残業代請求

残業代請求で有効な証拠は?ない場合の対処法を弁護士が解説!

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「未払いの残業代を請求したいけど、退職してしまったので証拠らしい証拠が残っていない」

「タイムカードを定時に打刻させられていて残業代が全く出ないが、実際は持ち帰りの残業が多い。残業代請求できるならしたいが、証拠がないので無理ではないか」

等、「証拠」がない、あるいは不足しているために残業代請求を躊躇している方は少なくないと思います。

実は、タイムカードや残業指示メール等の証拠がなかったとしても、残業代請求は可能です。

本記事では、残業代請求で有効になる証拠や、証拠がある場合・ない場合それぞれの残業代請求の流れ等を労働問題に強い弁護士が解説します。

1. 残業代請求で必要になる証拠とは

会社に対して残業代請求する場合、会社との交渉が成立しなければ最終的に訴訟を提起することになります。訴訟では、残業の指示があったこと、及び未払いの残業代がいくらあるかについての立証責任が労働者側にあります。

そこで、残業代が発生する雇用形態であること・残業指示・残業日時と時間数がわかる証拠を集めることが必要になります。

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2. 残業代請求で有効になる証拠

残業代請求の証拠として、有効な資料としては以下のものが挙げられます。

①残業代が発生する雇用形態であること

  • 雇用契約書
  • 就業規則
  • 労働条件通知書

②残業指示があったことを証明するもの

  • 上司の残業指示があったことがわかるメールやチャットの履歴

③残業日時と時間数を証明するもの

  • タイムカード
  • その時間残業していたことを証明できるPCの使用履歴(最終閲覧日時が表示されるファイル・ソフト等)
  • 上司あての退勤報告メール
  • 終電を逃してタクシーで帰宅した場合のタクシーの領収書(少なくともその日/前日に残業した事実の証拠になります)

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3. 残業代請求で弱い証拠や証拠にならないもの

他方、残業代請求で弱い証拠や証拠として認定されにくいものとしては以下が挙げられます。

  • 自身で労働時間を記録したメモ
  • 家族宛ての「仕事やっと終わった、これから帰る」等のLINE履歴

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4. 証拠がある場合、ない場合の残業代請求の手順

本章では、証拠がある場合、ない場合それぞれの残業代請求の手順を解説します。

4-1. 証拠がある場合

まず、証拠がある場合は、証拠を揃えた上で以下の手順で残業代請求を行います。

(1)会社と話し合いによる交渉を行う

残業代を請求するにあたっては、まず会社に対して任意交渉を申し入れる必要があります。

また、会社が交渉に応じるか否かを問わず、請求権が時効消滅することを防ぐために内容証明郵便による請求書を会社に送るようにしてください。

証拠が会社側にある場合でも、会社が開示してくれる場合や残業代支払いをすぐに認めてくれる場合は問題ありません。しかし、交渉がまとまらず証拠開示もしてくれない場合には訴訟提起に備えて証拠保全手続を行う必要があります。

(2)労働基準監督署に申告する

残業代未払いは労働基準法第37条に違反するので、労働基準監督署の監督課に申告することができます。

労働基準監督署に申告する場合、未払残業代の証拠を揃えておくことが必要です。必ず臨検(立ち入り検査)や行政指導を行ってくれるとは限らないのですが、職場で他にも残業代未払いの従業員が存在する場合は複数で証拠とともに申告することにより臨検を行い、残業代を支払うよう指導してくれる可能性が高くなります。

(3)法的手段をとる

①労働審判

任意交渉が成立しなかった場合、法的手段として労働審判の申立てを行うという方法があります。

初回の期日を経て話し合いによる解決の見込みがあると判断されれば調停手続、それが難しいと判断されれば審判により解決策が提示されます。労働審判は一般的に以下のようなメリットがあるといわれます。

  • ①原則として3回の期日で審理が終了する(労働審判法第15条2項)。これにより、訴訟に比べると早く問題解決に向かうことができる
  • ②従業員側と会社側双方から選ばれた労働審判員が関与することにより、同様の事例をふまえた解決策を提案してもらえる
  • ③審理が非公開で行われるので(労働審判法第16条)、プライバシーが守られる

他方、審判結果に対して労働者側・会社側の一方または双方が異議を申し立てた場合は労働審判が無効となります(労働審判法第21条3項)。

この場合、労働審判を行った地方裁判所と同一の地方裁判所に訴訟提起があったものとみなされます(労働審判法第22条1項)。

また、労働審判委員会の判断で審判を終了させた場合も訴訟に移行することになります。労働審判が無効になると、さらに時間のかかる訴訟手続を行うことになります。そのため、審判に費やした時間や労力が無駄になってしまうともいえます。

②民事訴訟

以下のような事情で会社との歩み寄りが難しい場合には、労働審判を経ずに訴訟を提起するのが得策です。

  • ①任意交渉の段階で会社側が未払い残業代の存在を否定した
  • ②パワハラなどが原因で自主退職することになり、会社との歩み寄りが難しい

未払い残業代の請求金額(訴額)が140万円以下の場合は簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に訴訟提起します。

ただし、訴額が140万円以下の場合でも、その請求について労働審判を行っていた場合は労働審判が継続していた地方裁判所と同一の地方裁判所で訴訟手続が行われます。

4-2. 証拠がない場合

証拠がない場合も、労働問題を専門とする弁護士に相談することにより、会社に対して証拠開示請求を行うことができます。

(1)弁護士に相談する

まず、残業代請求についてできるだけ早く弁護士に相談してください。証拠になりそうなものが全くないと思っていても、弁護士から見ると証拠として役立つものである可能性があります。

(2)弁護士が会社に証拠開示請求を行う

弁護士に会社との残業代請求交渉を依頼すると、会社に対して必要な証拠の開示請求を行います。

会社が証拠開示に応じた場合には、開示を受けた証拠と労働者側の証拠を合わせて残業代を計算の上、会社に対して請求を行います。

弁護士が開示請求を行っても会社側が証拠開示に応じない場合は訴訟手続で裁判所に対して文書提出命令申立てを行い、タイムカードの提出を求めることができます(民事訴訟法第220条)。

訴訟実務では、文書提出命令申立てを行う以前に裁判所が会社側にタイムカード提出を促します。会社側がそれに従わない場合には、申立てを受けて文書提出命令が出されます。

さらに、文書提出命令が出されても会社がタイムカードを提出しない場合には、労働者側が他の証拠や記憶に基づいて推定した労働時間の主張・立証が認定されます(民事訴訟法第224条1項)。

会社が証拠開示請求に応じた場合も含めて、交渉が成立しなかった場合の労働審判・訴訟については、証拠がある場合と同じ流れになります。

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5. 未払い残業代を請求する際の注意点

未払い残業代を請求する際、以下の点に注意する必要があります。

5-1. 未払い残業代の時効は3年

未払い残業代、つまり割増賃金債権は発生から3年で時効により消滅します(労働基準法第115条)。

厳密にいえば、消滅時効の規定は会社側が「残業代は時効により消滅している」旨の意思表示(消滅時効の援用)をしなければ適用されないのですが(民法第145条)、実際はほとんどの場合会社側も顧問弁護士や社労士のアドバイスを受けているので、発生から3年以上経過している賃金債権については会社側が消滅時効を援用するものと考えなければなりません。

消滅時効の進行を止めるためには、会社に対して内容証明郵便による請求書面を送付することが有効です。内容証明郵便を利用すると、請求書面の存在が公的に証明されるので、民法第150条により6か月間消滅時効の進行を止めることができます。

5-2. 残業代が発生する雇用形態であるかを確認する

また、その労働者の雇用形態や該当する賃金支払制度によっては、残業代が発生しないか、あるいは既に支払われている前提になっている場合があります。

(1)管理監督者

残業代が発生しない例としては労働基準法第41条各号に該当する場合があります。同条各号に該当する場合は、労働基準法の労働時間に関する規定が適用されないため、残業代も発生しないことになります。

ただし、特に「管理監督者」(同条2号)については注意が必要です。判例上「管理監督者」に該当する役職は「労働条件の決定その他、労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」に限られるとされています。

従って、店長やエリアマネジャー、部長・課長等の役職は、一般的には管理職とされていても、労働基準法第41条2号の「管理監督者」に該当しない可能性が高いので、残業代が支払われていなければ労働基準法第37条違反となります。

(2)固定残業代制

固定残業代制(みなし残業代制)とは、毎月一定の時間数分残業したとみなし、その時間数(みなし残業時間)分に相当する残業代を固定残業代として支払う制度です。

固定残業制をとっている場合、その労働者の実労働時間がみなし残業時間を超えない場合には別途残業代は発生しません。

しかし、実労働時間がみなし残業時間を超えた場合は、超えた時間数分の割増賃金が支払われなければなりません。

固定残業制をとっている場合に残業代が発生したか否かを調べるためには、日々の実労働時間を確認する必要があります。

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6. 未払いの残業代請求を弁護士に相談、依頼するメリット

残業代不払い自体は明らかに違法ですが、労働者個人が会社相手に残業代を支払ってもらうことは容易ではありません。確実に支払ってもらうためには、労働問題に強い弁護士に依頼することをお勧めします。本章では未払い残業代の請求を弁護士に依頼するメリットについて解説します。

6-1. 未払い残業代の発生の有無や金額を調べてもらえる

収集可能な証拠をもとに、時効消滅していない残業代を算出する作業にはかなりの手間がかかります。弁護士に相談すると、①まず残業代が発生する雇用形態であるか、②実際に残業代が発生しているか、③発生しているとすればいくら請求することができるかを正確に教えてもらうことができます。

6-2. 未払い残業代請求のための証拠の集め方を教えてもらえる

未払い残業代の請求にあたっては、雇用契約書や労働条件通知書など自身が保管していれば利用できるもの以外に、タイムカードや業務アカウントによるメールの送受信履歴など、会社側だけが保持しているデータもあります。

容易に入手できない証拠についても収集が必要なのか、必要であればどのように入手すればよいかなどは労働者個人では判断が難しいところです。これらについても弁護士に教えてもらうことができます。

また、会社が保持している証拠については、弁護士が会社に対する証拠開示を行うことができます。

6-3. 退職前の場合には請求のタイミングを教えてもらえる

また、未払い残業代は請求のタイミングが重要です。賃金債権は3年で時効消滅するので、できるだけ早く請求したい一方で、在職中は事実上請求しづらいという問題があります。

一般的には、残業代請求のタイミングは退職直後がベストといえます。ただし、特に退職勧奨によって退職する場合は、多くの場合会社が作成した退職合意書に「退職後は会社に対して一切の請求を行わない」旨の条項(清算条項)が含まれています。

従って、清算条項を含む退職合意書に署名捺印した場合には、退職日以降の残業代請求ができなくなります。

このように、個別の状況によって適切な請求のタイミングが異なるため、早めに弁護士に相談することでベストなタイミングを教えてもらえます。

6-4. 会社との交渉を任せることができる

未払い残業代の請求にあたっては会社側と交渉しなければなりません。しかし、労働者個人で交渉しようとすると取り合ってくれない可能性があります。また逆に会社側が顧問弁護士を立ててくることもあります。

弁護士に依頼していれば会社側の対応に関係なく、未払い残業代請求に向けての交渉を対等に行うことができます。

6-5. 交渉不成立の場合の労働審判や民事訴訟等の法的手続を任せることができる

未払い残業代の請求にあたり、労働者本人にとって交渉と並んで負担が大きいのが、裁判所が関わる手続です。

労働審判は手続が比較的単純であるため短期間で終結させることができますが、やはり申立てから審理まで全て一人でやることは容易ではありません。

さらに訴訟提起するとなると、期日に全て出席して証拠調べ手続や口頭弁論での陳述も求められます。そのため少額訴訟や簡易裁判所への訴訟提起であっても一人でやることには大きな負担が伴います。

弁護士に依頼していれば、労働審判・民事訴訟ともすべて任せることができます。交渉段階で会社が証拠開示に応じなかった場合には、訴訟で裁判所に対して文書提出命令の申立てを行い、裁判所に文書提出命令(民訴法第220条)を出してもらうことができます。

また、会社側が文書提出命令にも従わなかった場合、労働時間の認定については弁護士が主張・立証を行っていれば労働者側の主張が認められる可能性が高いです。

つまり、労働者側の手持ちの証拠が十分でなかったとしても、弁護士に依頼することで残業代請求が認められる可能性が高くなります。

残業代請求手続代理・代行には費用がかかりますが、このように弁護士に依頼することで確実に未払い残業代の支払いを受けることができます。最近では、着手金の支払いを必要としない成功報酬制をとっている法律事務所も多くあります。

また、多くの法律事務所では初回相談や初回相談の一定時間(30分~60分程度)を無料としているので、無料相談を利用して問題点を的確に整理することで費用を抑えることが可能です。

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7. 残業代請求の証拠に関するよくあるQ&A

本章では、残業代請求の証拠に関して頂くことが多い質問と、それに対する回答をご紹介します。

7-1. 証拠が全くないのですが、残業代請求は可能でしょうか?

結論から申し上げれば、残業代請求は可能です。

まず、労働者の方が「証拠が全くない」と思っていても、残業した事実がある以上、専門家からみれば多かれ少なかれ証拠として価値のある資料が見つかる可能性があります。

また、仮に労働者側に証拠として価値のある資料が見つからなかったとしても、会社側が保持しているタイムカード等の有効な証拠について開示請求を行うことができます。

判例上も、会社側は労働者の労働時間についてタイムカード等の証拠を開示する義務を負うと判示したものがあります。

弁護士が証拠開示請求すれば会社側が応じることが多いですが、仮に会社が応じなかった場合には、裁判で残業代請求を行い、文書提出命令の申立て(民訴法第220条)を行います。会社が文書提出命令にも従わなかった場合には、労働者側の主張・立証する労働時間がそのまま認定される可能性が高いです。

従って、労働者側に証拠となる資料がなかったとしても、残業代請求手続を弁護士に依頼することによって請求が認められる可能性が高いです。

7-2. タイムカードを定時に打刻させられて持ち帰り残業していた場合、残業代請求は無理ですか?

タイムカードを定時に打刻させつつ、実際には定時に終わらない量の仕事を与える「隠れサービス残業」の場合、確かにタイムカードを労働時間が法定労働時間を超えていることの証拠として利用することはできません。

しかし、実際には残業させていながらタイムカードを不正に定時打刻させる行為は労働基準法第37条に違反するとともに、労働者に対しては不法行為(民法第709条)となります。

残業代請求については、タイムカードを証拠として使えなくても、持ち帰り残業の事実を証明する証拠があれば(あるいは、会社側が保持していれば)可能です。

持ち帰り残業の場合は残業時間の計算が難しくなりますが、「だいたい何時から何時まで作業した」という記録や記憶が残っていればそれを証拠とすることができます。残業時間の計算については、1か月単位で計算する場合には30分未満切り捨て・30分以上切り上げの端数処理が認められているので、厳密に分単位の残業時間を証明できなくても問題ありません。

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8. まとめ

労働者が未払いの残業代を請求するにあたって、「証拠」がネックになっていることが少なくないと思います。

しかし、労働者側の手持ちの証拠がなく、タイムカード等の有効な証拠が会社側にある場合には、会社はそれを開示する義務があることを判例も認めています。労働者個人が開示請求して会社が応じなかったとしても、弁護士に依頼することにより、開示請求を行うことができます。

証拠がないから、あるいは証拠になりそうなものが手元にあるかわからないからといって諦めず、労働問題を専門とする弁護士にご相談ください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

内田 貴丈
内田 貴丈法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2019年12月 弁護士登録
2020年1月 都内法律事務所にて勤務
2021年8月 法律事務所リーガルスマートにて勤務
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