不当解雇
退職勧奨を受けた際の対処法と弁護士に依頼するメリットを解説!
目次
1.退職勧奨(退職勧告)とは
1-1.退職勧奨と解雇の違い
退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職するよう働きかけることをいいます。あくまで双方の合意によって雇用契約の終了を目指す点が大きな特徴です。
退職勧奨においては、従業員が自主的に退職することを条件として、会社から解決金や退職金の上乗せが提示されることが一般的です。
つまり、「当面の生活費等として解決金を支払うので、その代わり退職に合意してもらえないか」と働きかけるのです。これにより従業員は生活費を心配することなく次の仕事を探すことができ、会社は従業員を退職させることができます。
退職勧奨と混同されやすい手続きに解雇があります。退職勧奨と異なり、解雇は従業員の意思とは関係なく、会社が従業員との労働契約を一方的に終了させる点が大きな特徴です。
日本では、労働関連法規によって解雇が厳しく規制されており、会社による不当な解雇がしばしば問題になっています。それに対し、退職勧奨はあくまで双方の合意が前提となっているので、やり方に問題がない限り違法とはなりません。
1-2.退職勧奨の目的
企業が退職勧奨をする目的にはいくつかのパターンがあります。
最も多いのは、問題のある社員を退職させたいというパターンです。
会社経営において、能力不足や周りの従業員への悪影響を理由に従業員を辞めさせたいという話はよくあります。しかし、すでに説明したとおり日本の労働関連法規では解雇が非常に厳しく制限されており、このような従業員を簡単に解雇することはできません。
そこで、合意による退職を目指して退職勧奨がしばしば行われます。このような目的で行われる退職勧奨は「肩たたき」とも呼ばれます。
この場合、退職勧奨で退職の合意ができなければ、容易に解雇はできませんので、会社は従業員を退職させることを諦めるか、解雇の有効性が問題となる可能性があることを承知で強引に解雇をするしか選択肢がありません。正当な解雇事由がないと思われる解雇をされた従業員は不当解雇であるとして会社を訴えることができます。
もう一つのパターンは、従業員が定年に達したときの退職勧奨です。
今の少子高齢化と労働人口の減少を踏まえ、高年齢者雇用安定法で65歳まで雇用を確保するための措置をとることが会社に義務付けられています。2021年4月からは70歳までの就業確保措置をとることが努力義務となりました。しかし、高齢になった従業員を雇用し続けることは会社にとって簡単なことではありません。
そこで、65歳未満で定年に達した従業員に自主的な退職を促すために退職勧奨が行われることがあります。60歳を過ぎた頃には蓄えがあり、退職して余暇を過ごしたいと考える従業員が多いため、通常の退職勧奨と比べれば合意に至るケースが多いと思われます。
しかし、従業員が退職を拒否したときには65歳までの雇用確保措置をとらなければなりません。
退職勧奨は必ずしも解雇事由がないときにだけ行われるわけではありません。
適法に解雇できるだけの理由があるものの、従業員との対立を避け、穏当に解決することを目的として退職勧奨が行われることはあります。この場合、退職勧奨を拒否したときは解雇事由に基づく解雇が行われる可能性が高いでしょう。
例えば、業務の縮小や業績悪化など、経営上の理由によって従業員を雇用し続けることが困難になったときに退職勧奨が行われることもあります。このような状態に陥った会社が従業員との労働契約を一方的に終了させることを「整理解雇」と呼びます。いわゆる「リストラ」です。
整理解雇の要件は通常の解雇と比べれば緩やかですが、人員整理の必要性があることや、企業が解雇を回避するための努力をしたことなどが条件とされており、ハードルが高いことに代わりはありません。
そこで、業績不振に陥った会社が従業員との合意の下で労働契約の解消を目指すのがこのタイプの退職勧奨です。特定の従業員に対する退職勧奨ではなく、従業員全体に対して希望退職の募集という方法をとることもあります。
1-3.退職勧奨のリスク
退職勧奨をするときには、企業が従業員に一定の金銭を支払うことを条件に退職を打診することが一般的です。たとえば、退職金に上乗せしたり、給与の数カ月分を支払う代わりに退職に応じてもらうといった方法です。
一見すると従業員にとってありがたい話のようですが、目先の利益に飛びついて安易に退職勧奨に応じると後になって後悔することがありますので注意が必要です。
まず、退職勧奨に応じてしまうと基本的に撤回はできません。相手の承諾が得られれば撤回できることもありますが、一度合意書に署名・押印をしてしまったら取り消すことは基本的に難しいと考えるべきでしょう。
繰り返しになりますが、日本では厳しい解雇規制により、従業員の地位が手厚く保護されています。従業員の地位を維持していれば、毎月の給与や賞与を受け取ることができるだけでなく、労災などの労働保険や年金などの社会保険の恩恵を受けることができます。このような地位を放棄することには慎重になった方がよいでしょう。
また、仮に応じるとしても退職時期や金額などの条件について交渉ができる可能性があります。退職の条件についても、一度合意してしまうと再度の交渉が難しくなる点は同様ですので注意が必要です。
2.退職勧奨を受けたらどうすればよいか
2-1.退職勧奨の通知書の確認方法
退職勧奨を受けたときにまずすべきことは、条件の確認です。
退職勧奨の通知は口頭で行われることもあれば、条件等が記載された通知書が交付されることもあります。口頭のみのやりとりでは退職の条件が曖昧になってしまったり、後になって「言った、言わない」のトラブルになることもあります。口頭で退職勧奨されたときは内容を書面にするように会社に求め、受け取った通知書は大切に保管しておきましょう。
2-2.退職勧奨に対する考え方の整理
退職勧奨をされると「自分はもう会社には必要とされていないのか」と感じ、落ち込んでしまう方が多いでしょう。しかし、考え方によっては会社との交渉において優位に立っているとみることもできます。
会社が退職勧奨をしてくるということは、解雇するだけの事由がない、あるいは解雇のリスクを回避したいと考えていることを意味します。もし正当な解雇事由がないのに強引に解雇してきたら、不当解雇であると争い、解雇を言い渡された以降の賃金等を請求することができます。このように、従業員側は会社との交渉において優位に立っていることが多いのです。
退職勧奨を受けたら、まずは冷静になって会社から提示された条件を確認し、応じるべきか、応じるとしたらどのような条件で応じるかをよく検討するようにしましょう。
2-3.弁護士に相談する必要性
退職勧奨されたときの相談先として考えられるのが弁護士です。退職を求められたくらいで弁護士に相談するなんて大げさだと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、次のようなケースではなるべく早く弁護士に相談した方がよいでしょう。
まずは、退職勧奨の条件に納得がいかない場合です。会社が退職に応じる条件となる金銭の提示をしてこない場合、あるいは金額が著しく低い場合には、交渉によって増額できる可能性が高いです。弁護士に依頼することにより、会社側との交渉を代理で行ってもらうことができます。
会社から提示された条件が妥当なのかどうか判断できないときも、弁護士に相談することで増額の見込みがどれだけあるかアドバイスをもらうことができます。
不当な退職勧奨をされた場合にも弁護士に相談することをお勧めします。退職勧奨はやり方によって違法とされることがあり、違法な退職勧奨を受けた従業員は会社に対して慰謝料を請求することができる場合があります。
どのような退職勧奨が違法となるかはこの後にご説明します。
正当な解雇事由がないにもかかわらず解雇された場合は必ず弁護士に相談するようにしましょう。また、解雇に正当な解雇事由があるかどうかを判断できない場合にも弁護士に相談することをお勧めします。
3.退職勧奨に対する交渉の進め方
3-1.退職勧奨に対する反論の準備
退職勧奨をされたときは、まず企業側の言い分をよく聞くようにしましょう。退職勧奨をする理由、条件、退職勧奨に応じない場合にどうなるかを会社側に確認することで、退職勧奨に対する反論の準備をすることができます。すでにご説明したように、条件の通知が口頭でしか行われない場合には書面にするよう会社に求めましょう。
会社から条件を聞くときに注意すべき第一のポイントは、決して感情的にならないことです。
会社は「能力が不足している」、「周りとのコミュニケーションが取れていない」などそれらしい理由を伝えて退職を促してきますので、ついカッとなってしまうかもしれません。しかし、交渉で感情的になって良いことはありません。暴力的な行為をしたり、暴言を吐いたりすれば、それを理由に懲戒処分をされて不利な立場に立たされるおそれもあります。まずは冷静に相手の言い分を聞くようにしましょう。
ただし、相手の言い分と自分の認識に相違がある場合にはきちんと否定する必要があります。たとえば、そのような事実がないにもかかわらず「後輩にパワハラをしていると聞いている」と言われたなら、「身に覚えがありません」とはっきり伝えるようにしましょう。黙っていると、パワハラが事実だと思われたり、後になって「パワハラが事実でないならなぜ否定しなかったのか」などと指摘される可能性があります。
「退職勧奨に応じないなら解雇することになる」などと言ってくることもありますが、解雇は簡単にできるものではありません。もし解雇をする正当な理由がないにもかかわらず解雇してきたなら、不当解雇だとして争うことが可能です。
3-2.交渉のポイント
会社との交渉においては、自分が譲れないポイントを明確にするようにしましょう。たとえば解決金は少なくてもいいから1か月後ではなく半年後の退職としてほしい、退職するなら給与の半年分を解決金として受け取りたいなど、ポイントをはっきりさせることで、交渉をスムーズに進めることができます。ただし、相場とあまりにかけ離れた条件を提示しても相手が応じてくれる可能性は低いので注意しましょう。
交渉は当事者同士で行うとどうしても感情的になりがちです。そこで、条件の交渉は弁護士に任せることをお勧めします。弁護士は法律と交渉のプロですので、合意退職の条件の相場、依頼者の意向、解雇事由の有無などを踏まえてベストの条件で合意できるよう話し合いを進めてくれます。
3-3.解決策の探し方
退職勧奨を受けたときの選択肢は、「退職勧奨を受け入れ、退職する」、「退職勧奨を拒み、従業員の地位を維持する」の2つしかありません。退職勧奨を受け入れる場合は、相手から提示された条件を受け入れるのか、それともよりよい条件で合意するために交渉するのか判断する必要があります。退職勧奨を拒んだ場合は、解雇事由があるのか、解雇されたらどのように争うのか検討する必要があります。
いずれにしても、適切な解決策を自分だけの力で見つけることは簡単ではありません。労働問題に強い弁護士に相談し、最も適切な解決策を一緒に考えてもらうとよいでしょう。
4.退職勧奨を受けた後の対応
4-1.退職勧奨に応じた場合の手続き
退職勧奨に応じた場合、会社と合意した退職日までは業務を行い、退職日をもって従業員としての立場を喪失します。後で争いになることを防ぐため、退職日、退職条件として支払われる金銭、その支払日などの合意内容は必ず書面で交わすようにしましょう。
従業員の立場で一番気になるのは、退職後の生活のための失業手当の取り扱いではないでしょうか。
雇用保険の被保険者が失業した場合、失業期間中に雇用保険から給付を受けることができます。これが失業手当です。失業手当は、自己都合で退職した場合と、解雇や倒産のように会社都合で退職した場合で支給の条件が大きく変わります。
自己都合退職の場合は2か月(又は3か月)と7日の待期期間を経過してからでないと支給を受けることができませんが、会社都合退職の場合は7日の待期期間さえ経過すれば支給を受けることができます。また、支給を受けることができる期間にも違いがあり、会社都合退職の場合は自己都合退職と比べて長期間にわたって支給を受けることができます。
退職勧奨の場合は原則として会社都合退職となりますので、解雇に準じた扱いで失業保険の支給を受けることができます。ただし、退職勧奨でも会社が自己都合退職の扱いにすることがときどきあります。そうなると失業保険の受給の際に大きな不利益が生じますので、会社都合退職であることを必ず確認するようにしましょう。
4-2.退職勧奨に応じなかった場合の対応
退職するつもりがない場合には、会社に退職勧奨に応じる意思がないことをはっきりと伝えましょう。退職の意思を明確にしているのに執拗に退職を求める場合は違法な退職勧奨となる可能性があります。
退職勧奨に応じなければ従業員としての地位は維持されますので、これまでどおりに業務を行っていれば問題ありませんが、相手が一方的に解雇を通告してくる可能性も考えられます。このときは弁護士に相談して解雇事由の有無を確認し、解雇が不当だと考えられる場合には会社に対して訴えを起こすことを検討しましょう。
解雇が無効となった場合は、解雇日から解雇が無効であると判断された日までの未払い賃金を請求することができます。たとえば5月末時点で解雇され、その月の11月末に解雇が無効とされた場合、6か月の間、会社による違法な解雇により勤務ができていなかったことになります。そこで従業員はその期間の分の賃金を請求することができます。これを「バックペイ」といいます。バックペイは高額になることが多いので、解雇が無効となる可能性があるときは必ず弁護士に相談しましょう。
4-3.退職勧奨が不当である場合の対応
退職勧奨はやり方によっては違法とされることがあります。
たとえば、退職の意思がないことを明らかにしたにもかかわらず何回も退職勧奨が行われた場合です。従業員が退職の意思を明確にした後は会社が退職勧奨をする必要性はなくなるはずですが、それにもかかわらず執拗に退職勧奨が行われた場合は違法となることがあります。
それ以外にも、机を叩く、怒鳴るなどのパワハラまがいの威圧的な手段で退職を求められた場合、1回あたりの話し合いの時間が不当に長い場合、退職に追い込む目的で配置転換や仕事の取り上げが行われた場合にも違法となる可能性があります。
このような退職勧奨が行われた場合は会社に対して慰謝料を請求することができる可能性があります。やりとりを録音したり言われたことをメモするなど違法な退職勧奨が行われた証拠を残し、弁護士に相談して適切な措置をとりましょう。
5.まとめ
5-1.退職勧奨に対する対応のポイント
退職勧奨を受けたときの対応をまとめると次のようになります。
まずは会社側から提示された退職時期や金銭の支払いなどの条件をよく確認しましょう。退職勧奨は一度応じてしまうと撤回ができないので、提示された条件が妥当かよく吟味し、退職勧奨に応じるべきか慎重に検討するようにしましょう。
会社側から提示された条件が妥当でない場合には交渉により増額できる場合があります。
また、会社からパワハラまがいの行為で強引に退職を求められた場合には慰謝料を請求できる可能性があります。違法な退職勧奨が行われた証拠を確保し、弁護士に相談しましょう。
解雇規制の厳しい日本においては、労働者である従業員が手厚く保護されていますので、専門家のアドバイスの下で有利に交渉を進めましょう。
5-2.弁護士に相談することの重要性
退職勧奨や解雇に関する問題に適切に対処するためには、労働法やそれに関する裁判例、そして裁判実務に関する知識・経験が専門的に必要となります。そのような知識や経験を持っているのが、法律のプロである弁護士です。
交渉のプロである弁護士が第三者として会社と交渉をすることにより、退職勧奨を受けた従業員にとって最善の結果で問題を解決することができます。会社とのやりとりを全て弁護士に任せることができるので、精神的なストレスから開放されることができるのも大きなメリットです。
また、弁護士に依頼することで、相手との交渉で合意に至らなかったときも労働審判や訴訟などの裁判手続により争ってもらうことができます。
労働問題においては、会社という大きな組織に対して従業員個人が立ち向かわなければなりません。会社には様々な知識やノウハウがあり、さらに人事労務の専門家のアドバイスを受けながら従業員対応を行っています。他方で、従業員は知識も経験も乏しいのが通常です。残念なことに、不利な条件で退職勧奨を受け入れてしまったり、不当解雇をされたにもかかわらず誰にも相談できず泣き寝入りしている方も多いのが事実です。従業員が会社に立ち向かうためには、専門家に依頼して交渉や手続きを依頼することが必要です。
会社から退職勧奨を受けてお困りのときは自分一人で解決しようとせず、できるだけ早く弁護士に相談して適切な解決を目指しましょう。
担当者
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■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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