不当解雇
従業員向け!普通解雇とは? デメリットや対処法を弁護士が解説
目次
1.普通解雇とは
普通解雇とは、従業員が病気などで働けなくなった場合や、能力不足などで十分な労務提供ができない場合に、会社が一方的に雇用契約(労働契約)を解除することです。
一般的に、債務者が契約上の義務を十分に履行できない場合、債権者は債務不履行を理由として契約を解除することができます。
しかし、多くの従業員は、従業員は雇用契約に基づき労務を提供して、その対価である給料を得ることで生計を立てているため、ささいなことで簡単に雇用契約を解除することが認められるとしたら、安心して生活できないでしょう。
そのため、労働契約については、債務不履行を理由とした契約解除(すなわち普通解雇)に対して、法律上厳しい要件が定められているのです。
2.普通解雇が有効になる3つの要件
普通解雇が有効になるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上の相当性が認められなければなりません(労働契約法16条)。
そして、上記の客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められるためには、以下の3つの要件を満たすことが必要です。
- 合理的な解雇事由であること
- 法律上解雇が制限されるケースではないこと
- 必要な手続きを行うこと
上記3つの要件の内容を、以下で具体的に確認していきましょう。
2-1.合理的な解雇事由があること
普通解雇の有効性が認められるには、合理的な解雇事由がなければなりません。
解雇事由の種類としては、能力不足・成績不良、病気や怪我による就労不能などがあり、詳しくは後述します。
解雇事由に合理性が認められるには、労働契約を解除しなければならない程の重大な事情であることが必要です。
従業員は、解雇によって生活の糧となる給料を失うという大きな不利益を受けるからです。
そのため、たとえば成績不良を理由に普通解雇する場合、単に従業員の中で一番営業成績が悪いという程度では、合理的な解雇事由には該当しません。
また、就業規則や雇用契約書に普通解雇事由の記載がある場合は、原則として定められた事由以外の理由で解雇することは出来ません。
2-2.法律上解雇が制限されるケースではないこと
次に、法律上解雇が制限されるケースではないことが必要です。
法律上解雇が制限されるケースとしては、たとえば以下のケースがあります(労働基準法19条1項)。
業務上の傷病を理由とした休業期間中、及びその後30日間
※ただし、治療開始後から3年間経過しても治療が終わらない場合、打切補償(1200日分の平均賃金の支払い)を行うことで、解雇できる場合があります。
産休中(出産前の6週間と出産後の8週間)と産休後30日間
また、以下を理由とした解雇も法律上禁止されています。
- 有給休暇の取得(労働基準法附則136条)
- 労働組合の結成や労働組合への加入など(労働組合法7条1号)
- 女性の婚姻、妊娠・出産、産休の請求や取得(雇用機会均等法9条2項、3項)
- 育児休業、介護休業の申請や取得(育児介護休業法10条、16条)
- 国籍・信条・社会的身分、性別(労働基準法3条、雇用機会均等法6条4号)
- 労働基準法違反などについての労働基準監督署への申告(労働基準法104条2項)
- 公益通報の実施(公益通報者保護法3条)
- 裁判員休暇の取得(裁判員法100条)
以上の法律上の解雇制限に該当するときには、普通解雇は認められません。
2-3.必要な手続きを行うこと
最後に、普通解雇を行うために必要な手続きを行うことが求められます。
必要となる主な手続きについて重要なことは、解雇予告の実施(または解雇予告手当の支払い)、就業規則で定められた手続きの実施、従業員への解雇通知の3つです。
解雇予告の実施(または解雇予告手当の支払い)
普通解雇を有効に行うための手続きとして、原則として30日前の解雇予告を行わなければなりません(労働基準法20条1項)。
解雇は従業員にとって不利益が大きく、少しでも不利益を緩和するために、事前に予告をしなければならないということです。
ただし、解雇予告の代わりに、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支給することも可能です。
また、10日前に解雇予告を行い、20日分の平均賃金(解雇予告手当)を支払うといった、解雇予告と解雇予告手当を組み合わせた対応も認められています(労働基準法20条2項)。
また、解雇の予告がない場合、その解雇手続の違法性は強まる場合があると思いますが、直ちに解雇が違法・無効であるとまではいえない場合もあるでしょうから、注意が必要です。
就業規則で定められた手続きの実施
次に、就業規則で普通解雇の手続きが定められている場合は、その手続きを行わなければなりません。
具体的には、従業員への弁明の機会の付与(言い分の聴取や事情書の提出など)や、労働組合(または従業員の代表者)との協議が定められていることが多いです。
なお、これらの手続きについて就業規則に記載がない場合でも、従業員側の言い分を聞かずに行った場合は不当解雇として無効になる可能性があります。
従業員への解雇通知
最後に、従業員に対して解雇を通知すること(解雇の意思表示)が必要です。
従業員への通知は口頭で行うことも可能ですが、一般的には書面を郵送や手渡しにより交付する方法で行われることが多いでしょう。
3.普通解雇の4つの具体的な事例
普通解雇事由には様々な事例があります。
ここでは代表的な4つの事例を紹介します。
3-1.能力不足・成績不良
従業員に著しい能力不足や成績不良がある場合、普通解雇事由に該当する可能性があります。
もっとも、普通解雇に値するだけの能力不足や成績不良があるというためには、前提として会社は当該従業員に対して、業務上の指導を十分に行わなければなりません。
また、労働契約上現実的に配転可能な他の部署があれば、異動を実施し、他に能力を発揮できる業務がないかを検討する必要がある場合もあるでしょう。
3-2.協調性不足
協調性不足は、代表的な普通解雇事由となりうるものの一つです。
ただし、能力不足などのケースと同じく、普通解雇に値するだけの協調性不足があるというためには、前提として会社は当該従業員に対して、業務上の指導を十分に行わなければなりません。
3-3.病気や怪我による就労不能
病気や怪我で働けなくなった場合も、普通解雇される可能性があります。
働けないことで、労働契約において求められる会社に対する労務の提供ができないからです。
ただし、業務上の災害による病気や怪我で休業する場合は、上述のとおり、その休業期間中、及びその後30日間は、解雇が禁止されています。
また、病気や怪我を理由とした休職規定がある会社では、働けない場合でも休職期間中は解雇が猶予されます。
休職期間が満了しても復職することができない場合に、休職期間の満了をもって自然退職となる会社が多いでしょう。
3-4.勤怠不良
無断欠勤などの勤怠不良も、普通解雇事由になりえます。
たとえば、2週間以上にわたって無断欠勤を続けた場合や、注意しても何度も無断欠勤や遅刻早退を繰り返す場合は、普通解雇事由に該当する可能性が高いでしょう。
他方で、1ヶ月のうちに遅刻や欠勤が数回あった程度では、普通解雇が認められる可能性は低いといえるでしょう。
4.普通解雇とその他の解雇の違い
解雇には、普通解雇の他にも、懲戒解雇や諭旨解雇、整理解雇の3種類があります。
普通解雇とその他の3つの解雇との主な違いを確認しておきましょう。
4-1.懲戒解雇・諭旨解雇との違い
懲戒解雇とは、従業員が横領などの職場秩序に対する重大な違反行為を行った場合に、制裁(懲戒処分)として行われる解雇のことです。
また、諭旨解雇とは、懲戒解雇事由ほどではないものの、職場秩序を著しく乱した場合に、制裁(懲戒処分)として行われる解雇のことです。
諭旨解雇は、従業員に対して退職届を提出するように勧告して行いますが、従業員が勧告に従わない場合は、懲戒解雇することになります。
懲戒解雇、諭旨解雇ともに、従業員の秩序違反に対する制裁(懲戒処分)として行われる点に、普通解雇との違いがあります。
制裁として行われるため、普通解雇とは異なり、事情によっては以下の3つの不利益を受ける可能性があるでしょう。
- 30日前の解雇予告(または解雇予告手当の支給)を受けられない
- 退職金が減額または不支給とされる
- 失業保険について、2ヶ月の給付制限を受け、また給付日数が少なくなる(自己都合退職として扱われる)
- 再就職へ悪影響を及ぼす
4-2.整理解雇との違い
整理解雇とは、会社の業績不振や財務状況の悪化を理由に行われる解雇(いわゆるリストラ)であり、普通解雇の一種とされています。
一般的な普通解雇が従業員側の事情(能力不足など)を理由とするのに対して、整理解雇は会社の事情(業績不振など)を理由とする点に違いがあります。
整理解雇は会社側の事情による解雇であるため、一般的な普通解雇に比べて厳しい要件を満たすことが必要です。
そのため、整理解雇の有効性をめぐる従業員とのトラブルを防止する意味合いで、通常の金額に上乗せして退職金を支払う会社もあります。
5.【従業員向け】普通解雇のメリット・デメリット
従業員にとっての普通解雇のメリットとデメリットをそれぞれ詳しく解説します。
5-1.普通解雇のメリット
従業員にとっての普通解雇のメリットは、懲戒解雇や諭旨解雇に比べて、不利益が小さいことです。
具体的には、解雇予告(解雇予告手当の支払い)が受けられる、退職金が満額もらえる、失業保険が会社都合退職扱いになる、という3点です。
解雇予告(解雇予告手当の支払い)が受けられる
普通解雇であれば、解雇予告(解雇予告手当の支払い)が受けられます。
そのため、解雇された後の準備(失業保険の受給準備や転職活動など)が余裕をもって行えるでしょう。
退職金が満額もらえる
普通解雇の場合、懲戒解雇や諭旨解雇のケースと異なり、退職金が減額される可能性は低いでしょう。
厳密には、各会社の就業規則や退職金規程の内容によりますが、一般的には満額支給されるケースが多いでしょう。
失業保険が会社都合退職扱いになる
普通解雇されたら、失業保険において会社都合退職扱いとなり、2ヶ月の給付制限期間を待つことなく失業保険が受給できます。
また、被保険者期間などの他の条件が同じであれば、自己都合退職の場合に比べて給付日数も多いです。
5-2.普通解雇のデメリット
普通解雇のデメリットは、失業する(職を失う)ことです。
失業すると、生活の糧である給料を得られなくなってしまいます。
そのため、速やかに失業保険の受給手続きや、転職活動を行い、早期に収入を確保する必要があるでしょう。
6.不当解雇なのでは?と悩んだ際の対処法
不当解雇に対する主な対処法を2つ紹介します。
6-1.総合労働相談コーナーへ相談する
会社から解雇された場合、各地の労働基準監督署や労働局に設置されている総合労働相談コーナーへ相談することができます。
総合労働相談コーナーとは、解雇やパワハラなど様々な労働問題を対象とした行政による相談窓口のことです。
不当解雇の相談も対象としており、専門の相談員から無料でアドバイスが受けられます。
また、必要に応じて、労働問題の専門家で構成された紛争調整委員会によるあっせん手続きなどの紛争解決制度を案内してもらえます。
しかし、総合労働相談コーナーはあくまでも行政機関の窓口なので、従業員の立場に立って、会社と代わりに交渉してくれるわけではありません。
6-2.弁護士へ相談する
不当解雇に直面し、どう対応するべきか判断がつかないという方は弁護士に相談しましょう。
弁護士であれば、費用はかかりますが、従業員の立場に寄り添って相談に乗ってくれますし、代理人として会社と交渉もしてくれます。
また、会社が交渉に応じない場合には、民事訴訟などによって強制的に不当解雇の問題を解決することも可能です。
このように、弁護士は不当解雇に関する相談先として、非常に頼れる存在といえるでしょう。
不当解雇を弁護士に相談、依頼するメリットについては、次で詳しく解説します。
7.不当解雇を弁護士に相談、依頼するメリット
不当解雇の問題を弁護士に相談、依頼する主なメリットを3点解説します。
7-1.トラブル解決についての見通しがわかる
不当解雇について弁護士に相談する大きなメリットの一つは、トラブル解決の見通しを知ることができる点です。
不当な解雇は本来無効ですが、法律の専門家でなければ解雇が有効か無効かの正確な判断をすることは難しいでしょう。
解雇の有効性を争うとなれば、多くの手間と費用がかかるため、勝てる見通しがつかなければ会社と争う決心がつかないかもしれません。
弁護士に相談すれば、法律の専門家としての見地から、裁判などで争った場合に解雇が無効と判断されるかどうかの見通しを教えてもらえるでしょう。
解雇の有効性についての法的な見立てがわかれば、解雇を争うべきかどうかの判断をすることができます。
7-2.会社との交渉や法的手続きを一任できる
弁護士に不当解雇の問題を相談し、対応を依頼すれば、会社との交渉や解決のために必要となる法的手続きを一任することができます。
会社に対して不当解雇の有効性を争う場合、解雇が無効であることの法的な主張の組み立てや、自らの主張を裏付けるための証拠の収集が必要です。
法的知識が乏しい場合、これらの準備を一人で行おうとすれば、多くの労力と時間がかかるでしょう。
また、法的知識の不足から十分な主張ができず、また必要な証拠を集められないかもしれません。
弁護士に対応を依頼すれば、会社との交渉や法的手続き、及びこれらのために必要となる準備を代わりに行ってくれます。
また、弁護士は法律と紛争解決のプロであるため、会社に対して、十分な証拠を収集した上で、効果的な主張を展開することができるのです。
7-3.トラブル解決に至るまで対応してくれる
弁護士に対応を依頼していれば、たとえトラブル解決に法的手続きが必要になったとしても、最後まで対応してくれます。
会社が解雇の無効を認めない場合、客観的には不当解雇というケースであっても、交渉によってトラブルを解決することはできません。
このようなケースにおいて会社に解雇の無効を認めさせるには、訴訟や労働審判といった法的手続きを行う必要があります。
訴訟などの法的手続きを円滑に行うには、専門知識と実務経験が求められるため、一人で対応することは難しいでしょう。
弁護士へ対応を依頼すれば、交渉では解決に至らなくても、訴訟などの法的手続きによりトラブルを解決するまで対応してくれるのです。
8.普通解雇に関するよくあるQ&A
8-1.普通解雇されたら退職金は減額される?
A.退職金の支給額に関する計算方法等が就業規則などで定められている場合は、減額される可能性は低いでしょう。
就業規則や退職金規程において、退職金の内容が定められている場合は、従業員に退職金の支給を受ける権利が発生します。
そのため、就業規則や退職金規程の支給条件を満たす限り、普通解雇を理由として退職金を減額することは法的に難しく、減額されにくいでしょう。
8-2.普通解雇されても失業保険は受給できる?
A.普通解雇された場合であっても、受給要件を満たせば失業保険を受給することができます。
失業保険の受給要件とは、失業していることと、離職前の1年以内に被保険者期間が通算して6ヶ月以上あることです。
失業は、離職し、労働の意思や能力があるのに就職できない場合に認められます。
そのため、普通解雇により離職し、再就職のためにハローワークに求職の申込みをしているなどの場合は、失業の要件を満たすでしょう。
また、普通解雇は一般的に会社都合退職となるため、受給要件としての被保険者期間は、離職前の1年間で通算して6ヶ月以上あれば足ります。
よって、これらの受給要件を満たせば、普通解雇された場合でも、失業保険を受給することができます。
8-3.普通解雇されたら最初に何をすればよい?
A.会社から解雇理由証明書をもらうなどして、まずは解雇理由を把握しましょう。
普通解雇された場合、従業員には主に、再就職先を探す、あるいは解雇の有効性を争うという2つの選択肢があります。
いずれを選択するにせよ、まずはなぜ解雇されたのかという解雇理由を把握することが重要でしょう。解雇理由を知らなければ、納得できる理由かどうかや、争った場合に勝てる見込みがあるかなどの判断ができないからです。
そのため、普通解雇された場合、会社から解雇理由証明書を取得するなどして、まずは解雇理由を把握しましょう。
なお、解雇理由証明書は、会社に請求すれば発行してもらえます。会社には、従業員の請求に応じて解雇理由を記載した書面(解雇理由証明書)を発行する法的義務があるからです(労働基準法22条2項)。
9.まとめ
本記事では、普通解雇について解説しました。
普通解雇は、会社から一方的に雇用契約を解除することで、従業員の生活を不安定にするため、法律により厳しい制限が課せられています。
そのため、法律上の解雇制限がある場合や、合理的な解雇事由がない場合、必要な手続きを経ていない場合、普通解雇は無効となる可能性があります。
もっとも、法律の専門家でなければ、解雇が有効かどうかの判断は難しいでしょう。
そのため、解雇に納得がいかない場合、まずは法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで、解雇が有効かどうかについて見通しを立てることができ、またその後の対応についても的確なアドバイスを受けられるからです。
弁護士に相談する際は、事前に弁護士事務所のウェブサイトを確認して、解雇問題の取扱い実績が十分かどうかを確認するとよいでしょう。
解雇について会社の対応に疑問を抱いている方は、早めに弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
私たち法律事務所リーガルスマートは、解雇・退職勧奨のトラブルをはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
担当者
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■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務
■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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