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未払賃金立替払制度とは?要件や手続きの流れを弁護士が解説!

未払賃金立替払制度とは?要件や手続きの流れを弁護士が解説!

「会社が倒産してしまった。給料やボーナスはどうなりますか?」

「退職した会社に対して未払いの残業代を請求しようと思っていたら会社が倒産してしまった。残業代ももらえなくなるんですか?」

等、勤めている(た)会社が倒産してしまった場合、給料や残業代等の支払いが受けられるのか不安になる方は多いと思います。

本記事では、会社が倒産した場合に独立行政法人・労働者健康安全機構から従業員の給料等の立替払いを受けることができる「未払賃金立替払制度」について、要件や請求手続の流れ等を弁護士が解説します。

目次

1. 未払賃金立替払制度とは

未払賃金立替払制度とは、企業の倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて、その賃金の一部を政府が事業主(当該企業)に代わって支払う制度です。

この制度は労働者と家族の生活の安定を図るセーフティーネットの役割を担っています。実際の立替払業務は、独立行政法人・労働者健康安全機構(以下「機構」と表記)が実施しています。

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2. 未払賃金立替制度で労働者はいくら補償されるのか

本章では、未払賃金立替制度で補償される賃金の範囲・金額等について解説します。

2-1. 立替払の対象となる「未払賃金」の範囲

立替払の対象となる「未払賃金」は、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までに支払期日が到来している①「定期賃金」と②「退職手当」の中で未払になっている分をいいます。

①定期賃金

労働基準法第24条2項に規定する、「毎月・一定期日に・決まって支払われる賃金」をいいます。

②退職手当

退職手当規程等に基づいて支給される退職一時金及び退職年金がこれに該当します。

2-2. 立替払を受けられる金額

立替払いを受けることができる額は、未払賃金総額の8割です。ただし、退職日の年齢による限度額があります(下表参照)。

未払賃金の立替払額 = (未払賃金総額/限度額 のいずれか低い方の額) × 0.8

[未払賃金総額の限度額]

退職日の年齢未払賃金総額の限度額立替払の上限額(限度額×0.8)
45歳以上370万円296万円
30歳以上45歳未満220万円176万円
30歳未満110万円88万円

【例1】

退職時の年齢が35歳で、未払賃金が150万円(定期賃金30万円、退職金120万円)ある場合

→30歳以上45歳未満の未払賃金総額の限度額220万円を超えていないので

立替払額 = 150 × 0.8 =120万円

【例2】

退職時の年齢が48歳で、未払賃金が400万円(定期賃金が100万円、退職金が300万円)ある場合

→45歳以上の未払賃金総額の限度額370万円を超えているので

立替払額 = 370 × 0.8 = 296万円

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3. 未払賃金立替払制度を利用するための要件とは

本章では、未払賃金立替払制度を利用するための、従業員側に求められる要件について解説します。

3-1. 倒産した会社に「労働者」として雇用されていたこと

まず、当該従業員が以下の①及び②要件を満たすことが必要となります(賃確法第7条)。

  • ①労災保険が適用され、1年以上事業活動を行っていた事業主に雇用されていた労働者であること
  • ②企業倒産に伴い、賃金の支払いを受けていないまま退職したこと

「労災保険の適用事業」は、労働者を1人以上使用する事業であれば、農林水産業や家族企業を除くほぼすべての事業に該当します。

「労働者」とは、労働基準法第9条に定められた「労働者」、つまり労働の対価として賃金の支払いを受けていた人をいいます。パートやアルバイト等の従業員も含まれます。

なお、倒産した事業主の同居の親族・家内労働法による内職等に従事する家内労働者及び、代表権を有する会社役員等は「労働者」に含まれません。

3-2. 退職日が倒産の日の6か月前の日から2年の間であること

また、退職した期間についても、「倒産手続開始日※の6か月前の日から2年間」に限定されます。

※倒産手続開始日

  • ①法律上の倒産の場合:裁判所への破産手続開始等の申立を行った日
  • ②事実上の倒産の場合:労働基準監督署長に対する事実上の倒産の認定申請を行った日

例:会社が破産手続開始等の申立てを行った日が2023[R5]年7月15日の場合

この場合、立替払の対象となるのは、2023年1月15日から2025[R7]年1月14日の間に退職した方となります。

なお、退職した時点で①または②が行われていなかった場合、退職後6か月以内に①または日の手続がなされなかった場合は立替払の対象になりません。

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4. 未払賃金立替払制度が適用される倒産の条件

倒産という言葉は一般的に使われていますが、未払賃金立替払制度の適用を受けるには「法律上の倒産」または「事実上の倒産」の条件に該当している必要があります。

本章では、「法律上の倒産」及び「事実上の倒産」の条件について解説します。

4-1. 法律上の倒産

法律上の倒産は、下記の各法律で定められた手続開始が決定された場合をいいます。

  • ①破産手続開始の決定(破産法第19条1項)
  • ②特別清算手続開始の命令(会社法第510条)
  • ③再生手続開始の決定(民事再生法第33条)
  • ④更生手続開始の決定(会社更生法第41条)

4-2. 事実上の倒産

事実上の倒産は、労働基準監督署長が中小企業に対して以下の①及び②に該当すると認定した場合に適用される条件です(賃金支払いの確保等に関する法律第7条、第8条、同施行令第2条第1項4号)。

  • ①企業が倒産して事業活動が停止し、再開する見込みがなくなった
  • ②賃金支払い能力がない状態になった

「事業活動停止」とは、事業場が閉鎖され、労働者全員が解雇される等によって、その事業本来の事業活動が停止した場合をいいます。

事業の廃止のために必要な清算活動を行っている場合はこれに該当します。他方、事業規模を縮小してもその事業本来の事業活動を継続している場合は該当しません。

「再開の見込みがなくなった」とは、事業主が事業再開の意思を放棄した場合、または生産活動に入る等によって事業を再開する見込みがなくなった場合をいいます。

②「賃金支払い能力がない状態」とは、事業主に賃金の支払いに充てられる資産がなく、かつ資金の借入れ等を行っても賃金支払の見込みがない場合をいいます。

この点、債務超過(負債額が資産額を上回る状態)であるというだけでは「賃金支払い能力がない状態」とはいえません。

なお、「中小企業」とは以下の要件に該当する企業をいいます。

資本の額または出資の総額常時使用する労働者数
一般産業(卸売業・サービス業・小売業を除く)3億円以下の法人300人以下
卸売業1億円以下の法人100人以下
サービス業5,000万円以下の法人100人以下
小売業5,000万円以下の法人50人以下

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5. 未払賃金立替払制度の手続の流れ

本章では、法律上の倒産の場合・事実上の倒産の場合それぞれについて、未払賃金立替払制度の手続きの流れを解説します。

5-1. 法律上の倒産の場合

法律上の倒産の場合の手続の流れは、立替払請求の必要事項の証明申請→機構に対する立替払請求→機構から証明者への照会→立替払い決定・支払いとなります。

(1)立替払請求の必要事項の証明申請

立替払の請求者は、倒産の区分に応じた証明者に対して、必要事項についての証明を申請します。

倒産の区分証明者
破産破産管財人
特別清算清算人
民事再生再生債務者(管財人)
会社更生管財人

(2)機構に対する立替払い請求

証明者から証明書が交付されたら、「立替払請求書」及び「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入し、証明者から送付された証明書または確認通知書を添付して、機構に送付します。

(3)証明を得られなかった事項がある場合

立替払請求の必要事項の全部または一部について、証明者から証明を得られなかった場合、立替払請求者は労働基準監督署長に対して、証明を得られなかった事項についての確認申請ができます。

(4)照会

立替払申請を受けた機構から、証明者に対して照会を行います。

(5)立替払決定及び支払い

照会・審査の上、立替払いを決定して申請者に対して支払いを行います。

なお、立替払金については、法律上の倒産・事実上の倒産どちらの場合でも、定期賃金・退職金が税法上「退職所得」として扱われ、他の所得とは分離して課税されます(租税特別措置法第29条の4)。

退職所得については退職所得控除が認められています。実際に控除を受けるためには、立替払請求書の「退職所得の受給に関する申告書」への記入が必要です。

5-2. 事実上の倒産の場合

事実上の倒産の場合は、法律上の倒産の場合と異なり、立替払の請求者が労働基準監督署に

相談した上で事実上の倒産についての認定申請及び立替払の必要事項についての確認申請を行う形で行われます。

(1)労働基準監督署長に対する認定申請

立替払請求者は労働基準監督署長に対して、当該事業場が①事業活動を停止し ②事業活動再開の見込みがなく、かつ③賃金支払能力がない状態になったことについて認定の申請を行います。

当該事業場を退職した立替払請求者が2人以上いる場合は、そのうちの1人が認定を受ければ、その効果は他の退職労働者に対しても及びます。

(2)労働基準監督署長に対する確認申請

労働基準監督署長から認定通知書が交付されたら、立替払請求者は労働基準監督署長に対して、立替払請求の必要事項についての確認申請を行います。

(3)機構に対する立替払請求

労働基準監督署長から確認通知書が交付されたら、立替払請求者は「立替払請求書」及び「退職所得の需給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入し、確認通知書と切り離さずに機構に送付します。

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6. 未払賃金立替払制度を利用する際の注意点

本章では、未払賃金立替払制度を利用する際に注意すべき点について解説します。

6-1.立替払制度対象者となる退職日の「2年間」と立替払請求可能な期間の「2年間」の時期の違いに注意

前述のように、立替払制度の対象者の要件としての退職期間は「倒産手続開始日の6か月前の日から2年間」です。

これに対して、当該労働者が立替払の請求ができる期間は以下の通りです。

①法律上の倒産の場合:裁判所の破産手続の開始等の決定日または命令日の翌日から起算して2年以内

②事実上の倒産の場合:労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内

前述の法律上の倒産の例「会社が破産手続開始等の申立てを行った日が2023[R5]年7月15日の場合」で、それを受けた破産手続開始決定日が同年8月20日であったとします(破産手続開始の申立てから裁判所による決定までは通常1か月程度かかります)。

まず、立替払の対象となるのは前述の通り2023年1月15日から2025[R7]年1月14日の間に退職した方となります。

他方、立替払の請求ができる期間は2023年8月21日から2025年8月20日までとなります。

6-2. 立替払請求から支給までは通常1か月程度かかる

立替払請求が認められた場合、請求者本人宛に立替払額・振込日等を記載した「未払賃金立替払支給決定通知書」が届きます。

請求送付から支払い(本人指定の口座への入金)までは通常1か月程度かかります。ただし、記載内容の補正や提出書類の追加等が必要な場合にはそれ以上かかる可能性があります。

立替払請求書を送付してから1ヶ月半以上経過しても支払通知書が届かない場合には、機構に問い合わせてください。

6-3.ボーナスは立替払いの対象にならない

第2章で述べたように、立替払の対象となる「未払賃金」は、退職日の6か月前の日から機構に対する立替払請求の日の前日までに支払期日が到来している①「定期賃金」と②「退職手当」の中で未払になっている分をいいます。

ボーナスについては労働基準法上の「賃金」には含まれますが、立替払制度の対象となる賃金は上記の定期賃金と退職手当に限られるため、立替払いの対象となっていません。

その他、出張費や業務用の物品代金等、個々の従業員に実費弁償されていた金銭、解雇予告手当等も立替払いの対象となっていないことに注意が必要です。

6-4. 退職金は就業規則等の会社規程で明記されていなければ立替払の対象とならない

退職金(退職手当)については立替払制度の対象となる「賃金」に含まれるのですが、会社が退職手当を支給することは法律上義務づけられていません。会社(事業主)がその従業員に対して退職金を支払うことが就業規則、労働契約、賃金規程に明記されている場合に限り、立替払制度の対象となります。

なお、退職金についての明文の定めがある場合でも、会社が中小企業退職金共済制度等の企業外拠出の退職手当制度を採用している場合は、共済から支払われた給付金を差し引いた額が未払退職金となります。

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7. 未払賃金立替払制度に関するよくあるQ&A

本章では、未払賃金立替払制度に関して頂くことが多い質問と、それに対する回答をご紹介します。

7-1. 倒産した会社が労災保険に加入していなかったり、保険料が未納になっているような場合でも従業員は未払賃金の立替払いを受けられますか?

そのような場合でも、立替払いを受けることができます。

未払賃金立替払制度が適用となる企業は、「労災保険の適用事業として1年以上にわたって事業活動を行ってきた企業」です。

この「労災保険の適用事業」には、農林水産業の一部を除き、労働者を使用するすべての事業が含まれます。実際に労災保険に加入しているか否かや、保険料を遅滞なく納付しているか否か等は問われません。

7-2.パートやアルバイトの給料についても立替払の請求ができますか?

雇用形態を問わず。「労災保険が適用される事業場に雇われて賃金を得ていた労働者」に該当する方であれば未払賃金の立替払いの対象となります。従って、パートタイマーやアルバイトの従業員であった方についても立替払いを請求できます。

ただし、派遣社員については、雇用主が派遣先ではなく派遣元の会社となるため、倒産したのが派遣先の会社である場合には立替払制度の「労働者」に含まれません。

7-3.会社が営業を続けている場合は、未払賃金があっても立替払制度の対象にはならないのでしょうか?

会社が営業を続けている場合でも、未払賃金立替払制度が定める「倒産」に該当する場合には立替払制度の対象となります。破産や事実上の倒産等の場合は事業活動が停止状態となっていますが、民事再生手続等の場合は事業活動が継続している場合があります。

仮に、会社が民事再生手続を行っている場合は、営業を続けていても本制度の「倒産」に該当するので、立替払制度の対象になります。他方、立替払制度の対象にならなかったとしても会社が営業を継続している場合は、法律上未払賃金の請求が可能です。倒産や立替払制度についてのご質問も含めて、未払賃金の請求について弁護士に相談することをお勧めします。

7-4. 立替払いの金額に上限があることは知っていますが、下限はありますか?

未払賃金の総額が2万円未満の場合には、立替払制度の対象とはなりません。その意味で、2万円の8割の16,000円が「下限(最少額)」といえます。

7-5. 月給制の労働者がある月の途中で退職した場合には、未払賃金はどのように計算するのでしょうか?

月給制の労働者が賃金計算期間の途中で退職した場合は、出勤日数に応じて日割りで賃金を計算します。

日割計算の方法については、就業規則等で定められている場合はそれに基づいて計算します。就業規則等の定めがない場合は、所定労働日数を用いて計算します。所定労働日数が月によって異なる場合は1年間の平均所定労働日数を用いて計算します。

計算式:

(当月の月給分の未払賃金額)  = (月給額) × (実労働日数) / (所定労働日数or平均所定労働日数)

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8. まとめ

会社が倒産して、会社に対して未払いの賃金を請求することができなくなった場合でも、退職期間等の一定の要件を満たしていれば、未払賃金立替払制度を利用することができます。正社員に限らず、パートやアルバイト等の従業員であっても立替払制度の対象となります。

立替払制度の申請手続は、会社が法律上の倒産をしているか事実上の倒産をしているかによって異なります。また、立替払制度の対象となる賃金は基本給と退職金(支給についての定めがある場合)に限られることや、退職時の年齢によって立替払金額に上限があること等、様々な注意事項があります。

会社が倒産している、あるいは倒産寸前の状況にある場合は、そもそも未払いの賃金を会社に対して請求できるのか、それとも立替払制度を利用すべきなのか、労働者側で判断することは難しいです。

この点、労働問題を専門とする弁護士に相談すれば、まずどちらの手段をとるべきか的確に判断を得ることができます。また、会社や管財人との交渉や、立替払請求の申請書類の作成、事実上の倒産の場合の労働基準監督署とのやり取り等、すべての手続を任せることができます。

会社が倒産した、あるいは倒産しそうになっていて未払賃金の請求に不安がある方は、弁護士にご相談ください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

福永 臣吾
福永 臣吾法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2005年3月 慶應義塾大学経済学部 卒業
2011年3月 一橋大学法科大学院 修了
2014年12月 最高裁判所 司法研修所(鹿児島地方裁判所配属) 修了
2015年1月 弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
2015年4月 弁護士法人アディーレ法律事務所鹿児島支店支店長 就任
2023年9月 法律事務所リーガルスマート入所
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