不当解雇

試用期間中に能力不足を理由に解雇された!対処法を弁護士が解説

試用期間中に能力不足を理由に解雇された!対処法を弁護士が解説
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1.はじめに

仕事の採用が決まったものの、一定期間は「試用期間」が設けられているようなことも少なくないでしょう。そしてこのような試用期間中に「能力不足」を理由に、本採用されることなく解雇されたというご相談を受けることがあります。試用期間中だからという理由で会社側は自由に解雇することはできるのでしょうか?

また、能力不足を理由に解雇すること自体に疑問を感じる方もいるでしょう。

本記事では、試用期間中の解雇や、能力不足を理由とした解雇について労働問題に強い弁護士が解説します。解雇された場合の対処法についても紹介しているので、併せて参考にしてください。

2.試用期間中の解雇とは

企業によっては本採用を行う前に、数か月間の「試用期間」を設けていることがあります。

試用期間とはどのような役割を持つものであり、試用期間中の解雇に問題はないのでしょうか?

2-1.試用期間の役割と期間

試用期間とは、労働者と使用者の双方が、本当にその人が働く場所としてその会社があっているのかを確認するための期間です。

雇用の際には履歴書や面接、試験等を行うことで使用者は雇用の検討を行いますが、こうした採用選考だけでは労働者が本当に自社に向いているのかわからない部分も多いというのが実情です。

そのため、多くの会社では、試用期間を設けることで使用者側は労働者の能力や勤務態度等を観察し、確認を行います。

また、労働者側も求人情報や面接にて会社の雰囲気や業務内容の確認を行いますが、実際に働いてみると異なる部分も出てくる可能性があります。

こうした両者のミスマッチを無くすために試用期間が設けられています。試用期間の有無や期間は会社ごとに異なり、法的な定めはありません。試用期間がある場合、3~6カ月が一般的な期間です。

なお、あまりに長い試用期間を設けた場合、公序良俗に反するとして無効(民法90条)になる可能性があります。

試用期間中は、本採用とは異なり、本採用よりも低い条件が設定されていることがあります。このような試用期間は、試用期間を有期雇用契約として取り扱い、試用期間経過後には雇用契約を締結しなおすという方法がとられているものと思われます。

試用期間における労働条件のルールは会社ごとに異なるため、事前に確認しておくようにしましょう。

2-2.試用期間中の解雇について

試用期間は「お試し期間」であるという認識が強いためか、試用期間中は、事由に解雇をすることができると考えている方もいるかもしれません。

しかし、試用期間も本採用と同様に労働者と使用者の間では雇用契約が結ばれていますので、労働基準法や労働契約法等の労働関係法規が適用されますから、使用者が自由に解雇することはできません。

この点労働契約法第16条は、解雇をするためには、客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由が必要になると定めています。

そのため、試用期間中でも、客観的に合理的な理由や社会通念上相当な理由がない解雇は許されません。

例えば、「会社の風土と合わない」「思っていたような人ではなかった」といったような漠然とした理由でなされた試用期間中の解雇は、無効である可能性が非常に高いと言えるでしょう。

ただし、試用期間中の解雇の正当な理由は、本採用後に比べるとその要件該当性はやや緩やかに解されているということも事実です。これは、試用期間が、解約権留保付きの雇用契約期間であると解されているためです。

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3.能力不足を理由とした解雇の可能性

試用期間中に一生懸命働いていたにも関わらず、「能力不足」を理由に解雇を言い渡されたという場合、当該解雇は有効なのでしょうか。

3-1.能力不足とは何か

能力不足とは、業務を遂行できる能力に達していない状態を指します。

会社と雇用契約を結ぶ際に、会社側は労働者に一定の能力を期待しています。

もちろん入社すぐに能力を発揮できないことは会社側も理解しており、時間の経過に伴い業務を遂行できると見込んで労働者を雇用します。

しかし、労働者の能力が会社の求める能力に達することができない場合、能力不足だと判断されてしまうかもしれません。

具体的な例としては、何度注意を受けても事務的なミスを繰り返す、業務で必要なスキルを獲得することができない、取引先や顧客からクレームが相次いでいる等の状態は、会社にとって、当該労働者の能力が不足していると判断される可能性があるでしょう。

3-2.能力不足を理由とした解雇の可能性と注意点

試用期間中の能力不足を理由とした解雇を行う場合でも、前項で述べたように、有効に解雇をするためには客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由が必要です。

これらの理由があるかどうかは、能力不足の程度や会社に与える支障の有無・程度などを総合的に考慮して判断する必要があります。

以下では、能力不足を理由とした解雇が起こる可能性と注意点についてご紹介します。

(1)著しい成績不良

労働者に著しい成績不良がある場合、能力不足を理由として解雇されるケースがあります。

この点、まずは、当該労働者が会社から期待されている「成績」が何であるかを明確にする必要があります。

その期待度は、例えば給与の額や役職によって推察することができます。

例えば、高額な給与をし貼らくことを約束し、重役として迎え入れた従業員が、会社が期待していると伝えていた明確な成績に遠く及ばない結果しか出せなかったという場合には、試用期間満了に伴う解雇が認められる可能性もあるでしょう。

すなわち、このような場合では、従業員が期待されていた役割や、成績不良によって会社に与える損失や影響等が判断材料になっています。

しかし、一般的には、成績不良であったとしても、段階的に対応すべきであり、突然解雇することは、社会的相当性を欠くと判断されることも多いのではないかと思います。

(2)客観的で合理的な評価

労働者を「能力不足」で解雇するには、客観的で合理的な評価がなされていることが前提となっていなければなりません。

すなわち、期待されていた役割や成績に対し、会社がどのような「事実」を認定し、その事実をどのように「評価」したのかという点については、検証されなければなりません。

会社が前提とする事実に誤りがあったり、前提事実に基づく評価が不適切である場合には、そもそも「能力不足」という解雇事由に該当しないということになるでしょう。

(3)教育や指導による改善の余地の有無

仮に労働者に能力不足がある場合でも、会社には教育や指導によって改善を促す義務があります。

すなわち、新しく入った会社の業務を最初から完璧にできる労働者など存在しません。

そのため、会社は、従業員に対し、指導・教育する義務を負っています。

解雇は、雇用契約を終了させるものですから、会社の従業員に対する処分としては、最終手段です。

そのため、労働者側は会社からの教育などを聞き入れて、改善しようと努力をしたのかどうかという点は、重要であり、とくに教育が不十分であり、指導や注意もなされていないという場合には、社会的相当性を欠くものと判断される可能性が高いでしょう。

(4)会社への損失

能力不足で解雇の有効性については、会社に与えた損失もしくは将来的に損失を与える可能性についても考慮されることがあります。

たとえば、労働者の著しい能力不足によって仕事の納期に間に合わず、会社に重大な損失を与えたのであれば解雇される可能性があるでしょう。

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4.解雇に関する労働基準法の規定

既述のとおり、試用期間中であっても本採用時と同様に解雇に関する労働関係法規が適用されます。

解雇に関する法律は労働基準法に規定されており、労働者を保護するための大切なルールとなっています。

以下では、労働基準法における解雇の規定や、解雇に関する労働基準監督署の役割についてご紹介します。

4-1.労働基準法における解雇の規定

以下の要件を満たしていない場合、不当解雇として解雇が無効になる可能性があります。

(1)解雇事由

労働基準法第89条は、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」と定めています(労働基準法89条)。

そして、同条第3号には「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」と定められていますので、常時10人以上の労働者がいる会社は、解雇事由の記載を含む就業規則を作成しなければなりません。

そこで、就業規則に記載された解雇事由以外の理由で、従業員を解雇することが有効にできるのかが問題となります。

この点、就業規則に解雇事由が記載されている場合には、当該解雇事由は、限定列挙であると解されていますので、それ以外の事由による解雇は許されないと考えられています。

そのため、解雇を言い渡されたときには、まずは就業規則を確認してみましょう。

(2)解雇禁止事項

労働基準法第19条等の法律により、明確に解雇が禁止されている期間があります。

法律で解雇が禁止されている期間は、以下のとおりです。

  • 労働者が業務上のケガや病気によって療養する期間および復帰後30日間
  • 労働者が産前産後休業を行う期間およびその後30日間

会社は、この期間、従業員を解雇することは許されません。

ただし、天災地変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能なことにつき行政官庁の認定う意を受けた場合には上記の期間であっても解雇が認められます(労働基準法第19条)。

(3)法律の規定に反した解雇

上記のように解雇が禁止されている期間に加え、労働関係法規によって、以下の事由では解雇が許されないと明記されています。

  • 労働者が会社の法律違反を監督機関へ申告したことを理由にした解雇(労働基準法第104条2項)
  • 労働者が年次有給休暇を取得したことを理由とした解雇(労働基準法第136条)

4-2.解雇に関する労働基準監督署の役割

解雇に関する相談窓口としては、労働基準監督署があります。

労働基準監督署は、企業が労働基準法を守っているかどうかを監督する厚生労働省の出先機関です。

そして、労働基準監督署には総合労働相談コーナーが設置されており、労働問題に関する相談ができます。ただし、労働基準監督署は労働基準法違反があった場合に企業に対して指導や勧告を行う機関です。

そのため、労働基準法以外に違反するトラブル以外の民事的なトラブルに介入することはできません。解雇に関しては、上記で紹介した労働関係法規に違反する解雇があった場合には相談することが可能ですが、労働基準法以外の不当解雇の場合は対処してもらえません。

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5.解雇された場合の対処法

試用期間中の有無に関係なく、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇」は、無効です。

会社から一方的に解雇されてしまった場合に対応すべき内容は、状況に応じて異なります。

解雇された場合の手続きや、解雇によって生じる問題への対処法について知っておきましょう。

5-1.解雇された場合の手続きと注意点

会社から解雇を言い渡された場合、次の手続きを順に行ってください。

(1)解雇通知書・解雇理由証明書を請求する

使用者が労働者に解雇を伝える際、実は、書面で通知しなければならないという法律上の決まりはありません。

そのため、口頭で解雇が言い渡されることがあります。

口頭で解雇の通知が行われた場合には、必ず解雇通知書解雇理由証明書の発行を請求しましょう。

解雇通知書は労働者を解雇したという証明書です。

解雇通知書には解雇の日付等が記載されているため、労働基準法に沿って解雇予告が行われているのか判断するための材料になるといえます。

解雇予告から30日に満たない場合、解雇予告手当を請求するための証拠として解雇通知書が有効になります。

ただし、解雇通知書を作成する義務については法律で規定されていないため、会社側が拒否するケースもあるでしょう。

解雇理由証明書は、解雇理由や解雇の種類が明記された書面です。

労働者から解雇理由証明書の発行を請求された場合、使用者は交付を拒否することができません(労働基準法第22条1項)。

解雇理由証明書は不当解雇をめぐって争う際には重要な証拠になるため、解雇を告知された場合には必ず請求すべき書面だといえるでしょう。

(2)就業規則を確認する

常時10人以上の従業員を雇用している場合、会社は就業規則を作成して労働基準監督署へ届け出ることが義務付けられてます(労働基準法第89条)。

解雇事由に関しては就業規則に明記されているため、就業規則を確認しましょう。

就業規則の定めに解雇事由が該当しない場合、不当解雇になる可能性があります。

なお、就業規則は労働者が周知できるようにしなければならないことも法律で決められているため、職場の休憩室や社内ネットワークなどで自由に閲覧できるようになっているでしょう。

(3)退職を受け入れるような言動や行動を取らない

会社から解雇を告知されたものの解雇理由に納得できない場合は、退職を受け入れるような言動や行動は避けるべきです。

会社から退職届を提出するように迫られたとしても応じるべきではありません。

退職届を提出すると解雇を争おうとなった際に、会社から「自主退職であり解雇ではない」などと主張される可能性があります。また、退職を受け入れるような発言をすることで、のちに労働審判や訴訟で争うことになった場合に、不利になる恐れもあります。

(4)弁護士に相談する

解雇のトラブルは複雑であり、専門知識が必要です。

労働基準監督署に相談することも考えられますが、上述のとおり、明確な法律違反がある場合を除き、解雇に問題があるのかどうかを相談することはできません。

解雇に問題があるのか確認したい場合や、解雇の撤回を求めたい場合には、弁護士に相談しましょう。

相談することで解雇の適正性を知ることができますし、不当解雇だった場合には今後の対処法についてアドバイスを得ることができるでしょう。

5-2.解雇によって生じる問題とその対処法

解雇されたことで、解雇後にさまざまな問題が起こる可能性があります。

解雇によって生じる問題や、その対処法についてご紹介します。

(1)失業手当の受給が不利になる

雇用保険に加入している場合、退職後に公的な給付金として失業手当を受給することができる場合があります。失業手当は、離職後に新しい就職先を探す期間の労働者の生活の安定を保護するための給付金です。

試用期間中の解雇であったとしても、雇用保険に加入していた場合は失業手当を受給できる可能性があります。

しかし、離職票に「自己都合退職」と記載されていれば、「会社都合退職」に比べて給付制限期間や受給額が不利になってしまいます。

会社に能力不足で退職を迫られ、退職届を提出してしまっているようなケースであれば、自己都合退職の扱いになってしまっている可能性があります。

もし離職票を受け取った際に自己都合退職になっていて異議がある場合、ハローワークに申立てなければなりません。

ただし、原則として雇用保険の加入期間が半年を過ぎていなければ失業保険は支給されないため、試用期間が5カ月以内の場合は失業手当が支給されない可能性があります。

(2)再就職活動に影響する可能性がある

試用期間中に能力不足で解雇された場合や懲戒解雇など、会社から解雇を言い渡された場合は会社都合退職として扱われます。

会社都合退職の場合、再就職活動において「本人に何らかの問題があるのではないか」と思われてしまう可能性があります。

もちろん倒産や経営不振といった理由であれば仕方がないと理解を得られると思いますが、解雇が理由の場合は解雇事由について面接で追及されることがあるでしょう。

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6.弁護士に相談する場合の注意点

解雇に関するトラブルや疑問がある場合、法律の専門家である弁護士に相談することができます。

弁護士に相談するメリット・デメリットや、相談する際の注意点についてご紹介します。

6-1.弁護士に相談するメリットとデメリット

弁護士に相談するメリット・デメリットは、以下のとおりです。

(1)メリット

弁護士は法律の専門家なので、法的な観点から解雇に関するトラブルの問題点を探ることができます。

「解雇事由は適正なのか?」「解雇手続きは正しく行われているのか?」など、解雇問題において、疑問に感じることについて幅広いご相談が可能です。

そして、解雇問題に対処するための方法やアドバイスを得ることができるでしょう。

また、弁護士に依頼をすれば代理人として窓口になってもらうことができ、会社との交渉や訴訟の手続き等を任せられます。

問題解決まで徹底したサポートをしてもらえるため、精神的な負担も軽減されることが期待できます。

(2)デメリット

弁護士に相談するデメリットとして挙げられることは、費用です。

初回は無料相談の弁護士事務所も多いですが、何度も相談をする場合は相談料が発生する可能性があります。

また、依頼をすれば着手金等の費用が発生します。

6-2.相談する際に必要な情報と書類

弁護士へ相談する前には、あらかじめ必要な情報や書類を準備しておきましょう。

相談できる時間は限られているため、事前準備しておくことでスピーディーに弁護士に状況を把握してもらえます。

相談する際に必要な情報と書類には、次のようなものが挙げられます。

  • 雇用契約書
  • 労働条件通知書
  • 解雇通知書
  • 解雇理由証明書
  • 人事評価書
  • 仕事に関するメール

上記のような書類を準備し、解雇に至るまでの時系列をまとめたメモ等も作成しておくと説明しやすくなります。

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7.まとめ

試用期間中であっても簡単に解雇することはできません。

また、能力不足という理由であったとしても、さまざまな要件を満たしていなければ解雇は認められません。

試用期間中の解雇に納得できないという場合は、弁護士に相談してみてください。

解雇の適正性を法的な観点から探り、解雇問題を解決するためのサポートを得られるでしょう。

私たち法律事務所リーガルスマートは、試用期間中のトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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