労働災害

労災による後遺障害等級認定を受けた際の補償金額を弁護士が解説

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会社などの組織で働く方にとって、安全な環境で働くことや、精神的なストレスを感じずに働くことは、人生にとっての最重要課題です。

一方、労働者が業務中に怪我や健康問題に見舞われることを最小限に抑え、必要な場合には適切なサポートを提供することは、会社の最優先事項の一つです。

運悪く業務中の怪我や健康被害に見舞われてしまった場合、労災による障害補償給付を受けることができる可能性があります。

この記事では、労災による後遺障害の定義、その等級、認定までの流れ、不服申し立て手続きなどについて詳しく解説します。労災による後遺障害について知っておきたい方や、後遺障害の等級認定について不服がある方にとって有益な情報となっておりますので、ぜひ最後までお読みください。

1.労災による後遺障害とは

労災による後遺障害とは、労働者が職場での労働活動中に発生した事故や職業病などが原因で、身体的または精神的な障害が残る状態を指します。後遺障害は、事故や疾患によって生じた障害が一時的ではなく、長期間または永続的に労働者の日常生活や職業活動に影響を与える場合に発生します。

後遺障害が生じる要因としては主に2つあり、1つは労働災害です。労働災害とは、労働者が職場での作業中に事故や怪我を負った場合をいいます。例えば、転倒事故による骨折や脊髄損傷などが挙げられます。

もう1つは職業病です。職業病とは、長期間の職業活動によって引き起こされる疾患や健康問題をいいます。例えば、長時間のコンピュータ作業による腱鞘炎や線状疾患、騒音曝露による聴覚障害などが挙げられます。

後遺障害は、労働者の身体的および精神的な健康に大きな影響を与える可能性があり、日常生活や職業活動に制約をきたす場合があります。

後遺障害が生じた場合、労働者は医療治療やリハビリテーションを余儀なくされ、障害の程度によっては仕事への復帰が難しい場合もあります。

労働者は、後遺障害が認定されることによって補償を受けることができます。以下では、後遺障害の認定基準や補償の額などを具体的に解説していきます。

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2.後遺障害による等級と認定基準

後遺障害には「等級」というものが存在します。後遺障害の「等級」とは、事故によって生じた後遺症を、種類および症状の程度に応じて設定したものをいいます。

等級に応じて賠償額が設定されており、等級に応じて受けられる賠償額が異なってきます。

後遺障害の等級は1級から14級に分けて定められており、14級が最も軽い後遺障害、1級が最も重い後遺障害の等級になります。

障害等級とその認定基準については、厚生労働省の「障害等級表」によって細かく定められています。詳しくは以下のリンクを参照していただきたいと思います。

厚生労働省「障害等級表」

この障害等級表によれば、例えば14級に認定される基準として、まつげはげが残るものや、局部に神経症状を残すものが挙げられています。

1級に認定される基準として、両眼が失明したものや、両上肢をひじ関節以上で失ったものが挙げられています。

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3.後遺障害等級別の障害(補償)給付の金額

後遺障害の障害給付金額は等級によって異なります。先ほど説明したとおり、障害等級は厚生労働省の「障害等級表」によって定められていますが、障害等級によって支給内容が異なってきます。

以下では、障害等級ごとの支給内容を詳しく解説します。

3-1.給付の種類

労災による後遺障害の場合、労災保険によって給付される内容は、療養、休業、傷病、障害、介護に関するものに分類され、それぞれ「療養補償給付」「障害補償給付」等名称がことなります。もっとも、補償の目的は同様であるため、ここでは障害補償給付を前提にします。

3-2.給付の方法

後遺障害による給付の場合、障害等級に応じて給付方法が異なってきます。大きく分けると、障害等級1級から7級の場合と障害等級8級から14級の場合で給付の種類が異なります。

障害等級1級から7級の場合、給付の方法は年金となり、申請者が死亡するまで年金形式で受給することができます。

一方、障害等級8級から14級の場合、給付の方法は一時金となり、申請によって等級ごとに定められた額が1回のみ支払われることになります。

3-3.給付の金額

後遺障害補償給付の金額は、「給付基礎日額」に基づいて定められます。よって、給付の金額を知るためにはこれらの額の計算方法を知っておく必要があります。

3-3-1.給付基礎日額の算定

後遺障害補償給付における障害補償年金および障害補償一時金は、給付基礎日額をもとに計算されます。「給付基礎日額」とは、労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。

「平均賃金」とは、労災による事故が発生した日の直前3か月間に労災に遭った労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、1日当たりの賃金額のことをいいます。

例えば、月給20万円の人が、7月に労災事故に遭った場合、直前の3か月間である4~6月に支払われた賃金の総額は20万円×3=60万円です。これを1日当たりの金額に直すと、60万円÷91日=約6,593円となります。

3-3-2.休業補償額の計算

給付基礎額を計算により算出した後、休業4日目以降に労災保険から支給される1日当たりの休業補償給付額と休業特別支給金を計算します。

なお、休業から3日間は待機期間と呼ばれ、不支給となりますが、この期間については会社が給与の全額(ただし、会社に100%責任がある場合)を負担します。

休業補償額の60%と、休業特別支給金の20%の合計額が給付額として支給されます。先ほど計算した給付基礎日額を使って、例えば休業日数が33日の場合、以下の式で給付額が計算されます。1円未満は切り捨てとなります。

休業補償額 = 6,593(円) × 60(%) = 3,955(円)

休業特別支援金 = 6,593(円) × 20(%) = 1,318(円)

給付額 = {3,955(円) + 1,318(円)} × (33 ー 3) = 158,190(円)

3-3-3.後遺障害の等級による補償金額

労災によって後遺障害が認定された場合、休業補償額とは別に障害補償給付が支給されます。障害補償給付は等級ごとに支給額が定められており、先ほども説明したとおり、障害等級1級から7級の場合給付の方法は年金、障害等級8級から14級の場合、給付の方法は一時金となります。

障害等級1級から7級の場合は年金になるため、毎年「障害補償等年金」と「障害特別年金」が支払われます。また、「障害特別支給金」が1回のみ支払われることになります。

等級障害補償等年金(年)障害特別年金(年)障害特別支給金(1回のみ)
1級313日分313日分342万円
2級277日分277日分320万円
3級245日分245日分300万円
4級213日分213日分264万円
5級184日分184日分225万円
6級156日分156日分192万円
7級131日分131日分159万円

障害等級8級から14級の場合、給付の方法は一時金となるため、「障害補償等一時金」、「障害特別一時金」、「障害特別支給金」が1回のみ支払われることになります。

等級障害補償等一時金障害特別一時金障害特別支給金
8級503日分503日分65万円
9級391日分391日分50万円
10級302日分302日分39万円
11級223日分223日分29万円
12級156日分156日分20万円
13級101日分101日分14万円
14級56日分56日分8万円
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4.労災による障害認定までの流れや必要書類

労災による後遺障害が認定されるまでにはいくつかのステップを踏む必要があります。また、ステップごとに用意する必要書類があります。以下では、後遺障害が認定されるためのステップごとに必要書類とともに解説します。

4-1.症状固定

後遺障害が認定されるためには、まず症状が固定されなければなりません。「症状固定」とは、治療を行ってもその治療効果が期待できなくなった状態になり、病気の症状が大幅に改善することなく安定することを指します。

症状固定したら、医師から後遺障害診断書をもらいます。後遺障害診断書は、障害補償給付を申請するために必要です。

4-2.障害補償給付の申請

労災の場合、先ほどの後遺障害診断書とともに、事業主から労災の証明を受けた障害補償給付申請書を労働基準監督署長に提出します。事業主が労災を認めてくれない場合、空欄でもかまいませんが、事業主が認めてくれなかったことを一言記載します。

4-3.労働基準監督署の審査・面談

後遺障害診断書を労働基準監督署長に提出すると、労働基準監督署が後遺障害の等級審査を行い、申請者と面談をします。

面談では、提出された後遺障害診断書やレントゲンといった資料からではわからない部分を確認します。

4-4.認定結果の通知

労働基準監督署の審査が完了し、後遺障害の等級が認定された場合には認定結果通知が届きます。一方、後遺障害が認定されなかった場合には不支給決定通知が届きます。

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5.障害等級認定のための重要ポイント

労働基準監督署によって希望した障害等級が認定されるためには、労災による事故と後遺障害との因果関係を証明することが重要となります。障害が認められるとしても、それが労災とは関係ないと判断されてしまった場合には後遺障害とは認められないのです。

例えば、障害が持病によるものだった場合です。持病によって元々しびれがある状態だった場合や、関節の可動域が制限される状態だった場合、事故と後遺障害との因果関係が認められない可能性があります。

因果関係が認められるためには、たとえ持病があったとしてもその影響は少なく、事故による影響が大きいことを医師に診断してもらうようにしましょう。

6.労災の障害等級認定が受けられなかった場合はどうすればよいのか

労災の後遺障害認定が受けられなかった場合、不服申し立てを行うことができます。以下では、段階ごとに不服申し立ての種類、申し立て方法、申し立て期間などを解説します。

6-1.審査請求

労災の後遺障害が認定されず不支給決定となってしまった場合や、認定結果通知が届いたものの、希望の等級が認定されなかった場合、不支給決定をした労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行うことができます。「労働者災害補償保険審査官」とは、労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局において労働者災害補償保険の審査を行う者をいいます。

この審査請求は、後遺障害の決定があったことを知った日から3か月以内に請求する必要があります。審査請求は書面のほか、口頭でも行うことができます。

労働者災害補償保険審査官は、審査請求を受けると審理を開始します。審理によって不支給決定が覆るためには、障害補償給付の申請の際に提出した資料とは別の資料を提出して根拠を示したりする必要があり、困難を伴いますので、審査請求書をどう書いてよいかわからない場合は弁護士に相談するとよいでしょう。

6-2.再審査請求または取消訴訟

労働者災害補償保険審査官によって審査請求が棄却されてしまった場合や決定になお不服がある場合には、労働保険審査会に再審査請求を行うか、裁判所に取消訴訟を提起することができます。

再審査請求をするためには、決定謄本送達の日から2か月以内に請求する必要があります。一方、取消訴訟を提起するためには、審査請求の決定があったことを知った日から6か月以内に提起する必要があります。ただし、審査請求の決定があったことを知った日から1年を経過した場合は提起することができません。通常は労働者災害補償保険審査官から審査請求棄却決定等が通知されますから、その通知を受け取った日から6か月以内となります。

6-3.取消訴訟

再審査請求も棄却されてしまったり、その裁決内容に納得がいかない場合には、裁判所に対して取消訴訟を提起することになります。再審査請求に対する取消訴訟も先ほどと同様、再審査請求の決定があったことを知った日から6か月以内に提起する必要があります。

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7.労災による後遺障害について弁護士に相談するメリット

労災による後遺障害について弁護士に相談すると、多くのメリットがあります。弁護士はあなたの権利を保護し、労災による後遺障害に対する適切な補償を確保するために非常に役立つ存在です。労災の後遺障害について弁護士に相談することで、最良の結果を得るための支援を受けることが可能です。

以下では主なメリットを4つ挙げた上で解説します。

7-1.後遺障害についての法的アドバイスを受けることができる

労働問題に強い弁護士は、労働災害や労災に関連する法律を熟知しています。弁護士は、労働災害に関する法律や規制を熟知しており、法律をあなたの労働災害のケースに適用して判断をしてくれます。弁護士は、あなたの権利や適切な補償の範囲を評価し、それを守るために法的手続きを指導します。

7-2.後遺障害給付の最大化のための証拠を収集してくれる

弁護士は、後遺障害給付金を最大化するために最善を尽くします。労災による事故と後遺障害証拠との因果関係を立証するための証拠の収集や、医師による診断書やレントゲンなどの医療記録の評価を行います。また、労働者災害補償保険審査官の面接の準備を行うことによって、後遺障害が認定されるよう全力でサポートしてくれます。

労災による後遺障害の補償を求める際には、証拠の収集や面接に対する準備が極めて重要です。弁護士は、医師の診断書、レントゲンなどの医療記録などの証拠を収集する方法を熟知しており、本人自身が行うよりも適切な証拠収集が可能です。また、労働基準監督署や労働者災害補償保険審査官との交渉や面接においても、弁護士はあなたの権利を守るためにサポートしてくれます。

7-3.書類の準備や法的措置を取ってくれる

労災の補償を受けるためには、後遺障害診断書や審査請求書を作成する必要があります。これらの書類の作成は、補償を受けるためにしっかりと作成をする必要がありますが、本人が作成すると説明が不十分であったために補償が受けられなくなる可能性もあります。

労働問題に強い弁護士は書類作成についても的確なアドバイスをしてくれます。

また、弁護士はあらゆる労働問題に関して本人を代理する権限を有していますから、審査請求や取消訴訟などの法的措置を行う場合は、本人に代わって手続きを行ってくれます。

7-4.身体的・精神的ストレスの軽減

労災による後遺障害が認定されるためには、審査請求を行ったり取消訴訟を提起したりして身体的・精神的に大きな負担をかけることがあります。後遺障害によってただでさえ身体的・精神的苦痛を受けているわけですから、後遺障害認定のためにさらなる身体的・精神的ストレスを受けたくはないでしょう。

弁護士のサポートを受けることで、法的手続きに関するストレスを軽減し、病気やケガの回復に専念できるようになります。

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8.後遺障害に関するよくあるQ&A

以下では、後遺障害に関するよくある質問を3つ挙げた上で、それぞれに対し具体的に回答します。

8-1.後遺障害認定されるだけでは慰謝料はもらえないのでしょうか?

労災による後遺障害が認定された場合には、障害補償給付を受けることができます。しかし、障害補償給付と慰謝料は別のものであり、後遺障害が認定されても慰謝料は給付されません。

よって、障害補償給付のほかに慰謝料をもらいたい場合には、別途加害者や会社に対して慰謝料を請求する必要があります。

例えば、勤務中の運転の際、相手方から追突されてむち打ち症になってしまったような場合、相手方に対して慰謝料請求します。相手方が会社の従業員である場合、相手方の会社に使用者責任を追及することもできます。

また、会社の工場に勤務中、設備の安全への配慮が足りなかった結果事故に巻き込まれてしまったような場合には、会社に対して安全配慮義務違反に基づく慰謝料を請求することができます。

8-2.会社が労災を認めてくれない場合、障害補償給付を受けることはできるのでしょうか?

障害補償給付を受けるためには、事業主から労災の証明を受けた障害補償給付申請書を労働基準監督署長に提出します。事業主が労災を認めてくれない場合であってもその旨を記載すれば足りるので、会社が労災を認めてくれなくとも障害補償給付を受けることはできます。

8-3.正社員ではなくアルバイトなのですが、労災保険給付を受けることは可能でしょうか?

労災保険は労働基準法上の労働者を対象としています。アルバイトであっても事業主との間に雇用関係があり、賃金を得ていれば正社員ではなくとも労働者ですので、労災保険の対象者です。

アルバイトやパートの方が業務または通勤により負傷した場合は、正社員と同様に労災保険給付を受けることができます。

9.まとめ

労災による後遺障害が認定された場合、障害補償給付を受け取ることができます。もっとも、後遺障害の認定のためにはさまざまなステップを踏む必要があり、障害等級認定が受けられなかったり、希望の等級が認定されないこともあります。

労災によって後遺障害を負ってしまった場合、適切な補償を受けるためにまずは弁護士に相談すべきです。労働問題に強い弁護士は、後遺障害による等級認定について心強い味方になってくれるでしょう。後遺障害認定についてお悩みの方は、お気軽に弁護士へご相談ください。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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