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雇用契約を更新せずに働くのは違法?対処法を弁護士が解説!

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雇用契約の期間が定められている契約を有期雇用契約といいます。

有期雇用契約を締結した場合、労働者が雇用期間を過ぎても働く場合には、雇用契約を更新しなければなりません。

本記事では、有期雇用契約で働き続けるために、有期雇用契約の基礎知識と、契約更新をしないまま働くことに、どのような問題があるかについてお伝えします。

1.有期雇用契約と基礎知識

有期雇用契約の社員が契約更新をしないまま働くことにどのような問題があるのかを検討するためには、有期雇用契約に関する法律等の基礎的な知識を確認しておく必要があります。

1-1.有期労働契約とは

有期雇用契約とは雇用期間が決められた雇用契約のことをいいます。

雇用契約とは、使用者(会社)と労働者の間で、労働者が労務を提供し、使用者が提供された労務に対して賃金(給与)を支払うという契約です。

有期雇用契約は、その労務を提供する期間が決められているということです。

有期雇用契約と対となる概念が無期雇用契約で、これは期間の定めのない雇用契約ということです。

有期雇用契約となっている労働者は、「契約社員」などと呼ばれることがあり、アルバイトやパートなどの時間給で働く者や、日雇い労働者なども有期雇用となっている場合が多いでしょう。

なお、労働基準法上の労働者として保護を受けるのは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」ですので(労働基準法9条)、有期雇用契約であっても労働基準法をはじめとした法律の適用があります。

1-2.有期労働契約の契約期間に関する制限

この有期労働契約の契約期間に関しては、労働基準法14条で、

  • 原則としては3年を超えることはできない
  • 一定の事業の完了に必要な期間を定める場合
  • 高度な専門知識・技術・又は経験が必要とされるもので厚生労働大臣が定める基準に該当する専門知識を有する労働者の場合には5年
  • 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約の場合も5年

などのルールを定めています。

一定の事業の完了に必要な期間を定める場合とは、特定の事業を行うために有期労働契約を結ぶような場合です。

例えば、ある工事をするのに約4年がかかると見込まれる場合、4年の期間を定める有期雇用契約を結ぶことが可能です。

また、高度な専門知識・技術・経験が必要とされるもので厚生労働大臣が定める基準に該当する専門知識を有する労働者・満60歳以上の労働者との有期契約は5年まで契約期間を伸ばすことができます。

前者については、厚生労働省告示第六十七号で次の者が挙げられています。

  • 博士の学位を有する者
  • 次に掲げるいずれかの資格を有する者
    • 公認会計士
    • 医師
    • 歯科医師
    • 獣医師
    • 弁護士
    • 一級建築士
    • 税理士
    • 薬剤師
    • 社会保険労務士
    • 不動産鑑定士
    • 技術士
    • 弁理士
  • ITストラテジスト試験に合格した者
  • システムアナリスト試験に合格した者
  • アクチュアリーに関する資格試験
  • 特許法における特許発明の発明者
  • 意匠法における登録意匠を創作者
  • 種苗法における登録品種を育成者
  • 一定の学歴・職務経験を有する次の者のうち、年収1,075万円以上の者
    • 学歴
      • 大学卒:5年以上
      • 短大・高専卒:6年以上
      • 高校卒:7年以上
    • 職歴
      • 農林水産業の技術者
      • 鉱工業の技術者
      • 機械・電気・土木・建築に関する技術者
      • システムエンジニア
      • 衣服・室内装飾・工業製品・広告等の新たなデザインの考案の業務に就こうとする者
  • 5年以上の経験を有するシステムエンジニアで、年収1,075万円以上の者
  • 国・地方公共団体・一般社団法人又は一般財団法人その他これらに準ずるものによりその有する知識、技術又は経験が優れたものであると認定されている者

なお、有期労働契約について、下限を明確に定める法律はありません。

しかし、労働契約法17条2項は、「有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」と規定して、労働契約の目的に沿った期間の設定をするよう要請しています。

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1-3.有期労働契約は更新をすることができる

この有期労働契約は、その契約で定められた契約期間においてのみ有効です。

そのため、有期労働契約に定められた期間を満了した場合には、有期労働契約は終了することになります。

しかし、企業は再び労働者と有期労働契約を結ぶことは可能ですので、従来の契約を更新することも可能です。

そのため、有期労働契約を更新することができ、労働者は有期労働契約であっても、その企業が更新をしてくる以上は、続けて勤務し続けることが可能となっています。

1-4.有期労働契約をする場合の労働者に対する明示

労働契約を結ぶにあたっては、使用者は労働者に対して、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされています(労働基準法15条1項)。

明示すべきその他の労働条件については、労働基準法施行規則5条で規定されているのですが、有期労働契約をする場合には1号の2で「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項を明示すべき」とされています。

そのため、有期労働契約の更新については、労働契約書や労働条件通知書などで確認をすることが可能です。

そして、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(厚生労働省告示第三百五十七号)の1条では、契約の更新の有無・契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければならないとしています。

厚生労働省が発表しているリーフレット「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」の記載例として、下記のようなものが挙げられています。

有期労働契約の更新の有無

・自動的に更新する

・更新する場合があり得る

・契約の更新はしない

「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」

有期労働契約の更新の判断基準

・契約期間満了時の業務量により判断する

・労働者の勤務成績、態度により判断する

・労働者の能力により判断する

・会社の経営状況により判断する

・従事している業務の進捗状況により判断する

「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」

などの記載を推奨しています。

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1-5.有期労働契約の更新の推定

もし、有期労働契約の期間が満了したにも関わらず、特に手続きをしない場合、労働契約はどうなるのでしょうか。

当然ですが、有期労働契約の期間は、その期間においてのみ有効であって、期間を過ぎた契約に効力を及ぼしません。

しかし、会社から引き続き働くことを求められたり、会社に行って今までどおり働いているということもあります。

この場合、会社が異議を述べない限り、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する旨の規定が民法629条1項で規定されています。

雇用したものと「推定」されることになるので、すでに契約は終了したものと証明する責任が使用者側に課せられます。

1-6.契約期間中の解雇

有期雇用契約の契約期間中における解雇は、民法・労働契約法それぞれ「やむを得ない理由」がある場合のみ解雇をすることを認めています(民法628条・労働契約法17条)。

「やむをえない事由」に該当するかどうかは厳しく判断され、判例では、

労働者の行動に問題があったとして4年の有期雇用契約期間中に解雇した事例において、「関係者への配慮を欠いた発言や思慮を欠くというべき行動を取っており、塾長としての見識が十分でない面があることは否定できないが、そのような行動についても極めて不適切とまではいえないこと、4年任期の初年度に塾長として一定の成果を出していたこと、Xの経歴からはYにおいてその経験不足の点を補完すべきであったところ、それを全うしたとは認められないことなどの諸事情を勘案」して解雇を無効とした事例

学校法人東奥義塾事件:仙台高裁秋田支部平24年1月25日判決

派遣先の業績悪化にともなって労働者派遣契約を中途解約された場合に、派遣元が労働者との契約を「やむを得ない事由」があるとして解雇をしたケースで、「①経営上の理由を真摯に説明して希望退職を募集すれば多くの派遣労働者がこれに応じ、Xらの解雇を回避しうる可能性が高かったにもかかわらず、解雇以外の措置を採らなかったこと、②派遣労働契約書や解雇予告通知書の記載に反し、Xらに対して他の派遣先を斡旋するなど、就業機会確保の具体的努力をまったくせずに解雇したこと、③Xら派遣労働者に人員削減の必要性を説明せずに一方的に解雇を通告し、合意解約の体裁を整えるため退職届を提出するよう指示するなど、解雇手続が明らかに相当性を欠くことから、明らかに同条の無効要件に該当する」として解雇を無効とした事例

プレミアライン事件 宇都宮地裁栃木支部平21年4月28日決定

など、厳しい基準での判断を行っています。

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1-7.有期雇用契約の雇止めの予告

有期雇用契約を更新しないことを「雇止め」と呼んでいます。

雇止めをする場合に、労働契約法14条2項では「使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる」としています。

これを受けて定められた「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(厚生労働省告示第三百五十七号)」の2条によると、あらかじめ有期労働契約を更新しないと明示さている

ものを除いて

  • 有期労働契約を3回以上更新
  • 雇用した日から1年を超えて継続勤務している者

に対して、有期労働契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならないとしています。

1-8.有期雇用契約の雇止め理由の通知

有期雇用契約の雇止めをする場合には、上述の事前の予告の他に、労働者が有期労働契約を更新しないこととする理由についての証明書を請求した場合に、会社は遅滞なくこれを交付しなければなりません(有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準3条)。

解雇と同様の手続き的な保護を与えているといえます。

1-9.雇止め法理

労働契約法第19条では、

  • 有期労働契約が過去になんどか反復して更新されている場合で、有期労働契約の雇止めが、無期雇用契約における解雇の意思表示をするのと、社会通念上同視できる場合
  • 有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がると認められる場合

のいずれかに該当し、

  • 労働者が有期労働契約の満了日までの間に更新の申込みをした
  • 契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした

というときに、会社がこの申込を拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、従来の有期雇用契約の内容と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす、と規定しています。

「みなす」というのは、「推定」と異なり、反証をしても効力をくつがえすことができないもので、有期雇用契約の労働者に強い保護を与えています。

このような保護のことを「雇止め法理」と呼んでおり、過去の裁判例を労働契約法において明文化したものです。

1-10.無期転換ルール

有期労働契約については、無期転換ルールというものがあります。

労働契約法18条は、

  • 同じ使用者との間で締結された2以上の有期労働契約がある
  • 契約期間を通算した期間が5年を超える労働者

について、無期労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす、としています。

このルールの適用を受けて無期労働契約となるのを避けるために雇止めを行った場合には、上述の雇止め法理によって無効とされる可能性が高いといえます。

ただし、

  • 高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者
  • 定年後に引き続き雇用される有期雇用労働者

については例外もあります。

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2.有期雇用契約の社員が契約更新をしないまま働くことの問題点

前置きが長くなりましたが、有期雇用契約の社員が、契約更新をしないまま働くことについて、どのような問題があるのでしょうか。

2-1.従来の有期労働契約の効力は決められた期限のみで有効

まず、従来の有期労働契約については、決められた契約期間でのみ有効で、期限後にそのまま働いても、従来の有期労働契約が適用されるわけではありません

2-2.契約更新をしないまま働いた場合には民法による推定を受ける

従来の有期労働契約の期間を過ぎても、なお働き続けている場合には、上述したように有期労働契約が従来の契約内容で更新されたものという、民法629条1項の推定を受けます。

そのため、従来の契約内容に従った賃金の支払いを会社に対して請求することが可能です。

更新後に給与を下げる・福利厚生を与えないという場合には、契約更新時にその旨の契約をしなおす必要があります。

特にこのような契約がないまま、給与を下げられた・福利厚生を与えない、という場合には、契約違反となります。

なお、従来の有期労働契約において、労働条件通知書で更新は無いとされていた場合に、契約期間を過ぎても働いていた場合に、会社が更新は無いと記載した労働条件通知書を証拠として、推定を覆そうとする可能性があります。

そのため、従来の有期労働契約についての労働条件通知書において、労働契約の更新はないとしていた場合には、会社に更新の有無についてきちんと確認しておくべきでしょう。

2-3.会社は労働条件の明示をしていないことになり労働基準法違反に

有期労働契約の更新をする場合、古い契約についてはその期限の到来によって効力を失い、新しい期限による契約がされることになります。

この場合に、新しい契約について何らの書面を交わさないことは、たとえ契約期間以外が前回の有期労働契約と同一であっても、労働基準法15条が定める労働条件の明示をしていないことになります。

労働基準法15条の明示違反については、行政指導の対象になるほか、労働基準法120条1号で30万円以下の罰金刑が定められており、刑事事件にもなりうるものです。

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3.有期労働契約の契約更新をしないまま働きトラブルになった場合の対応

有期雇用契約の契約更新をしないまま働き、トラブルになった場合の対処法について確認しましょう。

3-1.労働契約更新の有無・労働条件の明示・雇止めの理由開示

有期労働契約の契約更新をしないまま働き、トラブルになった場合には、まず会社に労働契約更新をしたのかを確認しましょう。

その結果、労働条件を更新したものの、従来の条件とは異なると主張する場合には、まず労働条件の明示をしてもらいます。

もし、労働契約を更新していないと主張する場合には、上述の雇止めの理由開示をしてもらいます。

これらに応じない場合には、労働基準法違反・労働契約法違反となるので、労働基準監督署に通告してみましょう。

3-2.時系列の成立と証拠の収集

有期労働契約については、ここまでお伝えしたように、契約更新前後にわたって様々なことを労働者・会社が行うことになります。

従来の有期労働契約がどのような内容であったか、ここまで何回更新して、何年が経過しているか、雇止めの通知をしなければいけないのはいつか、いつが契約の期限なのか、いつ更新の申込みを行ったのか、などの事実によって、ここまでご紹介したようないろいろな有期労働契約に関するルールが適用されることがあります。

そのため、トラブルに至るまでの事実関係を時系列で整理しましょう。

また、トラブルになった際には、証拠の存在も重要です。

そのため、事実関係を証明する証拠を収集します。

3-3.弁護士に相談する

有期労働契約の契約更新についてトラブルになった場合には、早めに弁護士に相談しましょう。

有期労働契約および労働契約の更新については、細かい法的知識の他に、争いになった場合には労働審判・民事訴訟など、手続きに関する知識も欠かせません。

トラブルの解決のために、どのような有期労働契約に関するルールを主張して、どのような証拠を収集し、どのような手続きによって解決すべきか、はケースによります。

とくに、相手との交渉が難航してしまうと、証拠の収集が非常に難しくなるケースもあるので、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

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4.まとめ

この記事では、有期労働契約の契約更新をしないまま働くとどのような問題が発生するかについて、有期労働契約に関するルールを解説しながらお伝えしました。

一見契約を雇用関係を終了させやすい有期労働契約ですが、労働者の保護の観点から様々なルールが策定されており、その内容は非常に細かいものになっています。

労働契約を更新しないで働く場合には、従来の労働契約の内容を守ってもらえない、突然雇止めに遭うなどのトラブルに発展する可能性があるのですが、これらのルールによって保護される可能性もあります。

そのルールは非常に細かく、証拠の収集が必要である場合もあるので、できる限り早めに弁護士に相談するようにしてください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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