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みなし残業(固定残業代制)とは?従業員向けにわかりやすく解説

みなし残業(固定残業代制)とは?従業員向けにわかりやすく解説
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求人欄などで「みなし残業代〇時間を含む」という記載を見たことがあるでしょうか。みなし残業代と聞いて、残業代が出ないと誤解している方がいらっしゃるかもしれません。企業によってはみなし残業制を悪用して残業代を出さないブラック企業も存在します。

そこで今回は、みなし残業とは何かを説明した上で、みなし残業のメリット・デメリット、みなし残業制における残業代請求の方法などについてわかりやすく解説します。

1.みなし残業(固定残業代制)とは?

「みなし残業」とは、「固定残業代制」とも呼ばれ、実際に残業したか否かに関係なく、基本給にあらかじめ所定時間分の残業代を含めて給与として支給する制度をいいます。

例えば「みなし残業代10時間を含む」という条件で、残業代が1時間あたり割増率を含めて2,500円だったとすると、25,000円があらかじめ残業代として支給されます。この場合、実際の残業時間はゼロだったとしても、10時間残業したとみなして25,000円が支払われます。

このように、みなし残業とは、あらかじめ所定時間残業したとみなして残業代を支払う制度であり、実際に残業していなかったとしても残業代が支払われるという点が通常の残業代の発生と異なる部分です。

2.みなし残業の仕組み

先ほども説明したとおり、みなし残業は、実際の残業時間とは関係なく、あらかじめ所定時間分の残業代を基本給に含めて支給する仕組みをいいます。

みなし残業代の仕組みは、あらかじめ所定時間分の残業代が含まれる点に特徴があり、仮に所定時間分残業をしなかったとしても会社はみなし残業代を支払わなければなりません。

逆に、みなし残業で定めた所定時間を超えた時間外労働を行った場合、会社は超過時間分について別途残業代を支払わなければなりません。つまり、みなし残業とは、残業代をカットする制度ではないわけです。

会社によってはみなし残業の制度を悪用して、サービス残業をさせるケースもあるため注意が必要です。

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3.みなし労働時間制など特殊な労働契約

みなし残業はあらかじめ所定時間分の残業代を基本給に含めて支給する制度ですが、みなし残業と似た制度として、「事業場外みなし労働時間制」、「専門業務型裁量労働制」、「企画業務型裁量労働制」の3つがあります。

以下ではそれらの説明と、みなし残業とどういう点が異なるかについて解説します。

3-1.事業場外みなし労働時間制

「事業場外みなし労働時間制」は、労働基準法38条の2に定められています。厚生労働省の定義によれば、労働者が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度です。

例えば営業で外回りが多い場合など、内勤の従業員と比べて労働時間が正確に把握できない場合に用いられる制度です。

特定の時間分労働したとみなす点においては「みなし残業」と共通します。しかし、みなし残業とは異なる点も存在します。

異なる点の一つ目は、労働時間の全部又は一部において事業場外で業務に従事することが必要な点です。

みなし残業では事業場外で業務に従事する要件は必要ありませんが、事業場外みなし労働時間制では必須の要件です。

異なる点の二つ目は、労働時間の算定が困難であることが必要な点です。

みなし残業では労働時間の算定が困難である事情は必要ありませんが、事業場外みなし労働時間制では、労働時間の算定が困難であることに鑑みた制度であることから、この要件が必須です。

つまり、事業場外みなし労働時間制を採用するためには二つの要件が必須であり、みなし残業よりも適用しにくいといえます。これは、事業場外みなし労働時間制はみなし残業と異なり、特定の時間以上労働をしたとしても、原則として残業代が出ないことに起因すると思われます。そのため、みなし残業よりも要件が厳しいといえます。

事業場外みなし労働時間制は、特定の時間以上労働をしたとしても原則として残業代は出ませんが、残業代が全く出ないというわけではありません

深夜残業や休日出勤をした場合は割増賃金による残業代が支払われます。

3-2.専門業務型裁量労働制

「専門業務型裁量労働制」は労働基準法38条の3に定められています。厚生労働省の定義によれば、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。

企画業務型裁量労働制とともに裁量労働制の一つとして位置づけられ、研究職や弁護士など、高度な専門性を有する職業に適用されます。

あらかじめ定めた時間働いたものとみなすという点はみなし残業と共通します。例えば、1日5時間しか働かなかったとしても8時間働いたとみなされるため、欠勤、早退、遅刻扱いされません。

しかし、1日8時間をみなし労働時間とした場合、みなし残業とは異なり、1日12時間働いたとしても8時間働いたとみなされるため、残りの4時間分の残業代は支給されません。

一方、みなし残業は所定労働時間分の残業代をあらかじめ給与として支給する制度ですので、所定労働時間を超過した分は残業代として支払わなければなりません。この点が裁量労働制と異なる点です。

裁量労働制は残業代の概念がないと誤解されがちですが、深夜時間帯での勤務や休日出勤をした場合は割増賃金による残業代が支払われます。

3-3.企画業務型裁量労働制

「企画業務型裁量労働制」も「専門業務型裁量労働制」と同様、裁量労働制の一種であり、制度の仕組みは基本的に同一です。「専門業務型裁量労働制」が高度な専門性を有する職業に適用されるのに対し、「企画業務型裁量労働制」は、企画、分析、調査業務や、人事、労務などの業務を行う者に適用されます。

4.みなし残業による従業員側のメリット

みなし残業が採用された場合、従業員には様々なメリットがあります。ここでは、みなし残業による従業員側のメリットを2つ説明します。

4-1.毎月安定した収入を得ることができる

みなし残業では、実際に残業したか否かに関係なく、基本給にあらかじめ所定時間分の残業代が含まれて支給されますので、毎月安定した収入を得ることができます。今月は残業代が少なくて生活が苦しい、という悩みはなくなります。従業員にとって、生活の見通しが立てやすくなることは最大のメリットといえます。

4-2.労働生産性が上がる

みなし残業制では、実際に残業しなくとも残業代が支払われますので、仕事を早く終わらせて帰宅したほうが従業員にとっては得です。よって、従業員は仕事を早く終わらせるために努力をするようになります。従業員が努力をするようになることは会社側のメリットといえますが、結果的に従業員のスキル向上が望めるため、従業員側にとってもメリットといえるでしょう。

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5.みなし残業による従業員側のデメリット

みなし残業は実際に残業しなくとも残業代が支給されるため、従業員側にメリットが多いといえますが、デメリットも存在します。以下では、みなし残業による従業員側のデメリットを2つ説明します。

5-1.みなし残業分は労働しなければならないという誤解が生まれる

みなし残業制度をよく知らない従業員にとっては、みなし残業分は労働しなければならないという誤解が生まれる可能性があります。もちろんそのようなことは全くないことを理解できればデメリットとはいえませんが、会社によっては逆に早く帰宅しづらい雰囲気が醸成される場合もあります。

5-2.制度を悪用されるおそれがある

みなし残業制度を採用すれば、それ以上残業代を支払わなくてよいという誤った認識でこの制度を悪用しているブラック企業も存在します。このような企業に勤務している従業員は、逆にサービス残業をさせられる口実として使われるおそれがあります。

6.みなし残業手当をもらっていても残業代請求は可能か

みなし残業は、実際の残業時間とは関係なく、あらかじめ所定時間分の残業代を含めて支給する仕組みです。

みなし残業で定めた所定時間を超えた残業を行った場合、会社は超過時間分について別途残業代を支払わなければなりません。つまり、みなし残業手当をもらっていてもそれを超えた分残業をした場合は、当然残業代請求は可能です。

会社によってはみなし残業制度を誤った理解に基づいて運用しているケースがあり、サービス残業の温床となっている場合があります。みなし残業は残業代カットのための制度ではありませんので、所定労働時間以上残業をさせられた場合は、残業代を請求しましょう。

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7.未払い残業代の請求方法

みなし残業の制度を採用している企業の中には、制度を悪用して所定労働時間以上の残業代を一切支払わない企業も存在します。そういった場合、会社に対し未払い残業代を請求するにはどのような方法を取ればよいのでしょうか。

以下では、代表的な請求方法を3つ説明します。

7-1.会社との交渉

会社に対し未払い残業代を請求する方法としては一番オーソドックスな方法といえるでしょう。特に、未だ会社に在籍中の場合はなるべく会社との争いは避けたいものです。まずは上司や人事・労務に未払い残業代があることを伝え、支払ってもらえないか交渉してみるのがよいでしょう。

まともな企業であれば、残業をした証拠があれば応じてくれる可能性は高いといえます。一方、みなし残業の制度を悪用するようなブラック企業の場合は交渉しても「みなし残業代として支払っているはずだ」などと理由をつけて応じてもらえない可能性が高いでしょう。

7-2.内容証明郵便の送付

会社が任意の交渉に応じない場合、内容証明郵便で未払い残業代を請求するのも有効な手法です。未払い残業代を請求できる権利は、3年で時効消滅してしまうのですが内容証明郵便で未払い残業代を請求した場合、「催告」として扱われ、時効の完成を猶予できる、すなわち時効期間の進行をストップできるというメリットがあります。

また、弁護士名で内容証明郵便を送付すれば、会社側は慎重になるため、未払い残業代の支払いにあっさりと応じることも少なくありません。

ただし、内容証明郵便を送付する方法は会社側を身構えさせることになるため、本人が会社に未だ在籍している場合は使いづらい場合があります。

7-3.労働審判・訴訟

会社側が任意の支払いに応じない場合、法的措置を取ります。労働問題に関する法的措置は主に労働審判と訴訟の2つがあります。

労働審判は、労働者と会社との間で発生した労働に関するトラブルを迅速に解決するための手続です。未払い残業代や解雇などの労働トラブル全般を解決することを目的としています。

労働審判は、原則として3回以内の期日で終了するため、通常は3か月程度で終了することが多い手続きです。よって、早期解決を目指すことが可能です。

一方、訴訟は結果が出るまで最短でも半年から1年はかかることが多く、早期解決を望む場合はおすすめしません。なお、労働審判の結果に納得できない場合は異議申立ができます。異議が申し立てられると、審判はその効力を失い、通常の訴訟手続へ移行します。

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8.未払い残業代の計算方法

未払い残業代の計算方法は、労働形態によって異なります。例えば、フレックスタイム制、変形労働時間制、裁量労働制ではそれぞれ未払い残業代の計算方法が異なります。

以下では、一般的な勤務形態における未払い残業代の計算方法を説明します。

8-1.残業の種類

未払い残業代の計算方法を説明する前に、そもそも「残業」とは何かについて簡単に説明します。

「残業」とは労働基準法上は時間外労働のことを指します。一方、法内残業という概念が存在します。法内残業とは、所定労働時間を超えているものの、法定労働時間を超えない残業のことを指します。

以下では、残業=法定時間外労働であることを前提として計算します。

8-2.割増賃金

労働基準法上、労働者が時間外労働をした場合、会社は割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金は、法定労働時間を超えたときは25%以上を割増して支払う必要があります。

その他、深夜残業や休日出勤をさせた場合は同様に割増賃金を支払わなければなりません。

割増賃金の種類に応じた割増率をまとめると以下のとおりです。

種類条件割増率
時間外手当法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えたとき25%以上
時間外手当時間外労働が限度時間(月45時間、年360時間)を超えたとき25%以上
時間外手当時間外労働が月60時間を超えたとき50%以上
休日手当法定休日に勤務させたとき35%以上
深夜手当22時から5時までの間に勤務させたとき25%以上

8-3.基礎賃金

未払い残業代を計算するためには、1時間あたりの賃金を算定する必要があります。この賃金を「基礎賃金」といいます。

基礎賃金は給与形態によって計算方法が異なりますが、多くの企業が採用する月給制では、以下のように基礎賃金を計算します。

まず、月間の平均所定労働時間を算出します。月給制の場合、月単位で給与が決定されるため、月の労働日数が異なっても一定の給与が支払われます。そうすると、月によって労働日数が20日だったり22日だったり変化することにより、月間の所定労働時間が変わりますから、変動を月単位で慣らすため、平均所定労働時間を算出するということです。

月間の平均所定労働時間は、1年から休日を除いた日数×1日の所定労働時間÷12か月で計算します。

そして、残業代の基礎となる賃金を当該月間の平均所定労働時間で割る基礎賃金を計算することができます。

基礎賃金=(残業代の基礎となる月給)÷{(365日−休日)×(1日の所定労働時間)÷12か月}

たとえば、残業の基礎となる月給が32万円、1日の所定労働時間が8時間、年間の休日が120日であったときの基礎賃金の額は、

32万円÷(365日-120日)×8時間÷12か月)=1959円

となります。

8-4.残業代の計算

基礎賃金が算出できたら、残業代の計算は以下のような計算式で求めます。

(基礎賃金)×(時間外労働時間)×(割増率+1)

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9.未払い残業代について弁護士に依頼するメリット

未払い残業代を請求するには、弁護士に依頼するほうが望ましいでしょう。なぜなら、弁護士に依頼することによりさまざまなメリットがあるからです。

以下では、未払い残業代を請求するにあたって弁護士に依頼するメリットを4つご説明します。

9-1.交渉を一任することができる

未払い残業代を請求するために会社と交渉することは大きな負担です。特に未だ会社に所属している場合、直属の上司や人事・労務を相手にしなければならず、心身共に疲弊することになるでしょう。

一方、未払い残業代請求を弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人となって会社と交渉を行ってくれます。よって、自ら交渉するよりも負担は劇的に軽くなるでしょう。また、例えば「みなし残業代を支払えば所定労働時間以上労働させても残業代を支払わなくてよい」というような誤った法的主張を会社がしてきたとしても、弁護士は毅然とした態度で対応することが可能です。

9-2.適切な証拠収集が可能になる

弁護士に相談すれば、未払い残業代が発生した当初からの証拠を適切に収集することができる可能性が高くなります。法律知識に乏しい本人では思いつかなかったような証拠でも、労働問題に精通した弁護士であれば、過去の労働問題事例に基づいて収集することができます。

また、弁護士法23条による照会などを使って本人では収集できない証拠を収集できるのも弁護士に依頼した場合のメリットです。

9-3.会社側が慎重になる

労働者個人が未払い残業代を請求したときは高圧的な態度を取っている会社であっても、弁護士が代理人についた場合は慎重になることが多いです。弁護士がついた場合、法的に誤った主張は通りませんし、最終的には法的措置を取られ、残業代を支払う可能性が高くなることを会社は認識します。

そうすると、早めに和解をしたほうがよいと考えて未払い残業代の支払に応じるケースも出てきます。

9-4.労働審判や訴訟などあらゆる法的措置を取ることができる

交渉によっても残業代を支払わない場合、労働審判や訴訟などの法的措置を検討することになります。労働問題に強い弁護士であればこういった法的措置についても豊富な経験を有していますので、未払い残業代の回収可能性が高くなります。

ご自身が労働審判や訴訟を会社に起こして、それに対応するのは現実的ではありません。弁護士に依頼すれば全てを一任することができます。

10.まとめ

みなし残業(固定残業代制)について詳細に解説をしました。みなし残業についてよくわかっていなかった方も、今回の記事をご覧になって理解いただけたのではないでしょうか。

みなし残業の制度は、会社が悪用して残業代を支払わない口実として利用される場合もあり、未払い残業代のトラブルが多い制度です。労働問題に強い弁護士に依頼すれば、本人に代わって全ての手続きを行ってくれますし、未払い残業代の回収確率を高めることができます。未払い残業代の請求についてお悩みの方はぜひ弁護士にご相談ください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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