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労働基準監督署への相談は意味ない?動かない場合の対処法とは

労働基準監督署への相談は意味ない?動かない場合の対処法とは
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 1.労働基準監督署とは

労働基準監督署とは、労働基準法その他の労働関係法令に基づいて法令に違反する事案を取り扱う厚生労働省の第一線機関です。労基署、労基、監督署とも呼ばれています。

労働基準監督署は、厚生労働省の下に置かれた各都道府県の労働局により管轄され各労働局の指導監督を受けながら所掌事務を行います。労働基準監督署は全国各地に321署と4支署が配置されています。

近年、働き方改革が推進されているにもかかわらず、サービス残業や退職金の未払いなど労働問題に悩む労働者が少なくありません。こうした問題に対処するのが労働基準監督署ですが、相談しても適切に対処してくれるのか、会社にばれて不当な扱いをうけるのではないか、利用を躊躇することも多いでしょう。

そこで、本記事では労働基準監督署に相談しても意味がないのか、動かない場合の対処法をテーマに、労働問題に強い弁護士が詳しく解説します。

 1-1.労働基準監督署はどんな機関か

労働基準監督署の内部機関は、主に以下の4つの組織があります。

  • 方面課(監督課)
  • 安全衛生課
  • 労災課
  • 義務課

それぞれ見ていきましょう。

(1)方面課(監督課)

方面課(監督課)では、申告・相談の受付、臨検監督指導、司法警察事務、許可・認定事務などの業務を行います。

申告・相談の受付では、法定労働条件など労働問題に関する相談や勤務先が労働基準法に違反している場合の行政指導を求める申告を受け付けます。

臨検監督指導とは、労働者からの申告により労働監督官が事業場に立入り帳簿の確認や労働関係者からの事情聴取などの調査を行います。法令に違反している場合には、事業主に文書で是正勧告や改善指導などを求め、数か月後に再度の立入調査を実施します。また、危険度の高い機械や設備があるときには使用停止など必要に応じた行政処分を行います。

司法警察事務は、上記の臨検監督指導の是正勧告に従わない場合、重大・悪質な法令違反がある場合など、刑事事件として強制捜査を行い検察庁に送検します。

許可・認定事務は、各種の労働関係の申請手続きを受理して許可・認定を行います。

(2)安全衛生課

安全衛生課では、安全衛生法などに基づいて、労働者の安全と健康を守るための措置を行うことを会社に指導します。例えば、ボイラーやクレーンなどの大型危険物を扱う場合、会社の工場などに労働基準監督官が立入り機械や施設の検査や届出の審査を行うほか、健康診断の実施状況、有害物質の取り扱いの指導、などを行います。

(3)労災課

労災課では、労働者災害補償保険法(労災保険)に基づいて、業務上または通勤中の負傷などの労災事故の調査を行います。労災保険の要件を満たす場合には、会社の事業主から徴収した労災保険をもとに労災保険の給付を行います。

(4)業務課

業務課では、労働基準監督署全体の庶務や経理を行います。

 1-2.労働基準監督署は何をしてくれるのか

労働基準監督署は、以下の業務を行います。

(1)労働に関する相談や申告の対応

労働基準監督署は、労働者の相談窓口として、労働に関する相談や労働基準法やその他労働関係法令に違反する事実の申告を受付けます。

例えば、残業代が支払われない、休日手当てが支給されない、など労働に関する相談を受け付け事案に応じた対応を行います。

また、行政指導を求めることも可能です。違反行為がある場合、必要に応じて会社の事業主から事情聴取を行い事案に応じた行政指導を行います。

(2)事業所の監督・指導

労働基準監督者は、会社が労働基準法を遵守しているのかを確認するために会社の工場や事務所に臨時に立ち入り帳簿や施設内を検査します(臨検、労働基準法101条1項)。

臨検は、証拠隠滅を防ぐために会社に予告せず労働基準監督官が立ち入り検査することが定められていますが(労働基準法81条12号1項)、事前に予告してから臨検に来ることが多いのが現状です。

労働基準監督署の臨検に対して、尋問や帳簿の提出などを拒否・妨害・忌諱した場合には、30万円以下の罰金が処せられます(労働基準法120条4号)。

労働基準監督署の行政指導を受けた会社は、すみやかに指摘された法令違反事実を是正して労働基準監督官に是正・改善の方向を示さなければなりません。

会社が法令違反の事実を是正し労働環境を改善すれば、労働基準監督署の行政指導は終了します。会社の是正・改善が見られない場合は、刑事事件として検察庁に送検します。

(3)重大な法違反がある場合には捜査・逮捕

労働基準監督署では、重大な違反行為に対して労働基準監督官が通常逮捕、捜索、差押え、検証など警察官と同様の職務を行えます(労働基準法102条)。

労働基準監督官は、全国に約3200名おり、会社の監督指導、法令違反の強制捜査、送検などを行います。

近年では働き方改革により、会社の違反行為を厳しく取り締まるためにも労働基準監督官を増員する計画を推進しています。

(4)労災の給付

労働基準監督署では、労働基準法に基づいて、労働災害が起きた場合に労働者の申請により労災保険を給付します。

労働災害とは、労働者が仕事中に被った怪我、病気、死亡のことをいいます。労働者災害補償保険いわゆる労災保険とは、労働者が仕事中に被った怪我、病気、障害または死亡に対して労働者やその遺族に必要な保険給付を行う制度です。労災には、業務上の事故を扱う業務災害と通勤中の事故を扱う通勤災害があります。

例えば、長時間の残業によりうつ病になった、機械の誤作動により死亡した、通勤中に自動車と接触して事故をおこした、などの場合には労災が認められやすいでしょう。

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 2.労働基準監督署に相談する方法

労働基準監督署に相談するには、最寄りの労働基準監督署に訪問し労働トラブルごとに区分けされた相談窓口で問い合わせます。労働基準監督署では、労働基準法など関連法令が適用されない事案については、相談できないので注意が必要です。

労働基準監督署では、トラブルの種類により相談窓口が異なります。残業代の未払いや休日出勤手当の問い合わせなど、労働基準法の問題は方面課(監督課)の窓口で受け付けます。マスクの不備など労働安全衛生法に関わる問題は安全衛生課の窓口で相談しましょう。

 2-1.労働基準監督署に相談する前には

労働基準監督署に相談に行く前には、以下の準備をおすすめします。

(1)証拠を集める

労働基準監督署へ労働問題の相談に行く前には、違法行為の証拠となるものを取集しておくことが重要です。

例えば、賃金や残業代の未払い問題については、雇用契約書、就業規則、給与明細、タイムカード、シフト表、業務日誌などの証拠が有益です。

不当解雇や不当な懲戒処分に関しては、解雇通知書、解雇や懲戒処分のメールや書類などが必要になるでしょう。労働条件の問題では雇用契約書や給与明細が重要な証拠になります。

(2)相談する内容を整理する

労働基準監督署の窓口で担当者に相談する前に、相談したい問題の整理をしておくことでスムースに相談ができるようになります。具体的には、いつ、どこで、だれが、どのような問題になり、どんな被害があるのか、などです。

 2-2.労働基準監督署に相談するには

労働基準監督署に相談する方法は、以下の通りです。実名でも匿名でも相談できます。

(1)メール

厚生労働省の「労働基準関係情報メール窓口」から直接メールで相談できます。あくまでもメール相談であるため、労働基準監督署の指導監督が行われることはほとんどありません。

参考|厚生労働省>労働基準関係情報メール窓口

(2)電話

厚生労働省の「労働条件相談ホットライン」」に無料で電話ができます。相談に対する一般的な解決方法やアドバイスが受けられます。

電話番号:0120-811-610
時間:月・火・木・金 17時から22時まで
土・日10時から17時まで
※年末年始を除く

(3)直接訪問

全国各地にある最寄りの労働基準監督署に直接訪問して相談・申告します。特に解決が必要な重要な労働問題の場合は、直接訪問して相談することをおすすめします。会社の違法行為を証明できる証拠があれば、早急に対応してもらえる可能性が高くなります。

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 3.労働基準監督署に相談するメリット

労働問題を労働基準監督署に相談したらどのような効果があるのでしょうか?ここでは労働基準監督署に相談するメリットについて解説します。

3-1.無料で相談できる

労働基準監督署では、労働問題に関して誰でも無料で相談できます。労働基準監督署の窓口で担当者に相談することで、労働基準法に基づいた具体的なアドバイスや正しい法知識、あるいは今後の対処法などを教えてもらえます。

労働問題は、労働基準法その他の関連法令の知識が不可欠になるため、労働者が独断で判断することは難しく、場合によっては将来トラブルが大きくなる可能性もあります。

労働基準監督署の担当者は労働問題の専門家でもあるため、労働問題が法律上解決できるものなのか否か、どのような対応ができるのか、などの対応策を仰ぎましょう。

3-2.労働問題の調査・指導をしてくれる

労働基準監督署では、労働者からの労働問題について労働基準法違反がみられる場合、違反している会社に対して違反状態を是正し労働問題を改善するように指導・監督ができます。

再三注意したにも関わらず会社がこれに従わなかった場合は、労働基準監督署は労働基準監督官を送り、状況に応じて調査、是正勧告、逮捕などを行います。労働基準監督署に相談することで、会社に対して様々な対応をしてもらえます。

ただし、労働基準監督署はすべての労働問題に対応しているわけではないため注意が必要です。

 4.労働基準監督署に相談するデメリット

労働基準監督署に相談することでは、問題が解決できないことが多いというデメリットもあります。ここでは、労働基準監督署に相談するデメリットについて見ていきましょう。

4-1.対応できる問題が限られている

労働基準監督署は、労働基準法その他の労働関連法令に違反している事案を取り扱うため、相談内容が労働基準法違反であるのか否か明確でない場合は、対応してもらえないこともあります。

労働基準監督署に何らかの対応を求めたいときは、窓口で担当者に申告をしなければなりません。申告とは、違法行為を告発することで何らかの対応を求める手続きのことです。

労働基準監督署では、窓口で相談したからといって全ての事案について迅速に対応するというわけではないので注意が必要です。労働基準監督署に相談しても意味がないという所以はこのように対応できる問題が制限されていることにあるでしょう。

4-2.労働者の権利が実現されにくい

労働基準監督署や各都道府県の労働局に寄せられる相談件数は、年間100万件以上にも上りますが、全国の労働基準監督官は3000人足らずです。

したがって、相談しても対応してもらえる事案は人命にかかわるような労働災害など緊急を要する問題が優先的になり、賃金や残業代の請求など金銭的な問題に関しては後回しにされてしまうのが現状です。

ここにも、労働基準監督署に相談をしても意味がないと言われる理由が見られます。

そこで、次章では相談しても労働基準監督署が動かない理由と事理を詳しく見ていきます。

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 5.労働基準監督署が動かない理由と事例

労働基準監督署は、労働者の味方として労働者の権利救済のために動いてくれるイメージがあるかもしれません。しかし、現状は1人の労働者のために常に労働基準監督署が対応してくれる、というわけではありません。

例えば、警察が国家の安全を図るために税金で動くのと同様に、労働基準監督署も会社に労働法を守らせるように働きかけるのであり、労働者個人の権利を実現するために動くわけではないのです。

労働基準監督署への相談は意味ない、労働基準監督署は役にたたないといわれるのは、こうした理由にも起因するでしょう。

本章では、労働基準監督署が動かない理由と事例について解説します。

5-1.労働基準監督署が動かない理由

労働基準監督署に相談・通報しても、何ら解決にはつながらない理由は、以下の通りです。

(1)労働基準法などの法令違反がない

労働基準監督署は、労働基準法などに違反した事案のみを取り締まるのが任務であり、労働法などの法令違反がない、あるいは労働法などの適用によっても解決できない事案でなければ動きません。

例えば、刑事罰のない労働基準法などの違反がある事案であったり、労働基準法などに違反するのか判断が微妙な労働問題については解決になじまないため動いてくれないことも多いでしょう。

(2)労働基準監督署の扱わない法違反である

労働基準監督署は、労働基準法や労働安全衛生法など労働関係法令に違反する事案を扱います。これらの法律は、労働者の最低限度の労働条件や国家の安全を守るための重要な法律であるため、刑事罰がつけられ、労働基準監督署により厳しく指導されています。

例えば、刑事罰のついていない労働法や民法により解決する事案については、労基準監督署に相談しても動いてくれないでしょう。刑事罰のない労働法違反は民事扱いになるため、労働基準監督署は、警察と同じ民事不介入の理由から動いてくれないことも多くあります。

その典型的なものが、次に解説するパワハラなどのハラスメントや不当解雇の事例です。

5-2.労働基準監督署が動かない事例

労働基準監督署に相談しても動かない事例は、以下の通りです。

(1)パワハラなどのハラスメント行為は不法行為違反

パワハラは民法の不法行為(709条)にあたるため、労働基準監督署は動くことはほぼありません。匿名で証拠不十分の場合はパワハラ自体が見逃される可能性があるでしょう。

(2)不当解雇

会社の解雇に合理的な理由があるか、解雇が社会通念上相当と言えるか、などの判断が必要な事案であるため、労働基準監督署での判断は労働審判や民事裁判に委ねられます。

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6.労働基準監督署に動いてもらうためには

それでは、労働基準監督署に動いてもらうためには具体的にどのような方法があるのでしょうか?

ここでは、よくある労働問題のケースをあげながら労働基準監督署を動かす方法について紹介します。

6-1.賃金の未払いがある場合

残業代や退職金などの未払い金がある場合は、労働基準監督署を動かすためには未払い金の金額が高額である、未払いが悪質であるなどの状況を理解してもらうことが重要です。

6-2.パワハラなどの被害がある場合

パワハラ問題がある場合は、労働者の被害の状況が甚大であることを労働基準監督署に理解してもらう必要があります。被害を証明できる診断書などの証拠が有用でしょう。

6-3.不当解雇などの問題がある場合

不当解雇の原因をめぐり労働基準監督署が動かない事案の典型です。労働審判、民事裁判の判断を得ることができれば労働基準監督署が動いてくれるかもしれません。

 7.労働基準監督署に通報する際の注意点

ここでは、労働基準監督署に通報する際の注意点について解説します。

 7-1.訪問して実名で相談する

労働基準監督署に匿名で相談すると、事実関係が特定できないため対応してもらえない可能性が高くなります。匿名の電話やメールでの相談は、話すら充分に聞いてもらえないこともあります。

労働基準監督署に相談・通報する際は、窓口に訪問して実名で面談を行いましょう。

 7-2.事実関係を整理し証拠を収集する

労働基準監督署に相談をする前に、事実関係を整理し会社の違法性を証明するための証拠を収集しましょう。事実関係は、時系列に沿って整理しておきましょう。

 7-3.希望を明確に伝える

労働基準監督署に相談する場合は、調査や監督指導など希望することを明確に伝えることが重要です。担当者と面談の際に、その都度確認をとりながら話を進めるとよいでしょう。

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 8.労働基準監督署以外の相談先は?

最後に、労働基準監督署以外に相談できるところを紹介します。

8-1.総合労働相談コーナー

厚生労働省の総合労働相談コーナーでは、各種ハラスメント、不当解雇、未払い賃金などのあらゆる労働問題の相談を受付けています。

8-2.労働局

厚生労働省の管轄する各都道府県にある労働局では、労働問題全般についてのアドバイスやあっせんを行っています。

8-3.弁護士

あらゆる労働問題について法的観点からアドバイスを行い、必要に応じて審判や訴訟の代理を行います。

 9.労働基準監督署が対応できない・動かない場合は弁護士に相談しましょう

労働基準監督署が対応できない・動かない場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。裁判所に訴訟をおこすことで解決できることもありますが、訴訟の前に理解しておかなければならない法律や判例、訴訟の手続きなどの専門的な法知識があります。

弁護士に相談することで、事案に応じた最適な法的アドバイスを受けることができます。また、証拠の収集や書面の作成あるいは会社との交渉なども代行してくれるので、労働問題にお悩みの際は、まずは弁護士に相談しましょう。初回無料相談を実施している事務所もあるので、お気軽にお問い合わせください。

10.まとめ

今回は、労働基準監督署が動かない理由や事例またその対応策などについて解説しました。

労働基準監督署に相談する際は、相談のポイントを知ることで労働基準監督署に動いてもらいやすくなります。

労働基準監督署への相談は決して意味がないわけではなく、動かない場合はそれなりの理由があることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

労働問題でお困りの際は、弁護士にぜひご相談ください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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