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従業員向け!引き抜きの違法性やトラブル対処法を弁護士が解説!

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従業員や取締役等が同僚・部下を引き連れて競合会社を設立したり、競合会社に入社したような場合、元の会社から損害賠償請求されるリスクがあります。

他方、たとえば勤め先の会社での労働条件に不満を持っている従業員が、同業他社からの転職の誘いに応じること等は職業選択の自由の観点からみて違法とはいえません。

本記事では、会社の従業員の方向けに、引き抜きが違法となるケースとならないケース、違法性や引き抜きによるトラブルへの対処法等を労働問題に強い弁護士が解説します。

1.従業員の引き抜きの違法性について

従業員や取締役等が同僚・部下を引き抜く行為が違法となるか否かは、引き抜き行為を行った従業員等が在職中であるか、退職した後であるかによって判断基準が異なります。

1-1. 在職中の従業員の引き抜き行為

在職中の従業員は、会社との関係で「労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行する」義務を負っています(誠実義務:労働契約法第3条4項)。

そして、在職中に他の従業員等の引き抜き行為を行った場合、この誠実義務違反に基づく損害賠償責任を追及される可能性があります(民法第415条・民法第709条)。

また、取締役等の役員も会社に対して忠実義務(会社法第355条)を負っているので、引き抜き行為を行った場合には元会社から忠実義務違反に基づく損害賠償責任(民法第415条)を追及される可能性があります。

他方、憲法第22条が保障する職業選択の自由・営業の自由の観点から、引き抜き行為のすべてを違法とすることはできません。

この点、大阪地方裁判所2002[H14]年9月11日付判決(フレックスジャパン対アドバンテック事件)は、在職中の従業員の引き抜き行為の違法性について「引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超えて、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合」に、このような引き抜き行為を行った従業員が雇用契約上の義務に違反したものとして債務不履行責任(民法第415条)ないし不法行為責任(民法第709条)を負うと判示しています。

そして、「社会的相当性を逸脱しているか否か」の判断基準として以下の事情を考慮すべきとしています。

  • 引き抜かれた従業員の当該会社における地位
  • 元の職場から引き抜かれた人数
  • 従業員の引き抜きが元の職場に及ぼした影響
  • 引き抜きの際の勧誘の方法・態様等

1-2. 退職した従業員による引き抜き行為

これに対して、引き抜き行為を行った従業員等が既に会社を退職している場合は、元の会社に対して誠実義務や忠実義務を負っていません。

このことから、従業員や取締役等が会社を退職した後に、元の会社の従業員の引き抜き行為を行うことについては、原則として違法性はないと考えられます。

ただし、前項の大阪地判2002年9月11日付判決は、退職した従業員や取締役等であっても「引き抜き行為が社会的相当性を著しく欠くような方法・態様で行われた場合には違法な行為と評価され、引き抜き行為を行った元従業員は(元の)会社に対して不法行為責任を負う」という見解を示しています。

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2. 従業員の引き抜きによるリスク

従業員・取締役等が引き抜き行為を行った場合、会社側と引き抜き行為を行った(引き抜き行為に応じた)側の双方にリスクが生じます。本章では引き抜き行為による競合他社設立・入社による会社側・従業員側それぞれのリスクを解説します。

2-1. 引き抜かれた会社側のリスク

元の会社側には次のようなリスクがあります。

  • ①取引先を奪われることによる会社の売上減少
  • ②取引先からの信用低下
  • ③代わりの従業員の採用・育成にかかるコストや負担
  • ④残された従業員の負担増加・意欲の低下・退職等

2-2. 引き抜き行為により退職した側のリスク

他方、退職した従業員等にも以下のようなリスクがあります。

  • ①元の会社から損害賠償請求され、新会社設立後の売上や利益を失う
  • ②裁判所の差止命令(不正競争防止法第3条)により新会社での営業活動を禁止される
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3. 従業員の引き抜きが違法になるケースとならないケース

このように、従業員等の引き抜き行為は会社も従業員等もリスクを負うことになるので、どのような場合に引き抜き行為が違法となるかを知る必要があります。

本章では、従業員の引き抜きが違法になるケースと違法にならないケースを解説します。

3-1. 引き抜き行為が違法になるケース

引き抜き行為が違法になるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

(1)重要な役職の役員・従業員を大量に引き抜くケース

在職中の従業員は、労働契約上の誠実義務を負っています。他方、憲法第22条が保障する職業選択の自由や営業の自由に照らして、個々の労働者の転職活動は認められるべきなので、すべての引き抜き行為を違法とすることはできません。

前述したように、判例上、「引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超えて、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合」に、このような引き抜き行為を行った従業員が雇用契約上の義務に違反すると解されています。

たとえば、重要な役職の役員や従業員が大量に引き抜かれた場合には、会社が重要な人的資源を失い、重大な損害を被ることになります。

このような行為は、「単なる勧誘の範囲を超えて著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合」にあたり違法になる可能性が高いです。

(2)営業秘密の持ち出しを指示した上で役員・従業員を引き抜くケース

営業秘密の持ち出しは、不正競争防止法第21条によって禁止されています。しかし、営業秘密の持ち出しを指示した上で役員・従業員を引き抜き、会社に損害を与えるケースが実在します。

営業秘密持ち出しという違法な行為を伴う引き抜きも、違法となる可能性が高いです。

(3)退職時に退職後の引き抜き行為禁止の合意をしたケース

前述のように、引き抜き行為を行った従業員等が既に会社を退職している場合は、元の会社に対して誠実義務や忠実義務を負っていません。

従って、退職後の引き抜き行為については、原則として違法性はないと考えられます。

ただし、退職時に退職後の引き抜き禁止の合意があった場合には、退職後の引き抜き行為は合意違反となり、前出の大阪地判2002年9月11日付判決の基準に照らして「引き抜き行為が社会的相当性を著しく欠くような方法・態様で行われた場合」に該当し違法な行為と評価される可能性が高いです。

3-2. 引き抜き行為が違法にならないケース

他方、引き抜き行為が違法にならないケースとしては以下のようなものが挙げられます。

(1)引き抜かれた役員・従業員が勧誘以前から転職を考えていたケース

退職した役員・従業員から勧誘されていたとしても、引き抜かれた役員・従業員がそれ以前から転職を考えていて、自発的意思で会社を退職した場合には、引き抜き行為は違法にならないと考えられます。

(2)引き抜かれた人数が少なく退職の申し出が相当期間前に行われていたケース

まず、引き抜かれた役員・従業員が会社の規模に照らして少人数である場合は、会社に与える損害は大きくないと考えられます。

また、退職の申し出が退職日の相当期間前に行われていた場合には、会社が人員を補充する時間を取ることができます。このような場合には、引き抜き行為の違法性は認められないといえます。

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4. 従業員の引き抜きにおける裁判事例について

本章では、従業員の引き抜き行為の違法性が問題になった裁判事例について、違法とされた事例と違法とされなかった事例をそれぞれご紹介します。

4-1.引き抜きが違法とされた裁判例

【東京地裁1991[H3]年2月25日付判決(ラクソン事件)】

(1)事件の概要

英語教材販売会社X社(原告)の取締役兼営業部長であったYは、X社の業績不振・給与遅配等がもとでX社の代表者に取締役辞任の意思表示をした後、同業のZ社の役員と接触し、X社内のマネージャーやセールスマンらとともにZ社に移籍してZ社で営業を開始しました。

当時、Yの率いる第二事業部の売上はX社の売上全体の約80%を占めており、YはX社の経営上きわめて重要な地位にありました。

X社は、大量の従業員を引き抜かれたことによって多大な損害を受けたとして、YとZ社に対して損害賠償請求訴訟を提起しました。

(2)判決

判決は、「引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超えて、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合」に、違法と評価されるとしました。

そして「社会的相当性逸脱」の判断基準として、以下のような事情を例示しました。

  • 転職する従業員が会社で占める地位
  • 転職する従業員が会社内部で受けていた待遇
  • 引き抜かれた人数
  • 従業員の転職が会社に与える影響
  • 転職の勧誘に用いた方法(計画性・秘密性・退職時期の予告の有無等)

本件で認定した事実を上記の基準にあてはめたうえで、Y・Z社の引き抜き行為を違法と判断しました。

  • Yは、Yの率いる第二事業部でX社の売上全体の約80%を占める業績をあげており、X社の経営上きわめて重要な地位にあった
  • 20人を超える部下を引き抜いた
  • Yは、Z社の費用負担で部下を温泉地のホテルに連れ出し、2-3時間かけてZ社に移籍するよう説得した
  • YはZ社と引き抜き・移籍の計画をしつつ、X社に対して全く事情を話していなかった

4-2.引き抜きが違法とされなかった裁判例

【東京地方裁判所2012[H24]年9月7日付判決】

(1)事件の概要

原告X社の代表取締役等の地位にあった被告Yが、X社を退職して競合会社Z社を設立した際に①X社の顧客情報を盗み出した、②X社の取引先の顧客を奪った、及び③X社の従業員を引き抜いた等の行為が「正当な営業活動の範囲を逸脱した社会的相当性を欠く違法な行為」であるとして、X社がYに対して損害賠償請求した事件です。

(2)判決

判決は、被告Yの上記①②③の行為について、それぞれ以下の理由を示して「いずれも著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱する不法行為を構成するとはいえない」と判示しました。

  • ①X社の顧客名簿は、内勤の従業員が自由に閲覧することができる状態であり、機密事項として厳重に管理されていたわけではない
  • ②YはX社の代表取締役等の地位にはあったが、実際には業務内容や権限が著しく限定されていた
  • ③Yが退職した原因は日給が減額されたことがきっかけであった
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5. 引き抜き行為でトラブルになった際の対処法

本章では、引き抜き行為を行った、あるいは引き抜きに応じて競合他社に入社した元従業員が元の会社との間でトラブルになった場合の対処法を解説します。

5-1.会社の主張に対して反論できる点を拾いだす

まず、会社が主張する営業利益の損害等に対して、反論できる点がないか考えます。

(1)不法行為の「損害」に対する反論

たとえば、会社(元の職場)が引き抜き行為を行った役員・従業員に対して訴訟で不法行為に基づく損害賠償を求める場合、損害発生の有無と損害額については、原告となる会社側が立証責任を負います。

ここでいう「損害」とは、引き抜き行為がなければ得られたはずであるという仮定に基づく利益(逸失利益)となります。

不法行為に基づく損害賠償請求において、逸失利益は現実に発生した損害ではないため、その立証は現実に発生した損害の立証に比べて難しくなります。

このことから、仮に判例に照らして違法と認められる可能性が高い引き抜き行為を行った場合でも、会社が主張する「損害」が現実に発生したものではない以上、その内容を精査して反論できる点を拾いだす余地があります。

(2)転職や新会社での営業の差止請求に対する反論

IT業界やメーカー技術職等の高度のノウハウやスキルを持った会社役員や従業員が引き抜き行為を行った場合、会社側は転職や新会社での営業の差止請求訴訟(不正競争防止法第3条)を提起する可能性があります。また、既に営業上の利益が侵害されているとして、同条に基づき転職や営業行為の差止めの仮処分申請を行う可能性もあります。

これに対しては、営業利益の侵害の事実がないことや、営業秘密持ち出し等の違法行為を行っていないこと等、労働者側が主張できる限りの反論を筋道立てて行います。

5-2.弁護士に相談する

ただし、このような反論・反証活動は法律の専門家でなければ難しいため、元の職場との間で引き抜き行為のトラブルが起こった場合は労働問題を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士に相談することにより、前項に挙げた「損害」の内容に対する反証活動を任せられます。また、新会社での営業や転職の差止め(不正競争防止法第3条)等を請求された場合は、営業秘密の持ち出し等の違法行為を行っていないこと、行う事業の範囲や顧客層が元の会社に比べて狭いことを主張立証する等、過度な不利益を受けないための方策を講じることができます。

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6. 引き抜き行為のトラブルを弁護士に相談、依頼するメリット

本章では、引き抜き行為を行った、あるいは引き抜きに応じて競合他社に入社した元従業員が元会社との間でトラブルになった場合に対処法を弁護士に相談、依頼するメリットを解説します。

6-1. 会社との示談交渉を任せられる

会社から損害賠償請求や差止請求をされた場合は、まず示談交渉を申し入れることになります。

しかし、会社側は確実に弁護士に依頼しているため、引き抜き行為を行った側や引き抜き行為に応じた側が個人で交渉を行うと、過大な賠償金の支払いや営業活動停止等を承諾させられるおそれがあります。

労働問題を専門とする弁護士に依頼していれば、会社側が主張する「損害」の中に逸失利益の過大な算定額等が含まれることを指摘したり、営業利益侵害の事実がないこと、その他に営業秘密持出し等の違法行為を行っていないことを的確に主張することができます。

また、退職前に労働者側が不当な取り扱いを受けていた事実があればそれらを主張する等、賠償額が減額できるように粘り強く交渉することができます。

6-2. 損害賠償請求訴訟の訴訟活動を任せられる

会社との交渉が成立せず、損害賠償請求訴訟を提起された場合も、弁護士が一切の手続を代理することができます。

不法行為の損害賠償請求を受けた場合、被告側が会社に対して未払い残業代や備品立替代金等の債権をもって相殺すること(相殺の抗弁主張)は禁止されています(民法第509条)。

他方、会社に対して未払い残業代等の債権を持っている場合は、反訴(民事訴訟法第146条)を提起して会社からの損害賠償請求(本訴)と同時に審理してもらうことが可能です。

会社側の請求に対する反証活動に加えて、可能であれば被告側が会社に対して持っている債権を反訴で請求する等、訴訟手続でも労働者側にとって最善の策を講じることができます。

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7. 引き抜きに関するよくあるQ&A

本章では、従業員等の引き抜きに関して頂くことの多い質問と、それに対する回答をご紹介します。

7-1. 引き抜きをすると会社から訴えられますか?

引き抜きの方法や態様によっては、訴えられる(損害賠償請求訴訟や、営業活動の差止請求訴訟を提起される)可能性があります。

特に、その会社に在職している間に同僚や部下を引き連れて他の会社に転職したり、会社を設立する等の行為に対してはその可能性が高くなります。

他方、退職後に行った引き抜き行為に対しては原則として違法性が認められないため、在職中の引き抜き行為に比べると訴えられる可能性は低いです。

ただし、退職後であっても重要な役職や高度なノウハウ・スキルを持つ人材を大量に引き抜いたり、営業秘密の持ち出しを指示する等の違法行為を伴う引き抜きを行った場合は訴えられると考えたほうがよいでしょう。

7-2. 引き抜いた同僚や部下が元職場の企業秘密を知っていた場合はそれだけで会社に損害を与えたことになりますか?

企業秘密に対しては、元職場の就業規則等の規定で持ち出しや利用が禁じられている可能性が高いです。従ってこのような場合、元職場が転職や新会社での営業行為の差止請求や差止仮処分申請を行う可能性があります。

ただし、企業秘密を知っている従業員が転職すること自体は違法ではなく、また転職したというだけで企業秘密持ち出しを行ったとはいえません。

損害を与えることになるとすれば、企業秘密に含まれる顧客リストやその企業が特許を取得しているノウハウ等を用いて営業活動を行った場合です。

元職場が差止請求等の法的措置をとった場合には、示談交渉を申し入れて、会社に対して現実に損害を与えていないことを証明したり、元職場の当該規定に違反する行為を行わないことを書面で約束する等の対処を行ってください。

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8. まとめ

引き抜き行為に対しては、違法性を認める判例も多いですが、違法性を否定した判例も多数あります。裁判では、転職の勧誘自体は違法ではないことや、労働者側が会社で受けていた待遇等も考慮されます。引き抜きを行ったから必ず多額の賠償金を払わなければならないとはいえません。

しかし、会社が引き抜き行為に対して法的手段をとる場合には、必ず弁護士に依頼しているので、労働者個人が対応することは困難です。会社(元の職場)とトラブルになった場合には、過度な不利益を受けないために、労働問題を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。

私たち法律事務所リーガルスマートは、引き抜き行為に関するトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

福永 臣吾
福永 臣吾法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2005年3月 慶應義塾大学経済学部 卒業
2011年3月 一橋大学法科大学院 修了
2014年12月 最高裁判所 司法研修所(鹿児島地方裁判所配属) 修了
2015年1月 弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
2015年4月 弁護士法人アディーレ法律事務所鹿児島支店支店長 就任
2023年9月 法律事務所リーガルスマート入所
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