給与未払い

未払い賃金(給与)を会社に請求する方法と注意点を弁護士が解説

未払い賃金(給与)を会社に請求する方法と注意点を弁護士が解説
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会社に勤務しているにもかかわらず賃金(給与)が支払われない場合、十分な貯金がないと生活が困窮するという事態に陥ってしまうでしょう。

このように賃金を払ってもらえない場合にはどのような対応方法があるのでしょうか。

この記事では、賃金の支払いがない場合の会社への請求方法と、請求における注意点についてお伝えします。

目次

1.賃金(給与)の未払いは労働基準法違反になる

まず、賃金の支払いをしないことが、法律上どのような取り扱いになるのかを確認しましょう。

1-1.賃金とは

労働基準法12条は、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と規定しています。

一般的には「給与」と呼ばれているかと思いますが、法律上では「賃金」が正式名称です。

そのためこのページでも以下、「賃金」と表現します。

(1)残業代も賃金である

労働問題においてよく争いになる「残業代」は、所定労働時間(労働契約において働くこととなっている時間)を超過した勤務に対して支払われるものですから、賃金の定義にあてはまります。

そのため、残業代は、割増賃金ともいい、残業代の支払いがない場合も法律上は同様に扱われます。

(2)賃金請求権には時効がある

この賃金請求権ですが、2023年現在は給与支払日の翌日から3年を経過すると時効にかかります(労働基準法115条、労働基準法143条3項)。

長年勤めていて、ある一時期賃金の支払いがされなかったという場合に、その後3年を経過すると、請求をしても時効にかかり、請求できなくなることがあるので、注意が必要です。

1-2.賃金を支払わない場合法律上どうなるのか

会社が賃金を支払わない場合、法律上はどのような主張が可能なのでしょうか?

(1)労働契約の債務不履行になる

賃金を支払わないことは、労働契約上の債務不履行になります。

すなわち、労働者と会社は雇用契約・労働契約を結んでおり、労働者は労務を提供し、会社はこれに対して賃金を支払う義務があります。

そのため、賃金の支払いをしない場合、会社は労働契約の債務不履行となるのです。

また、会社は、未払賃金に対して年3%の遅延損害金の支払いをする義務があります(民法404条2項)。

なお、この利率については3年毎に見直されることとされていますので、請求をするときには再度利率を確認してください。

また、退職後の未払賃金の利率については賃金の支払の確保等に関する法律6条1項で14.6%とされています。

(2)労働基準法違反となる

賃金の支払いについては労働基準法24条に規定されているとおりに支払わなければなりません。

そのため、賃金の支払いをしないことは、労働基準法違反となります。

労働基準法違反となる結果、監督官庁である労働基準監督署が立ち入りをしたり(労働基準法101条)・報告をする義務などを課される可能性があります(労働基準法104条の2)。

また、労働基準法24条に違反する場合、労働基準法120条1号によって30万円以下の罰金刑が課される可能性もあります。

(3)賃金支払の5原則

賃金支払については、労働基準法24条の解釈から、賃金支払の5原則として、次の5つの事項を遵守する必要があります。

【賃金支払の5原則】

  1. 通貨で
  2. 直接労働者に
  3. 全額を
  4. 毎月1回以上
  5. 一定の期日を定めて

支払わなければならない。

1.通貨払いの原則

通貨で支払わなければならないので、例えば自社製品や金券を賃金の代わりに渡すのは賃金支払としては認められません(なお、2023年4月1日から施行された法改正により、一定の条件下においてデジタルマネー(電子マネー)での支払いが認められています。)。

2.直接払いの原則

直接労働者に支払わなければならないので、本人の断りなく家族に支払ったような場合には、賃金の支払いとしては認められません。なお、銀行振込は直接支払ったものとして扱われます。

3.全額払いの原則

全額を支払わなければなりませんので、半分だけ支払う・残業代以外は全額支払う場合、賃金の支払いとしては認められません。

4.毎月1回払い以上の原則

毎月1回以上の間隔で支払わなければなりませんので、3ヶ月に1回・「今月は厳しいので来月まで待って欲しい」というのは賃金の支払いとして認められません。

5.一定期日払いの原則

一定の期日を定めて支払わなければならないので、準備でき次第支払う、というのは賃金の支払いとして認められません。

1-3.会社が倒産した場合の未払賃金

もし会社が倒産した場合の未払賃金はどうなるのでしょうか。

(1)会社が破産した場合

会社の倒産手続は、大きく、会社を畳む(清算)するタイプと、会社を再建(再生)するタイプに分かれます。

清算型の倒産である破産をした場合には、

  • 3ヶ月分の給与:財団債権
  • 3ヶ月分以上の給与:優先的破産債権

として取り扱われます。

会社が破産する場合は、会社財産をお金に替えて配当をするのですが、3ヶ月分の給与については最優先で支払われ、3ヶ月分以上の給与については次に優先して支払われることになります。

なお、後述するように、「未払賃金立替制度」というものがあるので、会社が破産した場合でも未払賃金の取り立てをあきらめないようにしましょう。

(2)会社を再建する場合

倒産の再建をする民事再生手続きや会社更生手続きをする場合でも、未払いの賃金は優先して支払われることになります。

もっとも、この場合会社を再建するために、将来の給与が減額されるケースもあります。

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2.未払賃金(給与)の請求方法

未払賃金の請求方法については次のような種類が考えられます。

2-1.会社に請求する

1つ目は当然ですが会社に請求することです。

給与支払い事務が滞った場合や、銀行振り込みのトラブルがあったような場合には、会社に請求してきちんと支払ってもらうようにしましょう。

会社に請求する場合ですが、時効にかからないようにするために、配達証明付き内容証明郵便を送るのがお勧めです。

これは、時効の更新という時効期間のリセットができる制度があるほか、一時的に時効が完成しないように時効の完成猶予という制度があることに関係します。

民法150条は催告をすれば6か月間時効の完成が猶予する旨が規定されており、その間に訴訟などの時効の更新をすれば、請求権は時効にかからないとされています。

そして催告をしたことは、送った書面の内容を証明できる、内容証明郵便の方法であればこれを証明することが可能です。

2-2.裁判を起こし強制執行をする

交渉をしても支払いが受けられない場合には裁判を起こします。

裁判に勝訴すると、勝訴判決を得られます。

また裁判で和解を行うと、裁判上の和解として和解調書を取得できます。

裁判で勝訴・和解をしても賃金の支払いをしない場合には、会社財産に対して強制執行を行います。

裁判に関しては次の3つの形式を知っておいてください。

(1)通常の民事裁判

形式の1つ目は通常の民事裁判です。

140万円以下の請求は第1審は簡易裁判所で、140万円を超える請求については地方裁判所が第1審の裁判所となります。

(2)少額訴訟

請求額が60万円以下である場合には、少額訴訟の利用を検討しましょう。

請求額が60万円以下の場合に起こせるもので、1回の裁判で終わらせる簡易な手続きが少額訴訟です。

通常の裁判よりも早く審理が終わるので、未払い賃金を早く手にすることができるでしょう。

(3)支払督促

単純な金銭請求の場合である未払い賃金請求については、支払督促という民事訴訟法上の手続きを利用することも可能です。

支払督促とは、申立人の申立てによって、簡易裁判所の書記官が相手に支払いを命じる書面を送り、紛争解決を目指す手続きです。

相手が支払督促に対して異議がなければ、2週間で仮執行宣言が付与され、強制執行を行うことができます。

相手が異議の申立てをすれば、民事訴訟に移行します。

2-3.労働審判を起こす

労使関係に関する争いを解決する手段として、労働審判が挙げられます。

労働審判とは、労働問題を解決するための公的な手段で、裁判官と民間人からなる労働審判委員会が間に入って、紛争解決をするものです。

裁判よりも柔軟な解決を目指すことができるもので、非公開で行うことができ、迅速に終わらせることができるなどの特徴があります。

2-4.強制執行を行う

裁判・労働審判を起こして支払い義務が確定してもなお給与の支払いをしない場合には、強制執行を行います。

強制執行は裁判所(執行裁判所)に申し立て、会社の銀行口座や不動産・自動車などの会社財産の差し押さえをして行います。

2-5.会社が倒産したとき

会社が倒産したときでも、上述したように給与には一定の保護があります。

会社が倒産した場合、手続きを主導する役割の人が裁判所から選任されますので(例:破産手続→破産管財人、民事再生手続→再生委員)、交渉はその人と行うことになります。

具体的には、債権の届け出をして、手続きの中で支払ってもらうことになります。

もっとも、会社に財産がなく、もはや支払いができない場合も少なくありません。

このような場合には、賃金の支払の確保等に関する法律において、未払賃金立替払制度というものが用意されているので、その申請を行います。

手続きは、労働基準監督署・独立行政法人労働者健康安全機構で行われていますので、まずは労働基準監督署に相談してみましょう。

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3.未払賃金(給与)を裁判所に訴える流れ

未払賃金を裁判所に訴えるまでの流れは概ね次のとおりとなります。

3-1.未払賃金に関する証拠を集める

上述したとおり、未払賃金を請求するためには、相手が任意に支払わない場合、最終的には裁判等を起こして強制執行で取り立てることになります。

裁判では自ら主張する事実については、証拠を用いて証明しなければなりません。

裁判段階になって証拠を集めようとしても、証拠が散逸したり会社に隠滅されかねません。

そのため、まずは賃金に関する証拠を集めます

3-2.請求する金額を計算する

請求する金額を計算します。

月給が固定で支払われているようなケースでは計算は難しくないでしょうが、残業があるような場合には割増賃金の計算を行う必要があります。

また、遅延損害金も付して請求することができるので、上述した3%・14.6%などの遅延損害金を計算します。

3-2.会社に請求する

会社に対して請求を行います。

給与に関しては支払い義務を否定しても、残業代については様々な主張をして認めないことがあります。

収集した証拠を示しながら会社に請求しましょう。

なお、時効にかかりそうな場合には、時効の完成を防ぐために配達証明付き内容証明郵便で請求を行うようにしましょう。

3-3.労働基準監督署への申告

給与の未払いは労働基準法違反です。

労働基準法違反をした会社について労働基準監督署に申告することができます(労働基準法104条1項)。

労働基準監督署に申告したことをもって解雇などの不利益処分をすることは許されておらず(労働基準法104条2項)、また匿名で労働基準監督署に申告することも可能となっています。

3-3.裁判等法的手続きを行う

相手が支払いをしないのであれば、裁判等の法的手続きを行います。

裁判・少額訴訟・支払督促・労働審判を利用して、強制執行のための債務名義(判決文や和解調書など)を取得します。

3-4.強制執行を行う

裁判等をして支払い義務が確定しても支払いをしない場合には強制執行を行います。

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4.未払賃金(給与)を証明するための有効な証拠

未払賃金を証明するためにはどのような証拠が必要でしょうか。

有効となる証拠には次のようなものがあります。

4-1.賃金が未払いである場合に証明すべき事項

賃金が未払いである場合には、労務を提供したこと、賃金がいくらであるかを証明する必要があります。

残業代も賃金で、残業代が未払いで請求する場合には、残業代がいくらなのかを証明するとともに、その残業が会社からの指示である旨を証明しなければなりません。

4-1.雇用契約書・労働条件通知書

会社と雇用契約を結んだ際の雇用契約書・労働条件通知書は、未払いとなっている賃金がいくらなのかが記載されています。

そのため、雇用契約書・労働条件通知書は有力な証拠となります。

4-2.過去の給与明細

雇用契約書・労働条件通知書には、雇用をしたときの賃金が記載されていても、その後昇給があった場合には現状の賃金が証明できない場合があります。

そのため、例えば過去のものでも直近の給与明細などを証拠にすることが考えられます。

4-3.タイムカード等

労務を提供したことを証明する必要があります。

そのため、タイムカード等が証拠となります。

カード状になっているものに印字するタイプのものの場合、これをコピーします。

クラウドで保存されているものについては、プリントアウトするようにします。

4-4.業務の指示をしたことを示すもの

残業代の請求をする際には、指示によって残業したことを示すものが必要となります。

社内メール・SNSのメッセージのようなものは、残業を指示したことを示す有力な証拠となります。

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5.未払賃金(給与)の請求に必要な金額と書類

未払賃金の請求をするのにかかる金額と書類について確認しましょう。

5-1.内容証明郵便

時効の完成をさせないために用いる内容証明郵便には次のような料金がかかります。

  • 郵便料金:25グラムまで84円
  • 内容証明料:1枚440円1枚追加ごとに260円が加算
  • 書留料金:435円
  • 配達証明:320円

紙面1枚で内容証明郵便を送る場合には、1,099円がかかります。

5-2.裁判等に添付する書類

裁判等に添付する書類として、

  • 住民票:300円(地域による)
  • 登記事項証明書:600円(取得方法による)

がかかります。

5-3.裁判所に納める手数料と切手

裁判等をする際には、手数料と切手(予納郵券)を納める必要があります。

手数料は訴状等の提出のときに、収入印紙を貼って提出します。

収入印紙の額は請求する金額や手続きによって異なり、100万円の請求をする場合には、訴訟をする場合には10,000円・労働審判の場合には5,000円です。

切手の種別や金額は裁判所によって異なるので、訴訟・労働審判を起こす際に、管轄となる裁判所で確認しましょう。

東京地方裁判所では、6,000円(500円× 8枚 100円×10枚 84円× 5枚 50円× 4枚 20円×10枚 10円×10枚 5円×10枚 2円×10枚 1円×10枚)で納付することになっています。

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6.未払賃金(給与)の請求における注意点

未払賃金を請求する場合の注意点としては次のようなことが挙げられます。

6-1.証拠の収集を早めに行う

証拠の収集はなるべく早く行いましょう。

未払いの賃金を請求する場合には上述したとおり証拠を収集する必要があります。

証拠がなければ、残業をしてきたことや、その時間、そして残業の指示があったことなど会社に残業代を請求するために必要となる事実を立証することができなくなる可能性があります。

一方で、しっかり証拠を集められていると、会社としても請求に応じざるを得ないことから、裁判などを起こさなくてもスムーズに解決する可能性があります。

また、労働基準監督署も証拠があるほうが、動いてもらいやすいでしょう。

会社を退職した後に、証拠を集めるのは困難であることが多いので、早めに証拠の収集を行うようにしましょう。

6-2.経営状態が良くない場合にはスピード勝負になる

賃金の支払いをしてもらえない原因が、経営状態の悪化にある場合には、スピード勝負になるので注意をしましょう。

経営状態が悪化したことが原因で賃金の支払いをしてもらえない場合、銀行や取引先などの債権者から取り立てを受けており、そのまま倒産となることが多いです。

支払ってもらえるのを待っていると回収ができなくなる可能性が高くなるので、早めに支払ってもらえるように行動しましょう。

7.未払賃金(給与)のトラブルを弁護士に相談するメリット

未払い賃金のトラブルを弁護士に依頼するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

7-1.法的アドバイスを受けられる

給与の計算や証拠の収集、各種手続きの利用など、未払い賃金のトラブルを解決するためには、法的知識が必要不可欠です。

弁護士に相談すれば当然、これらの法的なアドバイスを受けることができます。

7-2.スムーズに手続きを行える

上述したように、未払い賃金の問題はスピード勝負となります。

弁護士に相談し依頼すれば、スムーズに手続きを行い、未払いになっている賃金の回収を期待できます。

7-3.会社との交渉を任せてしまえる

弁護士に依頼すれば、会社との交渉を任せてしまえます。

給与の支払いをしてもらえないような場合、相当悪質であるような場合か、支払うことができなくなっていることが考えられます。

このような相手と支払いを巡って交渉をするのは、精神的にも非常に負担です。

弁護士に依頼して任せてしまえるのはメリットであるといえます。

7-4.弁護士に無料で相談するには

弁護士に相談する場合、どうしても相談料がかかります。

しかし、役所の無料法律相談や、法テラス・弁護士会など、無料で弁護士に相談できる制度があります。

また、労働者側の労働問題に取り組んでいる弁護士の中には、無料で法律相談に応じている弁護士がいるので、上手に利用してください。

法律事務所リーガルスマートでも、初回60分無料で法律相談をご利用いただけるので、お気軽にご相談ください。

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8.まとめ

このページでは、賃金の支払いを受けられない場合の対応についてお伝えしました。

生活の基礎となる賃金は、その支払をしないことは、労働契約の債務不履行のみならず、労働基準法違反として行政指導や刑事罰の対象となる行為です。

賃金の支払いを受けられない場合には、早めに弁護士に依頼して、きちんと支払いを受けるようにしましょう。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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