しています。ただしフレックスタイム制は以下の点で他の変形労働時間制と異なっています。

①労働時間の決定権の違い

変形労働時間制:一定期間・1日ごとの労働時間をすべて会社が定める

フレックスタイム制:労働日ごとの所定労働時間を会社が定め、始業時間と就業時間については従業員1人1人が定めることができる

②残業代の計算方法の違い

変形労働時間制:1日単位・週単位・対象期間全体に分けてそれぞれ定められた所定労働時間を超えた分について発生する

フレックスタイム制:(a)清算期間が1か月以内の場合はその期間の総労働時間に対して実労働時間が超過した場合のみ超過分について残業代が発生する

(b)清算期間が1か月を超えて3ヶ月以内の場合は以下の(ア)(イ)を合計した時間について残業代が発生する

(ア)各月の週平均50時間を超えた労働時間

(イ)清算期間の総労働時間を超えた労働時間のうち(ア)を除いた時間

③労働時間が所定労働時間に満たなかった場合の扱いの違い

変形労働時間制:労働時間の過不足に関係なく、一度定めた所定労働時間は変更できない

フレックスタイム制:実労働時間が所定労働時間に満たなかった場合、不足分を次の清算期間に組み込むことが認められる

なお、フレックスタイム制においても、実労働時間が清算期間の総労働時間を超過しても超過分を次の期間に繰越すことはできません(超過分繰越しは労働基準法第24条の賃金当月全額払いの原則に違反するため)。

1-3.裁量労働制との違い

(1)裁量労働制

裁量労働制とは、業務遂行の手段や時間配分を労働者の裁量に委ねる制度です。裁量労働制はさらに「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」に分かれています。

裁量労働制のもとでは、労使協定で定めた時間数だけ労働したものとみなされます。例えば「1日8時間労働したものとみなす」と定めた場合は実際の労働時間にかかわらず8時間労働したものとみなされます。

他方、法定時間外・休日・深夜早朝労働や休日に関しては労働基準法が適用されます。

例えばみなし労働時間が9時間である場合は、法定労働時間を超える1時間分について割増賃金の対象となります。また、所定の休日が土曜・日曜・法定祝日である会社で、それらの日に労働した場合も(みなし労働時間数にかかわらず)割増賃金が支払われなければなりません。

(2)変形労働時間制と裁量労働制の違い

変形時間労働制と裁量労働制の違いは以下の2点です。

①変形労働時間制では対象労働者の職種や業種の範囲が限定されないが、裁量労働制では一部の「専門業務」と「企画業務」に限定される

②変形労働時間制では一定期間内の実際の労働時間があらかじめ定められた総労働時間を超えた場合は残業代が発生するが、裁量労働制ではあらかじめ定められたみなし労働時間が法定労働時間以内である場合は実際の労働時間にかかわらず残業代は発生しない

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2. 従業員にとっての変形労働時間制のメリット・デメリット

2-1. メリット

繁忙期・閑散期など会社や個々の事業所・部署の事情に合わせて合理的に労働時間を設定することを目的としている制度であるため、1期間ごとの週平均が40時間を超えていなければ残業代は発生しません。従業員にとっては、閑散期に長時間労働を強いられることなく、プライベートの時間を多く持つことができるというメリットがあります。

2-2. デメリット

変形労働時間制のもとでは所定の労働時間が1日ごと、あるいは週ごとに異なるため通常の労働時間制をとる場合に比べて勤怠管理が複雑になります。これにより、従業員側が残業代が発生しているか否かを調べるためには、日ごとの実労働時間を厳密に記録しておく必要が生じます。しかし、通常の労働時間制度のような明確な始業時刻・終業時刻の目安がないため残業代発生を見落としやすくなります。

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3. 変形労働時間制の種類

変形労働時間制には1か月単位(労働基準法第32条の2)、1年単位(同第32条の4)、1か月単位の非定型的変形労働時間制(同第32条の5)があります。本章では各種の変形労働時間制について解説します。

3-1.1か月単位の変形労働時間制

1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の一定の期間を平均して、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えないように所定労働時間を定める制度です(労働基準法第32条の2)。

1か月単位の変形労働時間制は、1か月の間で業務の繁閑の差がある業種や事業所に適した制度で、変形労働時間制の中で採用されている割合が一番多い制度です。

例えば、毎月月末が繁忙期となることがわかっている事業所で、月末の所定労働時間を10時間等と長めに設定する一方で、その他の期間では7時間等と短めに設定する等です。

3-2.1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制とは、1年以内の一定期間において、平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で所定労働時間を設定することを認める制度をいいます(労働基準法第32条の4)。

1年単位の変形労働時間制を導入した場合、例えば、1年の中で3月・7月・8月・12月が繁忙期である場合、これらの月の所定労働時間を10時間等と長めに設定する一方で、その他の月においては7時間等短めに設定することが可能です。

1年単位の変形労働時間制は、1年以内の期間の中で繁閑の差がある業種や事業所が導入するのに適した制度です。例えば観光業や流通業(デパート等)では繁忙期と閑散期が定型的であるため、この制度を導入するメリットがあります。

3-3.1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、日ごとの業務に著しい繁閑の差が生じることが多く、その繁閑の状況が定型的でないため具体的予測が困難であるとされる一定の業種について、1日あたりの所定労働時間を10時間までとすることを認める制度です(労働基準法第32条の5)。

この制度を適用することができるのは、労働基準法第32条の5に基づき労働基準法施行規則第12条の5第1項で定められた以下の業種で、従業員が30人未満の事業者です(同規則第12条の5第2項)。

  • ①小売業
  • ②旅館
  • ③料理店
  • ④飲食店

1週間単位の変形労働時間制を導入する場合、週あたりの所定労働時間は40時間以内となります。これは労働基準法第40条の特例が適用される事業においても同様です。

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4. 変形労働時間制の残業時間・残業代の計算方法

本章では、変形労働時間制の下での残業時間・残業代の計算方法について解説します。

4-1. 1か月単位の変形労働時間制の残業時間

1か月単位の変形労働時間制における残業時間は、1か月以内の期間(変形期間)における労働時間の総枠を超える時間です。

労働時間の総枠を定める計算式は以下の通りです。

1週間の法定労働時間(40時間/44時間[特例対象事業]) ÷ 7日 × 変形期間の暦日数

例えば変形期間を1か月とする場合、この式に基づく労働時間の総枠は以下の表のとおりとなります(小数点第2位以下を切捨て)。

1か月の暦日数労働時間総枠
31日177.1時間(177時間6分)
30日171.4時間(171時間24分)
29日165.7時間(165時間42分)
28日160.0時間

4-2. 1年単位の変形労働時間制の残業時間

1年単位の変形労働時間制における残業時間は、1年以内の期間(変形期間)における労働時間の総枠を超える時間です。

労働時間の総枠を定める計算式は以下の通りです。

1週間の法定労働時間(40時間) ÷ 7日 × 対象期間暦日数

変形期間を以下の期間とする場合の労働時間総枠は以下の通りとなります(小数点第2位以下を切捨て)。

対象期間労働時間総枠
1年(365日)2,085.7時間(2.085時間42分)
6か月(183日)1,045.7時間(1,045時間42分)
4か月(122日)697.1時間(697時間6分)
3か月(92日)525.7時間(525時間42分)

4-3. 1週間単位の変形労働時間制の残業時間

1週間単位の変形労働時間制を採用した場合、残業時間は1週間あたり40時間を超える時間数となります。

4-4. 残業代の計算方法

変形労働時間制における残業代の計算方法については、上記の総労働時間枠に基づいて残業時間を確定した上で、その残業時間数に労働基準法第37条に基づいて就業規則に定められた時間外労働・休日労働・深夜労働の各割増率を乗じて算出します。

労働基準法第37条に基づく割増率は以下の通りです。

  • 法定時間外労働については25%以上(労働基準法第37条1項)
  • 深夜労働(午後10時~午前5時)については25%以上(同第37条4項)
  • 休日労働については35%以上(同第37条1項)
  • 深夜の時間外労働については50%以上
  • 休日の深夜労働については60%以上

これらの割増率は平成6年政令第5号「労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令」に基づいています。

また、1か月あたりの残業時間が60時間を超えた場合は、超過時間分については通常賃金

の50%の割増率となります(第37条1項但書)。変形労働時間制を導入している場合も、算出した残業時間が1か月あたりで60時間を超える場合はこの割増率が適用されます。

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5. 残業代が支払われない際に弁護士に相談、依頼するメリット

残業代不払いは明らかに違法ですが、従業員個人が会社相手に残業代を支払ってもらうことは容易ではありません。特に変形労働時間制をとっている会社の場合は労働時間についての認識の食い違いが起こりやすくなります。

変形労働時間制を導入している会社で残業代を確実に支払ってもらうためには、労働問題を専門とする弁護士に相談・依頼することをお勧めします。本章では未払い残業代の請求を弁護士に依頼するメリットについて解説します。

5-1. 未払い残業代の発生の有無や金額を調べてもらえる

収集可能な証拠をもとに、時効消滅していない残業代を算出する作業にはかなりの手間がかかります。特に変形労働時間制をとる会社では所定労働時間が日や週によって異なるため、労働時間が長くても残業代が発生しているかを判断するのに時間がかかります。弁護士に相談すると、変形労働時間制をとる会社に対する残業代請求の経験に基づき、客観的に未払いの残業代が発生しているか、発生しているとすればいくら請求することができるかを正確に教えてもらうことができます。

5-2. 未払い残業代請求のための証拠の集め方を教えてもらえる

未払い残業代の請求にあたっては、雇用契約書や労働条件通知書など自身が保管していれば利用できるもの以外に、業務アカウントによるメールの送受信履歴など、消去してしまっていて会社側だけが保持しているデータもあります。

容易に入手できない証拠についても収集が必要なのか、必要であればどのように入手すればよいかなどは特に従業員個人にとって「壁」となりやすいです。これらについても弁護士に教えてもらうことや、手続を代理してもらうことが可能です。

5-3. 会社との交渉を任せることができる

未払い残業代の請求にあたっては会社側と交渉しなければなりません。しかし、従業員個人で交渉しようとすると取り合ってくれない可能性があります。また逆に会社側が顧問弁護士を立ててくることもあります。弁護士に依頼していれば会社側の対応に関係なく、未払い残業代請求に向けての交渉を対等に行うことができます。

5-4. 交渉不成立の場合の労働審判や民事訴訟等の法的手続を任せることができる

未払い残業代の請求にあたり、証拠収集・交渉とともに壁となるのが法的手段をとる場合です。労働審判は手続が比較的単純で短期間で終結させることができますが、やはり申立てから審理まで全て一人でやることは容易ではありません。

さらに訴訟提起するとなると、期日に全て出席して証拠調べ手続や口頭弁論での陳述も求められます。そのため少額訴訟や簡易裁判所への訴訟提起であっても一人でやることには大きな負担が伴います。弁護士に依頼していれば労働審判・民事訴訟ともすべて任せることができます。

残業代請求手続代理・代行には費用がかかりますが、弁護士に依頼することで確実に未払い残業代の支払いを受けることができます。最近では、着手金の支払いを必要としない成功報酬制をとっている法律事務所も多くあります。

また、多くの法律事務所では初回相談や初回相談の一定時間(30分~60分程度)を無料としているので、無料相談を利用して問題点を的確に整理することで費用を抑えることが可能です。

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6. まとめ

変形労働時間制は、一定期間の労働時間の総枠の範囲内で所定労働時間を柔軟に定めることができるため、企業にとっては残業時間を減らすことができるメリットがあります。他方で1か月の中での所定労働時間が変動するため勤怠管理が複雑になるので、管理システム導入が必須となります。また、従業員側も、残業代を請求するためには実労働時間が変形期間内の総枠を超えているか否かをチェックする必要があるため、日々の実労働時間の証拠となる資料を確保しておかなければなりません。

この点、労働問題を専門とする弁護士に相談すれば、変形労働時間制を導入する会社に対する残業代請求の経験と実績に基づいて、残業代が発生しているか否か・残業代の計算方法・証拠の集め方等について的確なアドバイスを受けることができます。また、会社との交渉や労働審判・訴訟等、従業員個人では困難な手続をすべて任せることができます。

勤務先の会社が変形労働時間制をとっているため、残業代請求できるか悩んでいる方は是非、法律事務所の無料法律相談を利用して労働問題を専門とする弁護士にご相談ください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

福永 臣吾
福永 臣吾法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2005年3月 慶應義塾大学経済学部 卒業
2011年3月 一橋大学法科大学院 修了
2014年12月 最高裁判所 司法研修所(鹿児島地方裁判所配属) 修了
2015年1月 弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
2015年4月 弁護士法人アディーレ法律事務所鹿児島支店支店長 就任
2023年9月 法律事務所リーガルスマート入所
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