慰謝料請求したい
不倫慰謝料の時効は?時効の中断方法や対処法を弁護士が解説!
もう一方の配偶者が不倫をした場合、慰謝料の請求をすることができます。
この慰謝料の請求について、あまりに長期間経過した後には、時効にかかるという記述をよく見るかもしれません。
本記事では、不倫をされた場合の慰謝料の時効について不倫慰謝料に強い弁護士が解説します。
目次
1.不倫の慰謝料の時効とは
不倫の慰謝料の時効について確認しましょう。
1-1.配偶者が不倫をした場合他方の配偶者は慰謝料の請求ができる
まず、夫婦の一方が不倫をした場合、不倫をされた配偶者は、不倫をした配偶者に対して慰謝料の請求が可能です。
その根拠は、民法709条と民法710条にあります。
まず、民法709条は、次のような定めを置きます。
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
不倫をされた場合、故意又は過失によって、「夫又は妻としての権利」が侵害されたとして、不倫をした配偶者は損害賠償をする責任を負います。
ただ、不倫をしたからといって、実際何か金銭的な損害が発生しているわけではありません。
しかし、続く民法710条は次のような定めを置きます。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
不倫は身体や財産権を侵害したわけではありませんが、財産以外の損害に対しても賠償する責任を負うわけです。
そして、不倫をされたような場合には、相手は不倫されたことが原因で精神的苦痛が発生するため、これに対する損害賠償請求をしなければなりません。
これが、不倫をした場合の慰謝料請求の根拠です。
1-2.慰謝料請求は時効にかかる
慰謝料請求の根拠は民法の不法行為損害賠償請求権に基づく権利です。
この不法行為損害賠償請求権は、民法724条で時効にかかる旨が規定されています。
そのため、慰謝料請求は時効にかかることになります。
1-2-1.時効とは
時効とは、一定の期間が経過したことによって、その状態を法的な保護をする制度のことをいいます。
ニュースなどでは、刑事事件について、一定期間犯人が逮捕できずに、時効を迎えてしまうことが報道されることがあります。
これも、国家が刑罰権を長期間行使しないという状態を、そのまま法的に保護する、つまり刑罰権が行使できなくなるものと確定するものです。
民法における時効には、取得時効と消滅時効に分かれます。
取得時効とは、本当は自己のものではないにもかかわらず、自己のものとして所有者として占有している場合に、その物の所有権を法的に認める制度を言います。
一方で消滅時効とは、ある権利を一定期間行使しない場合、その権利は行使されないものとして消滅したと法的に認める制度を言います。
不倫慰謝料請求権の時効は後者で、慰謝料請求権の消滅時効を認めるものです。
時効の制度は、長時間経過した事実関係は保護すべき・権利の上に眠るものは保護しないと・長期間経過しているものについては立証が困難であるという価値観に基づくとされています。
1-2-2.不倫慰謝料請求の時効は3年または20年
では実際に時効の制度を定める民法724条の規定を確認しましょう。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
- 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
- 二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
不法行為損害賠償請求については、次の2つの時効期間が規定されています。
- 不法行為の被害者が損害と加害者を知ったときから3年
- 不法行為時から20年
不法行為損害賠償請求をするには、損害と加害者がわからないと行えません。
そのため、損害と加害者を知ったときから3年とされています。
また、不法行為から20年を経過した場合も同様に時効とされます。
1-2-3.時効の援用
自己は期間が経過しただけでは成立せず、民法145条所定の「援用(えんよう)」が必要とされています。
時効の援用とは、時効の利益を受ける旨の意思表示をすることをすることを言います。
時効期間を過ぎても支払うという意思がある場合、その意思を尊重するためです。
なお、この時効の援用は、援用という意思表示を時効期間が経過した後に行ったことを証明する必要があるので、通常は配達証明付き内容証明郵便を用いて行います。
2.不倫の慰謝料の時効をストップするための方法
不倫をされたような場合、その事実を知ったからといって、ただちに冷静に民事上の請求を行うことは珍しいです。
精神的ショックから、まずは落ち着くのに時間がかかることもあります。
また、請求をするには、証拠を確保したり、法的手続きを行うために書面の作成や書類の準備などに時間がかかります。
時間がかかってしまい、時効が完成するまでの残り時間が少なくなっているような場合、時効の完成をストップするために時効の更新・完成猶予という制度があります。
2-1.時効の完成猶予・更新とは
時効の完成をストップするための制度に時効の完成猶予・更新という制度があります。
時効の完成猶予とは、時効期間の完成が一時的にストップする制度です。
時効の更新とは、時効期間の経過のカウントを最初からやりなおす制度です。
時効は一定の期間の経過によって、その状態に法的な保護を与える制度でした。
しかし、権利者が一定の行為を行っている場合、その状態に法的な保護を与える必要はありません。
そこで認められているのが、この時効の完成猶予・更新です。
時効の完成猶予の制度によって一時的に時効の制度をストップし、その間に時効の更新をすることで、再度時効の期間のカウントを元に戻すことで、時効にかからないようにします。
2-2.2020年4月1日の法改正に注意
2020年4月1日民法の一部を改正する法律が施行されました。
この改正で時効に関する規定も大きく改正されています。
例えば、時効の更新・完成猶予については、それ以前の法律では時効の中断・時効の停止と呼ばれていました。
2020年以前に発行された文献の中には、時効の中断・停止という表現をしているものもあるので、現在の新しい制度によって判断するようにしましょう。
2-3.時効の完成猶予・更新を生じる事由
どのようなときに時効の完成猶予・更新が生じるのかを確認しましょう。
2-3-1.裁判上の請求(民法147条)
裁判上の請求を行うことは、最も権利を行使しようとしている事由としてわかりやすいものであるといえます。
そのため民法147条では次の行為を行った場合には時効の完成猶予となるとしています。
- 裁判上の請求
- 支払督促
- 民事調停・家事調停
- 破産手続・再生手続・更生手続への参加
そして、確定判決・確定判決と同様の効力を有するもので権利が確定した場合には、時効が更新するとしています。
裁判上の請求を行うのは、権利の行使をすることを最も明確にするものです。
そのため、裁判を起こした段階で時効の完成猶予の効力を生じさせ、勝訴判決を得てそれが確定した場合に時効の更新を認めています。
支払督促、民事調停・家事調停、破産手続き・再生手続き・更生手続きへの参加も権利行使をするものなので、同様の取り扱いをしています。
また、確定判決以外にも確定判決と同様の効力を有するものについても、時効の更新を認めています。
例えば、裁判を起こしたときに、裁判上の和解をした場合、確定判決ではありませんが、権利の存在は確認されているので、同様に扱うこととされています。
2-3-2.強制執行等(民法148条)
裁判を起こして請求権の内容が確定したにも関わらず、相手が支払わない場合には、相手の財産に対して強制的に権利行使する、強制執行が行われます。
民法148条では、次のいずれかを行った場合に、時効の完成が猶予されるとしています。
- 強制執行
- 担保権の実行
- 民事執行法195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
- 民事執行法196条に規定する財産開示手続・民事執行法204条に規定する第三者からの情報取得手続
そして、これらが終了すると時効が更新するとされています。
強制執行が行われる場合も、権利を行使する意思が明白であるといえるので、強制執行の申立てが行われたときに時効の完成猶予となり、強制執行が完了した場合に時効が更新されます。
また、強制執行と同様に解釈できる、担保権の実行や競売の申立てなども同様に時効の完成猶予・となる旨が規定されています。
2-3-3.仮差押え等(民法149条)
裁判を起こす前提として、相手の財産を保全するための、仮差押え・仮処分といった手続きがあります。
民法149条は、仮差押え・仮処分の申立てを行うと時効の完成猶予となるとしています。
仮差押え・仮処分はその後に裁判を起こすことを前提としている手続きなので、時効の更新の効果はありません。
2-3-4.催告による時効の完成猶予(民法150条)
相手に対して請求を行うことを「催告」と呼んでいます。
催告が行われた場合、民法150条で催告が行われてから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。
なお催告の場合には時効の更新はないので、催告をしてから6か月以内に裁判を起こすことが必要です。
催告を行ったことを証明するために、実務上は配達証明付き内容証明郵便を送ることが多いです。
2-3-5.承認による時効の更新(民法152条)
債務者が権利の存在を承認した場合には、時効の更新となります(民法152条)。
債務者自らが権利の内容を認めているのであれば、その請求権は存続するものと考えるのが通常であるためです。
3.時効期間が経過していても不倫慰謝料が消滅しないケース
時効期間が経過しても、不倫慰謝料が消滅しないのは次のようなケースです。
3-1.時効の完成猶予
上記のような手続きを行った結果、時効の完成猶予が行われている場合には、不倫慰謝料は消滅しません。
その後時効の更新が行われれば、また時効期間のカウントは1から進みます。
3-2.相手が時効の援用をしない
時効期間が経過しても、時効の援用をしないで支払うことを約束した場合です。
この場合、時効の援用権を放棄したとして取り扱われ、不倫慰謝料は消滅しないことになります。
4.不倫慰謝料の時効間近の場合の対処法
不倫慰謝料の時効期間が間近に迫っている場合、どのように対応すべきでしょうか。
4-1.残った期間内に交渉をまとめる
残った期間内に交渉をまとめましょう。
時効期間内に交渉をまとめてしまって、慰謝料の支払いを受けてしまえば、時効については問題とならなくなるためです。
もっとも相手も時効期間が近いことを見越して、交渉に応じないなどの対応をして、時効が完成するように持ち込むことも考えられます。
そのため、いつでも催告によって時効の完成猶予の効果を得られるように準備をしておくべきであるといえます。
4-2.相手に権利を認めさせる
まず、交渉をして相手に権利を認めさせ、上述した民法152条の承認をしてもらうことも検討しましょう。
承認によって時効の更新を行うのが最も簡易な方法であるといえます。
慰謝料の支払い自体については認めているものの、金額や支払方法で折り合わないのであれば、まず支払義務自体を認めさせましょう。
具体的には、慰謝料の支払義務があることを認める書面を差し入れてもらうことが考えられます。
4-3.内容証明を送って催告によって時効の完成猶予をする
交渉もまとまらず、相手も権利を認めようとしない場合には、具体的な行動が必要となります。
もっともオーソドックスな方法としては、民法150条の催告を行って、時効の完成猶予をすることが挙げられます。
催告を行ったことを証明するために、内容証明郵便を送るのは、上述した通りです。
4-4.裁判等の法的手続きを行う
催告をしてもまだ慰謝料の支払いをしない場合には、裁判等によって法的手続きを行いましょう。
裁判をすれば、上述した裁判上の請求として時効の完成猶予となり、確定判決が出れば時効が更新します。
これにより、慰謝料請求が時効となることを防ぐことができます。
5.時効の迫った不倫慰謝料請求を弁護士に相談、依頼するメリット
時効の期間が迫った不倫慰謝料請求を弁護士に相談・依頼するメリットには次のようなものがあります。
5-1.素早く確実な処理で時効にさせない
上述したように、時効が迫っている場合には、必要な手続きについて素早く確実に行う必要があります。
弁護士に依頼していないからといってこれらの処理に例外を認めてもらえるわけではありません。
弁護士に相談すれば、どのような手続きによって時効の完成を止めることができるか判断してもらうことができます。
また、弁護士に依頼すれば、これらの手続きを素早く確実に行ってもらうことができます。
5-2.慰謝料請求自体の法的サポートも得られる
時効の関係ばかりお話していますが、慰謝料請求自体の法的サポートも受けることができます。
慰謝料を請求できるケースなのか、いくらくらいの慰謝料を請求するのが相場にあっているかなど、慰謝料請求自体にも難しい法的判断が必要となります。
弁護士に相談・依頼すれば、慰謝料請求自体のサポートも受けることができます。
5-3.慰謝料請求の交渉・手続きを任せてしまえる
弁護士に依頼すれば、弁護士が慰謝料請求について代理人として活動してくれることになります。
不倫の慰謝料の請求を相手と面と向かってするのだけでも精神的に厳しいです。
これに併せて、相手も時効にかかって請求をできなくするように、あの手この手で交渉を引き伸ばしてくることも予想されます。
このような慰謝料請求を任せてしまい、必要な交渉・手続きを行ってもらうことで、精神的にも楽に請求をすることが可能です。
6.不倫の慰謝料と時効に関するよくあるQ&A
不倫の慰謝料と時効に関するよくあるQ&Aとしては次のようなものが挙げられます。
6-1.不倫の慰謝料の相場はどのくらいですか
不倫の慰謝料の相場は50万円~300万円程度です。
金額に幅があるのは、不倫といってもその内容は様々で、受けた精神的苦痛の程度に差があるためです。
次のような事情があると、慰謝料の金額が大きくなりやすいです。
- 婚姻期間が長い
- 子どもがいる
- 不倫の期間が長い
- 不倫の頻度が多い
- 不倫相手が妊娠した
- 不倫により離婚した
6-2.相手が慰謝料の支払いができない場合の対応方法
相手が慰謝料の支払いができない場合にはどのように対応すべきでしょうか。
この場合には、減額して請求するか、分割での支払いを求めてみましょう。
相場通りの金額を請求している場合でも、相手に資力がない場合、支払うことができないことも珍しくありません。
減額をすれば払える場合で、減額しても良いのであれば、減額して払うことを打診してみましょう。
減額しても払えない、減額には納得行かない場合には、慰謝料を分割で払うように請求してみましょう。
分割で支払う場合には、途中で支払いが途絶えることも珍しくありません。
そのため、慰謝料の額、支払い金額、支払い方法などの取り決めは書面にして、できれば強制執行が容易になる公正証書にするのが良いでしょう。
6-3.弁護士に無料で相談する方法はないですか
時効になりそうなときの対応や、慰謝料が請求できるかどうか、相場にくらべて適切な金額か、などの相談をするのに無料で弁護士に相談できないのでしょうか。
弁護士に相談する場合には、30分5,000円程度の相場で、相談料がかかります。
ただ、市区町村の無料の弁護士相談、弁護士会の無料相談、収入要件を満たせば法テラスで無料で相談が可能です。
また、弁護士が無料で相談に応じていることもありますので、これらの相談を気軽に利用してみましょう。
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7.まとめ
このページでは、不倫慰謝料の時効についてを中心にお伝えしました。
不倫をされた場合、慰謝料請求をすることができるのですが、不法行為損害賠償請求権に基づく慰謝料請求は、損害及び加害者を知ったときから3年、不法行為時から20年で時効にかかる旨が規定されています。
もっとも、民法150条に規定されている催告や、裁判を起こすことで、時効の完成猶予・更新という制度を利用でき、時効が完成してしまうことを防止できます。
時効を完成させないためにも、そもそもの慰謝料請求の適切な請求を行うためにも、まずは弁護士に相談してみることをお勧めします。
私たち法律事務所リーガルスマートは、不倫慰謝料の請求をはじめとする不倫慰謝料の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
担当者
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■経歴
2005年3月 慶應義塾大学経済学部 卒業
2011年3月 一橋大学法科大学院 修了
2014年12月 最高裁判所 司法研修所(鹿児島地方裁判所配属) 修了
2015年1月 弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
2015年4月 弁護士法人アディーレ法律事務所鹿児島支店支店長 就任
2023年9月 法律事務所リーガルスマート入所
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