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年俸制とは?メリットデメリットやよくある勘違いを弁護士が解説

年俸制とは?メリットデメリットやよくある勘違いを弁護士が解説

年俸制というとプロスポーツ選手が思い浮かびますが、一般企業でも成果主義重視の傾向が高まっていることから、外資系企業を中心に専門性の高い職種において年俸制を導入しているところが多くあります。

本記事では、年俸制について、月給制との違い、給与の支払い方法、年俸制のメリット・デメリットや年俸制についての誤解、年俸制のもとで起こりうるトラブルや対処法等について弁護士が解説します。

1. 年俸制とは

年俸制とは、従業員の成果や業績に応じてその年度の年間給料を定める賃金制度です。本章では、年俸制と月給制との違い、年俸額の決め方、給与の支払い等について解説します。

1-1.年俸制と月給制の違い

年俸制も月給制も、労働基準法第24条2項に従って毎月支払われる点は共通しています。しかし年俸制と月給制には明確な違いがあります。

年俸制と月給制の一番の違いは、1か月単位での給与額の変動の有無にあります。後述するように、年俸制では、通常あらかじめ翌年1年間の給与額を決定して、その額を翌年の12か月に分割して支払います。従って、あらかじめ給与額を決定した1年間の間では支払われる金額が固定され、変動することはありません

これに対して月給制では、会社や従業員個人の業績によって月ごとに給与額が変動する可能性があります

1-2.年俸額の決め方

年俸額の決め方については会社によって異なりますが、前年度の評価を基準にしている場合が多いのではないでしょうか。具体的には、あらかじめ決められた賃金規定や計算式に前年度の評価をあてはめて算出します。この算出額を会社側が従業員に対して提示して、従業員との合意に基づいて年俸額を最終決定しています。

会社によっては労使間の合意を経ずに会社側のみで決定する場合もあります。この場合は、就業規則に業務の評価基準・不服申立手続・年俸額減額の限界の有無等が明示され、手続・内容ともに公正に決定されていることが必要となります。

1-3.給与支払いのされ方

(1)支払方式

年俸制をとる場合でも、給与の支払いは労働基準法第24条2項に従って「毎月1回以上、一定の期日を定めて」行われなければなりません。そこで一般的には以下のいずれかの方式により毎月支払われています。

  • ①年俸を12で割った金額を1か月ごとの給料とする(年俸にボーナスが含まれない)
  • ②年俸を16で割った金額を毎月の給料とし、そのうち4か月分をボーナスとして所定の月に支払う(例:6月と12月に2か月分ずつ支払う)

支払日については一定の期日であれば会社側が決定することができます。

(2)ボーナスの支払いについて

(1)で①の支払方式をとった場合、毎月の給与とは別にボーナスを支給します。従って、その従業員の年収は年俸額と年間の賞与額の合計額となります。この場合、その年の毎月の給与額については変更することができない一方、ボーナスの有無や金額については業績に応じて変更することができます。

②の支払い方式をとった場合は、年俸にボーナスが含まれるため、その従業員の年収イコール年俸額となります。この場合、ボーナスの額については労働基準法上の賞与とはみなされません。

また、契約期間のボーナスの有無や金額についても変更することができません。

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2. 年俸制のメリット・デメリット

年俸制には月給制にはないメリットがある一方、デメリットもあります。本章では年俸制のメリット・デメリットを解説します。

2-1. 年俸制のメリット

(1)会社側のメリット

年俸制を導入することにより、会社側には以下のようなメリットがあります。

  • あらかじめ従業員の1年分の給与額を決定できるため経営計画を立てやすくなる
  • ②年功序列に関係なく、従業員個人の成果を評価基準とすることによって従業員のモチベーションアップにつながるため、会社としても生産性や業績が向上する

(2)従業員側のメリット

また、従業員側にも以下のようなメリットがあります。

  • ①年間の成果が翌年の給与に反映されるので仕事のモチベーションが上がる
  • ②月給制に比べると増額の幅が大きい  
  • ③1年間は給与が減額されないのでその年の収入が安定する

2-2. 年俸制のデメリット

(1)会社側のデメリット

会社側にとっての主なデメリットは、年度中に業績が悪化しても給与額を変更できないことです。

(2)従業員側のデメリット

従業員にとっては、成果が上がらなかった場合翌年の年俸を減らされてしまうこと、成果を上げても反映されるのが翌年であること等が年俸制のデメリットとなります。

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3. 年俸制のよく勘違いされている点

年俸制を採用している会社は増加していますが、国内では月給制をとっている会社が圧倒的多数であることから、未だ年俸制については誤解されていることも多くあります。本章では、年俸制についてよく勘違いされている点について解説します。

3-1. 年俸制だと残業代は支払われない?

(1)年俸制のもとでも残業代は支払わなければならない

年俸制について、最大の誤解ともいえるのが「残業代は発生しない」というものです。

年俸制のもとでは労使ともに日ごと・週ごとの労働時間の概念があいまいになりやすく、残業代は発生しないと思われがちです。

しかし年俸制をとる場合でも、その従業員が労働基準法の労働者に該当する場合は労働時間の規定は適用されるので、法定時間外の労働に対する割増賃金は支払われなければならないのが原則です。

(2)例外的に残業代が発生しない場合

年俸制により給与が支払われている場合に、例外的に残業代が発生しないのは以下の場合です。

①固定残業制(みなし残業制)で残業時間がみなし残業時間を超えていない場合

固定残業制(みなし残業制度)とは、毎月の基本給に加えて定額の残業代を支給する制度です。毎月一定時間の残業が生じることが想定される職場や、繁忙期と閑散期の業務量の差が大きい職場などで導入されることが多いようです。

固定残業制では、時間外・休日・深夜労働の割増賃金を基本給の中に組み入れて支払う方法と、一定額を手当として支払う方法のいずれかがとられています。年俸制をとっている場合は、年俸の中に固定残業代が含まれているか、一定額を残業手当として毎月給与に加えて支払われます。

固定残業制のもとでも、給料に含まれる残業代に相当する残業時間を超える時間の残業を行った場合は残業代が発生します。

従って、年俸制と固定残業制を併用している会社や部署の従業員の労働時間が、給料に含まれる残業代に相当する残業時間の範囲内であった場合には残業代が発生しません。

②裁量労働制で所定労働時間が法定労働時間以内である場合

裁量労働制とは、業務遂行の手段や時間配分を労働者の裁量に委ねる制度です。裁量労働制はさらに「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」に分かれています。裁量労働制のもとでは労使協定で定めた時間数(みなし労働時間)だけ労働したものとみなされます。

例えば、「1日8時間労働したものとみなす」と定めた場合は実際の労働時間にかかわらず8時間労働したものとみなされます。他方、法定時間外・休日・深夜早朝労働や休日に対する労働基準法は適用されます。

従って、例えば年俸制と裁量労働制を導入している会社・業種の従業員のみなし労働時間が8時間以内である場合は、実労働時間にかかわらず残業代は発生しません。

なお、所定の休日が土曜・日曜・法定祝日である会社で、それらの日に労働した場合も(みなし労働時間数にかかわらず)割増賃金が支払われなければなりません。

③管理監督者(労働基準法第41条2号)に該当する場合

労働基準法上の「管理監督者:には労働時間に関する規定が適用されないので、労働時間にかかわらず残業代は発生しません。しかし、会社が定める「管理職」と労働基準法の「管理監督者」とは一致していないため、役職名が管理職であっても「管理監督者」に該当しないことが多くあります。

労働基準法上の「管理監督者」は厚生労働省の通達により「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限になじまない者をいう」とされています。そして、経営者と一体的な立場にあるか否かについては以下の基準によって判断されます(札幌地方裁判所2002[H14]年4月18日付判決)。

  • (a)事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること
  • (b)自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
  • (c)一般の従業員に比べてその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

この条件に1つでもあてはまらないものがあれば、会社で管理職の地位にある労働者であっても労働基準法上の管理監督者にはあたりません。従って会社は、時間外労働に対して残業代を支払う義務があります。これは、その従業員の給与が年俸制によっている場合でも同様です。

なお、管理監督者に該当する場合でも、深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)に対しては労働基準法第37条4項が適用されるので、25%以上の割増賃金(深夜労働手当)が発生します。

3-2. 月給制の場合と同様に年俸制の場合も給与額は会社側だけで決定できる?

年俸制では、年俸額を提示するのは会社側ですが、最終決定にあたっては原則として労使間の合意が必要となります。労使間の合意を経ずに会社側のみで決定する場合は、就業規則に業務の評価基準・不服申立手続・年俸額減額の限界の有無等が明示され、手続・内容ともに公正でなければなりません。

従って、労使間の合意なしに年俸額が決定される場合は、就業規則に必要事項が明示されているか、明示された評価基準に基づいて年俸額が決定されたといえるか注意する必要があります。

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4. 年俸制で起こりうるトラブルとその対処法

本章では、年俸制で起こりうるトラブルとその対処法について解説します。

4-1.残業代が支払われない

年俸制で一番トラブルが起こりやすいのが残業代未払いです。特に固定残業制や裁量労働制を併用している場合や、管理職者に対して年俸制をとっている場合等は会社側が「残業代が発生しない」と誤解している可能性があります。

裁量労働制のみなし労働時間が法定労働時間内である場合等の例外はありますが、原則として実労働時間が法定労働時間を超えた場合は残業代が発生します。また、時間外労働が認められるのは労使間の36協定が締結されていることが前提です。

「毎日のように長時間労働を強いられているのに、年俸制だから残業代が出ないといわれている」等、残業代が出ないことが不当と思われる場合は厚生労働省の総合労働相談コーナー(労働局または労働基準監督署に併設)や、労働問題を専門とする弁護士のいる法律事務所の無料相談を利用してご相談ください。

4-2.年度途中に会社都合で解雇された/退職した場合に残存期間の給与やボーナスが支払われない

年俸制で給与が支払われている従業員が年度途中に会社都合(人員整理等)で解雇されたり会社都合で退職した場合は、その年度の残りの期間の給与やボーナスについては会社に支払い義務があります。ただし、労働契約書に「会社都合による解雇または退職の場合にも残存期間の給与支払はないものとする」旨の記載があれば、残存期間の給与支払いが行われなくても違法ではありません。

年度途中に会社都合で解雇されたり会社都合で退職した場合は、就業規則に上記の記載があるか否かを確認してください。なお、年俸制のもとでは年度途中の退職勧奨が行われるケースはあまりありませんが、退職勧奨による退職は会社都合による退職と解されています。

就業規則に上記の記載が存在しないのに残存期間の給与やボーナスが支払われなかった場合は会社に対して請求することができます。

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5. 年俸制に関するトラブルを弁護士に相談・依頼するメリット

本章では、年俸制に関するトラブルを弁護士に相談・依頼するメリットをご説明します。

5-1.残業代を請求する場合は残業代の有無や金額を教えてもらえる

年俸制をとっている会社では、経営側が「残業代が発生しない」と誤解している場合があります。また、年俸制は特に裁量労働制と併用されているケースも多く、みなし労働時間が法定労働時間内であれば深夜や休日に労働しても一切残業代が発生しないと思われている可能性もあります。

このような会社に対しては、いつからどのくらい残業代が発生しているのかもわからない状態で未払い残業代を計算しなければなりません。弁護士に相談することで、時効との関係で何年何月分から、何時間分請求できるか、深夜・休日労働時間が何時間含まれるか等を正確に教えてもらうことができます。

また、会社都合で退職したり解雇された場合の残存期間の賃金や、未払いのボーナス等が発生しているか否か、発生していた場合はその金額についても算出してもらうことができます。

5-2. 請求に必要な証拠の収集方法を教えてもらえる

会社に対して残業代や未払い賃金を請求するにあたっては、雇用契約書や労働条件通知書など自身が保管していれば利用できるもの以外に、業務アカウントによるメールの送受信履歴など、消去してしまっていて会社側だけが保持しているデータもあります。

容易に入手できない証拠についても収集が必要なのか、必要であればどのように入手すればよいか等は特に困難な問題ですが、これらについても弁護士に教えてもらうことができます。また、労働者本人による請求が難しい場合は、会社に対する開示請求を代理してもらうことができます。

5-3. 会社との交渉を任せることができる

未払い残業代・賃金等の請求にあたっては会社側と交渉しなければなりません。しかし、労働者本人が交渉しようとすると会社が応対してくれない可能性があります。また逆に会社側が顧問弁護士を立ててくることもあります。弁護士に依頼していれば、未払いの残業代・賃金請求に向けての交渉を対等に行うことができます。

5-4. 労働審判や民事訴訟などの法的手続を任せることができる

未払い残業代・賃金等の請求にあたり、証拠収集・交渉とともに壁となるのが裁判所に関わる手続です。このうち労働審判は、手続が比較的簡素であるため短期間で終結させることができます。それでも、申立てから審理までの全ての手続を労働者が単独でやることは容易ではありません。

さらに訴訟提起するとなると、証拠収集に加えて口頭弁論での陳述も求められます。このため、少額訴訟や簡易裁判所への訴訟提起であっても一人でやることには大きな負担が伴います。弁護士に依頼していれば労働審判・民事訴訟ともすべて任せることができます。

特に未払い残業代や未払い給与・ボーナス等の総額が数十万円~100万円以上になると見積もられる場合、請求手続を従業員一人で行うことは困難です。

弁護士による残業代請求手続代理・代行には費用がかかりますが、弁護士に依頼することで確実に未払い残業代の支払いを受けることができます。また、多くの法律事務所では初回相談や初回相談の一定時間(30分~60分程度)を無料としているので、無料相談を利用して問題点を整理することで費用を抑えることが可能です。

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6. 年俸制に関するよくあるQ&A

本章では、年俸制に関してよく頂く質問と、それに対する回答をご紹介します。

6-1. 従業員としては、年俸制と月給制はどちらのほうが良いですか?

年俸制・月給制にはそれぞれメリットとデメリットがあります。

そのため、一概にどちらの方がすぐれているということではありません。

一般的に月給制はかつての年功序列主義を残している制度で、年俸制は成果主義に適合し、高度のスキルを求められる職種に適している制度といわれています。月給制は会社の業績によって毎月の給料が変動する可能性がある点で不安定さがあるものの、同じ仕事をしていれば年俸制のように大幅に減額されるリスクが少ないことから、収入の安定を重視するとすれば月給制のほうがよいといえるでしょう。

他方で、年俸制の最大のメリットは「自分の成果次第で大幅な給料アップの可能性がある」ということです。ただし、給料が大幅に増加した翌年は税金や保険料の負担も大きくなること、その翌年は大幅に減額される可能性もあることに注意が必要です。デメリットを承知の上で成果主義に価値を感じる場合は年俸制のほうが魅力があるといえます。

6-2. 年俸制での税金の支払い額は月給制と異なりますか?

年俸制で給与が支払われる従業員に対しても、月給制と同じように社会保険料や所得税・住民税の支払いが発生します。ただし、年俸の支払(分割)方式によって税金の支払額が異なります。

例えば、年俸を12分割で毎月受け取る場合と、毎月プラスボーナス2回(合計14回)受け取る場合とでは税金の支払額が異なります。これは、給与については標準報酬月額、ボーナスの場合は標準賞与額として税金を計算するためです。

6-3. 年度途中で退職した場合の給与はどうなりますか?

年俸制で給与の支払いを受けている正社員(無期雇用従業員)も、月給制の正社員と同様に年度途中で退職することが可能です。

年度途中で退職した場合のその年度の残りの期間の給与の支払いについては、退職理由が会社都合か自己都合かによって異なることがあります。

自己都合の場合は退職した月の翌月以降の給与は支払われないことが多いでしょう。他方、会社都合の場合は、残存期間の給与の支払を求めることができる場合があります。ただし、労働契約書に「会社都合による解雇または退職の場合にも残存期間の給与支払はないものとする」旨の記載があれば、残存期間の給与支払いは行われません。

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7. まとめ

年俸制には給料大幅アップの可能性等のメリットがある一方で、大幅減額のリスクもあります。また、現実に一番起こりやすい問題が「長時間労働を強いられるにもかかわらず残業代が支払われないこと」です。

年俸制を導入している会社・職種でも、労働基準法の労働時間や時間外労働・割増賃金の規定は適用されます。裁量労働制の場合の例外等はありますが、残業代が全く支払われていない場合は労働基準法違反の可能性が高いです。

年俸制で給料の支払いを受けている方で、残業代や税額負担、年度途中の退職について等、疑問に思う点がありましたら是非、法律事務所の無料法律相談を利用して労働問題を専門とする弁護士にご相談ください。

私たち法律事務所リーガルスマートは、未払いの残業代請求をはじめとする労働問題の専門チームがございます。初回60分無料でのご相談をお受付しています。不安なことがあったら、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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