不当解雇
外資系企業はすぐクビ?解雇や退職勧奨の対処法を弁護士が解説!
「勤め先の外資系企業で突然業務改善プログラム(Performance Improvement Program=PIP)を言い渡されて、目標を達成できなければ解雇するといわれてしまった。実際に提示された目標は達成できそうにない。これは事実上退職勧奨ではないか?」
「外資系企業に勤めていて給料は結構良かったけど、急に部署を廃止するといわれて、配置転換もなく解雇されてしまった」
等、外資系企業では日系企業に比べて給料が高いといわれる一方で、退職勧奨代わりにPIPが行われたり、会社の都合で解雇されることもよくあります。外資系企業で解雇されたり、退職勧奨と思われる働きかけをされた場合、労働者はどのように対処すればよいでしょうか。
本記事では、外資系企業で解雇や退職勧奨をされた場合の対処法を労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. そもそも外資系企業とは
外資系企業についての法律上の定義は存在しませんが、経済産業省が毎年実施している「外資系企業動向調査」の対象企業として、
- ①外国投資家が株式または持分の3分の1以上を保有している企業
- ②外国投資家が株式または持ち分の3分の1以上を保有しており国内法人が出資した企業
を指します。
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2. 外資系企業でクビになりやすいタイミング
一般的に、外資系企業は合理主義かつ成果主義を徹底しているので社員をすぐクビにする、というイメージがあります。
実際に外資系企業で解雇が行われやすいのはどのようなタイミングでしょうか。
2-1. 日本からの撤退や人員削減
外資系企業は本社が海外にあったり、経営の実権を外国人が持っていることが多いので、日本での企業活動の採算が合わないとわかればすぐに撤退したり、部署を廃止・縮小したりする傾向があるといわれます。また、採算は合っていても本国での業績が悪化すると、やむなく日本から撤退するという場合もあります。
日本からの撤退や部署廃止・縮小に伴い、日本支社や日本法人で雇用されていた従業員が多数解雇されることになります。外資系企業は一般的に特定の職種やポジションに適した人材を雇用する「ジョブ型雇用」をとっているため、その職種やポジションが必要なくなれば、採用された従業員の能力に関係なく解雇するということが起こりえます。
このように、外資系企業で解雇が行われやすいタイミングとして、日本からの撤退や人員削減を行う場合が考えられます。
2-2. 企業合併(M&A)によるポジションの重複
外資系企業ではM&Aが頻繁に行われています。M&Aによって、同一のポジションの人員が重なった場合、業績等を比較して劣ると判断された従業員が解雇される可能性があります。
従って、その企業がM&Aを行ったタイミングでも解雇が行われやすいといえます。
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3. 外資系企業でクビになる人の特徴
外資系企業でクビになる人には、以下のような特徴があるといえます。
3-1. 成果が出せていない
外資系企業では一般的に、雇用された職種やポジションで成果を出せば高く評価される一方、成果が出せなければ解雇されるおそれがあります。待遇が良いといわれる分、その待遇(報酬)に見合った成果を出すことが求められているといえます。
3-2. コンプライアンス意識が低い
また、外資系企業はコンプライアンス問題に対しては一様に厳格に対処するといわれています。ハラスメントに対しても確実に対応し、パワハラやセクハラが起こった場合加害者が解雇される可能性が高いです。セクハラに対しては確実に日系企業よりも厳しく対処されます。
従って、コンプライアンスに対する意識の低い労働者は解雇されやすいといえます。
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4. 外資系企業でクビにならないためのポイント
外資系企業は社員をすぐクビにする、というイメージがありますが、クビにならないためのポイントとして以下のことが挙げられます。
4-1. 求められた成果を上げる
外資系企業で簡単に解雇されないためには、まずその職種やポジションで期待された成果を上げることが第一です。そのために、専門のスキルを磨く、周囲とコミュニケーションをとる等の努力を怠らないことが大切です。
また、仮に日本からの撤退等の会社都合で解雇されたとしても、自己の能力不足による解雇でないのであれば、またその後のキャリアにも希望が持てるでしょう。
4-2. コンプライアンス意識を持つ
前章で述べたように、外資系企業はコンプライアンス違反行為を行った従業員は解雇される可能性が高いです。
パワハラやセクハラ等のハラスメント行為だけでなく、横領や情報持ち出し等の不正行為に対しても「この程度なら許されるだろう」という思い込みは禁物です。会社の規定や、共有されるコンプライアンス関連情報に対しては「守らなければ解雇される」という意識を持って目を通すようにしてください。
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5. 業務改善プログラム(PIP)はクビの兆候なのか
外資系企業では、業務改善プログラム(PIP)がよく行われています。このPIPに対しては「クビの兆候」「事実上の退職勧奨」という印象が持たれています。
本章では、そもそもPIPとはどのようなものか、実際に解雇予告ないし退職勧奨代わりに行われているのか等を解説します。
5-1. そもそもPIPとは
PIP(Performance Improvement Program)とは、人事評価が低い従業員に対して業績改善を促す取り組みのことです。
従業員本人と相談の上で改善目標を設定して、定期的に進捗確認をしたり、スキル向上のための取り組みも行います。目標達成の状況によっては繰り返し行われる場合もあります。
PIPを行った結果として業績が上がれば、通常業務に復帰することができます。業績が良くなったのに解雇されたり、減給や降格などの処分を受ける等ということはありません。
従って、PIPは、本来、従業員の成長とそれによる会社の業績向上を目的として行われるものです。
5-2. なぜ外資系企業のPIPがクビの兆候と思われているか
ところが、昨今の企業、特に外資系企業でPIPを勤務成績が良くない従業員に対して退職を勧める手段として導入しているケースが少なくありません。
そのような場合、PIPを行う上で最初に従業員に「PIPで定めた目標を設定できなければ解雇する」という条項を含む同意書に署名させるということがよく行われます。
このことが、PIPに対する「クビの兆候」をいうイメージを持たれている原因の1つと思われます。
また、特に外資系企業では、日本の労働契約法が求める「解雇の合理性と社会的相当性」の要件を満たすために必要な(勤務成績不良の従業員に対して)「改善の機会を与えること」を遵守したことを示すためにPIPを行うことがよくあります。
つまり、不当解雇で訴えられた場合に、PIPを実施したことを「改善の機会を与えたこと」の根拠とする目的があると考えられます。
そのような企業ではしばしばPIP実施後にその従業員を解雇するので、これもPIPがクビの兆候と思われる原因となっているといえます。
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6. 外資系企業で退職勧奨を受けた場合の対処法
本章では、外資系企業で退職勧奨を受けた場合の対処法を解説します。
6-1. 解雇と退職勧奨の違い
解雇とは、会社側の一方的な意思により労働者との労働契約を解除することです。
これに対して退職勧奨は、労働者の自発的な意思による退職を促す行為です。平たく言えば、会社が労働者に対して退職をお願いすることをいいます。
解雇は労働者に対して、その会社の従業員の地位を失わせるという重大な不利益を与える行為です。
特に、伝統的に終身雇用を前提としていた日本の企業風土のもとで労働者の権利を守るために制定された労働関係法令では「解雇」により労働者が受ける不利益を重く見ており、解雇の客観的合理性と社会的相当性が求められます(労働契約法第16条)。
また、解雇予告または予告手当支払いが義務づけられている(労働基準法第20条)ほか、労働契約法第16条の要件を満たすために、能力不足の従業員を解雇する場合には改善の機会を付与することも求められます。
その他、労働基準法その他のさまざまな法令で、差別や労働者の権利行使等の一定の理由に基づく解雇を禁止しています。
他方、退職勧奨は、労働者に対して退職を強制するものではなく、退職勧奨に従うか否かは労働者の意思に任せられています。そのため、退職勧奨に対する法令上の規制はなく、退職勧奨を行うこと自体は違法ではありません。
しかし、退職勧奨が執拗に、パワハラ手段を用いて労働者を追い詰めるやり方で行われたような場合は、労働者の自由な意思決定を阻害し、退職強要として違法になります。
6-2. 条件次第で応じる場合はパッケージ(特別退職金)の交渉をする
退職勧奨に対して断る自由があることは、外資系企業の場合も同じです。
他方、外資系企業では、退職勧奨を行う場合はパッケージと呼ばれる特別退職金の支給を約束することが多くあります。
ただし、パッケージを支給することは法律上の義務ではないので、退職勧奨に応じれば必ずパッケージを受けられるとは限りません。
従って、退職勧奨された場合に条件次第で応じてもよいと考えるのであれば、会社側に対してパッケージの支給を行うか、行うとすれば金額はどの程度か等を確認することをお勧めします。
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7. 解雇や退職勧奨について弁護士に相談、依頼するメリット
本章では、解雇や退職勧奨について弁護士に依頼するメリットについて解説します。
7-1. 対処法のアドバイスを受けられる
外資系企業であっても日本の法令は適用されるので、不当な解雇に対しては従業員の地位確認や損害賠償請求等を行うことができます。
また、前述のように退職勧奨に応じて退職する場合には、パッケージと呼ばれる特別退職金が支払われる可能性があります。
解雇や退職勧奨を受けた場合に、すぐに弁護士に相談することで特別退職金についての交渉方法等、対処法のアドバイスを受けることができます。
7-2. 会社との交渉や訴訟等の法的手続を全て任せることができる
会社に対して解雇無効や損害賠償請求を求めて会社と交渉することは、労働者単独では困難です。
従業員が会社に交渉を求めても応じてくれなかったり、あるいは顧問弁護士を立ててきて従業員側が不利な立場になることが多くあるからです。
従業員側が弁護士に依頼することにより、会社側が無視できなくなり交渉に応じてくれるようになります。また、会社側が弁護士に依頼している場合も対等に交渉を行うことができます。
さらに、証拠収集の方法についてアドバイスを受けたり、証拠収集にあたって公的機関に対する申請が必要な場合は申請手続を代行してもらうことも可能です。
また、交渉と並んで労働者にとって単独で行うことが困難な労働審判や訴訟手続についても、弁護士に依頼すればすべて任せることができます。
交渉や裁判所手続の代理を弁護士に依頼すると費用がかかりますが、初回相談や初回相談の一部の時間を無料としている法律事務所もあります。
無料相談を利用して費用見積もりや支払い方法、弁護士側の労力を抑えるために依頼者側ができること等を相談することもできます。
7-3. 復職を希望する場合は賃金仮払い仮処分命令の申立てが可能
会社を解雇された場合は、どうしても不安になるのが「当面の生活資金」ではないでしょうか。
仮に弁護士費用が成功報酬制度等で後払いにしてもらえるとしても、何か月もの間給料が入らない状態で生活しなければならない。失業給付を受けて別の仕事を探すこともできるが、現状は離職票に「解雇」と書かれてしまった状態なので簡単に仕事が見つかるかどうかわからない・・。
このような悩みに対して、もし会社に対して解雇の撤回と従業員の地位確認を求める場合には、裁判所に対して「従業員の地位保全仮処分」と「賃金仮払い仮処分命令申立てを行う」という解決策があります。
従業員の地位保全仮処分命令及び賃金仮払い仮処分命令は、民事保全法第23条に定められた仮処分命令のうち、「争いがある権利関係について債権者(この場合は従業員)に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに」裁判所が発する命令にあたります。
つまり、従業員の地位という権利関係を争っている間、解雇された従業員が従業員の地位を失うことにより、生活費を得られない・社会保険資格を失う等の著しい損害を受けることになります。それを避けるためにこれらの仮処分命令を申立てることができます。
判例上、従業員の地位保全命令については否定される場合がありますが、賃金仮払い仮処分命令については、家族の収入・資産や本人の資産が一定以上あることを会社側が反証した場合を除いて認められる場合が多いです。
ただし、仮払いの金額・期間についてはケースバイケースで判断されるので、金額については本人の生活に必要な限度に制限される可能性があります。また、期間についても最大1年程度までに制限されることが多いです。
裁判関連の手続の代理を弁護士に依頼していれば、生活費を確保するために賃金仮払い仮処分命令の申立てを行うことも可能です。
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8. 外資系企業に関するよくあるQ&A
本章では、外資系企業に関して頂くことの多い質問と、それに対する回答をご紹介します。
8-1. 業務改善プログラム(PIP)とは何ですか?
PIPとは、人事評価が良くない従業員に対して、業績を改善することを目的として行われる研修プログラムです。外資系企業のPIPがよく話題になりますが、日系企業でも導入しているところがあります。
PIPでは、対象の従業員との合意のもとで目標を設定し、目標を達成するまで担当者がサポートします。スキル向上のための取り組みも行われます。
PIPによって業績が改善されれば、解雇等の不利益な取り扱いを受けることはありません。ただし、PIPを行っても業績が改善されない場合、特に外資系企業では解雇されたり退職勧奨を受けたりする可能性があります。
とはいえ、PIP自体は本来、業績改善のために行われるものなので、解雇や退職勧奨を目的としたものではありません。
8-2. 外資系企業に労働基準法は適用されないのですか?
外資系企業に対しても、日本の事業所で働く労働者に対しては労働基準法その他の強行規定が適用されます。
なぜなら、まず、外資系企業が日本で雇用する労働者との労働契約の成立及び効力については法の適用に関する通則法(下記参照)第8条の「当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による」という規定が適用されると考えられます。
そして、「最も密接な関係がある地の法」については、同法第12条2項により「労働者が労務を提供すべき地の法」と推定されるためです。
第7条(当事者による準拠法の選択)
参照:法の適用に関する通則法
法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。
第8条(当事者による準拠法の選択がない場合)
第1項 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。
第12条(労働契約の特例)
第1項 労働契約の成立及び効力について第7条または第9条の規定による選択または変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対して表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
第2項 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法、次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
第3項 労働契約の成立及び効力について第7条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第8条第2項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
8-3. 日本の裁判所で争うことはできますか?
外資系企業とその被用者との間の労働トラブルについても、労働者が日本国内で労務を提供している場合は、日本の裁判所を管轄裁判所とする(日本の裁判所で争う)ことができます。
民事訴訟法第3条の4(消費者契約及び労働関係に関する訴えの管轄権)により、労働者からの事業主に対する訴えについては、労務の提供地が日本国内にあれば、日本の裁判所に提起することが認められているからです。
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9. まとめ
外資系企業は給料が高い、能力主義で年功序列がない、プライベートの時間を大切にできる等の多くのメリットがある一方で、組織の変化のスピードも速く、成果を出せなければ厳しい処遇を受けるという側面もあります。
しかし、外資系企業であっても日本の法令の適用を受けるので、日本の法律や判例に照らして不当な取り扱いを受けた場合には撤回や損害賠償・慰謝料等を請求することができます。不当な取り扱いを受けたり、不利益を受けるのではないかと不安を持たれた方は、できる限り早期に弁護士に相談することをお勧めします。
私たち法律事務所リーガルスマートは、外資系企業の労働問題をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
担当者
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■経歴
2019年12月 弁護士登録
2020年1月 都内法律事務所にて勤務
2021年8月 法律事務所リーガルスマートにて勤務
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