残業代請求

固定残業代40時間分の違法性や残業代の計算方法を弁護士が解説

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目次

1.そもそも固定残業代とは

固定残業代とは、月々の時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金(残業代)として固定額で支払われる賃金のことです。

固定残業代を採用している企業では、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ定められた一定額(固定額)において残業代が支払われます。たとえば、毎月20時間分の固定残業代がつく会社では、1ヶ月の実際の残業時間が15時間であっても、固定残業代から5時間分の残業代が差し引かれることはありません。

毎月の残業代を細かく計算する必要がなく、給与計算の手間を削減できるため、多くの企業で採用されている制度です。

ただし、固定残業代において想定されている残業時間を超える残業を行った場合、労働者は超過時間分の残業代の支払いを請求できます。たとえば、上述の具体例で1ヶ月の実際の残業時間が25時間であった場合は、固定残業代に加えて5時間分の残業代の支払いを請求できるのです。

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2.固定残業代40時間は違法なのか

結論から述べると、固定残業代は40時間分であっても違法ではありません。

労働基準法では、時間外労働における上限の原則が、月45時間、年360時間以内と定められています。

固定残業代40時間分は、上記の原則的な上限の範囲内であるため、ただちに違法にはならないのです。

なお、固定残業代の上限の目安は、労働基準法における月の時間外労働の原則的な上限である45時間分とされています。

固定残業代が45時間分を超えている場合は、労働基準法の上限を超える残業を常時想定していることになるため、違法となる可能性があるでしょう。

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3.固定残業代40時間が違法になるケース

固定残業代40時間は、上述の通り基本的に違法ではありませんが、例外的に違法になる場合があります。

ここでは、違法になる3つの代表的なケースを紹介します。

3-1.36協定が締結されていない

労働者に法定時間外労働をさせるには、36協定と呼ばれる労使協定を締結することが必要です。

36協定が締結されていない場合、法定時間外に残業をさせること自体が違法になります。

固定残業代を支払ったとしても違法な状態が解消されることはありません。

また、36協定を締結していたとしても、36協定に定めた上限を超えて時間外労働させる場合は、未締結の場合と同じく違法になります。

3-2.超過労働分の残業代が支給されない

固定残業代分の40時間を超える残業を行った場合、超過労働分の残業代が支払われなければ、違法です。

上述した通り、固定残業代を支給していたとしても、固定残業代において想定されている残業時間を超えて残業した場合は、超過分の残業代を支払う必要があります。

会社は、労働基準法上、時間外労働の時間数に応じた割増賃金(残業代)を支払わなければなりません。それゆえ、実際の労働時間数に応じた残業代よりも少ない金額の固定残業代の支払いのみで済ませることはできないのです。

超過分の残業代が支払われない場合、労働基準法の割増賃金の支払い義務に違反していることになります。

そのため、超過労働分の残業代が支給されないケースは違法なのです。

3-3.実際の労働時間が固定残業時間に満たない場合に固定残業代が減額される

実際の残業時間にかかわらず一定の残業代が支給されるのが固定残業代という制度です。

実際の労働時間が固定残業代で想定されている残業時間に満たないことを理由とした減額はできません。

これは、企業と労働者との間で、40時間分の固定残業代を支払うという内容の労働契約が成立し、企業がその支払い義務を負うことになるからです。

なお、上述の通り、実際の労働時間が固定残業代分の残業時間を超過した場合は、固定残業代に加えて超過分の残業代が支払われます。

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4.残業時間が40時間を超えた場合の残業代

残業時間が40時間を超えた場合、固定残業代に加えて、超過分の残業代の支払いを請求できます。

前述の通り、固定残業代が実際の労働時間に応じた割増賃金(残業代)を下回る場合、企業は差額を支払わなければなりません。

たとえば、月の残業時間が50時間の場合は、10時間分の残業代を支払う必要があります。

この際の残業代の割増率は原則として25%です。

ただし、月の残業(時間外労働)時間が60時間を超えると、その超過分についての割増率は50%になります。

残業時間が40時間を超える場合の残業代の具体的な計算方法は後に詳しく解説します。

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5.残業代の計算方法

残業代の基本的な計算方法を押さえた上で、固定残業代制度における残業代の具体的な計算方法を確認しましょう。

5-1.基本となる残業代の計算方法

前述の通り、時間外労働の割増率は原則として25%であり、60時間を超過する部分は50%になります。

ただし、企業の就業規則などで25%(または50%)以上の割増率を定めた場合は、各社で定めた割増率になります。

時間外労働の割増賃金の基本的な計算式は下記の通りです。

時間外労働の割増賃金(月額)=(月額基本給+諸手当※)/1ヶ月の所定労働時間※×1ヶ月の時間外労働の時間×割増率

※諸手当|家族手当、通勤手当などの一定の手当は除かれます。また、固定残業代は手当には含まれません。

※1ヶ月の所定労働時間の算出方法|(365日−年間所定休日日数)×1日の所定労働時間/12

なお、時間外労働と深夜労働が重複した場合、重複部分については両者の割増率(深夜労働の割増率は25%)を合計した割増率により、割増賃金が計算されます。

そのため、重複部分については原則として50%、時間外労働が60時間を超過する場合は超過部分について75%という割増率になるのです。

5-2.残業時間が40時間を超える場合の具体的な計算方法

【具体例】

  • 月額基本給17万円、通勤手当1万円、技能手当3万円、家族手当2万円、年間所定休日125日、所定労働時間8時間
  • 1ヶ月の時間外労働50時間、固定残業代は6.25万円

【計算】

月額給与の計算

月額基本給17万円+技能手当3万円=20万円

※通勤手当、家族手当、固定残業代は算定の対象外

1ヶ月の所定労働時間の計算

(365日−年間所定休日125日)×所定労働時間8時間/12=160時間

1ヶ月の時間外労働の時間

50時間

超過残業代の計算

残業代総額:20万円/160日×50時間×1.25=78,125円

超過残業代:78,125円-62,500=15,625円

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6.固定残業代の会社で働く際に注意すべき点

固定残業代の会社で働く際は、支給される賃金のうち、基本給や諸手当と固定残業代の内訳を把握しておくことが重要です。

賃金の内訳を把握する際に、注意しておくべき主な点を3点紹介します。

6-1.就業規則や雇用契約書から固定残業代の内容が読み取れるか

まずは、就業規則や雇用契約書などから、固定残業代の内容が明確に読み取れるかどうかが重要です。

就業規則や雇用契約書に記載されることで、固定残業代が労働者に毎月支給される賃金であることが明確になります。

固定残業代の記載内容としては、以下の要素が含まれているかを確認しましょう。

  • 固定残業代の金額
  • 固定残業代が想定する残業時間数※
  • 固定残業代が想定する残業時間を超過して残業した場合には超過分を支給すること

※固定残業代が時間外労働分のみならず、休日労働分や深夜労働分を含む場合は、各労働の時間数についての記載が必要。

上記の要素が就業規則や雇用契約書などに記載されて初めて固定残業代の内容が明確になりますので、十分な記載がされているかを確認しましょう。

6-2.固定残業代が基本給と区別されているか

次に、固定残業代が基本給やその他の手当と区別して記載されているかを確認しましょう。

残業代は、基本給や手当(上述した一定の手当を除く)の合計額をベースに計算された基礎賃金をもとに計算されます。

そのため、基本給や手当と、固定残業代が区別されていないと、残業代を計算するための基礎賃金がいくらになるのかがわかりません。

基礎賃金が計算できないと、固定残業代により、残業時間数に応じた法律で認められる残業代(割増賃金)が賄われているかどうかの確認ができないのです。

それゆえ、就業規則や雇用契約書を見て、固定残業代が基本給やその他の手当とは区別して記載されているかどうかを確認しておきましょう。

6-3.固定残業代の割合が高すぎないか

固定残業代の会社で働く際は、固定残業代の割合が高すぎないかを確認することも重要です。

基本給との割合で固定残業代が高すぎると、長時間労働を前提としている職場である可能性があります。

また、固定残業代も含めて月給が設定されることで、基本給は同業他社より低いというケースも少なくありません。

固定残業代の会社で働く際は、事前に基本給に対して固定残業代が高すぎないかを確認しましょう。

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7.固定残業代の会社で残業代が支払われない場合の対処法

残業代が支払われない場合の対処法を、4つのステップに分けて解説します。

7-1.残業代を請求するための証拠を集める

残業代が支払われない場合、労働者の側で残業代の支給が受けられる権利を持っていることを証明しなければなりません。

そのためには、まずは必要な証拠を集めることが重要です。

固定残業代の会社では、就業規則や雇用契約書において、毎月支給される固定残業代の金額が記載されていることが多いでしょう。

それゆえ、固定残業代を請求する証拠としては、就業規則や雇用契約書が必要です。

なお、固定残業代よりも多くの残業代を請求する場合は、普通の会社と同じように、残業時間を集計し、その証拠を収集する必要があります。

具体的には、タイムカードや会社のパソコンのログ履歴のデータなどが有用です。

7-2.残業代の未払い金額を計算する

次に、未払いとなっている残業代の金額を計算します。

未払い残業代の金額は、収集した証拠から裏付けられる残業時間をもとに、計算することになります。

残業代は、上述した計算式に基礎となる賃金や残業時間を当てはめれば、計算可能です。

ただし、計算式が複雑なので、計算を間違わないように注意しましょう。

7-3.未払い残業代の支払いを求めて会社と交渉する

未払い残業代の金額の計算ができたら、未払額の支払いを求めて会社と交渉します。

会社との交渉は、残業代の算出根拠と残業の証拠を示して行いましょう。

会社としても、算出根拠や裏付けとなる証拠がないと、労働者側の請求に応じるかどうかを判断できないからです。

残業代の計算が正確にできており、証拠が十分であれば、会社が交渉に応じるケースもあります。この場合は、この段階で未払い残業代が支払われることになります。

7-4.交渉しても支払われない場合は弁護士に相談する

会社と交渉しても未払い残業代の支払いを拒否された場合は、弁護士に相談しましょう。

一人で交渉して残業代の支払いを拒否されたという場合でも、弁護士から請求をすれば支払われるというケースは少なくありません。

会社としては、弁護士からの請求については、拒否した後で訴訟を起こされることを警戒します。そのため、労働者による請求には応じない場合でも、弁護士からの請求には応じるというケースがあるのです。

また、労働者による残業代の計算が間違っていたり、証拠が足りていなかったりするケースもあるかもしれません。

そのようなケースでは、弁護士からのアドバイスをもとに残業代の金額を訂正し、また必要な証拠を追加した上で、改めて会社と交渉することもできるでしょう。

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8.未払い残業代請求を弁護士に相談、依頼するメリット

未払いとなっている残業代がある場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。

弁護士へ相談、依頼する主なメリット3点を解説します。

8-1.残業代の計算と証拠収集をしてくれる

弁護士に相談して依頼すれば、複雑な残業代の計算や、面倒な証拠収集を自分で行わなくて済みます。

上述の通り、残業代の計算式は複雑で、計算を間違うことは少なくありません。

特に、フレックスタイム制や変形労働時間制を採用している企業では、さらに計算方法が複雑になるため注意が必要です。

また、残業代を請求するために必要な証拠の収集には手間がかかります。

たとえば、タイムカードのコピーをとったり、パソコンのログデータを取得したりなどの作業が必要です。

弁護士に依頼すれば、このような複雑で面倒な作業を一任できます。

専門家である弁護士に任せれば、正確な残業代の計算を期待でき、また必要な証拠も迅速に収集してくれるでしょう。

8-2.自分で会社と交渉しなくて済む

未払い残業代の支給を受ける権利があるとしても、会社が支給を拒んだ場合は、支払いを求めて会社と交渉する必要があります。

弁護士に相談して依頼すれば、このような会社との交渉も任せることが可能です。

会社に在籍したまま、勤務先に対して残業代の支払い交渉を行うことは、想像以上に精神的なストレスを伴います。

また、一般的に、会社と労働者では対等な交渉を行うことが難しいでしょう。会社は労働実務経験が豊富であるのに対して、労働者はそのような実務経験や法的知識が乏しいからです。

弁護士に会社との交渉を依頼すれば、自分で交渉をする必要はありません。

交渉による精神的ストレスを抱えなくて済み、また紛争解決のプロである弁護士であれば会社との対等な交渉も期待できます。

そのため、弁護士に会社との交渉を任せられ、自分で交渉しなくて済むという点は、大きなメリットといえるでしょう。

8-3.訴訟や裁判になっても安心

弁護士に相談し、依頼していれば、会社が交渉に応じず訴訟や裁判が必要になったとしても、安心して手続きを任せられます。

残業代の支給を受ける権利を持っていても、会社が交渉に応じず支払いを拒否したら、訴訟や裁判を起こして強制的に支払わせることが必要です。

訴訟や裁判(主に労働審判)を円滑に行うには、労働法令に関する専門知識や実務経験に加え、裁判手続に精通している必要があります。

素人の労働者が一人で手続きを行うのは現実的には難しいでしょう。

弁護士であれば、訴訟や裁判の実務に精通しているため、安心して任せられます。

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9.固定残業代に関するよくあるQ&A

9-1.労働者にとっての固定残業代のメリットとデメリットを教えてください。

A.メリットは、残業をしなくても固定残業代が支給される点です。

デメリットは、基本給が低く抑えられがちである点です。

固定残業代制度を採用している企業では、残業をしなくても固定残業代が減額されることはありません。

そのため、定時で仕事を終えられる人にとっては、効率よく稼ぐことができるというメリットがあります。

他方で、固定残業代がある場合、月額賃金に固定残業代が含まれるため、基本給が低く抑えられる傾向にあります。

特に、基本給が市場相場よりも低い場合は、長時間残業をしても固定残業代の範囲内となり、結果として同業他社と比べて収入が低くなりがちです。

このようなデメリットがあることは押さえておきましょう。

9-2.固定残業代に上限はありますか。

A.時間外労働の法令上の原則的な上限である月45時間分が目安とされています。

固定残業代は法律に基づく制度ではありません。

そのため、法律において明確な上限はないのです。

ただし、固定残業代は残業を前提とする制度であるため、無制限に認められるわけではありません。

具体的には、時間外労働の法令上の原則的な上限である月45時間分が、固定残業代の上限の目安とされています。

長時間残業は労働者の心身に悪影響を及ぼすことから労働基準法で規制されています。

そのため、固定残業代の上限を検討する際にも、時間外労働の法律上の上限時間が参考にされているのです。

9-3.基本給の一部が固定残業代として支払われることになりました。給料の総額は変わらないのですが、問題ないのでしょうか。

A.労働者との個別の合意がない限り、そのような会社の対応は原則として違法です。

基本給を引き下げ固定残業代の一部とすることは、労働条件の不利益変更に当たります。

不利益変更を行うには、原則として労働者との合意が必要です(労働契約法9条)。

そのため、会社の上記対応は、労働者との個別の合意がない限り、原則として違法です。

なお、会社は就業規則を変更することで、労働者との合意がない場合でも例外的に労働条件を不利益に変更できるケースもあります。ただし、そのようなケースは、就業規則の変更が合理的な場合に限られています。

基本給の一部を減額し、固定残業代によって補填する変更は、残業代を削減するものであり、労働者に対する不利益は大きいです。

それゆえ、よほどの必要性がない限り、就業規則の変更により労働者との個別合意なく一方的に変更することは認められないでしょう。

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10.まとめ

本記事では、固定残業代について解説しました。

固定残業代は時間外労働40時間分であっても違法ではありません。

ただし、労働基準法上の上限である45時間分を超過する固定残業代については、違法となる可能性があります。

固定残業代は、固定残業代分の残業を行わなくても減額されることはありません。

他方で、固定残業代分の残業時間を超過する残業を行った場合は、固定残業代に加えて超過分の残業代の支給が受けられます。

残業代の未払いに関するトラブルについては、早めに弁護士に相談することをおすすめします。相談する際は、事前に弁護士事務所のウェブサイトを確認して、残業代請求に関する実績が十分かどうかを確認するとよいでしょう。

残業代の未払いで悩んでいる方は、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

福永 臣吾
福永 臣吾法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2005年3月 慶應義塾大学経済学部 卒業
2011年3月 一橋大学法科大学院 修了
2014年12月 最高裁判所 司法研修所(鹿児島地方裁判所配属) 修了
2015年1月 弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
2015年4月 弁護士法人アディーレ法律事務所鹿児島支店支店長 就任
2023年9月 法律事務所リーガルスマート入所
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