残業代請求

残業代は1分単位で請求できるの?請求方法を弁護士が解説!

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1.残業代は1分単位で請求できる

労働基準法では「賃金全額払いの原則」が定められています(労働基準法第24条1項)。

わずか1分の残業であっても、1円の残業代であっても、労働した分の対価は支払われなければなりません。たった1円、1分の不足であっても労働基準法違反となり、賃金未払いとして扱われます。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

労働基準法第24条

上記第24条で明記されている「その全額を支払わなければならない」という部分が、「1分単位で請求できる」と解釈されています。労働者の労働の対価は大ざっぱに計算できるものではなく、厳密な取り扱いが求められるということです。

会社によっては、5分単位・10分単位・15分単位・30分単位などのように、残業時間を区切って計算していることもあります。この際、原則として「切り捨て」は認められていません。

例えば、1時間1分の残業をした場合、1分を切り捨てて1時間とすることは違法です。きちんと1時間1分で計算することが求められます。5分単位で区切っている会社であれば1時間5分として切り上げることは可能です。

実際の残業時間を切り捨てて計算している場合、労働者は雇用主に対して、1分単位での残業代の支払いを請求できることになります。ただし、例外として労働時間の端数切り捨てが認められるケースもあります。例外については後述します。

まとめると、残業代の請求には4つのポイントがあります。

  • 残業代は1分単位で請求できる
  • 残業時間・残業代の切り捨てはできない
  • 労働者に有利な切り上げ計算は可能
  • 一部の端数処理は例外的に認められる

1-1.残業代(割増賃金)が発生する対象

労働基準法が定める法定労働時間は、1日8時間以内、1週間40時間以内となっています。この法定労働時間を超えて仕事をさせる場合には、雇用主はあらかじめ「36(サブロク)協定」を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。延長できる労働時間は原則として週15時間まで、月45時間までです。

36協定を結んだ上で、法定労働時間を超えて仕事をさせる場合、雇用主は労働をした時間分の割増賃金を支払わなければなりません。これを一般に残業代と呼びます。割増賃金はフルタイム労働者だけでなく、パートやアルバイトにも適用されます。

割増賃金が発生する対象は「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」の3種類です。割増賃金は、通常の時給(月給払いの場合は時給換算した額)に規定の割増率を乗じた額を加算して計算します。例えば、時給1000円で割増率が2割5分(25%増)の場合、割増賃金は1時間当たり250円です。雇用主は通常の時給に割増賃金を加算した1250円(1時間当たり)を支払う必要があります。

(1)時間外労働

いわゆる残業とは、一般に時間外労働のことを指します。時間外というのは「法定時間外」の意味です。つまり1日8時間または1週間40時間を超えた労働は時間外労働となり、割増賃金が発生します。

時間外労働の割増率は2割5分(125%)以上と定められています。これを下回ることはできません。

さらに、月60時間を超える時間外労働をする場合、割増率は5割(150%)以上に引き上げられます。以前は適用範囲は大企業に限られていましたが、2023年4月1日から中小企業にも適用されました。

(2)深夜労働

午後10時から午前5時までの間に勤務することを深夜労働と言います。深夜労働は割増賃金の対象となり、割増率は2割5分(125%)です。

ここで注意が必要なのは、時間外労働かつ深夜労働の場合です。それぞれの割増率2割5分(125%)を足して、5割(150%)の割増率が適用されます。

例えば、時給1000円の労働者が午前10時から午後7時まで法定労働時間の労働をした上で、午後11時までの4時間の時間外労働(残業)をしたとします。この時間外労働のうち、午後10時から午後11時までの時間は深夜労働にも当てはまる訳です。

この場合の割増賃金は、

午後7時〜午後10時 時給1000円×1.25×3時間=3750円

午後10時〜午後11時 時給1000円×1.50×1時間=1500円

合計5250円となります。

なお、深夜労働でなおかつ月60時間を超える時間外労働に該当する場合は、割増率がさらに加算されて7割5分(175%)となります。

(3)休日労働

法定休日に労働をすると休日労働となり、割増賃金の対象となります。割増率は3割5分(135%)です。

雇用主は労働者に週1日あるいは4週間に4日の休日を与えなければなりません。これを法定休日と呼びます。法定休日は土日祝日だけでなく、平日にも設定できます。

法定休日とは別に、会社が独自に定めた休日を法定外休日と呼びます。完全週休2日制を取っている会社の場合、そのうち1日は法定休日、もう1日は法定外休日となります。法定休日の労働は割増賃金の対象ですが、法定外休日は対象とならないため注意が必要です。ただし、法定外休日の労働が労働基準法の定める週の労働時間の上限を超える場合は、時間外労働としてカウントされます。

例えば、時給1000円の労働者が法定休日に出勤した場合、割増賃金は1時間当たり1350円です。法定休日かつ深夜に労働した場合、割増率は加算され6割(160%)で計算されます。上記の例だと1時間当たり1600円となります。

ただし、休日労働と時間外労働の割増率を合算して計算することはありません。法定休日には法定労働時間が存在せず、休日労働の労働時間は1週間の法定労働時間の上限には含まれません。このため、休日労働は1日8時間を超えて労働させても、深夜労働に該当しない限り、割増率は3割5分のままとなります。

休日労働の取り扱いについては細かい注意点があるため、以下の記事を参考にしてみてください。

休日出勤はタダ働きなの?休日手当を請求する方法を弁護士が解説

1-2.違法な残業代切り捨ての罰則

残業代の切り捨てによる未払いは法律違反です。雇用主は「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」もしくは「30万円以下の罰金」を科せられる可能性があります。

ただし、違法な未払いがあるからと言って、すぐに罰則が科せられる訳ではありません。労働基準監督署の調査を経て、勧告を受けても是正されない場合に罰則となります。

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2.残業代を1分単位で請求できないケース

2-1.1円に満たない端数が生じるケース

割増賃金を計算していると、1円に満たない端数が生じることがあります。例えば1000円50銭などの額をそのまま支払うことは不可能です。この場合、端数処理が認められています。

50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円に切り上げます。1時間当たりの割増賃金だけでなく、1ヶ月分の割増賃金を合計した際に1円未満の端数が生じた場合にも同様に処理します。

2-2.月合計で1時間に満たない端数が生じるケース

フルタイム労働者など1ヶ月ごとに支払いがある場合、割増賃金は1ヶ月分を合算して支払うことになります。このとき、合計の労働時間に1時間未満の端数が生じるケースがあります。

このようなケースでは、事務処理の簡易化を目的として、端数処理が認められています。割増賃金の対象となる「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」のそれぞれで労働時間を合算し、端数処理を行います。

端数処理の方法としては、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の端数を切り上げます。例えば、1ヶ月の時間外労働の時間が30時間15分の場合は、端数を切り捨てて30時間として計算しても問題ありません。30時間45分の場合は、端数を切り捨てて30時間として計算することはできず、31時間に切り上げて支払うことになります。

2-3.労働者にとって有利な計算であるケース

端数処理を行う場合であっても、労働者にとって有利な計算であれば、基本的に違法となることはありません。例えば、午前8時から午後5時が定時とされている会社で、午後4時55分に早退した労働者について、午後5時に終業したと切り上げて計算しても構いません。

一方、午前8時の始業に間に合わず、午前8時25分に業務を開始した労働者について、午前8時30分に切り上げて計算することは認められません。たった5分であっても、労働者の不利になる端数処理は法令違反となる可能性が高くなります。

2-4.労働基準法の例外に当てはまるケース

労働基準法には例外規定があり、残業代が1分単位で支払われないケースがあります。どれだけ働いても、あらかじめ定めた時間の労働があったとみなす「みなし労働制」「裁量労働制」がその例です。

簡単に言うと、実際に労働した時間が5時間でも12時間でも、あらかじめ定めた労働時間が9時間であれば、9時間働いたとみなされることになります。このため、例え残業をしたとしても1分単位で残業代が支払われる訳ではありません。

こうした例外規定の対象は明確に決まっています。以下がその例です。

例外規定の対象職業の例
事業場外労働外回り営業、一時的な出張など
専門業務型研究者、記者、弁護士などの士業
企画業務型人事労務、経理、広報、企画など各部署で企画策定に携わる労働者
農水産業従事者農業、畜産、養蚕、水産の事業に従事する労働者
管理監督者経営者、秘書、管理職
監視・断続的労働機器の監視や夜間巡回など
高度プロフェッショナルアナリスト、コンサルタント、研究開発職

ただし、こうした例外に当てはまる場合でも、社内規定によっては残業代支払いの対象となるケースがあります。迷ったときは弁護士などの専門家に相談しましょう。

2-5.翌月繰越が認められているケース

1ヶ月の賃金支払額に1000円未満の端数が発生した場合には、翌月に繰り越すことができるケースがあります。この場合も切り捨てすることはできず、翌月の賃金に合算して支払われることになります。翌月繰越の制度を利用する際は、あらかじめ就業規則への明記が必要です。

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3.残業代を1分単位で再計算する方法

3-1.出退勤の記録を正確につける

残業代を1分単位で計算し直すためには、正確な出退勤の記録が不可欠です。タイムカードや勤怠システムを利用していると、計算がスムーズです。

正確な出退勤時間がわからなくても、Eメールやチャットの送信記録、交通機関の利用履歴など集められるだけの証拠を集めておくと良いでしょう。

3-2.就業規則を確認する

残業代の計算の前に就業規則を確認しましょう。労働基準法の定めはあくまで最低限の内容です。会社によっては「1日7時間を超える労働は時間外労働として割増率125%を適用する」などと、労働基準法よりも良い条件を設定していることがあります。

3-3.残業代を1分単位で計算する

時間外労働・深夜労働・休日労働の時間がそれぞれわかったら、1分単位で計算をします。計算式は以下の通りです。

割増賃金=「1時間当たりの賃金」×「割増率」×「労働時間」

割増率は以下の通りです。

  • 時間外労働・・・125%
  • 深夜労働・・・125%
  • 休日労働・・・135%
  • 月60時間以上の時間外労働・・・150%
  • 深夜労働かつ時間外労働・・・150%
  • 深夜労働かつ休日労働・・・160%
  • 深夜労働かつ月60時間以上の時間外労働・・・175%

また、月給払いの場合は以下の式で「1時間当たりの賃金」を求めます。

「1時間当たりの賃金」=「月給」÷「1か月当たりの平均所定労働時間」

月給は住宅手当や通勤手当などの手当を含みません。1か月当たりの平均労働時間は年間の平均となるため、「所定労働時間」×「年間労働日数」÷「12か月」で計算します。

未払い残業代の請求には正確な計算が必要となるため、自信がない方は弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。

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4.1分単位で残業代を請求する方法

4-1.未払い残業代の証拠を収集する

1分単位で残業代を請求するために必要なのは、「残業をした証拠」です。会社との交渉や裁判でも、証拠がなければ請求は通りません。未払い残業代の請求が成功するかどうかは、いかに有力な証拠を集められるかにかかっています。

最も有力な証拠は「タイムカード」や「勤怠管理ソフト」のデータです。これに準ずる「業務日報(承認印があるもの)」も証拠として利用できます。

しかし、タイムカードを押した後に残業をする「サービス残業」が問題になることも少なくありません。この場合は「実際の残業時間」が問題になります。建物の入退出記録やパソコンの起動記録、送信メールの時間を控えておくことをおすすめします。自分で残業時間を記録したメモや上司の残業指示なども、他の証拠を裏付けるものとなるため、用意しておくと良いでしょう。

また、雇用契約書や就業規則、給与明細などの雇用体系に関わる資料も必要となります。あらかじめコピーをとっておくようにしましょう。

4-2.会社に問い合わせる

証拠を揃えたら、まずは会社に問い合わせてみましょう。上司に残業の指示を受けている場合には、人事部や労働組合に相談することをおすすめします。上司の独断でサービス残業させているなど、会社全体の意思ではないケースでは、未払い残業代の支払いに応じてもらえることが多いです。大事にするのは気が引けるという方は、まずは会社に問い合わせてみると良いでしょう。

4-3.専門機関に相談する

会社との話し合いを経ても埒があかなければ、社外の専門機関に相談しましょう。労働問題に詳しい専門家が相談に乗ってくれ、専門的なアドバイスを受けることができます。

(1)労働基準監督署

労働基準監督署は会社が労働基準法などの法令に違反している場合、企業に対して改善を促してくれる専門機関です。「総合労働相談コーナー」を設けており、パワハラや解雇などを含む幅広い労働トラブルに関する相談をすることができます。

(2)弁護士

労働問題に詳しい弁護士に相談すれば、今後の見通しを立てることができます。有力な証拠を会社が開示してくれない場合など、裁判所を通した「証拠保全手続き」などの的確な方法を教えてくれます。また、会社との交渉から法的措置まで、一括して代理をお願いできるため、労働者の負担を大きく減らせます。

4-4.労働審判

労働問題を解決するための裁判上の手続きとして、訴訟よりもハードルの低いのが労働審判です。審理は原則3回と短い期間での解決が望め、話し合いでの和解も含めた柔軟な解決が図れます。ただし、会社側が労働審判に異議を申し立てると、訴訟に移行します。

4-5.訴訟提起

これまでに説明した方法で解決ができなければ、最終的には訴訟を提起して争うことになります。訴訟で未払い残業代の支払いを勝ち取るには、的確な主張と証拠集めが重要です。あらかじめ弁護士に相談しておくと、訴訟手続きを有利に進めることができます。

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5.残業代請求を弁護士に相談するメリット

弁護士は法律のスペシャリストであり、労働関係のトラブルを解決するのに頼りになる存在です。特に未払いの残業代請求については、正確な請求額の計算や有力な証拠集めが不可欠になってきます。

残業代請求を弁護士に相談するメリットとしては以下があります。

  • 請求できる残業代を正確に計算できる
  • 証拠集めの的確なアドバイスをもらえる
  • 会社との交渉から訴訟代理まで一括で依頼できる

最終的には訴訟提起することも視野に入れた上で、請求を有利に進めるためにも弁護士への相談を検討しましょう。

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6.残業代請求に関するよくあるQ&A

6-1.過去にさかのぼって残業代請求ができるか?

残業代請求ができるのは過去3年間までです。現在を2023年7月1日とすると、2020年6月以前の残業代については時効を迎えていることになります。残業代請求を後回しにしていると、証拠の入手も困難になってきます。時効間近な残業代の請求をする際には、内容証明郵便を送るなどして時効の中断措置を取る必要があります。まずは弁護士に相談しましょう。

6-2.タイムカードが改ざんされている場合はどうしたら良いか?

ブラック企業などでは残業代の支払いを避けるため、タイムカードなど労働時間の改ざんが行われているケースもあります。結論として、タイムカードの改ざんは違法です。刑事及び民事両方の責任を問われる可能性があります。改ざんを疑う場合には、実際の残業時間の証拠を集め、弁護士や労働基準監督署に相談しましょう。

6-3.休憩時間が短い場合は残業代に換算できるか?

労働基準法では休憩時間を以下のように定めています。

  • 労働時間6時間まで・・・休憩なし
  • 労働時間6〜8時間・・・休憩45分以上
  • 労働時間8時間を超える・・・休憩60分以上

この休憩時間を下回る場合には違法となります。また、休憩時間を除いた1日の労働時間が8時間を超える場合には、時間外労働となり、残業代の支払いも必要です。

6-4.仕事の持ち帰りは残業になるか?

仕事の持ち帰りも残業になり得ます。会社の指示や黙認の上、持ち帰りが発生した場合には、労働時間としてカウントする必要があります。持ち帰った仕事を深夜にした時は深夜労働、休日にした時は休日労働として、所定の割増率に沿った残業代の支払いを求めることができます。

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7.まとめ

残業代は1分単位で請求できます。15分や30分など大まかな単位にまるめて計算することは、原則として認められていません。会社への請求を行う際には、まず実際の残業時間を確認し、所定の割増率をかけて再計算をしましょう。

残業代の支払いが1分単位で行われていない場合、労働者は未払い分を請求可能です。請求には証拠の収集が何よりも重要となるため、あらかじめ弁護士に相談しておくと的確なアドバイスをもらうことができます。

「サービス残業をしている」「上司からタダ働きを強制されている」など、残業代の未払いに困っている方は、無料相談を活用して弁護士に相談してみましょう。

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担当者

牧野 孝二郎
牧野 孝二郎法律事務所リーガルスマート弁護士
■経歴
2009年3月 法政大学法学部卒業
2011年3月 中央大学法科大学院法務研究科修了
2012年12月 弁護士登録(東京弁護士会)
2012年12月 都内大手法律事務所にて勤務
2020年6月 Kiitos法律事務所設立
2021年3月 優誠法律事務所設立
2023年1月 法律事務所リーガルスマートにて勤務

■著書
・交通事故に遭ったら読む本 第二版(出版社:日本実業出版社/監修)
・こんなときどうする 製造物責任法・企業賠償責任Q&A=その対策の全て=(出版社:第一法規株式会社/共著)
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